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結局、2台目のメンテナンスも終了した。本当は製作編としていろいろ紹介しようと思ったのだが、なにしろ1台目の裏ぶたを開けてから1年以上かかったので、その気になっているときに一気にメンテナンスを終了してしまうことにした。2号機は差動増幅のバランスが少し崩れていたので、初段と2段目の球を交換したら調整可能な範囲に入った。Noiseは入力ショートで0.122mVと1号機より劣る値だが、決して悪い値ではない。最大出力は2.5%歪みで65W出る。2台のアンプを並べてみた。モノラル1台で重量は15kgあるため、2台で30kgとなる。最近のTRアンプはこれ以上の重量級が多いが、ステレオアンプとして扱える重量ではないと思う。 久しぶりに音を聴いてみた。リファレンスのAccuphaseに比べて、艶のある良い音だ。
2013.11.05
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ようやく、1台目のメンテナンスが終了した。4年以上ほったらかしにしてあったが、それほどバランスは崩れていなかった。根本的にバランスの崩れにくい回路なのである。Noiseも入力ショートで0.089mVと優秀である。最大出力も2.5%歪みで60Wである。せっかく裏ぶたを開けてあるので、初段・2段目のあたりを拡大してみた。中央に見えるのはアース母線として使っている銅板で、厚さ0.5mmのものを直接真空管の中央ピンに半田付けしている。幅は15mmなので、インピーダンスは十分低い。銅板の奥に見える領域はヒーター制御回路である。2個の半固定VRはヒーター制御バランス回路で、ヒーターに入れたコイルも見える。右端と銅板の手前の領域は2段差動増幅回路である。定電流回路用を含めて、3球の12AU7である。バイパスコンデンサーなどは直接銅板に半田付けしている。半田付けのときかなり温度が上昇するが、NTKのポリプロピレンフィルム(水色のコンデンサー)は、熱に強いので大丈夫であった。信号系に入る電解コンデンサーは、すべてELNAのセラファインを使っている。右端の赤いシールのコンデンサーは2段目のカソードバイパス用である。
2013.10.06
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またまた、だいぶ間が空いてしまったが、ようやく裏ぶたを開くことができた。このアンプはシャーシー内にも部品がギッシリ詰まっている。チョークコイルがシャーシー上の大きなものの他に、シャーシー内に4個収められているし、ブロック型の電解コンデンサーもシャーシー上に4本あるほかに、シャーシー内にも4本収められている。さらにチューブラー型の電解コンデンサーも7本ある。数えてみたところ、モノラルアンプ1台なのに、抵抗が59本、コンデンサーが51本、ダイオードが16本というとんでもない部品数である。写真で見える水色の部品はNTKのポリプロピレンフィルムコンデンサーである。結合用や、電解コンデンサーに抱かせる信号用のコンデンサーはすべてこのタイプだ。
2012.11.23
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またまた、だいぶ間が空いてしまった。パワーアンプを作るときは、必ず出力管より背の高いトランスを使うようにしている。その理由は、まず真空管の保護であり、またひっくり返して調整するのにも便利ということでもある。左側のTANGOの出力トランスXE-60-5は高さ114mm、右側の電源トランスはTANGOの特注品で高さ104mm、チョークコイルも同じ高さである。ジーメンスのEL34は高さ97mmくらいなので、大丈夫だ。アンプを横から見た外観はこのようになる。電源トランスは出力トランスに合わせて塗装してもらったので、デザインは統一が取れている。
2012.10.29
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いよいよ今度は製作編として、パワーアンプのメンテナンスを兼ねて、内部構造や使用部品の説明をしていこうと思う。ちなみに前回メンテナンスを行ったのが何時か調べたら、「現用アンプをメンテナンス」の項で「このところオリンピックのTVを見るのに忙しかった」と書いてあるのを発見した。2008年の北京オリンピックの頃ですな。4年に1回オリンピックの年にメンテナンスすることにしよう。 まずアンプの外観と部品配置を見てみよう。真空管パワーアンプはトランス類が多く重量があるので、モノラルとした方がぎっくり腰になる危険を避けることができる。ちなみにこのアンプはモノラルでも重量は15kgある。出力トランス(左上)と電源トランス(右下)を対角線上に配置して、全体の重量バランスを取る。シャーシーは旧鈴蘭堂のSL-10である。私はこのクリーム色が好きなのだが、色にこだわらなければ現在でもタカチ電気で入手可能である。 信号の流れを矢印で描いてみた。左下の入力端子から入って、12AU7, 5687を経由して4本の出力管EL34に到達し、左上の出力トランスを経て出力される。一方、右上から電源コードが引き込まれている。電源スイッチは左上なので、この間は配線が往復していることになる。 電源と信号部は大きく分離され、信号の流れが自然な配置である。お手本としてはマッキントッシュのMC-60, MC-75などのモノラルアンプがあり、部品配置の一つの理想像であると思う。
2012.09.24
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さて、回路については大体説明したので、設計編はそろそろ最終回となる。本機は低雑音を狙ったのであるが、アースポイントは3点アースとしている。3と言う数がどこから出てくるかと言えば、パワーアンプに外部から接続されているコードの数が3本なのである。すなわち、入力コード、スピーカーコード、電源コードである。現代のように高周波の誘導雑音に囲まれていると、コードはアンテナとして働き、不要雑音を拾ってしまう。従って、コネクターのそばで、速やかにアースをシャーシーに落としてやる必要がある。また、シャーシーはアルミ製とすることで、余計な電位差を生じないようにしている。 入力端子のアース側に入っているコンデンサーは、端子から最短距離で雑音をアースポイントに導くものだ。信号系はこの初段のアースポイントに落としていくわけだが、雑音の影響を最小限に止めるため、各段毎に1点アースとしてアースラインに落としていく。アースラインは0.5mm厚の銅板を用いている。回路の面積をなるべく小さくすることも電磁誘導雑音を減らすためには有効である。 出力段は、NFB専用巻き線があるため、幸いにも1次側と完全にアースを分離できる。スピーカーコードから逆に雑音が進入することも考慮しておく必要があるのだ。電源部は前にも述べたように、リップル電圧や高周波雑音は速やかにシャーシーアースに落とし、ホット側はコイルを通してアンプ部に電源を供給している。電源部はこの他に、前段用のB電源、ヒーター電源が前段用と出力段・ドライバー段用の2種類を使っている。
2012.09.02
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ヒーター電源について回路図を示しておこう。低雑音パワーアンプを作る場合、ヒーターを直流点火する必要があるか、と問われれば、プッシュプルアンプではその必要はないと答えよう。本機は初段から全て交流点火である。ヒーターからのハム雑音は、カソードに混入するため、差動増幅では次段で打ち消されてしまう。また、ヒーターからのハム雑音を防ぐのに最も効果的なのは、ヒーターに正のバイアス電圧をかけることである。ヒーターから迷い出た電子がカソードに引きつけられないようにするわけだ。 第13回で説明したヒーター制御バランス回路を用いるため、初段と2段目の12AU7はヒーター電圧をそれぞれのユニットで±10%程度可変としている。また、初段への高周波雑音混入を防ぐため、途中にコイルを入れている。 この電源回路で少し問題があるのは、ヒーターカソード間耐圧であろう。初段のカソード電位はほぼ0Vだが、定電流回路では-60Vくらい、2段目は80V程度となる。ヒーターには30Vの正バイアスを掛けているので、初段と定電流回路ではカソードよりヒーターの方が電位が高い。ただ、定電流回路ではヒーターカソード間電圧は90Vに及ぶ。一応、定格耐圧の±100V以内にはぎりぎり収まるようにしている。
2012.08.24
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前段の電源は、初段が±150V程度、2段目は330V程度、カソードフォロワー段は±150V程度が必要である。前回説明した両波多倍圧整流回路を用いて+2E、±Eを発生させ、効率よく3種類の電圧を作っている。2倍電圧発生には片波整流ならダイオード2本ですむが、両波整流では4本必要になる。トランスの巻き線に直列にした抵抗は、コンデンサーインプット平滑回路にパルス的な電流が流れるときの雑音を軽減するためのもので、いわば整流管効果を狙ったものである。巻き線の直流抵抗くらいの値を入れてある。 そしてここでも、電源側と信号側のGNDを分離し、ホット側には全てチョークコイルを入れてある。チョークコイルはSELの普通のバンド型である。特にシールドケースなどはなくても、元々ほとんどリップルは乗っていないので、誘導雑音が問題になることはない。回路は以下の通りである。 初段とカソフォロ段の電源が共通であるが、これを完全に分離するため、この回路の先にオーディオ用のブロック型電解コンデンサー(ELNA セラファイン)を投入している。初段は正負電源それぞれに440uF350Vのもの、カソフォロ段にも200uF350Vのものを入れてある。2段目と出力段にも220uF500Vがそれぞれ入れてある。また、電解コンデンサーと並列に0.1uFのフィルムコンデンサーを入れている。発振が起きやすいカソフォロ段には、更に0.01uFを各真空管のプレートとGND間に直接入れてある。
2012.08.19
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さて、次に前段の電源部について説明しよう。初段が±150V程度、2段目は330V程度、カソードフォロワー段は±150V程度が必要である。これをまとめて電源トランスの一つの巻き線から取り出したい。もちろん、内部抵抗もリップル電圧も低くしたいのである。複数の電圧を効率よく取り出すには、多倍圧整流回路を用いるとよい。多倍圧整流回路というと、コッククロフト・ウォルトン回路が有名であるが、偶数倍の電圧しか出ないし、片波整流である。そこで、両波整流で±n倍圧の電圧を全て取り出せる回路を考えてみた。 まず、(A)は片波整流で±E、±2E、±3E、…の電圧を取り出す回路、(B)はそれを両波整流に拡張したものである。片波(A)で±Eを取り出す回路は普通両波倍電圧整流と呼ばれているが、+Eと-Eを別々に取り出せば片波整流なのである。両波(B)で±Eを取り出す回路はブリッジ整流に他ならない。この中から、自分の欲しい倍数の回路だけを抜き出せばよいので、利用価値の高い回路であると思う。
2012.08.12
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ここのところオリンピックを見るのに忙しくて、しばらく書き込んでいなかった。さて、回路については大体説明が終わったところである。あと残っているのは電源部だ。このアンプでは、低雑音を目指していることもあり、電源の設計にはかなり気を配っている。最大の特徴は、全ての電源にコイルを入れていることだ。信号部への電源供給において、電源部のGNDと信号部のGNDを分離し、ホット側はコイルで分離している。これによって電源側から混入するノイズをシャットアウトするためである。 まず、出力段の電源供給について説明しよう。出力段への供給電源はチョークインプット平滑回路を用いている。チョークインプットはダイオードに常に電流が流れ続けるため、その内部抵抗は電源トランスの巻き線抵抗とチョークコイルの直流抵抗の和に等しい。これに対して、コンデンサーインプット平滑回路ではダイオードに断続的にしか電流が流れないため、内部抵抗も巻き線抵抗の和よりもずっと大きくなるし、パルス性の雑音を発生しやすいのだ。従って、チョークインプットの方が遙かに優れているわけである。ただ、ダイオード整流の場合、スイッチ投入直後には高電圧を発生してしまうので、真空管がウォームアップするまでの間、タイマーリレーを使って供給電圧が低くなるようにしている。 さて、チョークインプットはコイルが入っているので、それで電源部と信号部の分離ができそうに思われるかもしれないが、チョークインプットの場合、チョークコイルの信号側のGNDにコンデンサーを通過したリップル電流が流れてしまうのである。このGNDは電源側につながなくてはならない。そこで、さらに小容量のチョークコイルを直列にしてその後コンデンサーを置けば、完全に信号側のGNDを分離することができる。そんなわけで、ずいぶん贅沢な回路になってしまった。
2012.08.06
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高域についてはどうだろうか。出力トランスのところで説明したように、出力トランスを半分のインピーダンスで使っているため、超高域ではインピーダンス特性にピークが出てしまう。それを抑えるために、まずCRによる補正(C2-R2,C3-R3)を行っている。 高域の時定数は実質3段と考えられ、出力トランスのところで2段分(T2,T3)が働き、1段目は初段と2段目の間(T1)である。この他にも各段で時定数は存在しているが、影響の大きいのはこの3段と言うことである。出力トランスの帯域が狭いため、そこ(T2,T3)を第1ポールにするより他無い。この2つの間ではスタガー比を取る余地がほとんどないので、大量のNFBをかけることは不可能である。T2,T3は70kHzと120kHz程度と見積もられた。両者は近いところにあるがどうしようもない。 1段目のT1も、元々の定数では230kHz程度であった。せめてこの時定数は、T2,T3から遠ざけたいものだ。苦心の末編み出したのが中和回路である。図のように時定数の原因となっている2段目のP-G間容量を、逆位相のPからGへの容量を追加することで打ち消そうという寸法である。3.3pFを追加したことでT1は380kHzとなり、ほとんど影響はなくなった。。 出力管周りについて補足である。出力管のグリッドには元々200Ωが直列に入っていた。グリッド電流の測定などに使っていたのであるが、直列抵抗があると歪み率が悪化するため、短絡することにした。10Φ10Tのコイルを並列に入れてある。計算してみると0.5uH位なので、全くコイルとしては機能していないことになる。出力管のスクリーングリッドには、直列抵抗を入れずに直接プレートとつないでいる。SGの損失の点でも、発振防止という意味でも、特に必要はないと判断した。 NFBは8.6dB程度である。NFBをかけることで、左右の利得もそろい、歪みも低くなる。高域の安定度については、時定数がほぼ2段に近い配置であるため、特別な積分補正は設けず、NFB抵抗(1.6kΩ)に微分補正のC(330pF)を並列にしているだけである。600kHz付近に生じるピークが気になったので、入力段にLPF(4.7kΩF×68pF→500kHz程度)を入れることにした。最終的なチェックは方形波特性で見る。定格負荷では10kHzの方形波がオーバーシュートのみでリンギングを生じないこと、0.1uFのみの負荷で発振しないこと、の2点をチェックする。高域特性は、余り補正しすぎない方がよい。適当なところに止めた方が生き生きとした音になる。
2012.07.16
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さて、次に時定数とNFBの設計について説明しよう。まずは低域である。低域の時定数はカソードフォロワー段の前に1つ(T1)と、出力トランス(T2)の計2つである。まず、出力トランスによる時定数を評価してみよう。出力トランスXE-60-5の1次インダクタンスを測定したところ、最小値22H-最大値380H(カタログ値)となった。最大値については、実測すると波形が大きく歪んでくるので、カタログ値を使うことにした。出力管の内部抵抗が1.2kΩ、負荷抵抗が2.6kΩとすれば実質820Ω程度になる。8Ωの基準負荷に対して、T2は22-380H÷820Ω→0.34-5.9Hzとなる。 最初、これを第1ポールとして、カソードフォロワー前段の時定数はそれより大きく、0.47uF×2.2MΩ→0.15Hz程度に選ぶ予定であった。しかし、あまり帯域を広げても、出力トランスが歪んでしまうのだ。周波数に比例して許容入力電圧は下がっていくため、1W出力での周波数特性すらまともに測れなくなってしまう。これでは気持ちが悪い。結局、総合的な周波数特性と出力トランスの歪みを避ける観点から、前段の時定数T1を0.22uF×220kΩ→3.3Hzに選ぶことにした。出力トランスの時定数とかぶっているようだが、NFBが8.6/8.7dB程度と少ないので問題はない。 出力トランスの歪みを避けるために、アンプの入力にサブソニックフィルター(0.033uF×1MΩ→4.8Hz程度)を入れることも試してみたが、実用上は問題ないレベルなので取り除くことにした。カソードフォロワー前段(T1)と出力トランスの時定数(T2)と、2段のフィルターが入っているため、超低域での入力余裕度は十分である。またD.F.値も10Hzまで4.7/4.6とフラットであった。前段の時定数の影響で超低域で一旦D.F.値が少し悪化するとしても、出力トランスの時定数のためにDCに近づくにつれD.F.値は向上すると思われる。ちなみに出力トランス2次側の直流抵抗は0.4Ωくらいである。DCアンプがよくもてはやされるが、直流まで再生する必要があるわけではなく、直流まで負荷に制動がかかり、どんな入力を入れても極端な歪みを生じなければよいのだ。
2012.07.07
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回路構成について一通り説明してきたが、一つ説明し忘れたことがある。プッシュプルのバランス調整についてである。ここで言うバランス調整とは、出力管のバイアス調整のことではない。それは前に述べたように、1本1本個別に調整することができる。そうではなくて、位相反転段のバランス調整のことである。2段差動増幅を採用した本機の場合、ACバランスは特に調整の必要はないのだが、DCバランスは調整する必要がある。2段目の差動増幅段のバイアスが左右ユニットで余り大きく異なると、自動調整できなくなってしまうからだ。 普通、差動増幅段のDCバランスは図(A)に示すようにカソードに可変抵抗を入れて調整する。しかし、この回路ではカソードに直列抵抗が入って性能が悪化してしまうし、何よりも信号が可変抵抗の接点を通ることになる。決して使いたくない回路である。そこで、考案したのが(B)の回路である。そう、信号系にはどこにも調整機構は入らない。実は図(C)に示すように、ヒーター電圧を制御することで左右ユニットの特性を合わせるのだ。これが、ヒーター制御バランス回路である。ヒーター電圧は±10%程度変化させることが可能である。この調整回路は、何しろ温度で制御するもので調整の効きがにぶいため、コーヒーでも飲みながらのんびり調整するとよい。また、全ての電圧増幅管に適用できるものでもない。ヒーターの中点が取り出されている球で、低雑音用としてカソード温度を低めに設定している球のみ、調整が可能なのだ。12AX7/12AU7/12AT7などは最もこの方式に適した球と言えるであろう。1段目のみならず、2段目の差動増幅段にも採用してみたが、なかなかスムーズに動作する。
2012.06.23
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さて、強力なカソードフォロワー・ドライブによりAB2級動作とすることで、6CA7(T)パラPPから60Wを取り出すことができたのだが、これは単に出力を増加させるための設計ではなく、3極管PPの繊細な音と、多極管PPの力強い音を両立させるためのものなのである。その点を詳しく説明しよう。 真空管アンプは同じ出力のTRアンプに比較して、歪みが目立たないと言われる。真空管アンプは歪みが徐々に増えるソフト・ディストーション型だからと言うのであるが、その理論的裏付けとして筆者は以前、入力余裕度という概念を提唱した。最大出力100WのTRアンプを考えてみよう。出力1Wを得るのに必要な入力電圧が0.1Vだったとすれば、10倍の1Vの電圧を入力に加えれば出力は100倍の100Wになるはずである。これ以上の入力電圧を加えたら出力は急速に歪んでしまうだろう。ところが、最大出力70Wの真空管アンプの場合、同じように入力電圧を加えても、まだ最大出力には達しない可能性がある。それは出力電圧が入力電圧に比例しないリミッタ効果によるものである。この場合、出力は70Wでも入力電圧は1W出力の時の10倍、すなわち100W相当と言うことがあり得るのだ。 最大入力電圧をEimax、1W出力時の入力電圧をEi1Wとするとき、を入力余裕度と定義する(単位W相当)。入力余裕度の高いアンプほど、平均聴取音量を上げてもピーク時の歪みが耳につかない、すなわち大きな音が出せることになる。 PPアンプでは正しくバランスを取ると偶数次の歪みはキャンセルされ、歪み成分としては3次、5次など、奇数次の高調波のみが現れる。奇数次の高調波には図に示すように波形を尖らせる位相と波形をつぶす位相があり、3極管PPは波形を尖らせる位相の歪みを発生させるのに対して、多極管PPは波形をつぶす位相の歪みを発生するのである。実はこの波形をつぶす位相の歪みがあると、入力電圧を増加させても出力があまり増加しないリミッタ効果が得られ、入力余裕度が増すのである。これが、多極管PPの力強い音の正体ではないかと思う。 カソードフォロワーを用いて出力管のグリッドを正領域まで振り込むと、3極管PPでありながらその領域では波形をつぶす位相の歪みを発生するようになる。すなわち、出力が小さいうちは波形が尖る位相の歪みを発生して3極管PPらしい繊細な音を出すが、出力が大きくなると波形をつぶす位相の歪みに変わり、多極管PPのような力強い音が出せるのだ。ちなみに本機の場合、出力は60Wに止まるが、30W~40Wの領域で動作が切り替わるため、入力余裕度はなんと100W相当を得ている。
2012.06.16
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次はカソードフォロワーによるドライブ段である。出力管6CA7(T)のグリッドを正領域まで振り込むことでAB2級動作とし、出力の大幅な増加を目指す。最初、12AU7のパラレル接続で間に合わせる予定だったのだが、出力管のバイアス電圧は1本ずつ調整したいということから、出力管1本につき双3極管1ユニットを当てることにした。これで実験してみると、12AU7では、35Wくらいしか出力が得られず、目標の50Wにはほど遠いことがわかった。グリッド電流が流れることで波形が歪んでしまうのである。これを防ぐにはインピーダンスの低い強力なドライバー段を用意する必要がある。カソードフォロワーの内部インピーダンスはほぼGm(相互コンダクタンス)の逆数で与えられる。つまりGmの大きい球ほど、内部インピーダンスが低くなるのだ。Gmの高い球として12AT7もあるが、ここでは強力管5687を使ってみることにした。規格表によれば、12AU7のGmが2.2~3.1mA/Vなのに対して、12AT7は4.0~6.0mA/V、5687は5.4~11.5mA/Vである。電流を流すほどGmは大きくなるので、1ユニットあたり10mA流すこととした。この強力ドライバーにより、何と60Wの出力が取り出せるようになった。回路は以下の通りである。
2012.06.03
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続きはすぐ書くつもりだったのに、1ヶ月も間が空いてしまった。 前回説明した、プッシュプル出力段の3次歪みを打ち消す方法として、武末方式と黒川方式の中間的な方法を考案したのだが、これは実は簡単である。初段-位相反転段を2段差動増幅とし、2段目の交流的カソード抵抗を小さく選ぶだけである。これによって、2段目の差動増幅による2次歪みのバランス効果が少なくなり、武末方式のように出力管に2次歪みの多く含まれた波形が入力されることになる。また、差動増幅2段目のプレート負荷抵抗も小さめに選んでおくと(ここでは22kΩ)、黒川方式のように3次歪みを多く含んだ波形が出力管に入力されることになる。前段の回路図はこんな感じになる。差動増幅2段目のカソード抵抗が10kΩだけであれば普通の差動増幅だが、これにバイパスコンデンサと抵抗が並列に接続されているため、交流的には900Ωくらいになる。これにより差動効果を殺し、普通のカソード接地増幅器に近い動作にして2次歪みを発生させるのだ。この歪み打ち消し制御は、並列の1kΩの値を変えるだけでよいので、調整の自由度が大きい。 ちなみにこの定数では、6CA7PPが定格負荷で発生する3次歪みを半分ほど打ち消している。なぜ歪みをゼロに調整しないかというと、抵抗負荷でいくら低歪みに調整しても、実際のスピーカーは抵抗が大きく変化するためあまり意味がないからだ。歪み打ち消しで半分にし、NFBでさらに歪みを半分にするという設計である。 また、初段のカソードには定電流回路が入れてある。普通の2段差動増幅では、2段目でバランスが大きく改善されるため、定電流回路の必要は全くないのだが、この回路のように2段目の差動効果があまり期待できない場合は、初段のバランスを改善しておく必要があるのだ。それに、初段管にはノイズなどの点で選別が必要なのだが、選別に漏れた球にも働いてもらいたいと思うためである。まさに縁の下の力持ちではないか。
2012.05.27
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いよいよ本機の特長である3次歪みの打ち消し機構について説明しよう。普通、プッシュプルアンプは2次歪みなど偶数次の歪みが打ち消されるので、シングルアンプに比べて歪みが小さくなると説明されることが多い。真のプッシュプルならば、2次歪みが打ち消されるのは事実だが、深いバイアスで波形を合成するAB級プッシュプルでは、2次歪みが合成されて大きな3次歪みを発生してしまうことを忘れてはならない。規格表を見ても、プッシュプル動作の歪み率は3~5%くらいあり、決してシングルアンプに比べて少ないとは言えないのだ。このことから、プッシュプルアンプよりもむしろ、2台のシングルアンプの出力を合成するバランスド・シングルアンプの方が歪みは少なくなるのではないかと、昔MJ誌に記事として書いたことがある。 今回紹介する、プッシュプルアンプにおける3次歪み打ち消しへの取り組みは、武末数馬氏と黒川達夫氏の製作例を検討したことから始まる。無帰還時の歪み率がとても低い製作例としてまず注目したのは、武末数馬氏による入力トランス付き完全プッシュプルアンプ(1982)である。武末氏によれば、全段プッシュプル構成とし、プッシュプルのバランスを入念に取ることで低歪みになったと言う。しかし、プッシュプルで発生する歪みは3次歪みであって、いくらプッシュプルのバランスを取ってもなくなることはない。これは明らかに、前段と出力段の間で3次歪みの打ち消しが行われているとにらんだ。武末アンプはドライブ段が差動増幅でないため、ドライブ段で発生した2次歪みはそのまま出力段に加えられる。プッシュプル出力段では、波形の合成によって2次歪みは打ち消され、逆に3次歪みが増加する。入力信号に含まれる2次歪みも3次歪みを発生するわけだが、3極管プッシュプルではもともと波形を尖らせる位相の3次歪みが生じるのに対して、前段で発生した2次歪みが入力に加えられると波形をつぶす位相の3次歪みを発生するのだ。この両者は逆位相のため、3次歪みの打ち消しが行われることになる。 次に注目したのは、黒川達夫氏の製作例である。6RA8PPの製作例(1989)で、最大出力時における前段までの歪み率が2%程度あるのに対して、全体の歪みは無帰還でも1%以下とそれより低くなっているのだ。これも明らかに3次歪みの打ち消しによるものである。黒川アンプでは高域特性を改善するという目的で、前段の負荷抵抗を極端に低く選んでおり、この6RA8の場合も5.1~5.2kΩと異常に低いため、前段で大きな3次歪みを生じているのだ。差動増幅(マラード型位相反転を含む)をこのように設計した場合、発生する3次歪みは波形をつぶす位相になるので、出力段との歪み打ち消しが可能になる。 ここまでの考察から、武末方式では前段の2次歪みによって、黒川方式では前段の3次歪みによって、出力段の3次歪みを打ち消していることがわかった。特性曲線プログラムを使ってのシミュレーション結果はMJ誌に書いたのだが、3次歪みを完全に打ち消した場合、武末方式では5次歪みの打ち消しは不足になり、黒川方式では打ち消しが過剰になるという結論が導かれた。したがって、実際にはこの中間的な方法が望ましいと言うことになる。(続く)
2012.04.30
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出力トランスについて説明しよう。出力トランスとしてよく使われるのは、TANGOやTAMURAなど、最近では橋本電気や海外製品もいろいろある。また、同じメーカーでもいくつかのタイプがある。基本的な設計として、コアボリュームを大きく取り、巻線回数は減らしてインピーダンスが高域で素直に減衰していく(A)タイプと、コアサイズはそこそこでも巻線回数を多くして低域特性を良くする代わりにインピーダンスに高域でピークが出る(B)タイプ、その中間的なタイプとある。 TAMURAのトランスは(A)タイプ、昔のLUXのトランスは(B)タイプ、TANGOのトランスは中間的なタイプである。低域特性の点からは1次インダクタンスの大きいことが重要であるため、中間的なタイプでありながらカットコアを用いて1次インダクタンスの大きい、TANGOのXE-60型を採用することにした。 もっとも、(A)タイプの高域特性は分布容量によるものが主体なので、駆動インピーダンスが低くなると周波数特性は伸びるのに対して、(B)タイプは漏洩インダクタンスによるものが主体なので、逆に駆動インピーダンスが高い方がよくなる可能性がある。従って、低インピーダンスの3極出力管に組み合わせるには、(A)タイプが高域特性の点で望ましいと言う考え方もあるところだ。 本機の場合、更にパラレルPPを採用しているという問題がある。出力管1ペアあたり5kΩの負荷抵抗なので、パラレル接続では半分の2.5kΩ程度と考えられる。こんなに低いインピーダンスの出力トランスは売られていない。簡単な方法として、出力トランスの1次、2次ともに半分のインピーダンスで使うことにした。2次側の16Ω端子に8Ωの負荷を接続すれば、1次側5kΩのトランスも2.5kΩとして使えることになる。インピーダンスを半分にすると、出力トランスの低域特性は断然良くなる。特に低域で扱える出力が4倍になるのはすごいことだ。その反面、高域特性は難しくなる。(B)タイプの出力トランスだと、駆動インピーダンスが低くなればその分帯域が狭くなってしまうためだ。また、損失も大きくなる。正確に見積もると、負荷が2.6kΩで損失は-0.42dBとなることがわかった。 高域において出力トランスのインピーダンス特性に大きなピークができてしまったので、それに歯止めをかけるため、1次巻線と3次巻線の間に高域補正のCRを入れてある。回路図の上では、出力トランスの2次側に入っているCRと似ているようだが、2次側のCRが中高域でスピーカーのインピーダンス上昇を抑えるものであるのに対して、3次側のCRは、漏洩インダクタンスによる超高域のインピーダンス上昇を抑えるためのものなので働きが大きく異なる。 出力部の最終的な回路図を示そう。補正用のCRはスピーカーや出力トランスを補正するためのものなので、NFBの量によって調整することはしていない。
2012.04.24
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パワーアンプの設計は論理学だと思う。設計の仕様が決まれば、あとはほぼ必然的に回路が決まっていくからだ。本機の仕様(設計目標値)は以下の通りである。1.ダイナミックレンジ100dB以上 最大出力は50W以上、残留雑音は0.2mV以下であること。8ohm負荷で50Wということは電圧にすると20Vとなる。人間の可聴ダイナミックレンジは120dBと言われるが、実際には環境雑音も必ず存在するので、100dBあれば十分であろう。2.無帰還時に低歪み NFB量は10dB程度に抑え、それに頼らず歪み打ち消しによって低歪みを目指す。ここで言う歪み打ち消しは3次歪みの打ち消しである。出力段とドライブ段の間の歪み打ち消しにより、最大出力時0.2%以下、1W時0.03%以下を目指す。3.無帰還時に広帯域 NFB量は抑え、5-100kHzまで-3dBの範囲に収める。このため無帰還時の高域特性を改善する。4.ダンピングファクター(DF)10以上 スピーカーのインピーダンス特性の影響を抑えるために、DFは5以上が必要である。ちなみに、実際に製作したアンプの特性は以下の通りである。(2号機/1号機)1.ダイナミックレンジ 最大出力60W、残留雑音0.12mV/0.08mVのため105/108dB。これは余裕を持って達成できた。2.歪み率 最大出力時2.3%/2.5%(60W)、定格出力時0.4%/0.4%(40W)、1W時0.065%/0.06%。これは仕様より悪い値だが、実は3次歪みが多いとリミッター効果で入力余裕度が増す、と言う利点があるのだ。3.周波数特性 1.2Hz-75kHz/1.2Hz-68kHz(-3dB)。出力トランスを半分のインピーダンスで使ったため、低域特性は信じられない程よいが、高域特性は少し物足りない。4.ダンピングファクター 4.7/4.6とまずまずの値である。NFBを増やせばもっと高くできるが、このくらいの値が好ましい音質である。全体としては、なかなか高性能のアンプができたのではないかと思う。詳しいデータはこちらを参照。
2012.04.01
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前回述べたように、2段差動増幅として、その後にカソードフォロワーのドライブ段を置き、出力管のグリッドがプラスになる領域まで強力にドライブする。出力段は3極管接続にした6CA7のパラレルPPということで、全体の構成は図のようになった。 少し補足が必要だろう。2段差動増幅であれば、カソードの共通抵抗は普通の抵抗としても位相反転の平衡度は問題ないはずである。2段目で平衡度が大きく改善されるからだ。しかし、次の2つの理由から、初段のカソード側には定電流回路を入れてある。1つは、歪み打ち消しを行うために2段目の差動増幅の共通抵抗をわざと小さくする必要があるため、もう1つは、初段管には選別が必要なため、選別に漏れた球を有効に活用するためである。定電流回路は2つのユニットを並列にしている。 差動増幅段のGainはあまり高くする必要がないので、12AU7の2段増幅とした。NFBも少量で、残留雑音を減らすにはGainが小さい方が好都合だからである。これによって高域特性もよくなった。その後のカソードフォロワー段は、最初、前段と同じ12AU7を1本ずつと考えたのだが、やってみるとグリッド電流がかなり流れて歪みが大きくなるため、結局5687を1本ずつということになった。細かいところは追々詳しく説明していこうと思う。
2012.03.18
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昔、MJ(無線と実験)誌でSRPP論争というのがあった。「SRPPは本当にプッシュプル動作しているか」という指摘に対して、「アマチュアの製作したプッシュプルアンプの大部分が盛大な2次歪みを発生しているにもかかわらず一応プッシュプルと呼ばれているのと同じことではないか」と開き直って反論したことがある。(MJ誌'89.5) 真のプッシュプルアンプならば、プッシュプルのバランスを取るだけで2次歪みは完全に打ち消されるはずだが、実際にはそうでないアンプが多い。例えば図のようなマラード型位相反転では、上側の負荷抵抗に比べて下側のそれを大きく選ぶことで、何とかバランスさせるのが普通である。 しかし、この回路のバランスは増幅度に依存しているため、ある条件でしか完全にはバランスせず、個体差や経年変化の影響も受けやすい。常に完全にバランスさせておくには、負荷抵抗を可変にして、歪率計とにらめっこで決定するより他にはない。実際、マランツのパワーアンプなどは、メーターを見ながらこのACバランスを調整できるようになっている。歪率計を持たないアマチュアはバランスの取りようがないのだ。 プッシュプルのDCバランスを取るだけでACバランスが取れ、真のプッシュプルになるような位相反転回路は何か。私の意見は以下の通り。ダメな回路…マラード型(1段差動)、古典回路、オートバランス回路、カソード抵抗が別々のウィリアムソン型など。よい回路…2段差動増幅、アルテック型(PK分割)、カソード抵抗が共通のウィリアムソン型、交差接続型など。 要するに、バランスがゲインに依存する回路はダメで、上下対象の回路がよい。もしマラード型でバランスをよくしたいならば、黒川達夫氏のアンプのようにカソード側に定電流源が必要である。また、2段目を差動増幅とするならば、1段目はどんな位相反転回路を持ってきても大丈夫である。差動増幅によるバランスの改善効果が大きいからだ。この6CA7(T)パラPPでは2段差動増幅を採用することにした。
2012.03.04
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さて、前々回にいろいろな3極出力管(多極管の3結)を比較して、特性がきれいな6CA7/EL34に決定したと述べた。ところが、詳しく動作点を分析していく内にとんでもないことが判明した。この特性はニセモノだったのだ! 6CA7の3結ではA級シングルとAB級プッシュプルの動作例が発表されているのだが、この動作例が特性曲線から外れてしまうのである。これには困った。そこで、特性曲線を描かせるプログラムをBasicで自作し、それでいろいろシミュレーションしてみることにした。特性曲線はこんな感じになった。 特に美しい特性曲線というわけではないが、電流をたくさん流せるところはよい球である。このあたりの経緯は、MJ誌に書いたことがある。MJ 1994.1の記事 このプログラムを使って、いろいろロードラインを引いてみた結果、Eb=400V, Ip=60mA, RL=5kΩのとき、最大出力Po=19W, 歪率D=1.9%となった。これは1ペアの値なので、パラPPでは出力が2倍の38Wとなる。プレート電圧は最大定格が3結時425Vなので400Vに抑え、プレート損失の最大定格が3結時29Wくらいなので、80%強の24Wに抑えるために400V-60mAと言う動作点とした。これはかなりA級に近い電流を流した動作点だと言える。電流を絞った方が最大出力は少し大きくなるが、歪みが急激に増大してしまうため、敢えて電流を流した低歪みの動作点を選ぶことにした。。電流を変えたときの最大出力・歪率(計算値)
2012.02.11
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ところで、3極管PPがなぜ優れているかについてもう少し具体的に述べておこう。トランジスター(TR)、多極管(特にビーム管)、3極管と比べると、この順番に電源エネルギーの利用効率は悪くなっていく。ならば、TR式が一番良さそうなものだが、効率が良ければそれで性能が良いというわけではないのだ。 効率というのは、特性曲線の上で電源供給電圧と負荷抵抗を決めると、大体わかるものだ。図Aに示すTR式の場合、入力を増やせば、どんどん電流が流れるため、基本的に出力素子は歪まない。負荷抵抗を小さくすれば小さくするほど出力は増加する。どこかで頭打ちになるのは電源が歪むからなのだ。図Bに示す多極管の場合、ちょうど良い負荷抵抗を選ぶと出力が最大となる。それより負荷抵抗を小さくしても大きくしても出力は急速に小さくなってしまう。負荷が小さくなるときには出力素子が歪むが、負荷が大きくなると電圧0Vでカットオフして急激に歪む。それに比べると、図Cに示す3極管の場合は、もともと効率が悪いせいもあって負荷抵抗を変化させても出力の変化は小さい。そして常に出力素子が歪むため、出力素子の特徴が音に現れるわけだ。 アンプのテストをするときには8Ωの負荷抵抗を接続するが、現実のスピーカーは抵抗とは違う。スピーカーのインピーダンスは基準負荷よりも大きくなる傾向があるため、負荷抵抗が大きくなっても特性が悪化しない出力素子が望ましい。それは3極管である。また、出力素子が美しい歪みを発生するのも3極管だけである。多極管は急激に歪み、TRは電源が歪む。どちらも大量の負帰還をかけることが前提の出力素子なのだ。こう考えれば、効率の悪い3極出力管が実は最もスピーカーのドライブに適した出力素子であることがわかるだろう。
2012.02.03
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最初に、出力管の選択について振り返ってみる。純粋な3極出力管のプッシュプルで50W得られるものとなると、選択肢が限られてしまう。それに、有名なWE-300Bでも40W程度、50CA10でも30W、ラックスのアンプで使われた8045Gなら60W出るが、すでに入手は困難であった。そもそもアンプ作成のテーマは「平凡な部品で…」と言うことだったので、特殊な出力管はその主旨にそぐわない。50CA10にしても、8045Gにしても、4極管を内部で3極管接続した構造ということなので、多極出力管の3極管接続も候補に挙げることにしたら、選択肢はずっと広がったわけである。TypeHeaterEbmax(V)Ppmax(W)Po 3結PP6CA7(T)/EL34(T)6.3V1.5A42525(8)16.550CA1050V0.175A45030346L6GC(T)6.3V0.9A45030 - KT88(T)6.3V1.6A60035(6)31300B5V1.2A-D48040 - 6550A(T)6.3V1.6A50042288045G6.3V2.5A5504560いずれにしても、普通のプッシュプルでは50Wの出力を得ることが難しいので、パラレルプッシュプルと言うことになる。KT88だと普通の3結PPで30W、パラレルPPなら60Wは確実だが、少し大げさだと感じた。当時、上杉研究所のU-BROS11というパワーアンプが、6CA7の3結パラPPで30Wという控えめな出力で出ていた。有名なマランツのMODEL 9だとEL34の3結パラPPで40Wである。この6CA7/EL34はフィリップスと松下のものが有名だが、各社から発売されていて入手はもっとも容易である。それに、3極管接続の特性が美しいのである。この特性はまさに驚きではないか!というわけで、6CA7/EL34のパラPPを採用することに決定した。規格上は16.5Wなので2倍しても33Wにしかならず、出力50Wが達成できるのか、と疑問に思われるかもしれないが、出力管のグリッド電圧を+領域まで振り込むAB2級動作にしてやれば、通常のAB1級に比べて1.5~2倍くらいの出力アップは固いので、十分達成可能だと考えた次第である。
2012.01.29
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これから、現在メインとして使用している6CA7(T)パラPPパワーアンプについて紹介、解説していこうと思う。このアンプは1996年にモノーラルの1台目が完成し、2000年にモノーラルの2台目が完成、1台目の改良も行った。(その間は使い物にならなかった!)従って、完成は2000年ということになる。 実験ノートを開いてみると、最初にこのアンプの着想が記されているのは、1993年5月30日のことである。そのタイトルは、「平凡な部品で非凡なアンプをつくる」というものだ。真空管アンプが好きな人は、とかく特殊な真空管を使ったり、珍しい回路を試したりする人が多い。そうではなくて、ありふれた、どこでも手に入る部品だけを使って、素晴らしいアンプを作りたいと思いついたわけである。 基本的な構想としては、まず、3極出力管のプッシュプルアンプであること。3極管がよい理由は、負荷抵抗が変動しても出力や歪率が大きく変化しないし、もともと内部抵抗が低いので大量のNFBを必要としない、などからである。 次に、出力は50W以上としてモノーラル構成にすること。求める出力はスピーカーの能率で変わってくるわけであるが、スピーカーの能率が1W1m時90dBだとして、最大音圧110dBを目標とする。部屋に置いたときは上下、前後方向に音が反射するため、能率が3dBはアップすると考え、93dBを110dBにするために必要な出力が17dB相当、つまり50Wとなる。モノーラル構成とするのは、単にアンプがあまり重くなりすぎないようにするためである。
2012.01.22
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