サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.24
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カテゴリ: 文学
 「貴種流離譚」といえば、多少神話や民話を知っている人ならご存知のとおり、「やむごとなき」血筋の王子様や英雄が、さまざまな試練を経て、美しいお姫様とその国(や財産)を手にするという、古代以来の「成年式」すなわち「死と再生の通過儀礼」を下敷きにしていて、日本では「古事記」の「スサノヲ」や「ヤマトタケル」などがこれにあたり、ギリシャ神話なら「オデュセウス」、さらに古代メソポタミアの「ギルガメッシュ」でも、典型的にみられる説話のパターンですね。

 紫式部がこの物語を、当初こうした古来の英雄伝説のパターンで構想していたであろうことは、すでに何度か触れましたが、そちらの構造から眺めた場合に、a系十七帖の話の筋は確かにピッタリと収まるのです。何の前知識もなく読み進んで、後から挿入されたとおぼしきb系の話に入り込んで行くと、人物や時間が錯綜してきて、途中でしんどくなってくる、という仕儀に陥りがちなのですが、じつはそれとは別に、俗に「須磨源氏」と云われるように、「須磨」の帖あたりで挫折する読者が結構多いんだそうですね。
 ここではその原因を、いらんおせっかいかもしれませんが、あれこれ考えています。
 一つにはこの帖で描かれる光源氏というのは、いわゆる古代英雄的な意味でのダイナミックな振るまい、という描きかたはまったくされていなくて、せいぜい猛烈な嵐にあって危うく死にそうになる、という程度の試練で終わっているのです。ヤマトタケルやオデュセウスのような、能動的な大活劇を期待したら、とんでもない肩透かしを食らうことになります。
 これはまあ作者が女性なのだから、活劇を期待するほうがムチャということなのかもしれませんが、それにしても「帚木」や「夕顔」あるいは「葵」「賢木」に見られた男=オスの微細な心理と振るまいの克明な描写からみて、彼女がこうした英雄的な行動をまるっきり描けなかったとは思えないのです。というよりこの「須磨」「明石」の帖での光源氏の行動には、彼自身の 能動的な意志というものが、ほとんど感じられない ということで、ここでの彼の魅力がはなはだ精彩を欠くというのは、どうやらこうした英雄的な意志の欠如にあるといえそうです。

 むしろここでの主役は、例の明石入道という世にも奇態な人物にあるようですが、それは後に話するとして、彼女はひょっとすると、この下敷きたる英雄物語を、あえて避けて通ろうとしたのかもしれません。
 さまざまな人たちとの別れのシーンが、ながながと描かれたあと、都を出てから須磨に着くまでの道行きは、あまりにもあっさりしすぎているのです。

―  道すがら、面影につとそひて、胸も塞がりながら、御舟に乗り給ひぬ。日長きころなれば、追風さへそひて、まだ申の時ばかりに、かの浦に着き給ひぬ ― 同上



 厳密に移動の描写といえば、このたった二行で終わっているので、初めて読んだとき、私は何かの間違いじゃないかと思ったものです。オデュセウス的な大航海や、ヤマトタケルの失意の東征というのはムリとしても、「伊勢物語」という長い道行きのお手本があったじゃないの、と舌打ちしてしまうのは私だけでしょうか?

― つづく ―





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Last updated  2009.04.24 13:41:00
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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