ゆうさんの日記

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2026.05.28
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カン、カン、カン、カン!
特設リングの周囲に、けたたましいゴングの音が響き渡る。
地元の商店街が主催する「田舎プロレス」の当日。会場となった広場は、熱気と熱い男たちの汗の匂いで満ち満ちていた。
「おい、次のラウンドだぞ! 明美さん、衣装は着替えたかい!?」
バックステージで商店街の会長が、ソワソワしながら私を急かす。
けれど、私はパイプ椅子に座ったまま、頭を抱えて悩んでいた。手元にあるのは、プロレス団体が用意した、目のやり場に困るほど際どい赤のハイレグ衣装。
毎日五~六キロ走っているし、ファンのみんなが新しい割烹着をくれたばかりだ。期待に応えたい気持ちはある。でも、今の私は四歳の娘・樹里の母親であり、下町のしがない弁当屋の女将なのだ。
「ごめん、会長。やっぱり私、これを着てリングに立つのは……」
「ええっ!? 今さらそんなこと言われても、もう時間がないよ!」

「――貸しなさい、その衣装」
凛とした声とともに、私の手から赤いハイレグがひったくられた。
振り返ると、そこにはなぜか、不敵な笑みを浮かべた智恵子さんが立っていた。
「智恵子さん!? なんでここに」
「明美ちゃんが悩んでるって大吾さんから聞いてね。いいから、ここは『大人の女』に任せなさい!」
「お待たせいたしました! 第二ラウンド、スタートです!」
実況のハツラツとした声とともに、リングのロープが押し上げられた。
客席の男たちが「うおおおお!」と一斉に身を乗り出す。誰もが元レースクイーンの私が出てくるものと信じて疑っていなかった。
しかし、ステージに現れたのは――まばゆいばかりのスポットライトを浴びた、ハイレグ姿の智恵子さんだった。
三十八歳、美魔女。
三十代後半とは思えないほど引き締まったウエスト、惜しげもなく披露された白い太ももと、豊かなバスト。大人の色気がこれでもかと溢れ出ている。

「だ、誰だあの美女……!?」
一瞬、私の隠れファン御一行様は、期待していた「明美」じゃなかったことに呆然と静まり返った。
けれど、そんな静寂は一秒ももたなかった。智恵子さんがリングの四隅でお尻をきゅっと振り、大人の余裕たっぷりのウィンクを客席に投げかけた瞬間、会場のボルテージは一気に爆発した。
「うおおおおお! 美魔女最高ーーー!!」
「智恵子さーーーん! こっち向いてーーー!!」

「ふぅ、緊張したわ。でも、たまにはこういうのも刺激的で悪くないわね」
舞台裏に戻り、ガウンを羽織ってハーブティーを飲む智恵子さんは、どこか誇らしげで、本当に綺麗だった。
「智恵子さん、本当にありがとう。命の恩人だよ」
「いいのよ。明美ちゃんは看板娘なんだから、安売りしちゃダメ」
そんな風に二人で笑い合っていた、その時。
ステージの片付けを手伝いに来ていた大吾さんが、バックステージに足を踏み入れた。
いつもなら、智恵子さんの活躍を誰よりも喜ぶはずの彼だった。
でも、今の大吾さんは何かが決定的に違っていた。
「大吾さん、お疲れ様。智恵子さん、凄かったでしょ?」
私が声をかけても、大吾さんは生返事すらせず、黙って智恵子さんを睨みつけるように見つめている。その目はいつもの寡黙で優しい整体師のものではなく、怒りと、ギラギラとした強い執着を孕んだ「男の目」だった。
自分の愛する女が、ハイレグ一枚で、何百人もの見ず知らずの男たちにいやらしい目で見られ、歓声を浴びていたのだ。独占欲の強い彼にとって、それは嫉妬で狂いそうなほどの生き地獄だったに違いない。
「……智恵子さん。早く着替えてください。車で送ります」
低く、押し殺した声。大吾さんは智恵子さんの腕を少し強引に掴むと、そのまま更衣室へと促した。智恵子さんも、彼のその態度が何を意味しているのかを察したようで、少し顔を赤くしながら、大人しく従っている。
(あ~あ、大吾さん、完全にスイッチ入っちゃってるじゃない)
私は二人の後ろ姿を見送きながら、心の中でニヤリと笑った。
今夜の智恵子さんの自宅での「お仕置き」を兼ねた施術は、温泉旅行のときよりも、きっと何倍も激しくて濃密なものになるのだろう。
大人の秘密をまた一つ胸にしまいながら、私は誰もいない厨房へ戻り、いつもの真っ白な割烹着をきゅっと結び直すのだった。





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Last updated  2026.05.28 19:22:22
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