温故知新

2004.06.02
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時折、この子は私を救うために生まれてきてくれたのではないか…と思うことがある。


この日が、そんな日だった。

またもや実母からの電話があり、胸苦しさと吐き気を感じながら彼女を怒らせないように、且つ、彼女を怒らせるようなキレ方を自分がしないように、電話を続けていた。

彼女は、自分の戸籍上の夫と今後どうするかを話し合いたいから実家に帰ってこい、という。それが重要だ、と、息巻いている。

彼女にとって、私がとうに30を越えた娘で家庭を持っていることや、摂食に障碍がある子供を抱えていることなど、関係ない。
この話し合いもどうせ無意味なもので、こうやって15年以上も周囲を巻き込んでいることなども関係ない。
自分のことが、どんな世界情勢よりも一番大切なのだ。
日本以外の国が紛争状態に入って、日本でも徴兵制がはじまり娘の旦那や自分の夫が徴兵されて、食料が配給制になっても、彼女はせっせと配給物資や軍事物資の横流し業などを思いついて会社をおこし、私に、会社を手伝え、どうせあんたの夫は死んじゃうし、この情勢じゃ子供も障碍があって長生きできないんだから、という連絡をよこしてくるだろう。


彼女には、何人もの彼女が、彼女の中にいて、それがちょっとしたスイッチで変わる。

何か、おそらく、仕事上で出会った人に法律改正の動き辺りを聞いたのであろう。
それでスイッチが、夫と離婚寸前の可哀想な妻、な気分にスイッチが切り替わったのだろう。

こうなると彼女は、自分に男が何人もいたことや、仕事ばかりで家事をする気持ちさえもなかったこと、などは、完全に吹き飛んでしまう。

そりゃもうヤバいくらい、自分は貞操観念抜群で、家事大好きで、必死に家庭を守ってきた妻、というわずかな記憶をつむいで、一人の別人を作り上げてしまう。
それ以外のことも覚えているのだが、そこに触れると狂人と化す。

彼女は電話口で、これは家族の問題なの、と叫んでいた。
それでも返事をしなかったら、夫と離婚に至ったのは私のせいだ、と言いはじめた。
そして、幼少の頃から、私がしてきたこと、や、若気の至りで忘れたいこと、まで、連ねて、苦情を言ってきた。

こんなあんたのせいで、今、金がまったくないのよ!
こんなあんたのせいで、夫と上手くいかなくなったのよ!


いつものことだ。
いつも『北風と太陽』の話を思いだす。
でも、慣れることはない。

しかし、今回、何故かするっと一言出てきた。

「子供のために金を使うのは当たり前でしょう。私も子供には金を使っているよ。」


こんな風に切ったら間違いなく、もう一度かかってくるのに、今日はかかってこなかった。

どうして、こんな簡単なことが分からなかったのだろう。
頭では知っていたのに、どうして、自分の場合には当てはまらない、と思っていたのだろう。
ずっとずっと、自分には金がいっぱいかかって、それを申し訳なく思わなければいけない、と、思いこんでいた。
自分に金がかかったせいで実妹にかけるお金がなかった、という母親の言葉を真に受けて、実妹にすまない、と思いこんでいた。

自分に金をかけてくれたことへの感謝、と、申し訳なく思う、では、天と地ほどの差があるではないか。
実妹にかけるお金がなかったのは事実だとしても、それを恥じるべきは計画性なく、夫婦別居でお互い制限なく金を湯水のように使っていた両親の方ではないか。
何故、私が、こんなにも気持ちに負担を持って、過去の自分に息苦しさを感じ、生きていかなければいけないのか。

これを教えてくれたのは、障碍のある娘だ。
彼女の存在意義を考える過程で、こんな簡単なことではあるが、心から分かるようになれた。

こんな日は、本当にたまに、なのだけれど。





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Last updated  2004.06.13 11:25:38
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