サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.02.16
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カテゴリ: 文学
 この頭の中将の性格は、はるか先、源氏の栄達とともに、大臣に昇進した後も、ほぼ一貫しているので、体育系らしく手をつけた相手には、しっかり子供をこしらえる。この当時、世俗的繁栄の条件として、子沢山ということも大きな因子だったわけで、しかるべき子孫はことごとく面倒をみて、一族の繁栄の証しとして、周囲にはべらせておくわけです。
 これは競い合うように数多の女に手を出し、何人かとは狂熱の恋も交わしながらも、子孫に恵まれなかった光源氏とは対称的ですね。物語全体を通してみても、確認できるのは藤壺の宮との不義の子(後の冷泉帝)、葵の上との子(夕霧)、明石の方との子(明石の女御、後の今上帝妃)の三人だけであり、このあたり紫式部の意図が何やらありそうです。まあしかしその話は、もう少し先にしましょう。

 頭の中将、少し怪しいとは思っても、自分自身があちこち手をつけているので、しかるべき筋で申告があった場合は、すべて認知して面倒をみる。例の近江の君も、そうして左大臣家に入り込んできたわけで、にぎにぎしく迎えてはみたものの、実際に本人の人となりを見たとたんガッカリして、あとは彼女が殿中で物笑いの種になっても放っておく、というより自ら彼女を笑いの種にして、いっこうに気にするところがない。このへんは手をつけた相手とは、どんなに疎遠になっても、気配りを欠かさない源氏とは対称的で、彼と源氏は若いときからの間柄とはいえ、基本的な部分で相容れない性格的な違いがあるのです。
 その違いとは、ひと言でいえば、 世俗と皇孫の違い とでも言うべきでしょうか。持てる威光はすべて生まれながらにして備えていた光源氏に対して、頭の中将は世俗的勢力争いの渦中で、左大臣一家の息子として生まれてきたわけですから、光源氏的な世界観や人生観は、もとより想像の外であったでしょう。紫式部は世俗と皇孫の違いを、二人の性格の違いとしてハッキリと書き分けているのです。

 さて本編にもどって「若紫」以降、「葵」までの帖を眺めてみると、シリアスな話とヲコ系の話が交互に進められているようにも思えます。整理すると、
「若紫」では紫の上を見初めたあとに、 藤壺の宮との二度目の密通と妊娠
「末摘花」で、頭の中将を巻き込んでのヲコ話
「紅葉賀」で、 藤壺の皇子(不義の子)誕生
「花宴」で、弘徽殿(右大臣派)の 后の妹(朧月夜)との密会
をへて、「葵」「賢木」とつながって行くわけで、このあたり読者心理を手玉に取るというか、硬軟の話を自在に描き分けているやに思われます。あるいは紫式部自身が、自分の心理的緊張をほぐすために、挿入したのかもしれません。

 紫の上は、このあたりでは、まだ子供で(この子供時代の描きかたは巧みですが)、物語の主役を演じるのははるか先、中心は何といっても、藤壺の宮との二度目の密通と妊娠出産でしょう。しかし何度も繰り返しますが、彼女との最初の逢う瀬が描かれてないので、彼女と源氏の思いや行動に感情移入するには、ちょっと難しい面があるのです。むしろ初めにも書いたように、これは帝の后との密通という天下第一の禁止を破る、光源氏の英雄的性格を描くための、 あらかじめ設定された筋書き であるとも取れ、密通の結果としての妊娠出産も、 物語の筋としては必然的結果 ではなかったか?
 この時代より100年ほど前に、稀代の好き者と言われた六歌仙の一人、在原業平(825年~880年)は天皇家の嫡流でありながら、薬子の変により臣籍降下したとされ、光源氏のモデルともされるのですが、「伊勢物語」では、伊勢斎宮の恬子内親王(やすいこないしんのう)などとの禁忌の恋が伝えられ、源氏の時代にはこのような掟破りは、少なくとも物語の中ではよく知られていたでしょう。ということは、さらなる読者興味を沸き立たせるストーリーとして、上のような構想が出てくるのは、ある程度必然であったと思えるのです。
 つまりこのあたりまでは、あらかじめの物語の構想にそって、描かれているように私には思われ、またたぶん当時の読者も、同じような予定調和(めでたしめでたしの)の予感のもとで、ワクワクドキドキしていたのでしょう。これは何も紫式部を、くさしているわけではありません。いつごろから当初の構想から大きく飛躍し、人物たちがひとりでに動き出していったかということが大事なのです。

― つづく ―





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Last updated  2009.02.16 16:38:31
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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