ゆうさんの日記

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2026.05.28
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「はい、から揚げ弁当大盛りね。午後からの講義も遅刻すんじゃないわよ」
「あざっす! 明美さんの弁当食えば、どんな退屈な講義も余裕っす!」
二十代前半の若い男の子たちが、私の顔を見るなり分かりやすく目を輝かせる。割烹着の下の、レースクイーン時代から維持しているボディラインを目で追っているのが丸分かりだ。まあ、それでうちの美味しいお弁当を買って、元気に学校や仕事に行ってくれるなら安いものだけど。
お昼時の嵐のような忙しさが去ると、近所に住む主婦の智恵子さんが、タッパーを片手にひょっこり顔を出した。
「明美ちゃん、お疲れ様。これ、新作の試作品。夏向けにさっぱりした梅しそつくね、どうかしら?」
「わあ、美味しそう! 智恵子さんのアイデア、いつも若い子たちに大ウケだから助かっちゃう」
智恵子さんは、うちの良き相談相手だ。男の子たちが喜ぶガッツリ系の中に、こういう家庭的な優しい味を混ぜると、お弁当のバランスがぐっと引き締まる。
実はうちの店、隔週の土曜日だけは少し特別なことをしている。十歳以下の子どもたちを対象に、小さな「ミニミニ弁当」を無料で配っているのだ。
小さなおにぎりに、卵焼き、ウインナーにタコさん。

そう言って無邪気に笑う子どもたちの姿に、私はどうしても、もう会えない娘・樹里の面影を重ねてしまう。
でも、私から樹里を探したり、連絡を取ったりするつもりはない。あの元夫のことだ、私が近づけば、せっかくの樹里の生活をまた大人の都合で荒らしかねない。それに何より、樹里には自分の意志で歩んでほしい。
もし、あの子が大きくなって、自分の意志で「母親に会いたい」と願ったなら。
その時は、下町で一番繁盛しているこのお弁当屋に、必ず辿り着くはずだから。
私は逃げも隠れもしない。ここで、あの子が暖簾をくぐるその日をずっと待っている。
「……痛たた。さすがに腰にキてんなぁ」
午後二時。店を閉めて片付けを終えると、どっと身体の芯から疲労が押し寄せてきた。朝三時からの立ち仕事は、元レースクイーンの身体にも確実にガタをこびりつかせる。
足腰が完全に悲鳴を上げる前に、私は月に二回、近所にある整体院へ駆け込むことにしている。
「明美さん、お疲れ様。今日もだいぶ張ってますね。特に腰からお尻にかけてがガチガチだ」
そう言って私の下半身に容赦なく体重をかけ、揉みほぐしていくのは、整体師の大吾さん。三十代半ばの、寡黙だけど腕の確かな職人気質の男だ。
「うぅ……っ、大吾さん、容赦ない……そこ、響く……っ」

大きな、温かい手のひらが、私の太ももからお尻の筋肉へと迷いなく滑り、深い凝りを的確に捉える。あまりの痛気持ちよさに、思わず変な声が出そうになるのを枕に顔を埋めてこらえた。
ふと、頭の片隅でくだらない思考がよぎる。
そういえば離婚してからの三年間、男っ気なんて皆無。最近、私のこのお尻に触れている男なんて、世界中でこの大吾さんくらいのものだ。レースクイーン時代はあんなにたくさんの男の視線を浴びていたのに、今や整体の施術中が一番「女の身体」を意識させられる時間だなんて、我ながらちょっと笑えてくる。
「よし、これで下半身はだいぶ軽くなったはずです。無理しちゃダメですよ」
「ふぅ……ありがと。大吾さんのゴッドハンドのおかげで、明日も美味しいお弁当が作れそう」

母親として、一人の女として。
私はまだ、枯れるわけにはいかない。
明日もまた、夜明け前の暗闇から、私の戦いが始まる。





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Last updated  2026.05.28 11:52:42
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