Over The Moon.

Over The Moon.

2007年12月19日
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カテゴリ: *能関係の日記*
「よろしくお願いします」
っていう

この最初の言葉も
そのあと切戸が開く音も
舞台に出て感じるまぶしい光も。

4年という長くて短い歳月の中で
その瞬間瞬間で、切り取りたくなるような大事な一コマとして
私の中に降り積もっている。


それがこの仕舞で




切戸から入った瞬間
そこからもう、仕舞は始まっている。


歩くときの背筋
座ったときの居住まいの正し方
扇を腰から抜く手も

ひとつひとつの動作を丁寧に。


扇を手に正面へ向かう。

一旦構えて
しゃがむ。
これが既に「下に居」の型。


そしてゆっくりと


一呼吸。


「面白や時もげに」


仕舞『天鼓』。

天から降ってきた鼓を
美しく鳴らす子供、天鼓の話。



断った天鼓は、山中の湖に沈められてしまう。
鼓は帝のもとに届くが、
主がいなくなった鼓は、もはやあの美しい音を鳴らそうとしない。

そこへ天鼓の父親が呼び出される。
父親は、子供を失い悲しみにくれているが
子供を想いながら鳴らすと、初めて美しい音が鳴った。

帝は感じ入り、天鼓の追善の宴を湖のほとりで行う。
すると天鼓の亡霊が現れるのだ。


仕舞は、この天鼓が、かつてのように楽しげに
鼓を打ち鳴らしていく最後の場面だ。


「柳葉を払って
 月も涼しく星もあい逢う 空なれや」

空を見回す、見回しの型。
見上げれば星月夜なのだ。

この仕舞は珍しく
詞に「星」がよく出てくる。


私が最初この仕舞を観たとき
「きらきらしてるなぁ」と思った覚えがある。
それはその「星」からくるんだと思っていたけれど
きっとそれだけじゃない。


「二星の館の前に
 風冷ややかに夜も更けて」

この曲の空気感は、とても澄んでいる。
ちょっとでもいびつになると
全てが壊れてしまうような
繊細な空気。


「天の海面 雲の浪
 立ち沿うや 呂水の堤の」

そして天と水の美しい景色が
次々に流れていく。


「月にうそむき」

月の光にきらきらと

「水に戯れ」

波面が揺れて

「波をうがち」

しぶきが星のように瞬く。

「袖を返すや」


輝いているのはこの空気と
景色と
天鼓の心なのだ。

それら全てが星の瞬きのように
仕舞全体をくるんで
静かにきらめいている。


「夜も明け白む 時の鼓」

これも最後には
夜明けが来て、夢幻と消えてしまうのだけれど。

「数は六つの巷の声に」

足拍子を六つ。
上手い人だと、これが鼓の音に聞こえるのだという。


「また打ちよりて 現か夢か」

正面に向かい、最後の拍子。
ふわっと空気が変わって
夢の終わりを感じさせる。


「またうちよりて現か夢」

・・・これで最後だ。
よく舞えた。

「幻とこそ」

もう悔いは


「なりに ける~


・・・

(×ける ○けれ)


なんでやねん!( ̄□ ̄#)


「こそ已然形」って係り結び高校時代に習ったんちゃうんかい!
ってか間違えたことないのに、今まで間違えたことないのに、
よりによって本番で、最後の最後でその一文字を・・・!

・・・じうたい~~~!



「「ありがとうございました」」

師匠「いやぁ、よかった、まぁそうだよ
   完璧じゃない方が僕らも舞いやすいしね」

鴨くん「え、それは・・・」

師匠「地謡ね、最後の一文字が・・・」

鴨くん「え゛。
    ・・・僕なんて言いました」

「「「なりにける」」」

鴨くん「・・・!」


鹿くん(仮名)「僕ら地頭に合わせましたよ」
雉ちゃん(仮名)「ええ、最後は地頭に合わせました」


『最後は間違えても地頭に合わせるのが美しい』
とはよく言うけれど。
ええ、美しい光景ですよ。それはそれは。


鴨くん「・・・・・・!
    ああ、すみません、ほんっとすみません」

私「いえ、まぁ別にいいですよ」


・・・間違えたものは仕方がない。
お客さんもほとんど気づかなかっただろうし。


師匠「シテに関しては」

私「はっ、はい」

師匠「もう言うことはないよ」


それが
最大のほめ言葉であることは
上の先輩に言われていたのを聞いたことがあるから
知っているけれど。

・・・それを私が受ける日が来ようとは。


師匠「4回生の卒業仕舞らしい、本当にいい仕舞だった。
   4年間稽古すればここまでくる、っていうのを
   まさに示した感じだったね。
   いやぁ、本当に素晴らしかったっす」

私「・・・ありがとうございます」


昔は
簡単な型が出来なくて
ひぃひぃ言いながら稽古していた私だけど。

ここまで出来るようになったのは
紛う事なく、師匠と先輩方と
一緒に稽古してくれた仲間のおかげだ。
感謝してもし足りない。


師匠「じゃあ次は僕も負けないように仕舞舞うから。
   ひとまずお疲れ様でした」



見所には今日参加した学生
全員が集っていた。
その全員で、師匠方の仕舞を拝見する。

「思へ桜色に・・・」


いくら4回生とはいえ
当たり前だけど、師匠の型にはほど遠い。

その師匠ですらまだたどり着けない上の領域が
能の世界には広がっているのだ。

道のりは長い。




「集合写真撮るんで、卒業生早めに来てくださーい」

雉ちゃん「渡理ちゃん、早く」

私「え、もうちょっとで着替え終わるから」

リスちゃん(仮名)「紋付きたたんでおきますから早く!」


全番組が終了して、楽屋で着替えて
ばたばたと舞台に戻る。


「お疲れ様ー」 「おつかれー」

舞台には
京都で宝生流を学んだ今年度の卒業生が
晴れやかな顔で集っていた。

女子大「『天鼓』すっごい良かった!お疲れ様!
    私渡理ちゃんの隣ー♪」


「じゃあ撮りますんでこっち見てくださーい
 はい」


シャッター音が数回なって


「「「ありがとうございましたー!」」」




皆様本当に
お疲れ様でしたっ!





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Last updated  2007年12月25日 18時28分57秒
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