「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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恐竜境に果てぬ第1章第2節その3
『恐竜境に果てぬ』第1章『先史時代』第2節・白亜紀の光景その3「巨獣世界」(2015年11月17日開始)
私と早苗は二人一緒に転送されるかとばかり思い、束の間私の自宅二階のバルコニーで、雑談していた。早苗は、大きめのバッグを用意して、足元に置いていた。
改めて思い起こすと、早苗との縁は、今回の急展開につながるようなものではなかった。そもそも私が一時期打ち込んだ拳法も、組織本部の経営者は現に存在したし、門下生に稽古を授ける報酬として、授業料のようなものを月ごとに受け取る規則も当然あったが、田舎の拳法道場が、仮に各地に支部道場を複数設けたとしても、格闘技の教授とそれに対する月謝だけで、支部の経営が成り立つ安定性は望めなかった。
もちろん、本格的な道場としての経営だけで成り立っているところも実際にあるはずだが、私が属した田舎の支部道場は、門下生からの報酬だけでは経営は不可能だった。第一、支部とは言え、まず師範がいて、私はその師範代としての地位にいたが、この師範というのが、どんな事情なのか、稽古に顔を見せることは、ほとんどなく、事実上、私が地元支部の師範の役目を負っていた。さらに、師範代として働いたはずなのだが、私への給与というものは全くなかった。支部の門下生から受け取る月謝は、本部に送る決まりだった。
むしろ、不定期に開催され、一般客に公開した『拳法大会』なども、一応チケットを作って、入場料をとる形はとったが、中身はというと、私のような高段者にチケットを買わせることによる収入が、かなり高額で、例えるなら、テレビ局が映画会社と制作提携して、新作映画を公開する時に、テレビ局員のおおぜいにチケットを買わせて興行収入のかなりの割合を占めるやり方と似ていた。
もう少し書くなら、組織の本部の経営者は、曲がりなりにも、トップに相応しい実力を持ち、それなりの高収入を得ていたはずだが、私はこれがいわゆる一般の仮に零細企業だとしたら、社長たる者は、何かの製品を作り、それを売った利益の中から、社員に給料を支払うシステムを無事継続させているに違いないから、ことこの拳法組織に至っては、疑問が大いにあった。
小さなただ一つの町道場の運営者の中には、別に仕事を持ち、趣味半分に空手道場を夜間だけ開いて、細々たる月謝を生活の足しにしている人もいた。
そのような疑問を持ちつつも、私は特に2 , 30代の若い頃は、余り考えずに、当時は門下生の一人として、稽古に励み、やがて学習塾が傾き出す頃からは、名目上は師範代ながら、事実は師範として、門下生に稽古を授けるようになっていった。
だが既に述べた通り、無報酬なのに、大会となると高段位の者から順に、いっぺんに何十枚というチケットを買わされ、合計額も高額になる組織のあこぎとも言える毎度の仕組みに、いよいよ反感を持つようになっていた。
この頃、早苗が入門した。これも既に述べたが、彼女は素質があり、女子部との名ばかりの区別の中で、男子顔負けの上達を見せた。当時、女子で空手などを習う者はごく少数だった。稽古そのものは、男子に交って行なって、初心者のうちは男子の容赦ない攻撃、あるいは手加減した技にたじたじだったが、筋の良さに真剣さが加わって、たちまち平均的な男子をしのぐ強さを発揮し、そのぶん、昇級、昇段が早く、一年余りで初段をとる見事さだった。巨細に述べるとキリがないから、省きながら書くが、初段を取得する試験の難関は、休みなく交替で次々立ち会う合計十人のほぼ男子を相手に、最後まで立って倒れずにいなければならない『十人組手』の過酷な実技試験だが、男子でさえ、十人目近くなると、人間サンドバッグ同然にフラフラになる。だが早苗は最後の十人目の黒帯の男子の攻撃も必死で耐え、下段回し蹴りから一瞬に上段回し蹴りを飛ばす高等技で、一矢(いっし)報いる凄さを見せて、周囲からどよめきが起こったほどだった。私はほどなく実力二段と自己判断した。
当たり前かも知れないが、稽古中は猛然と闘い、終わって着替えると、素直な娘の姿に戻っていた。この態度に私は知らずのうちにひかれ、彼女の稽古に時間を割くようになった。教え方は厳しかったかも知れないが、前にも書いたように、言葉遣いに優しさを示した。多分、学習塾時代の習慣が自然に出ていたのだろう。塾生はほとんどが高校生で、私は中学生に対するやや乱暴な言葉遣いに対し、高校生には意識して敬語を使い、次第に無意識に柔和な態度で接するようになった。
早苗も、田舎の衣料品店の店員としては珍しく都会的センスを感じさせ、言葉も、仮に意識したとしても、標準語で話して、心地よい響きだった。
彼女も、私の指導の厳しさの中に、必ず見せる優しい言葉遣いと態度に気づいていたと思う。稽古内容は、原則として初めに、全員そろっての基本の突き・蹴りを何種類か行ない、小休止ののち、門下生同士、テキトーにパートナーを決めさせての組手稽古、すなわちお互いの技を繰り出して、勝負を競うにわか試合に移った。
これにも、例えば空手などでは、約束組手と自由組手(俗にいうフリー)というものに分けた練習方法があり、私もある程度指導方法を任されていたので、ただいきなり殴り合い、蹴り合いをさせる自由組手は、自己流に流れて、妙なくせがつくことを嫌っていたので、約束組手を重視した。
約束組手とは、空手で言う単独の『型』をやや崩して、パートナー同士、試合形式にしてある範囲内の技で闘わせるもので、少林寺拳法では、恐らく今でもこれをむしろ決まった型として、二人一組でやっていると思う。
さて、二種類の組手が続くうちに、門下生たちに疲労が出て来る。中にはだらけて、雑談を始める者たちもいる。私はこれを当然と考え、「テキトーに休んで、それからまた再開して」と号令するが、実は「もうホントにテキトーにやれよ」と言いたい気持ちだった。
私自身も正直飽きて来て、空腹感も覚え始め、早く終わって帰宅して遅い夕飯を食べたいと、不謹慎ながら、だらけていたのだ。
その中で、早苗が「師範代 ! 」と呼びかけるようになり、次第にひんぱんになっていった。組手が始まると、時間と共に疲労がたまって来るから、頃合いを見て、稽古終了を告げれば良かった。
ところが早苗は、私をつかまえるように呼びかけては、技について、いろいろ指導を請うようになった。どうやら今思うと、学習塾時代の生徒からの質問に反射的に反応して、説明した頃の感覚がよみがえっていたのかも知れない。
故に、私も聞かれたことには、熱心に指導した。
これも詳述は省くが、早苗は攻防を途切れさせず、一段落(いちだんらく)するまでの時間を長く保たせる組手の応酬の研究と練習に熱心だった。
この練習が長くなればなるほど、既にだらけている男子たちの中で目立った。
そして、この早苗にていねいに指導する光景が、他の門下生の反感を買うようになった。私は彼女の熱心さを惜しいと思いつつも、支部道場にシラケたムードが広がって、クシの歯が抜けるように、門下生たちが次第に去ってゆくようになってはマズいと思い、さらに組織の体制にも反感が募っていたので、残る門下生の中から、後継として任せられそうな一人の黒帯の者に頼み込んで、支部道場を去ることにした。
まこと、後ろ髪引かれる思いがあった。案の定、学習塾の所在を突き止めた早苗が、時々訪れて、個人指導を懇願したが、先に述べた回転回し蹴りなどの高等技をいくつか教えたものの、田所のパートナーとしての活動がひんぱんになり、個人指導は自然消滅した。彼女の訪問も途絶えがちになった。
ところが、彼女の訪問は、ひんぱんではなくなったものの、たまに訪ねて来るようになった。指導はともかく、同情した私の母が家に招き入れて、話し相手をするようになった。彼女も、母との雑談に興ずるようになって、私の指導は再開かなわぬながらも、母と談笑するまでになった。
そして、母の急死を知らぬ彼女が、ある日一時帰宅した私と再会する形となり、その時から急転直下の新メンバー参加という全く予想外の結果につながった。
どれくらい経ったか、突然早苗の顔つきが変わった。
早苗「村松さん、あたし、ちょっと身体の様子が変なの・・ ! 」
私「身体に何か粘つく感覚か ? 」
早苗「ええ、大丈夫なの ? 」
私「心配するな。なぜかわからねえが、まずお前を先に、先史時代へ送るようだ。とにかく心配はいらない。田所の考えかもしれねえ」
早苗の姿が次第に後ろの景色に溶け込み、やがて消えた。
私は一旦、二階の部屋に入った。
ここから、舞台はいきなり白亜紀に移る。
あれから待つことしばらく、私も数日ぶりに、だいぶなじんだ探検車居住区にいた。早苗は、一足先に転送されて探検車の田所のベッドに腰かけていた。既に田所の指示を受けて、いくつか荷物をバッグに入れてあったが、最も重要な一つが、早苗自身の愛用品であるノート・パソコンだった。彼女からパソコンを受け取ると、田所は早速、分解して、何やら新しい部品を装置し、彼女に返した。
田所「早苗さん、今、一部機器を装着し、お返ししたのは、あなたの快諾を得るまでのあいだ、私が使っていた独自の仕様によるパソコンと同じです。私の自宅でも出来たのですが、ここで装着のほうが安全と判断したのです。
自宅仕事場で操作方法を一通り説明しましたが、特徴を詳しく話すと、時間がかかるので、先史時代に移った今、改めて要点を説明します。話の重複はありますが、一応聞いて下さい。
まず、このパソコンはプロバイダー、電話回線が不要になります。村松が持っているパソコンにも、同様の変更が施してあります。
もう一つの大きな特徴は、ディスプレイ画面を通して、あらゆる時代の光景を映し出せる機能です。これは、村松が一時帰宅してお母さんとしばし過ごす時は心配なかったのですが、お母さんお一人の時も当然あり、その入浴時などに、不測の事態が発生せぬよう、細心の注意で見守りました。私はここにある種の追尾制限機能を設け、くだいた言い方をするなら、一種のボカシを入れて、お母さんに失礼がないようにしたうえで、追尾しました。
万一、浴槽に入る時、出る時に、つまずきそうになった時は、ここからの遠隔操作で、お母さんの身体をバリアーで包んで、安全を図ることにしました。
結局、この機能を使う必要がなくて、良かったのですが、失礼ながら、これは村松にさえ施してプライバシーを守りましたから、女性の早苗さんなら当然、これを働かせるのは常識です。ご安心下さい。
なお、これはやや余談ながら、私のパソコンには時空転送機能を装備させていますが、村松や早苗さんのパソコンにはありません。
これは元々、村松の独断専行を防止する目的もありましたが、この機能だけは、私だけが持つことにしました。ご了承下されば安心出来ます」
初めて聞く話で、私は内心「この野郎、俺の行動を監視だけでなく、随意に転送しやがって」といささか不愉快だった。ただ、晩年に近い母にひんぱんに会わせてくれたのは、特異な性格の田所にしては、珍しいほどの配慮と、今では感謝するしかない。
田所の話は、早苗を加えたこの時、陣容が固まったと見たためか、いつになく雄弁で、さらに続いた。
田所「早苗さんの参加は、何も雑用などに働いてもらおうというのではなく、今後の行動に不可欠で重要なメンバーとして、活動してもらうのが目的なのです。この機会に、いよいよ『敵組織』の存在とその暗躍について説明し、これからの本格的な我々の行動内容を説明しておきます」
私は立ち上がり、「ふわーっ」と伸びをして、トイレへ向かった。
田所「村松、話の途中だ。腰かけて聞け」
私「生理現象くらいかんべんしろよ。それに何が要点だよ。敵が暗躍してるだの何んだのと、さんざん俺には話したことだろが」
田所「大か小か ?」
私「お前ねぇ、さっきから聞いてりゃ、早苗さん早苗さんって、いかにも紳士面(づら)して、しゃべってたくせに、いきなり大か小かはねえだろ。とにかくチョイと済ませて来る」
早苗「あの、せっかく初めて私が加わったばかりのお話ですから、ケンカなんかしないで、ねえ、村松さん、サッサと行って来たらどお ? 」
私「おお、援軍ありがてえ。じゃ、お言葉に甘えて・・」
田所が舌打ちするのが聞こえたが、正直私は外の空気を吸いたい気分だった。
田所も頑固な性格で、「それではしばし中断」と告げて、それきり黙ってしまった。
私「わかったよ、田所博士。急に凄むから、生理現象消えちまった。はい、ご高説再開、どうぞ」
早苗がキョトンとしていたが、田所は、例の如く、何もなかったような顔つきに戻って、話の続きを始めた。
田所「今、村松が少し言ったが、今回の敵の組織の説明は、これまでにない具体的なものだ。二人とも一通り聞いてくれ」
敬語がとれた。早苗を意識していたと思ったら、今度は私を含んだ、命令口調のように変わった。とにかく、こいつのパートナーは、気は優しくて本当は腕力に秀でている私でなければ、とても務まらない。
田所「それでは村松に問う。敵組織の目的は何んだ ? 」
私「欧米の敵組織が、俺たちのような個人または小規模な組織に、過去の事実を知られぬよう、工作員なんかを使って、時間旅行を阻止しようってんだろ」
田所「なるほど。大筋をつかんで見事だ。早苗さん、今、彼が言った通りなのですが、追加することがありますので、聞いて下さい」
また敬語に戻りゃがったと、この場は不愉快なことだらけだが、仕方なく話に加わった。
田所「時間旅行、またはタイム・トラベルで他の人間に過去の事実を知られると、米国上層部が隠ぺいしていた機密事項などを暴露されることを、彼らは最も恐れ、嫌っています。さらに人類誕生と、それにエイリアンがからむ最高機密事項、つまりトップ・シークレットをいっぺんに悟られるので、特に米国軍上層部は、先の戦争終結前後以来、彼らなりに接触・管理していたエイリアンとの関係を公表されないよう、あらゆる手段で手を打って来る危険性が大いにあります」
私「おい、それは初耳だぞ。俺たちわずかな員数で、そんなに巨大な米国の軍上層部に抵抗するなんてのは、余りに無謀なんじゃねえのかよ、しかも、ついこないだまで、平凡な日常を送っていた早苗をそんな危ねえ計画に巻き込んでもいいのかよぉ ! ? 」
田所「村松、うぬぼれるわけではないが、俺のタイム・トラベル装置の威力は、一騎当千の実力を持つのだ。彼らは、俺が開発実用化した、このマシンの実用原理を知るに至ってない。彼らのタイム・トラベルは、言わばタイム・トンネルのような現地固定式のもので行なう段階だから、このマシンのように、探検車型の走行車両のような自由自在の動きは出来ないのだ。彼らの狙いはそこにもある。彼我の原理と差は歴然だ。
確かにこの計画は危険を伴うが、今のうちに、敵の陰謀を打ち砕いておく必要がある」
問答の形に変じて、やや語気を荒くしたことに気づいたか、さすがに田所は、平静に戻ろうとする所作を見せた。
田所「すまぬ、村松。少しずつ順を追って話そうとしたが、我れながら感情的になった。村松、問答を交えてもかまわぬから、いや、そのほうが早苗さんにも、改めて考える余裕を与え直すことも出来るから、俺の話の腰を折ってもいいよ」
私「じゃあ聞くけどよ。人類誕生とエイリアンの秘密とは何んだよ ? 」
田所「世界一有名な宗教と言えば、まあキリスト教だろう。そして、最高部数のベストセラーと言われる『聖書』なるものがあるが、汎用的な日本語訳のものには、例えば『神は自分の姿に似せてアダムを作り・・・』とある。これは、間違いかねつ造だ。俺も原書なのか何語のものかは詳しくないが、原書としておくか。これには『神々は自分たちの姿に似せて・・』と書いてあるのが事実だ。つまり神々と複数で記述してあるのだ。これにより、『一神教』と強調するキリスト教こそ、聖書との名のもとに出回らせて、おおぜいをあざむいていることがわかる。
結論を言うと、神々とは高度知性体、すなわち太古のエイリアンなのだ。地球人類とは、エイリアンが機械部品でなく、有機物として創造することに成功した、一種のアンドロイドだ。いや、これは確証を得たうえでの話ではなく、もう一つ考えられるのは、太古の原始人類にエイリアンが交わって、一種の混血として作られた仮説もある。いずれにせよ、エイリアンが地球人類を作ったことは確かだ。
この話を俺は、かつて師事したビル・アントン教授、愛称ヒル・アンドン教授から教えてもらった」
私「おお、あの田中角栄元首相そっくりのオヤジか・・」
田所「そうだ。長く隠れて活動していたが、そろそろ別働隊と共に、連絡して来ると思う」
私「別働隊 ? 何んだ、俺たちにも仲間がいるのか・・」
田所「多分、直接の接触はないが、米国上層部の隠ぺい事項を巧みに暴こうと、ひそかに活動している地下組織だ。初期の頃には、行動が飛躍して、米国の特殊工作員に抹殺された人もいたが、今や、米国上層部も、地下組織の動きをさぐり当てるのが困難なほど、秘密行動が進歩している」
私「軍上層部にマークされてなお、無事な活動なんて出来るのかよ」
田所「いい質問だ。話が元に戻るが、村松をパートナーに選んだ理由のもう一つは、子供の頃からの先見の明とも言える空想力だ。村松は、神の存在と天地創造などの聖書の物語を信じなかったな。『神も仏もない』とも言った。
全くその通りだ。今話したように、俺の考えは『神々=エイリアン』だが、村松が、進化論さえ大筋を否定して、『万物は大いなる宇宙の意志で突然現われた』と言った説が正しい」
私「何んだよ、急にほめたりして、照れるじゃねえか」
田所「俺の大学、と言っても、少し前に退職したが、あの研究室には、村松ほどの仮説を受け入れそうな者は一人もいなかったからでもある。要するに皆、頭の固い連中だった。
さて、村松の今の質問のことだが、それもお前が疑うのにも一理ある。レジスタンス的な組織とは言え、軍上層部がつぶしにかかったら、所在を突き止められ、あっけなく壊滅するだろう。ただ、一つ考えられるのは、米国は『金と覇権』がすべての国だ。地下組織は、情報収集と、その公表が主な活動だが、例えば日本向けにも放映されている衛星放送の番組などを見ると、やや歯切れが悪い。
これは、米国の上層部を警戒しての、ギリギリの放送かとも思えるが、よく考えると、視聴者に興味をいくらか持たせる程度の内容に終始して、それほどのインパクトはない。ヒル・アンドン教授によると、この組織には、裏で軍と気脈を通じている黒幕とも言える大富豪が存在するとのうわさに信憑性が高い。
エイリアンの米国に対するスタンスも、何を目的とするのか、米国でさえ、さぐるような慎重な動き方らしい。くだいて言えば、エイリアンは地球人類の味方なのか、見張っているのか、人類存在に関し、何らかの操作を続けているのか、米上層部も突き止めかねている現状のようだ。ヒル・アンドン教授は、地下組織に対しても警戒を怠らない。彼らのもたらす情報を取捨選択して、慎重だ」
私「それじゃあよぉ、その地下組織ってのも、信用出来ないんじゃねえのかよ。んもお、俺、何んだかわからなくなって来た」
田所「村松、確かに説明が長くなり過ぎた。すまぬ。地下組織は、俺たちの活動に対しては、いわゆる敵対行動は起こさない。根本に、米軍の隠ぺい工作をさぐる目的があることに変わりはない。教授の言に従えば、黒幕はあくまで黒幕であり、この人物の存在が、俺たちの行動を阻むことはない。
さて村松、俺たちが時々、探検車で広々した砂漠地帯などを走行するのは、敵組織の工作員たちに、わざと車体を見せつけるためでもある。もちろん、いざという時は、即座にこの者たちを抹殺、またはこの時代から永遠に戻れぬ時空の裂け目に飛ばすつもりだ。なお、早苗さんには、既に俺の自宅仕事場に呼んで、説明と共にバリアー処置を施してあるから、彼女の身体も安全との保証を知らせておく。
そこで、教授との連絡がついて、再会するまでのあいだ、今言った通りの、探検車を敵の目にさらす目的も含めて、まあ、気分転換に、恐竜世界を、特に早苗さんに見せて上げようかと思う。村松、それでいいか ? 」
私「俺にいちいち了解とることもあるめえ」
田所「村松と縁のある人だから、両人の意志を尊重せねばという気持ちからだ。早苗さん、本物の恐竜を見ませんか ? 」
早苗「ぜひ、見せていただきたいです ! 」
田所「では村松、俺たちは操縦席の所定位置につく。発射桿の準備を頼む 」
田所も私もすぐに座席につき、私はすっかり気に入った発射桿に気分が昂揚して、「準備よろし」と答えた。
田所「早苗さんは、私たちのベッドに腰かけていてもいいし、いよいよ恐竜が現われたら、操縦席近くに来て、スクリーンに映る光景を見て下さい。本来なら、腰かけの一つも用意すべきなのですが、ご覧の通りのきゅうくつな車内なので、どちらかのベッドにでも腰かけて下さい。さっきから坐っているのが私のベッドですよ」
「あ、知らないで、ごめんなさい。でもわかりました」との早苗の返事を聞くと、田所は「それでは発進 ! 」と告げて、探検車の操縦桿をゆっくり操作し始めた。早苗は「ありがとうございます。・・・シーツも乱れがちで、普段の生活からみて、きたなそうなのが、村松さんのね。納得だわ。田所先生のをお借りします」とぬかしやがった。
私は「何んでぇこの女め」と思った。それに田所には「先生」と来やがった。何んだよ、俺だって、さんざん「師範代」と呼んだくせに、「面白くねえ」と不愉快だった。
ところが早苗は「やっぱり村松さんのきたないベッドのほうが気が楽だわ」と、私のベッドに坐った。するとすぐに「あ、田所先生の座席位置と、はす向かいのほうが、パソコン指示いただく角度が適しているから、移動します」と、結局元の位置に坐った。「勝手にしやがれ」と思ったが、実はそれほど腹立たしくはなかった。年来のお互いの慣れがあったのか。
ここで田所が粋な計らいをした。束の間自動操縦にセットしたうえで、ハッチをあけて、私と並んで上半身を出したあとすぐ、「早苗さん、走行中の景色を見ませんか」と言って、彼女に譲った。彼女は感動したようで、「戦車からの景色みたい」などと言いながら、しばらく景色を眺めていた。
やがて田所が、「さて、いよいよ恐竜のいるあたりへ向かうので、車内に戻って」と号令し、私たち二人は、操縦席につき、早苗はスクリーン近くに立って、車窓の光景に見入っていた。
彼女も、映画などで、有名な恐竜のいくつかは知っていたから、「わあ、トリケラトプスの親子 ! 大きいわぁ」などと感動の声を上げていた。
田所「村松、トリケラトプスの群れだ。テレポート弾発射用意 ! 」
私「発射用意よし ! 実弾使わずに、飛ばすぞ ! 」
迫り来る群れが、次々に消えていった。
早苗が「ええっ ! この恐竜たち、どこに消えたの ! ねえ、村松さん ! ? 」
私「殺害はしねえ。多分、半径数10キロ以内のどこかだ」
早苗「村松さん凄い ! 射撃出来るのね」
上げたり下げたり、うるさい女だと思ったが、がまんした。田所の気遣いが感じられたからでもある。しかし、実際、神経集中の時に、うるさいと思ったのは確かだ。私は、戦闘気分で気を紛らわそうとした。
私「全軍突撃せよ ! てーっ ! 」
早苗「今、何んて言ったの ? 『てーっ』って何 ? 」
私「『撃て』を早く言ったんだよ」
早苗「かっこいい ! 『てーっ』なのね。うう、わくわくして来た。あたし、本当に恐竜時代にいるのね」
私は彼女にはいちいち返答せず、射撃に集中した。
私「全弾命中 ! 」
田所「見事だ。引き続き警戒せよ」
私「警戒、よーそろー」
早苗「今、何んて言ったの・・、『よー』何んとかって・・」
実にうるさい女だ。ここで不意に田所が早苗に告げた。
田所「早苗さん、パソコン用意 ! 」
早苗「はい」
田所「ディスプレイを、レーダー画面に合わせよ」
田所の口調が変わった。命令口調だ。
『面白れぇ。ついでに怒鳴ればいいぞ』と思ったが、全く勘違いだった。
早苗も、パソコン操作の説明を理解していたようで、「レーダー準備完了」と返した。
田所「巨大な恐竜群がまもなく映るかも知れないから、注意せよ」
早苗「了解。あ、群れの反応あり」
田所「よし、上出来だ」
今度は私が驚く番だった。同時に「何んでぇ、こいつも、俺と似たやりとり、するんじゃねえか」とまたも、不愉快に感じ、なぜ私に警戒指示しないかと疑問に思った。だが私の頭では、理解しようとしないほうが、むしろ気が楽だと思った。
田所「まもなく、針葉樹林帯に近づく。先回りしてブラキオサウルスの群れを追い越して、探検車を停めて、降りてみよう」
ほどなく、これまでに見たことのない、恐竜パノラマ・ワールドのただ中を三人そろって歩くことになった。
バリアーにより安全だが、次々私たちを追い越してゆく巨獣の文字通り巨大さに息を呑む迫力だった。
─第1章「先史時代」第2節その3了、
第3節その1
へつづく─(2015 年12 月 13 日更新)
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