サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.07.24
XML
テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 そのへんの経緯は、とくに「乙女」以降のおしゃべりで何度もして来ましたが、それもこのあたりで店仕じまいとなりそうです。
 「若菜」の帖以降の物語は、a系b系がどうのとかいった論議はまったく無用で、おしゃべりをするとすれば、より本格的に「文学好き」な中味になって行かざるを得ないでしょう。で、そうした話題が私のような一介の素人にとっては、なかなか気の重い話になりそうなことは容易に想像がつきます。そもそも私自身が、そこまで文学に興味があるか、と言われれば、ちょっと「?」なところがあるのです(それはこれまでの話で、多少はお察しいただけるでしょう)。
 しかし、まあその話も次回以降ということにして、ここではおしまいに「梅枝」と「藤裏葉」の帖と、「玉鬘十帖」を含めたb系物語の話をまとめてしてしまいましょう。

 先に「梅枝」の帖の終りで、
― 外部構造だけ詮索すれば、明らかにa系に属する「梅枝」が、実際に語られる内部的結構を見れば、b系の雰囲気を色濃く漂わせている … となるとここで考えられるのは、すでに紫式部の筐底(きょうてい、箱の底)にあった「梅枝」「藤裏葉」の下書きに、b系物語をくっつけたのではないか ― 
という話をしましたが、もし彼女がa系物語の筋書きを頭の中だけでなく、すでにその終りまで先に書いていたのだとすれば、その途中を埋め、なおかつそれをもとの話にくっつける作業というのは、はなはだしんどい仕事だったのではないか?ということなのです。
 私はもちろんこの手の創作時に湧き上がる、芸術家の悪魔的な心象など想像も出来ないのですが、それでもあらかじめ出来上がっている結論に向かって、途中の話を埋めていく作業というのは、創作という白紙の上に無から有を、毎回毎回生み出していくという、新鮮な気分の行為とは、かなり隔たった感覚があるのではないか、と想像してしまいます(まあこれは想像ですよ、何度も何度も遂行をしつこく繰り返して、傑作を生み出すタイプの天才も数多くいますから)。

 その前、b系最後の「真木柱」の帖で、かなりシリアスな等身大の人物たちを描き上げたとき、おそらく彼女の高揚した気分はすでに、次の「若菜」以降の創作意欲に溢れていたはずで、出来れば早くそちらに取りかかりたい、何とか軽く切り抜ける方法はないか、とも考えたのではないか?
 「梅枝」の帖前半、というより大半を占めていた「焚き物論」や「筆跡論」の悠長な雰囲気と、そのあと続く内大臣(今は太政大臣)と光源氏の間の最終戦争の話には、あまりにも落差があるのです。で、しかもここの内大臣と光源氏に夕霧を絡めたやりとりというのは、すこぶる微妙なそれぞれの心理を描き分けていて、なかなか気が入っている。紫式部はa系b系二つの物語を統合する話として、おそらく「乙女」の帖で語られた、夕霧と内大臣の決定的な対立を書いたときには、こうした筋書きを目論んでいたかと思われます。


 となると、この「藤裏葉」の帖がすでに紫式部の筐底にすでにあって、しかもそれが仮に下書きであっても、かなり気合の入った仕上がりになっていたのは当然で、表向きの昔物語ふう謎解きの解決編であるとともに、これらはそれまでの話全体の一つの結論 ― 世俗方の皇孫系に対する屈服、という構図 ― をなしているのです。こうした出来ばえの「藤裏葉」を、「真木柱」を終えたあと、それらとつじつまが合うように、一から書き直す、あるいは新たに書き始めるというのは、彼女からすれば多分「そんな時間はない」という気分があったはずで、「梅枝」の帖とはあるいはそれを試みかけて止めた帖ではなかったか?
 「真木柱」の帖にみられる異様な高揚には、「藤裏葉」とは別種類の気分があるので、前者に顕著なのは紛れもなく「若菜」以降につながっていく、作者の人を見るときの「仮借なき目線」というものでしょう。

 さて、いろいろあらでもの話を、しつこくして来ましたが、このあたりで終りとしましょう。紫式部の筐底の話は、それならそれはいつ書かれたのだ、と突っ込まれても、答えなど出てくるわけがないし、無理矢理こじつけて何時だと断定しても、さてそれが本文を味わう面白味につながっていくのかと言えば、これまたおおいに疑問が生じます。
 要は世に一般に言われる「b系後から挿入説」も、本文に添ってみていった場合、どれぐらいの蓋然性があるのか、そして何よりそれが紫式部という天才の発現のしかたと、どう結び合っているのかを見るところに、初めてこの議論の意味があるので、際限のない「後から挿入説」論争は、お互いにくたびれてしまうばかりでしょう。

 とはいえ、彼女はこののち、さらにもう一歩コマを進めることになります。これまでのさまざまに行ってきた試みと、それに対する読者の反応を見つつ、彼女は大きな意を決して、いよいよ後段を書いて行くことになるのです。

― 源氏1000年 藤裏葉 おわり ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.07.24 16:33:35
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: