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ふるっぴ@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) もうすぐ2016年の夏です。みんな元気…
ヤンスカ @ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) furuさん ふるっぴ、お久しぶりです! よ…
ヤンスカ @ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) gate*M handmadeさん うお~!お久しぶり…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) 勝手に匿名コメントを残し、怪訝にさせて…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) やっぱり元気やったな!? 良かった。
2012.08.22
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カテゴリ: カテゴリ未分類
私は、このところの、情けない自分にほとほと嫌気がさしている。

ちょっと、ヤンスカ様への思いが暴走しかかってしまった。
それに、イワンめ、私を巧みに挑発しやがって…。

あのお方がキャンプから戻られた夜。
本当は、私だって、あの方のために、列車をあげて歓迎モードに入っていたのだ。
キャンプ場のバルコニーから、ヤンスカ様は待機する私に連夜

「もうかえれ。それにしても、めしそまつ」という信号を懐中電灯で送り続けてきた。

どうせよと?
食堂車のスタッフをキャンプ場に送り込めばよかったのか?

うちのシェフは、食堂ごと自分の芸術的な料理にふさわしい調度に変えろと
大騒ぎするであろうし、何より、ヤンスカ様の真意がわからず、
そのまま、見守るしかなかったのだ。

だからこそ、帰宅の晩餐には、あの方のお好きなものを並べて
私にできる限りのおもてなしをしたかったのだが、
あのお方は、私が列車を待機させていたことが気に入らず、
私に連絡も下さらなかった。

イワンの所に行くのだろうなと思っていたら、
その本人が現れて、一緒に自分のキャビンへ行こうと言うではないか。

「リーアム、ねえ、きっと愛しのオーナーはボクのところへ来るからさ、
 一緒に迎えようよ」



「それに、興味あるんじゃないの?ボクとどんな風に過ごすのかって」

私は、心の中を読まれているのか。
と、部屋の片隅から、ピーという間抜けな汽笛が響いたのだ。

「きゃっ、何?リーアム。何の音?」

のろのろと、私の妄想列車がこちらへ走ってきた。

イワンは、一瞬固まり、そうでなくても白い肌の色がいっそう青白くなり、
次の瞬間、今まで聞いたことのない男らしさ全開の笑い声がとどろいた。

「や~、わはははは!信じられない!わはははは~」

長い身体をふたつに折って、
涙をぽろぽろとこぼしながら(多くの女性たちならそんなイワンすら美しいと思うのだろう)
私の身体をパシッと叩きつつ、泣き笑いが収まらなかった。

私が、一番、泣きたいのだ。
どうして、あんな妄想なんかしてしまったのか?
で、なんで、この小さな汽車は、私のちょっとした心の動きに合わせて
こんな安っぽい汽笛を鳴らすのか。

「ねえねえ、ご主人様~、ぼくは、あなたの妄想をエネルギーにしているんだもの、
 そんな顔をしないでよ~。じゃあ、あの人のことを考えなきゃいいんだよう」

こんな、ちび汽車に、私の心は見透かされているのか。あああ~。

やっと、落ち着いたイワンが、この汽車をしまっておく方がいいと提案し、
私は仕方なく、自分のアタッシェケースに汽車と燕尾服の人形をしまったのだ。

そして、あの晩の光景が待っていた。

ヤンスカ様は、私の汽車をみて笑うイワンを叱り、
恥ずかしながら、拗ねきっていた私に優しい言葉をかけてくださり、
そして、あの抱擁があったのだ。

あのお方は、そもそも情熱のかたまりでいらっしゃるから、
強いお気持ちがそうさせただけに、違いない。
甘やかな気配などを求めてはいけない、と私は必死に自分に言い続けた。
私の首に巻きついたあのお方の腕と、頬に感じた温もりを意識したとたんに
バカ汽車がピーピーと、汽笛を鳴らせまくったのだった。
どれほど、自分も抱きしめたかったことか。

だけど、私のそれは、イワンがあのお方に与えるそれとは違うから、
決して、自分は、行動してはならないと、自制心を取り戻したのだ。

ヤンスカ様は、まもなく私から離れると、イワンの方へ行ってしまわれた。

これでいいのだ。
私は、忠実なる運輸部長であり、規則を重んじる男なのだから。


あれから。
ヤンスカ様は、あんな出来事などすっかり無かったかのように振る舞っていらっしゃる。

今日は、私に相当な無茶ブリを強いていらっしゃるのだ。

白洲次郎ごっこ、である。
「カーステアーズ、着替えて頂戴」

イワンが、見立ててくれたという、ラルフローレンの白いスーツを見て私は驚く。
くっきりとしたネイビーの縦じまシャツに、同系だがトーンを変えたドットのネクタイ。
イワンはクラヴァットと、言っているが。

「早く着替えて、カーステアーズ。私とドライブに行くのよ」

ええっ!列車ではなく?
ヤンスカ様の妄想ガレージから届けられたのは、
まさに次郎モデルのベントレー3リッター。
「ふ、二人で行くのですか?ヤンスカ様」

イワンがニヤッとしながら言う。
「これに3人は無理だよ、ボクはね、ブガッティで同行するよ」

ホッとしたような、残念なような。
イワンも、身体にぴったりとしたツイードのジャケットを着て、
田舎で過ごす若い貴族のようないでたちである。
長身のイワンこそ、次郎役にぴったりであろう。

ヤンスカ様の設定では、白洲次郎が親友の英国人貴族と欧州をドライブ旅行された状況を
やってみたいそうなんである。
しかし、ヤンスカ様は、ルーマニアの田舎を見たいのだそうだ。
そこは、事実に忠実でなくとも良いらしい。

しかし、こんなすごいクラシックカーを運転するとは。
大抵のことは難なくできる私であるが、
正直に申し上げて、もっと現代の車の方が快適ではないかと思う。

21世紀の光景とは思えない、田園地帯を私たちは進みゆく。
ひまわり畑の続くなだらかな丘を越えて、
山積みの藁を運ぶ荷馬車を追い越して。
東方正教会の、ひっそりとした修道院を眺めながら。

「あなたって、やっぱり、何でもできるのね」
大声でヤンスカ様が叫ぶ。
私は、会釈だけして、前方を見つめる。
「私のために、たくさんの素敵なみんなが働いてくださってるけれど、
 カーステアーズ、あなたがいなければ、だめ」

私は、正面を向いたまま、聞こえないふりをした。
隣から、睨みつける視線を感じたが、ひたすら気づかないふりをする。

私の腕をたたいて、あのお方が車を停めて、あの教会を散歩しましょうとおっしゃる。
後続のイワンも当然ついてくるのだが、
私が停車しても、こちらへ近寄ってこない。
いつもなら、素早くやってきて、ヤンスカ様の扉をあけて、手をさしのべるくせに。

ヤンスカ様が、じっと私を見つめるので、
仕方なく車を降りて、あのお方が降りるのをお手伝いした。
「行きましょう、この中庭のものさびしいこと。あのベンチに腰かけて
 夕暮れを待つのよ」

ベンチに、私は白いハンカチを広げてあのお方を座らせる。
イワンがバスケットを下げて、ゆっくりとこちらに向かってくる。

「あの…」と私が言いかけた時に、
「カーステアーズ、私、この間はあなたを困らせてごめんなさい」と
小さな声でヤンスカ様が謝られた。

「いいえ、困らされてなどおりませんよ。
 あなた様は、とても、感情表現が大きい方でいらっしゃいますからね」

風が通り抜けて、夕刻の祈りの声が流れてくる。
私にはわからないが、イタリア語にも似た調べが心地よい。

「カーステアーズ、お願いよ、いつまでも私のそばにいてね。
 もちろん、変な意味じゃないのよ。あなたは、私の大切な人なの」

私の内側に、恋の面影のメロディが流れ出す。

♪恋のきらめきが、あなたの瞳にあらわれているわ
 微笑みで隠そうとしても、無理よ。
 言葉で伝えられないくらい、多くのことを語っているから。
 そう、私の心に、それがきこえるのよ
 ああ、私の息はとまってしまうわ~

また、私の胸にズキズキとするような痛みが走る。

「ピー!」
イワンの持つバスケットの中から、私の妄想列車が音をたてて転がり出てきた。
かわうそ機関車は、ノリノリで歌っている。

♪泣かせの効いたラブソングなんて すてっちまい~
 むきだしで~ハーハ!カモン!

???

隣で、燕尾服の人形が黒い細長いものを放り投げている。
は!こいつは動けるようになったのか?
リボンのような黒いソレをつまみあげて見てみると、
「E.YAZAWA」と赤い文字が書かれている。

ヤンスカ様が、つかつかと歩み寄ってきて、
かわうそ列車をつま先で蹴とばした。

「カーステアーズ、あなたって、矢沢ファン?」
「何のことでございますか?」
「悪いけれど、私の世界観には少し合わなくってよ」

かわうそが、自力で戻ってきて少年ボイスで答える。
「ボクの前のオーナーがね、永ちゃんファンだったんですよ~
 今のご主人様の、せめぎ合う心を、ボクはうまく表現したつもりだったのにい」

「呆れた。使いまわしの妄想列車なんて、初めて聞いたわ」
「ご主人様はね、甘ったるい歌を思い浮かべて、また悲しそうだったからねえ」

イワンが、涙を流しながら、肩で笑っている。

ヤンスカ様は、ムッとしながら私に命令する。
「もう、バカげたドライブはおしまいにするわっ。
 今すぐ私の列車を呼んでちょうだい!」

「かしこまりました」

私はウィリアム・カーステアーズ。
主に忠実で、かなしいほどに、規則を重んじる男である。






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Last updated  2012.08.25 02:06:45
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