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中国人が文書を敬愛することは天性となっている。古代に功名を得た読書人は文曲星が天下ったのだという伝説がある。普段使った紙は、敬意を持って「敬紙亭」(場所の名前)で焼かなければならないと言う。中国人は幼い頃から、父母に紙を踏みつけたり,その上に座ったりすることは神聖な文字を深く侮辱することだと言い聞かされてきた。
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★漢字は生命体である
漢字はその源の演変と生命形態を持っており、勝手に変えてはならない。甲骨文、金文、隷書から楷書に至るまで中国の文字(生命体)は長い歴史を経過して、書き易く、読み易い文字となった。
例えば「馬」という字は最初、象形絵画形式として現れ、書く度に「馬」の様子を絵として書かなければいけないという欠点があった。そこで古人は出来るだけ文字に意味をこめようとし、千年が経過する間にそれを簡略化し、そして今の文字の形が定まり、深い意味を内包する字体となった。これは一つの生命を持つ個体のようであり、歴代の文化の精華を汲み取り、演変し、そして定着し、広く世界に伝わったのである。
かつて誰かが繁体字と簡体字の比較を行った。その結果、繁体字は画数が多く、書きにくいが、人に認識されやすく、遠いところから見ても意味が明白に伝わる特徴がある。それに対し、簡体字は画数こそ少ないが、人に認識されにくいため、却って解読に時間がかかり、不便である。これは、まさに「急がばまわれ」という古い諺のようである。
象形文字は、時代と共に変ってしまう表音文字と違う。漢字は天から下されたものであり、千年も万年もその意味は保たれている。世界の三大古代文字であるバビロンの楔形文字、エジプトの象形文字(聖書体)は、かつて歴史の舞台で異彩を放ったが、今は博物館入りし、後人は弔うことしかできない。ただ中華民族の漢字のみが、三千年の風雨に耐え、今もその雄姿を誇り、世界に広まっている。
★漢字は神が伝えた文字である
中国人には多かれ少なかれ、「高みはただ読書に有り」という伝統的な情緒をもっている。こういった 文化に対する深厚な崇敬は古代から根付いたものだ。
プロメテウスが天上から人間に火を与えたというギリシア神話があるように、中国古代には、「倉頡(そうけつ)が文字を作ったとき、天は栗を降らせ、鬼は夜に泣いた」という伝説がある。倉頡とは、天上から人間に文字をもたらした人物だと伝えられている。この伝説によれば、倉頡は黄帝の史官で、四つの目をもち、異なる次元が見え、物事が持つより深い意味を読み取ることができると言われた。 彼は、神の功能を持つ人物である。倉頡が人間に文字をもたらしたとき、天上は喜悦して福を賜い、小米が降下した。しかし悪の妖魔は人類が文字と智慧を持てばもはや人類を愚弄し操ることが出来なくなるので、恨み悲しみ連夜泣いたという。文字が聖智をもたらしたので、妖魔を恐れさせたのである。
これらの神話から離れて考えてみても、漢字には確かに深奥神奇な内涵がある。例えば「人」という文字についていうと「楷書」の「人」と三千年前の甲骨文にある「人」は簡単な二画で何の変りも無い。しいて言えば甲骨文の形はより人の姿に似ているように見える。両手を胸の前にたれ腰を屈めている。これは中国の「人生哲学」を顕している。
人は最も複雑で、画家が鬼を画くのは易しいが人を画くのは難しいという。人間は世間において様々であり、複雑な様相を呈しているが、人生は本当にそれほど複雑になる必要があるだろうか?簡単な二画で描けるものこそ「人」ではないだろうか?トラブルに遭う時、腰を曲げ、頭を下げれば、どんなことでも、より簡単に解決し易くなるのではないだろうか。簡単な二画から多くの言外の道理を悟れることができるが、「Human」から読み取れるものは何もない。
★博大精深かつ美妙な漢字
・・・・・・漢字は現存する唯一の表意文字であり、その一画、一画に豊富で博大な情報があり、その字が作られた当時の社会の発展状況、経済活動、文化思潮などがその文字の形・意味に溶け込んでいる。研究者が「一つ一つの漢字はそれぞれ一つの博物館」と感嘆するのもむベなるかなである。
・・・・・・漢字に近づけば、中華文化の博物館に入り込んだに等しく、その内包する深い意味を知れば知るほど、驚嘆せずにはいられない。
路上で漢字を書く練習をする人(南京にて、China Photos/Getty Images) |