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高巻き道に戻った僕はさらに下流の方に目をやった。
はるか眼下のマヤグスクの滝の下には午後の日差しに照らされて川面がきらきらとのんびりと輝いている。
距離にしてせいぜい100mくらいの距離がなんと遠いことだろう。
しかしそののびやかな下流の左岸に小沢が流れ込んでいるのが見えた。
あの沢に出られれば楽に下流に降りられるかもしれない。
前方には大きな壁があって危険なのでしばらくは高いところを目指して藪をこぐ。
30分ほど藪をこいだところから小沢を目指して急峻な泥壁を下降する。
もう歩いて進めそうな斜面がとぎれたところで急な3m程度の垂直の壁となっていた。
しかし案ずることなはい。
木登り名人の僕は木さえ生えていればこの程度の壁はロープなくとも降りられる。
さらに下るとさらに垂直10m程の泥壁。
そこを懸垂下降で下る。
するとまだまだ泥壁が続く。
いい加減にしてくれと思うよりもいつしかこの難所を突破することを楽しんでいる自分がいる。
最後の高い泥壁の上から下に向かってロープを投げおろすとロープの末端が川面にたどりついたのが見えた。
15mいっぱいの懸垂下降で念願の水面にたどり着く。
そしてそこからイタジキ川までは歩いてすぐであった。
じめじめした藪の中から一転、光まぶしい河原にでた。
上を見上げればマヤグスクの滝が日射しにきらきらと反射して美しい。
さっきまでもがいていたゴルジュは滝の上の方から不気味に水をはき出している。
3時間かけてようやくマヤグスクの滝を降りることができたのであった。

ここから先は登山道があってあとははどうやったって帰ることが出来る。
この滝の下降でジャングルの旅も実質ここで終了である。
久々の太陽がジャングルの旅の終わりを祝福しているようであった。
しかしここでほっとした僕にはさらなる最後の難関があらたにクローズアップされてくるのであった。
時すでに14:40
浦内川を下る船着き場までの所要時間は2時間半。推定最終便は16:30頃と予想された。
ここまでの道程に比べて遙かに歩きやすくなった道を急いでかけ下る。
20分ほどで東西縦断道に合流!
この道を右に行けば2時間で船着き場
左に行けば8時間で大原の港に着く。
当然右手に進路を取ったのであるが、船着き場のリスクを考えればここは右手をとるべきだったろう。
登山道はよく整備されていて内地のハイキングコース並み。
特に登山技術を必要とするところはないが小さなアップダウンがうんざりするほど続くのでかなり体力を消耗する。
走るように歩いてカンビレーの滝に出る。

ここは西表島有数の観光地であり大変に美しいところだ。
しかしそんな風景を眺める余裕もなく走り続ける。
歩きながら今後起こるべく最悪の事態を想定する。
もし今日船に乗れなければ、今夜は船着き場でビバークとなる。
明日は午後の便で帰郷だというのにジャングルに取り残される。それだけは避けたい。
食料も燃料も残り少ない。
しかも最大の問題として今夜飲む酒がないのである。
燃料切れはともかくオイル切れは致命的だ。
なんとしても今日中にはふもとの酒屋にたどりつかねばならん。
まもなくこれまた超観光地のマリウドの滝に出るが無視。
こんな有名な観光地に観光客が1人もいないことがますます僕を絶望的な気分にさせた。
何故かって?
観光客がいればまだ船があるということだから。
マリウドの滝を過ぎると船着き場が遠望できた。
やはりというか当然、船の姿はない。
不安が諦念へと変わるこ16:40に船着き場に到着である。
ずいぶんと幅広くなった川辺にいかだのような桟敷がぽつんと浮いていた。

船着き場の上流に広い休憩所があったのでその下にテントを張った。
酒のない夜は暇である。
あんまり暇なので誰も来ない水場で汚れた服を洗濯し、砂だらけになった頭を洗った。
そして今夜も山の中である。

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