ゆうさんの日記

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2026.05.28
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「明美さん、今日も一番乗り!」
朝の七時。シャッターをガラガラと開けた瞬間に威勢のいい声をかけてくれたのは、近所の大学に通う男の子だ。まだ開店直後だというのに、うちの店の前にはすでに数人の若い男の子たちが並んでいる。
「おはよう。今日も早いね、しっかり食べて大学行きなさいよ」
私が微笑んでお弁当を手渡すと、彼は耳まで真っ赤にして「はいっ!」と大声を上げ、走っていった。ふふ、可愛いもんだ。
私の名前は明美。今年で二十八歳になる。
ここ、下町の路地裏で小さな手作り弁当屋を営んでいる。
自分で言うのもなんだけど、うちの店は毎日ほぼ完売。お昼の一時を過ぎる頃には、棚はすっかり空っぽになる。目玉商品は、特製の醤油麹に一晩漬け込んだジューシーな鶏のから揚げ弁当だ。
でも、客層の半分以上……特に若い男の子たちの目当ては、お弁当だけじゃない。
「明美さん、今日もスタイル抜群っすね。本当に僕らと十歳くらいしか変わらないなんて信じられない」

実は私、二十歳の頃はレースクイーンをしていた。
当時のキリッとしたメイクをやめ、髪を後ろで一つに結び、割烹着に身を包んでいても、隠しきれないものがあるらしい。一七〇センチの長身と、当時の名残のプロポーション。それを見に来る「お熱い」常連さんたちのおかげで、売れ行きは上々。我ながら、いい客寄せパンダだなと思う。
だけど、彼らは誰も知らない。
私が毎朝、まだ星が輝いている午前三時に起きて、一人で黙々とキャベツの千切りをし、重いフライヤーと格闘している理由を。
そして――私が「バツイチのワケアリ」だということも。
三年前、私は地獄の底にいた。
当時結婚していた大企業の役員だった元夫から、突然、冷酷な言葉とともに離婚届を突きつけられたのだ。若いだけの女に飽きたのか、それとも私の存在が彼の華やかなキャリアに邪魔になったのか。
地位も名誉もある彼を相手に、二十代半ばの私が勝てるはずもなかった。
何より悔しくて、今も胸が引き裂かれそうになるのは、当時四歳だった娘の「樹里」を奪われたことだ。
『君のような学歴も教養もない女に、娘の養育は無理だ』
裁判費用すらまともに払えない私から、彼は容赦なく樹里を連れ去った。手元に残ったのは、彼が「手切れ金」として投げつけてきた、なけなしの、本当に雀の涙ほどの慰謝料だけ。

だから私は、そのなけなしのお金でこの弁当屋を始めた。
料理だけは、昔から得意だったから。
「ありがとうございましたー、またどうぞ!」
一時のチャイムと同時に、最後のお弁当が売れた。
パタパタと暖簾を巻き上げ、シャッターを下ろす。途端に、張り詰めていた緊張が解けて足が棒のようになる。

あの日から時が止まったままの、四歳の樹里が笑っている写真。
「樹里、ママね、今日も頑張ったよ」
樹里は、ママが今、毎日油まみれになってお弁当を作っていることなんて知らない。
それでもいい。いつか、あの冷酷な元夫の元から樹里を取り戻すその日まで。私はこの場所で、美しく、強く、泥臭く生き抜いてみせる。
さあ、明日の仕込みの準備を始めよう。女将の明美は、まだ始まったばかりなんだから。





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Last updated  2026.05.28 11:51:37
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