2002年09月14日
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 海外の一人旅は、目的地の空港に着いたときから、緊張感に包まれる。

 目的地が、日本以上の先進国である西欧諸国でも、その状態は大同小異である。私の場合は、空港到着とともにレンタカーの借り出し交渉を始めるから、なおさらのこと緊張感が高まる。
 料金交渉から車種選定、排気量の選択など、盛りだくさんの手続きを、言葉も解らない場所で始めるのである。

 そのときのパリのAVIS(アビス=エイビス=レンタカー会社)窓口のかたは、全く言葉が通じない私の出現に、少なからずとまどったことだろう。英語も通じない、フランス語はもちろんダメ、それでレンタカーを借りて走ろうというのだから、今思い出せば、彼らにとって、普通の客ではない。

 そんな状態で、なぜ私が一人旅に踏み出したのかといえば、理由は簡単明瞭。ヨーロッパに行ってみたいということと、相手がヨーロッパだから、ということだけでしかなかった。
 相手は先進諸国の人々である。当方が相手のテリトリーに踏み込まなければ、トラブルは起きないと判断したのだ。そして私が予想したように、訪ねた国では、どこの人たちも、大変親切に接してくれた。私が電話ボックスの前でとまどっていると、強面のオジサン(ドイツ人)が寄ってきて、国際電話のかけ方を教えてくれて、ダイヤルまでしてくれたこともある。
 彼は、料金を払おうとしても、小銭だからと、それを受け取ることもしなかった。
 こんな経験ばかりをした私の旅は、もしかしたら例外的な出来事だったのかも知れない。誰もが、柔和な表情で、私に接してくれた。

 レンタカーカウンターの担当者は、若い女性だった。

 彼女は、書類の手続きが終わると、安心したように、私に微笑みかけた。そしてまた、何かを話しかける。これもまた解らない。

 と、突然彼女が顔をグンと近づけてきた。
 まるで、私の顔に、彼女の額が触るほどに。そして、自分の目を指さして、身振り手振りを始めた。
 私は、そのスマートな女性と、大きく澄んだ綺麗な目に、見とれているばかりだった。レンタカーを返すときにも、彼女がカウンターにいるのだろうか。
 そんなことを考えていたように思う。

 ようやく、彼女が話している意味が、理解できた。
『あなたは、この車でどこを見て歩くのか?』
と言っていたのだ。
「フランス、あちらこちら。スイス、ジュネーブ。そのほかいっぱい。」
とだけ答えると、彼女は安心したように、私の手を握った。
「元気で、行ってらっしゃい!」


 1週間のドライブを終えて、車を返したときには、彼女の姿が見られなかった。少し名残惜しい思いをしながら、空港からバスで、パリの中心に向かった。これから、宿を探さなければならない。
 安い宿を見つけて、1週間ほど泊まれるように話をまとめてから、市街地に出かけてみた。

 公園でも美術館でも、日本人らしい東洋人が、群れて歩いていた。そこで初めて、今まで柔和な表情を見せてくれた西洋人と、日本人との決定的な違いに気づいたのである。
 東洋人の中でも、中国系や韓国系の人々もいる。それらの人々の中でも日本人が際だって、遠方からでもそれと解るのである。これでは遠方にいる犯罪者までを、誘い寄せるようなものではないか?
 私の楽しみの一つに、遠くから歩いてくる東洋人が、日本人かどうかを当ててみる、ということが加わった。これは、面白いように的中した。


 その姿が近づいてくると、目の力がこれまた特別に、柔らかい。
安堵感を覚えるほどに、柔らかい。だがその目の力は、裏返せば、“何を盗られても気づかない”といった、犯罪者の心理を引き寄せるに違いない。
 日本人旅行者に盗難被害が多いのは、単に経済的な理由で狙われるばかりではなく、こんなところにも、原因があるのではないだろうか。
 私が犯罪者なら、きっと日本人を狙うだろう。

 それで私が一度も盗難に遭わなかった理由が、解ったような気がしたものである。日本人にしては、裕福に見えない旅姿であったことと、目が細くて“目の力”が確認できなかったのだろう。

 日本は平和な国である。目に力を込めなくても、生きていける。今の私も、弛んだ目をしていることだろう。





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最終更新日  2002年09月14日 14時49分17秒


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