サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.22
XML
カテゴリ: 文学
 このa系、b系の区分け論は、さらに発展して三十四帖「若菜」以下四十一帖「雲隠」までをc系、四十五帖「橋姫」以下をd系などとする議論もあるのですが、国文学者や国語学者あるいは歴史学者や文芸評論家まで巻き込んで、それぞれの専門とか考え方から議論されるので、キリがありません。
 私たちにとって必要なのは、現実に今ここにある「源氏物語」を、どう読んでいけば、大過なく読み進めることが出来るかということなので、上のような構造がストーリーの展開や文体はたまた傍証資料などで、大いに指摘できるにしても、だから全体をバラしてa系、b系、c系、d系を別々に読む、ということは少なくとも(私のような)初心者は避けたほうがよさそうです。一応はじめから通読して、全体の感じをつかんだうえで、さらに深読みなどをする際に、こうした区分けはあるいは役に立つかもしれないのですが、なにしろ長大な物語ですから、初読者のほうが端折り読みの誘惑に駆られやすいのです。

 かくいう私が、よけいな前知識で「宇治十帖」が面白いと、かってに決め込んでいたものですから、最初にそこを読み、次に「若菜」以下に手を出し、最後に「桐壺」から読み直すという失敗をやって、初読の楽しみをいささか減ぜられた印象があるのです。あたりまえの話ですが、「宇治十帖」はそれまでの光源氏一代記の長い物語があって、その独自性が光ってくるので、同じことは源氏物語最高の部分ともいわれる「若菜」以下の帖についても、いきなりそこから読み始めたら(つまりそれまでの光源氏の気息を、知らないまま読み始めたら)、案外その面白味を味わえないかもしれません(白状しますと、私は「若菜」から読んだとき、大して面白くなかったので、あやうく途中で放棄しかけたのです)。
 その理由はいろいろあるかと思いますが、まずそれまで登場した人物たちのキャラクターを、ある程度理解していないと、語られる話の中味が理解できない、もっと言うと、今語られている中味が誰のことなのか分からない、ということが実際にあるのです。「若菜」冒頭に出てくる朱雀院の振るまいなど、それまでの光源氏との関係や、彼に対する屈折した思いを知っておかないと、なぜ娘の女二の宮を彼に降嫁させたのか、理解できません。

 というわけで、これはあらでもの老婆心かもしれませんが、これから初めて「源氏物語」を読もうとされる皆さんには、最初多少しんどくても、冒頭の「桐壺」から順に読まれることをおすすめします。おそらくたいていの人は、次の「帚木」の後半、空蝉の登場あたりで、あっという間に物語に引き入れられるでしょう。そこで紫式部の話し上手に魅せられて「夕顔」あたりまではすぐに読めてしまいます。
 じつはあまり話が面白いので、たいていの人は「桐壺」と「帚木」以下の文体の変化に気付かずに読み進んでしまいます。面白味にはちゃんと理由があるので、それはこのあたりの帖が、げんに面白く書けているからで、それに気付くのはたいてい以後の「若紫」~「花宴」あたりで、読むのに退屈してきたときです。この退屈する理由もハッキリしていて、要するに具体的な挿話が少なく、文体が「桐壺」と似て堅いのです。大野さんは「竹取物語のような、紋切り型の漢文口調だ」と言われます。
 ところが例の「葵」「賢木」に到ると、それまでの堅さがウソのようにとれて、仮借ない記述が人物の心理や行動の細部にわたって語り尽くされる。物語的面白味から小説的妙味に中味が質的に変化していて、読む側は間違いなく魅了されるでしょう。

 このあたりの面白味の変化について、中味の解析をしていけば、上のような区分け論がでてくるのは必然性があるので、実際あとからの挿入もあっただろうということは、ほぼ間違いないだろうとは思うのですが、もし初読者たちが、こうした区分け論を活用するとすれば、この物語を 解体して読むのではなく、今読んでいる所が話全体のどの部分に位置しているかの参考にする 程度にしたほうが良さそうです(そうすれば、とりあえず退屈な部分もガマンできて、途中で放棄、沈没という残念な結果も少なくて済むかもしれません)。



― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.04.22 15:04:09
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: