サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.21
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 それにしても今回、比較のために空蝉にかんする記事を、あらためて「帚木」の後半分から「夕顔」にかけて読み直してみたのですが、ここのくだりは本当に良く出来ていますね。語り口が絶妙で、筆が伸びやかで冴えていて、紫式部の短編作家的才能が、最もよく現れた部分であると思い知らされるわけですが、このいわゆる「並びの巻」と称される部分は、はたして何時ごろこの物語に挿入されたのだろう、と思ってしまいますね。
 文体そのものが手馴れていて、伏線や登場人物それぞれの心理の腑分けも、自信たっぷり、しかも強烈な皮肉も込められている。こうした語り口は「桐壺」や「若紫」などa系物語の初めのころには、決して見られない筆致で、「葵」あたりでやっと追いついたか、という感じがしないでもないのですが、今の印象を言うと、これらb系の話は、もっと後になって書かれたかもしれないと思っているのです。
 それというのも、目下の明石の方の造形は、決して面白味のある描き方ではない、と私が感じているからで、彼女については、まだ当分のあいだガマンしなくちゃしょうがない、と思っているのですが。

 それはさておき、明石の方の惑いはつづくにしても、若姫君の二条行きはすでに既定の路線として、進行しているわけで、源氏は引き取りの準備を指図する。

― 日など、取らせ給ひて、忍びやかに、さるべきことなどのたまひ、掟させ給ふ。はなち聞えん事は、なほ、いと、あはれにおぼゆれど、「きみの御ために、よかるべき事をこそは」と念ず。
 「乳母をも、ひき別れなんこと。あけくれの物思はしさ、つれづれをも、うち語らひて、慰めならひつるに、いとゞ、たつきなき事をさへ取り添へ、いみじく思ゆべきこと」
と、君も泣く。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (源氏の君は)日柄などを、選ばせて、内々に、(お引き取りになる)しかるべき準備のことなどおっしゃって、指図なされる。(明石の方は、若姫を)手放し申し上げることは、やはり、ひどく、辛いこととは思うけれど、「姫君の御ためさえ、良くなるであろうことであれば」と(ひたすら)念じている。
「乳母(のあなた)とも、別れることになるとは。明け暮れのもの思わしい事がらも、日頃、話し合って、慰めあうのが常であったのに、(これからは)いっそう、寄る辺ないことばかりまさって行って、たまらないほど不安なこと」


 例の乳母は、当然といえば当然ですが、若姫君について行くのです。明石派遣の使者として、源氏から密命を帯びたこの乳母は、晴れて目的を達成して、ひと仕事を終えるのですが、さすがに明石の方には情が移ったか、このあと悲しい別れの言葉を交す。そのあたり心底と取るか、あいさつ程度と取るかは、読む側の品性で変わってきそうですね。

― 乳母も、
 「さるべきにや、おぼえぬさまにて、見たてまつりそめて、としごろの御心ばへの、忘れがたう、恋しうおぼえ給ふべきを、うち絶えきこゆる事は、よも侍らじ。「つひには」と、たのみながら、しばしにても、よそよそに、思ひのほかの交じらひし侍らんが、安からずも侍るべきかな」
など、うち泣きつゝ、過ぐすほどに、十二月(しはす)にもなりぬ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 乳母も、
「どういうご縁でか、分からないままに、お仕え申し始めてから、年頃の(お方の)お気遣いは、忘れ難く、恋しくもお思い致しているところ、(このままご縁が)打ち絶えてしまうことなど、よもやあり得ません。「いずれは(お方を、姫君の側に)」とばかり、頼みにして、しばしの間、他所で、思いの他の奉公を申し上げるのが、心安からずも思い致すところで」
などと、しんみり泣いては、過ごしているうちに、師走の季節になった。

― つづく ―





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Last updated  2009.07.21 09:53:19
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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