売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.11.09
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この1年間中国アパレル業界向けに日本と中国で研修を担当する機会が増えました。先月末もアパレル経営者訪日研修団のお世話をし、いろんな講師にレクチャーをお願いしました。マーチャンダイジングに関する講義のほかに、テキスタイルデザイナー須藤玲子さん、beautiful peopleデザイナー熊切秀典さん、私的勉強会教え子だった元BAO BAO ISSEY MIYAKEデザイナー松村光くんにもそれぞれものづくりの考え方を話してもらいました。


訪日研修団レクチャー後の記念撮影


日本の織物産地について語る須藤玲子さん

私自身はバブル崩壊から今日まで日本のファッションビジネスがたどった道をレクチャー、リーマンショックや新型コロナウイルスの混乱を経て下降線の会社と上昇している会社の差異について私見を述べました。特にユニクロが急成長した要因、単に価格政策だけでなくどういう姿勢でものづくりしているか、織物工場で遭遇したユニクロ用素材の事例をあげて説明しました。

これまで国内でも海外でもセミナーでは何度も話してきた、お客様に人気の回転ずし店と不人気の店の違いのたとえ話。これは国を越えて誰にも理解しやすいのでいつも話しています。

近海でとれた生の本マグロは美味しいけれど原価は高い。一方、遠洋漁業の冷凍マグロや養殖マグロは供給量も多く値段は生の本マグロに比べれば安い。お客様が喜ぶ高い生のマグロを使うなら、たくさん仕入れて少し薄く切るか、ネタを小さく握ると価格は抑えられます。冷凍ものや養殖マグロを使うなら、分厚く切るか、大きめに握ればお客様にある程度満足感を提供できます、と。

しかしながら、価格抑制、コストのことばかり考えて冷凍ものや養殖マグロを薄く切る、あるいは小さめに握れば、お客様の反応はどうでしょう。おそらく満足感はないでしょう。




アパレルで言うなら、品質のいい素材を大量購入してコストカットを図る、あるいは使用生地をなるべく少ないデザインを考案して原料費を抑える工夫をすれば顧客満足度は上がります。が、超安い素材を使ってアパレル製品を製造すれば、テキスタイルの素人であってもお客様はいずれ見抜きます。後者のたどる道は、安価なマグロを薄く切って信頼を失う寿司店と同じ、消費者からは見放されます。

ではユニクロはどうなのか。ユニクロのジーンズに付けられたKAIHARA製デニム使用の商品タグ写真を見せながら、ほかの織物産地でもラグジュアリーブランドが使用するレベルのテキスタイルをユニクロは使用、その発注量は我々の想像をはるかに超えていると説明しました。もちろんほかにもユニクロ成長の要因はたくさんあるでしょうが、ものづくりの姿勢は「中国アパレルにはヒントになるのではないでしょうか」と説明。


ユニクロジーンズの商品タグ

ほんの一例ですが、ユニクロダウンの高密度ポリエステルは北陸産地の織物工場で生産、その糸と織物のレベルはラグジュアリーブランド級、だからダウンコートの内側から羽毛は飛び出してきません。ジル・サンダー女史と組んだ「+J」のダウンはかなりの優れものですよね。

が、安価な、名ばかりの高密度ポリエステルで作ったブランドのコートは時々内側の羽毛が表地から飛び出し、消費者に不信感を与えます。つまり薄く切った冷凍マグロと同じようなもの。



これに対して1メートル300円程度、1着分原価600円の素材でどうやってユニクロ+Jに勝てるのでしょう。安い素材では質感あるダウンコートは作れませんし、賢い一般消費者はすぐ見抜いてしまいます。だから、私は中国アパレルの経営層に呼びかけています。「日本の優れた素材をもっと活用してみては」と。

先月末の訪日研修団に参加した経営層には売上数千億円以上の大手アパレルが数社いましたが、「日本で機能素材を探したい」「いいテキスタイルメーカーを紹介してくれませんか」と言われました。彼らも原材料に対する意識は持っているのです。どれくらい本気モードなのか、私が納得できないうちは日本の素材メーカーを簡単に紹介するわけにはいきませんが、もしも真剣に取り組む姿勢が見えたらいくつかアドバイスしようと思います。


プレミアム・テキスタイル・ジャパン展




サンコロナ小田のブース(上2枚とも)

研修最終日の夜は品川から屋形船に乗って打ち上げでした。宴会の最後に研修の総括として、「今回のプログラムにはスキルを伝えるレクチャーとスピリットを考えてもらうもの両方を組みました。長くビジネスを続けるためにはスピリットがとても重要です」と言いました。ものづくりのスピリット、最後のまとめはかなり受講者に響いたようでした。

彼らが研修を終えて帰国した翌週、恒例のプレミアム・テキスタイル・ジャパン展が有楽町国際フォーラムで開催されました。出品者のブースにあるテキスタイルを見ながら、次回の訪日研修団は同展開催時とタイミングを合わせるよう中国側に伝えなければと思いました。もっといいものづくりをしてもらうために。

いま中国はバブル崩壊後の日本によく似た状況です。中国アパレル関係者は誰もが不景気と言いますし、これまで絶好調だったラグジュアリーブランドは中国各地の店舗を徐々に減らしています。不景気だからこそ打開策を探すべくバブル崩壊後日本がたどった道を知りたがっています。中国側の要請もあって近々このテーマで現地セミナーをすることにもなっていますが、どうやって不況の中から脱することができるか、そのヒントを提供できればと思います。彼ら、かなり必死ですから。





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Last updated  2024.11.10 14:30:24
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