売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.08.25
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今年もマーチャンダイジングの基本を教える「MDゼミ」がスタート。昨日は第4回目「マーチャンダイジングとは」を講義、「顧客分類→商品分類→展開分類→定数定量管理」の順番を守って仮説を立てることの重要性を説明しました。

百貨店社員に向けて研修するときニューヨーク五番街にあるBERGDORF GOODMAN(バーグドルフグッドマン)がいかにして再生し、たった1店舗しかないデパートでありながら世界のベンダーから尊敬される存在になったのかをまず詳しく話すことにしています。


DVD「ニューヨーク バーグドルフ 魔法のデパート」

五番街で最も地価の高いコーナーは57丁目。現在その東側の北角には大型ルイヴィトン、南角にはずっと変わらずティファニー本店(オードリーヘップバーンの映画「ティファニーで朝食を」の舞台)、西側の南角にはブルガリが1階テナントに入るビル、そして北角にあるのがバーグドルフです。かつてティファニーを取り囲む形のビルで営業していたのが高級百貨店BONWIT TELLER(ボンウィットテラー。現在ここは建て替えられ、五番街側にトランプタワー、東57丁目通り側にナイキタウン)でした。

カーター政権下景気後退で舵取りが難しい時代、ボンウィットテラーは商品分類はチグハグで売り場に魅力がなくなり、顧客はどんどん高齢化、ただ古臭い老舗店という印象でした。そしてチャプターイレブンを申請し事実上倒産しました。目の前のバーグドルフもボンウィット同様顧客の高齢化は顕著で古臭いイメージは拭えず、このままであれば近未来ボンウィットのように消滅するかもしれないと我々は見ていました。

このとき郊外にあった支店を売却して資金を作り、2年半ほどかけて全館リニューアルに着手しました。当時百貨店の商品分類は、回転率の高い雑貨や化粧品は1階、ファッションは2階から上で展開が常識でしたが、新生バーグドルフは1階の中央部にジャンポールゴルティエ、イッセイミヤケの小型ショップを設置したのです。パリコレ赤マル人気上昇中ブランドとは言え売り場効率を考えればバッグやアクセサリー売り場が王道でしょうが、バーグドルフは「ファッション強化」のメッセージを放ったのです。


Ira Neimark(アイラ・ニーマーク会長)




ストアイメージを劇的に変える大リニューアル、その後の発展には二人の功労者がいます。ファッションのプロとして指揮したドーン・メロー社長(のちにどん底だったグッチの再建を手がけて再びバーグドルフに復帰した方)と彼女をうまく機能させた経営者アイラ・ニーマーク会長(倒産したボンウィットテラーの下働きから業界キャリアをスタートした方)です。ニーマーク会長のリーダーシップとメロー社長らバイイング部門の目利き力がなければジャンポールドルティエ、イッセイミヤケの1階ショップ展開は実現しなかったでしょう。しかし、この大きな賭けは世界のデザイナーやハイエンドブランドの関係者の心に響きました。

あの頃ニューヨークファッションで人気絶大だったペリー・エリスは私にこう話してくれました。サックスフィフスアベニュー(五番街49丁目に本店がある高級百貨店)は多店舗なので発注量はかなり多いけれど、別注企画を引き受けるならバーグドルフ。なぜならバーグドルフはスペシャルなストアだから、と。人気デザイナーが多店舗のサックスよりもたった1店舗のバーグドルフへの思い入れの方が強い、これこそ小売店の「品格」なのでしょう。


ティファニー側から見たバーグドルフグッドマン

3階インターナショナルデザイナーフロア

ボンウィットテラーは小手先のブランド入れ替えを続けて売り場はどんどん陳腐化、最後は倒産しました。抜本的な改革に着手しなかった経営幹部の責任は大きい。一方、同じような古臭さがあったバーグドルフは社運を賭けた全館リニューアルが功を奏して生き残り、世界のブランド企業から尊敬される存在になりました。高齢の顧客が販売員に「昔のバーグドルフはこんな店じゃなかった」と食ってかかるシーンに遭遇したことありますが、だからこそバーグドルフは「魔法のデパート」としてその存在感を高めたと言えます。経営陣の危機意識の差です。

流通業にもナンバーワンかそれともオンリーワンかという議論はよくありますが、バーグドルフはまさしくオンリーワンの存在感を消費者にも世界のベンダーにも示しました。当時ニューヨークに住んでいた私は劇的に変わるプロセスを間近で見ていたので、その後もずっとバーグドルフを教科書のつもりで視察、ニューヨーク研修旅行では参加する部下たちにバーグドルフだけは滞在中何度も足を運んで細かく調べるよう指示してきました。






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Last updated  2023.08.26 11:03:29
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