サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.09
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 軒端の荻(すごい命名ですね)というのも、描きかたによっては悲劇のヒロインになるべき立場なのですが、この帖の軽い感じを反映して、はなはだおおらかな性格を付与してあるので(ちょっと朧月夜の姫に似てますね)、私たちは安心して(バカな男=オスの)主人公を笑うことが出来るのです。このあと紫式部はちょっとワル乗りしたか、いささかビロウな話も出てくるのですが、そのあたりは本文を読んでください。
 それにしても、古典もこういうテキストであれば、若いときもう少しマジメに取り組んだかもしれないのですが(しかるべき専門用語を、図書館のありとあらゆる辞典類で調べまくったように)、教科書というのは、どうしても古典だけでなく、一般に文章そのものを嫌いにさせる特性があるのかもしれません。まあ、だからと言って、上のようなパラグラフは、やはり教科書に載せるにはちょっとマズイのかもしれませんが。
 さて、このように物事を自在に多面的に描き分けていく作法というのは、どうもこのb系の話をしだしてから顕著というか、自覚的に彼女は用いるようになったので、これまでも悲劇と喜劇を交互に書き分ける、というようなことはあったにせよ、物語の進行の中に悲劇と喜劇が、渾然と共存するような描きかたというのは、「空蝉」を中心とするb系の話から始まっているように思えます。片一方で軒端の荻との喜劇を描きながら、「帚木」「空蝉」全体のヒロインである空蝉にとって、ここの一連の話は悲劇なんですよね。

 さて、私はここまで「帚木」以下の「空蝉」「夕顔」を、あとから挿入された光源氏の別伝という前提で話してきました。そしてさらにこの三つの帖が、a系「槿」の帖のあと書かれたのではないか、と仮定しているのですが、そうなるとちょっとヘンなことが起こってきますね。
 もしそうだとすると、時系列的な並びかたは今ある「源氏物語」で、いちおう辻褄が合うものの、当時世に初めて出た「源氏物語」を読み続けていた人たちは、この物語(特にb系の話)をどんな印象で読み進んだのだろう、ということです。これを一種新聞小説や雑誌の連載小説のように、全体が完成するのを待たずに、順次同時進行で書かれていったものとして見た場合(その可能性は高い)、時系列がいったん光源氏の若いころに戻って、今まで伏せられていた裏話をする、ということは分かるにしても、「槿」までのa系物語の記憶は、当然しっかりと読者に留まっているわけです。
 とすれば、「空蝉」につづく「夕顔」の帖冒頭、「六条わたりの御忍び歩きのころ、 … 」で始まる語り出しで、当時の読者はただちに六条御息所を連想したでしょう。と同時に、彼女が「葵」の帖で、凄まじい生霊(いきすだま)の劫火に焼かれた存在であったことも思い出すわけで、この一句だけで、ここの物語がただならぬ話になることが了解できたはずです。
 しかしそうなると、私たちは今まで抱いてきた「源氏物語」の印象や構図がガラリと変わるのを、少なからず感じざるを得ないので、早い話、西郷信綱さんなどは、一回めの「夕顔」で仄かに、二回めの「葵」で気鮮やかな御息所の「物の怪」の登場のさせ方に、紫式部の天才を指摘されているのですが、当然それも(恐れながら)修正を迫らざるを得ないという仕儀になってしまいます。

 ついでに言ってしまうと、空蝉の話で、彼女の居る中川の邸内の女房たちが、源氏のうわさ話をしている中に、朝顔の宮に源氏が送った歌の話が出ていて、今ある順番でこのくだりを読むと、ここで唐突に朝顔の宮がすでに源氏の想い者として語られるのは、これはどうみてもおかしい、という指摘は以前からあったのです。しかしこれまでみたように、いったん時系列をはずして、当時実際に読まれた(であろう)順番で読めば、朝顔の宮は、すでに「槿」他で、読者には既知の人物であったということになります。
 しかしこれって、ひょっとすると「プライミーバルじゃん!」ということになってしまいますね。未来で知った出来事を、それをさかのぼった過去で既知のこととして描くというのは、少なくとも近代リアリズムの視点で言えば、ルール違反ということになってしまいます。






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Last updated  2009.09.09 09:47:53
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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