ゆうさんの日記

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2026.05.28
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健一さんは、私より八歳年上の三十八歳。地元で手広く事業をやっている、頼れる大人の男だった。実家を失い、母を亡くしたあの過酷な時期、彼が差し伸べてくれた手の温もりを私はずっと忘れていなかった。
だから、テレビを見てわざわざ下町まで訪ねてきてくれた彼に、私はすっかり感激してしまっていた。その彼が、実は私のSNSを血眼で監視し、マラソン大会の新聞記事を何十部も買い漁り、この二年間ずっと私の動向を追い続けていた「若干ストーカー気質」の男だとは、微塵も気づかずに。
「健一さん、わざわざ遠くまでありがとうございました」
閉店後、私は彼を店内に招き入れ、二人で温かいお茶をすすりながら、積もる話をしていた。
最初は穏やかに思い出話をしていた健一さんだったが、徐々にその距離が近くなっていく。カウンター越しに私の手を握り、じっと見つめてくる。久しぶりの大人の男の体温に、私も少しだけいい雰囲気を感じ、胸を高鳴らせていた。
ところが、その空気が一瞬にして凍りついた。
「明美……もういいだろ。これだけ待ったんだ。今すぐ、ここでやらせろよ」
「え……?」
健一さんの口から飛び出したのは、あまりにも下劣で、強引な言葉だった。

「な、何するんですか! 離してください!」
「離すわけないだろ! お前の実家が大変な時、どれだけ俺が面倒を見てやったと思ってるんだ! あの時の金の工面も、母親の葬儀の手配も、全部俺の影ながらの支えがあったからだろ! その見返りがこれっぽっちの茶かよ!?」
恩着せがましい怒号とともに、健一さんは私の割烹着に手をかけ、強引に引き裂こうとしてきた。
かつての優しかった面影はどこにもない。むき出しになったストーカーの本性と、男の暴力。
「いやっ! 誰か、助けて――っ!」
狭い厨房に、私の悲鳴が響き渡った。
バシャーーーン!!
店の引き戸が、凄まじい音を立てて外され、夕暮れの光とともに一人の巨大な影が飛び込んできた。
「おい、何してんだ」
地鳴りのような低い声。隣の整体院で片付けをしていた大吾さんだった。
いつも寡黙な大吾さんの目が、見たこともないほどの怒りで燃え上がっている。彼は一歩で健一さんとの距離を詰めると、私の腕を掴んでいた健一さんの手首を、整体師の強靭な握力でミシリと握りつぶした。

「人の店で、何ガタガタ抜かしてんだ。すっこんでろ」
大吾さんは健一さんの胸ぐらをつかみ上げると、三十五歳のアスリート並みの怪力で、そのまま店の外の路地裏へと力任せに放り投げた。ガシャーンとゴミ箱がひっくり返る音が響く。
「明美さん、大丈夫か!?」
大吾さんがすぐに振り返り、ガタガタと震える私の肩をがっちりと支えてくれた。そのたくましい胸の厚みと、いつものローションの香りに、私の涙が一気に溢れ出した。
「大吾、さん……っ、怖かった……」

外からは「覚えてろよ!」と健一さんの捨て台詞と、車が急発進して逃げ去っていく音が聞こえた。
智恵子さんを昼下がりのベッドで骨抜きにしている大吾さんのその腕は、いざという時、この下町の仲間を全力で守り抜く最強の盾だった。
私は大吾さんの胸に顔を埋めて泣きじゃくりながら、下町の絆の温かさと、三十歳の恋の厳しさを、身を以て知るのだった。





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Last updated  2026.05.28 20:05:29
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