ゆうさんの日記

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2026.05.28
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「明美ちゃん、三十歳の誕生日おめでとう!」
「明美さん、おめでとう。大人の大台ですね」
「明美、おめでとう! ほら、僕からはこのオーガニックのリップクリーム!」
お昼の営業を終えた店内で、今年も温かいハッピーバースデーの歌が響いた。
私の三十代の幕開けを祝ってくれたのは、智恵子さんと大吾さん、そしてすっかりこの輪に馴染んだ透の三人だ。
智恵子さんと大吾さんは相変わらず「まだバレていない」と思いながら大人の関係を続けているし、透は透で、大吾さんへの猛烈なアタックを絶賛継続中。大吾さんは智恵子さんへの独占欲と透からのアプローチの板挟みになって、いつも少し困ったような顔をしている。
そんな、少し歪だけど愛おしい三人に見守られながら、私はケーキの上の三十本のローソクを吹き消した。
一人でこの街に来て、雀の涙ほどの慰謝料で弁当屋を始めてから、もう五年が経ったのだ。
「三十代かぁ……。なんだか、あっという間だったな」

計算が間違っていなければ、樹里は今年で小学一年生。もう、ピカピカのランドセルを背負って学校に通っている年齢だ。
(どんな色のランドセルを選んだのかな。お友達はたくさんできたのかな。勉強は好きなのかな……)
母親らしいことは何もしてあげられなかったけれど、私の頭の中は、まだ見ぬ「七歳の樹里」の妄想でいっぱいになる。
私から連絡を取るつもりはない。けれど、あの日母が遺してくれた手紙の通り、私がこの場所でしっかり前を向いて生きていれば、いつか必ずあの子は私を見つけてくれる。そう信じて、私は毎朝、午前三時に起き続けていた。
誕生日から数日が経った、よく晴れた木曜日の昼下がり。
一時を過ぎてお弁当がすべて完売し、私が新しい真っ白な割烹着のまま、売り場の片付けをしていた時のことだった。
ブォォォン……と、下町の狭い路地には明らかに不釣り合いな、重厚で静かなエンジン音が店の前に響いた。
(お天気がいいから、また一見のドライブ客かしら?)
そう思いながら暖簾の隙間から外を覗き見ると、そこに停まっていたのは、ピカピカに磨き上げられた黒塗りの高級外車だった。
「え……?」
私の心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がる。その車種、その独特の威圧感に見覚えがあった。かつて私を『学歴も教養もない女』と罵り、すべてを奪い去った元夫が好んで乗っていた、あの車と同系列のものだった。

運転席から降りてきたのは、高級なスーツを隙なく着こなした、少し白髪の混じったあの男。かつての大企業の役員であり、私の元夫だった。
そして、彼が後部座席のドアを開けると――。
そこから、小さな女の子が降りてきた。
紺色のフォーマルなワンピースを着て、背中にはまだ新しさが残る、深い赤色のランドセルを背負っている。
女の子が、ふと、うちの弁当屋の暖簾を見上げた。

「……樹里……?」
私の口から、声にならない震える呟きが漏れた。
時が止まったような静寂の中、高級車のドアが再び閉まる。男と女の子は、真っ直ぐにうちの店の入り口へと歩みを進めていた。





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Last updated  2026.05.28 19:25:21
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