ゆうさんの日記

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2026.05.28
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「ねえ明美ちゃん、これ先週末のお土産。温泉饅頭、大箱で買っちゃった」
日曜日の午後。いつものように智恵子さんのリビングのソファに腰掛けると、目の前に上品なお饅頭の箱が置かれた。今日の自家製ハーブティーは、お饅頭の甘さに合わせて少し渋みのあるカモミールと緑茶のブレンドだ。
智恵子さんはいつも以上に肌がツヤツヤしていて、まとっている空気がどこか艶っぽい。
「わあ、美味しそう! 温泉行ってきたんだ、いいなぁ」
「そうなのよ。主人は一週間ずっと海外出張だし、息子も部活の合宿で遠征だったから、たまには命の洗濯と思って。ほら、私って完全な一人旅ってしたことなかったじゃない? だからちょっと奮発して、山奥の隠れ家旅館に『一人で』泊まってきたの。本当に『一人』だと静かで退屈なくらいだったわぁ」
智恵子さんは、聞いてもいないのに「一人」というワードを何度も、これでもかと強調してくる。
(ふふ、よく言うわよ……)
私はお饅頭を口に運びながら、心の中でクスッと笑った。
だって、先週の金曜日の午後。うちの店にガチガチの足腰をほぐしてもらいに行ったとき、大吾さんが「土日はちょっと遠方の勉強会に参加するので、整体院はお休みです」って、これまた妙に分かりやすい言い訳をしていたのを私は聞き逃していない。

点と点が綺麗に繋がりすぎていて、逆に清々しいくらいだ。きっと山奥の温泉旅館で、誰にも邪魔されず、大吾さんのあの大きな温かい手で、身体の芯までたっぷりと「施術」してもらったのだろう。
「うん、お饅頭すっごく美味しい。一人旅の寂しさが詰まった、深い味がするわ」
「もう、明美ちゃんったら変な表現するんだから」
智恵子さんは少し頬を染めて笑っている。まだバレていないと思っている二人が、なんだかたまらなく愛おしい。大人の秘密には、あえて突っ込まないのが粋というものだ。私は黙って美味しいハーブティーを飲み干した。
そんな風にのんびりとした休日を過ごしていた数日後、うちの店に一人の男が飛び込んできた。
地元の商店街の会長さんだ。手には「田舎プロレスが街にやってくる!」と書かれた、やたらとカラフルで派手なポスターが握られている。
「明美さん! 頼む、一生のお願いだ! 来月、ウチの特設リングでやるローカルプロレス大会で、ラウンドガールをやってくれないか!?」
「ええっ!? 私がラウンドガール?」
会長の話によると、本来来るはずだったプロレス団体のラウンドガールが、急なトラブルで来られなくなってしまったらしい。困り果てた興奮気味の会長が、街で一番の有名人であり、元レースクイーンの私に目をつけたというわけだ。
「衣装は団体が持ってくるから! 大丈夫、明美さんのあの抜群のスタイルなら、割烹着を脱ぐだけで会場は大盛り上がり間違いなしだから!」
冗談じゃない。私はもう二十八歳だし、今はしがないお弁当屋の女将だ。いくら毎日ジョギングをしてプロポーションを維持しているとはいえ、今さら人前で露出の高い衣装を着て、お尻を振りながらリングを歩くなんて……。

断ろうと口を開けかけたその時、店の前を通りかかった「隠れファン御一行様」の大学生たちが、会長の言葉を聞きつけて一斉に色めき立った。
「え、明美さんがラウンドガール!? マジすか!?」
「おい、チケットどこで買えるんだよ! 全員分予約だ!」
さらには、隣の整体院の窓から大吾さんまでが、心なしかソワソワした様子でこちらを覗き見している。
さあ、どうする明美?

真っ白な新しい割烹着を脱ぎ捨てて、私はもう一度、あの華やかな光を浴びるべきなのか――?





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Last updated  2026.05.28 19:21:40
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