サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.12.01
XML
カテゴリ: カーネーション
 さて、さすがに最近は録画した「カーネー」を繰り返し観るということはなくなったのですが、お気に入りの科白や場面は今でも鮮やかに蘇ります。面白いのはそれらが今だに、ふと別の表情で観えてくることがあるということでしょう。

 「親族会議」の終りに三姉妹を登場させたことで、糸子の「他を以って換え難い」キャラが薄まったんじゃないの?という疑問は当初からあったのですが、少しずらせて前後の流れも含めて考えていると、「なるほど、そうか」という発見が次々と沸いてくるわけで、それが面白くて仕方がない。
 もちろんそんな私の思い付きなど取るに足らないのですが、肝心なのはそうした「多面的な観かた」がいくらでも出来るように、これがしつらえられているということでしょう。それは取りも直さず、このドラマが「開かれた構造」になっているということを意味します。かなり良く出来たドラマでも、得てして作り手の自己満足的な想念で「閉じられた」作品は案外多い。その場合、解釈は一意的で一回観れば充分。仮に謎掛けめいた結末になっていても、それがいかにもベタな演出であれば、だいいち観る側の「もっと知りたい、考えたい」という欲望は起動しようがないのです。

 このドラマでは「私は、こうでした」と陳述するとき、糸子は何一つ言い訳しない。この潔さは作り手の「態度」そのものでもあるでしょう。さて、「観ているあなたは、これをどう思います?」というような。
 積み上げて来た当の糸子らしさを、上から二重線を引くようにして相対化してみせる。これは何も描かれた糸子を否定するということではなくて、新たなステップに引っ張り上げるためになされた仕掛けなのでしょう。
 それは例えばベートーベンの第九番「合唱付き」第4楽章の冒頭が、前3楽章すべての否定から始まるのとよく似ている。以前私はこのベタな演出的構造が全然納得できませんでした、否定するなら合唱部分だけで充分じゃないかということになりません?しかし、これは聴き手を新たな世界に導くのに不可欠な過程だったのでしょう。前3楽章で恐ろしく長大かつ斬新な音楽世界を聴かせておいて、なおかつそれに二重線を引っ張ってみせるというのは、じつはそれまでの過程の「全消去」とはまったく違う。否定形を取りつつ、それまでの音楽とそれに立ち会った人たちを、さらに新たな階梯に引っ張り上げようというのが、こうした構造を選ばせた理由なのでしょう。

 こういう思考法というか、一見いかにもシンキクサイ経路を辿ってみせるというのは、何事も結論や結果だけを優先して、すぐ「分かったつもり」になる今どきの風潮とは、かなり違う構えだと思うのです。同じ結論でも、途中経路が経験されている場合と、されていない場合では、結果の相貌はまったく異なって見える。途中経過を知らない人は、結果以外の「ひょっとして、有り得た可能性」を想像するよすがは、永遠に「閉じられている」じゃないですか。
 しかしご存知のとおり、この世は先の見えない世界なのであって、一意的な径路予測だけですべてが片付けられるわけではない(あたりまえです)。となると途中径路が経験されてない人たちにとっては、結論以外の結果はすべて「想定外」になってしまう。まさしく「シンキクサイは、寿命縮める」のです。
 現に、ドラマでは朝帰りの糸子に「ウチは、また前に進みます」とナレで言わせていますね。成熟に到る道はまだまだ続くし、これまで経験したことが、すべて「正しかった、身になった」とはとても言えないけれど、それでも「私は、こうでした」と、それらを率直に言明しておくことは決してムダではない。


― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2012.12.01 11:13:41
コメントを書く
[カーネーション] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: