ゆうさんの日記

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2026.05.31
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カテゴリ: まこととかおり
女子校の狭い廊下、ざわめく教室。
高校二年生の**香織(17)**の隣には、いつも同じ体温があった。
彼女の名前は、紗季(さき)。
付き合って、もうすぐ一年になる。学校にいる間、二人はまるで磁石のように寄り添っていた。授業の合間の10分休み、廊下の窓際で並んで外を眺めるときも、どちらからともなく肩と肩をぴったりとくっつけ合っている。それが二人だけの、誰にも邪魔されない秘密の境界線だった。
「はぁ……。今月もあと千円しかないや」
ある日の休み時間、香織はスマホの残高画面を見つめてため息をついた。父・誠から渡される毎月一万円の小遣いは、紗季との楽しい時間を繋ぎ止めるにはあまりにも少なすぎる。
「じゃあさ、二人でバイトしない?」
紗季が小首をかしげ、いたずらっぽく微笑んだ。
「私、学校から二駅離れたところのハンバーガー屋さん、気になってたんだよね。あそこなら制服可愛いし、時給もいいよ」

週2日とはいえ、一ヶ月働けば手元には3万円弱の給料が入ってくる。毎月一万円でギリギリのやりくりをしていた香織にとって、それは自分の世界を一気に広げてくれる魔法の資金だった。
しかし、アルバイトを始めてから、別の悩みも生まれた。
女子校という「女だけの安全な世界」で生きてきた二人にとって、街のハンバーガー屋は、あまりにも「男」が多すぎた。
「ねえ、そこの可愛い二人組。この後、どっか遊び行かない?」
シフト終わりの夜。制服に着替えて店を出ると、近くの交差点で大学生くらいの男たちに声をかけられることが日常茶飯事になった。バイト先の後輩の男子高校生からも、連絡先を教えてほしいとしつこく迫られる。
「ごめんなさい、急いでるので」
香織が冷たくあしらっても、男たちは「えー、いいじゃん少しだけ」「彼氏いるの?」としつこく食い下がってくる。男という存在の、その悪気のない傲慢さと距離感の近さに、二人はいつもヘトヘトになっていた。
誘いを断るのも一苦労。その度に、二人は手を固く繋ぎ直し、逃げるように駅へと走った。
「男の人って、なんであんなにめんどくさいんだろ」
「本当。……私には、紗季だけでいいのにね」
そんなトラブルを乗り越えるたびに、二人の絆はより深く、より排他的に強固になっていった。

実は、二人の関係はまだ「キス」までしか進んでいなかった。
お互いの家は家族がいて落ち着かないし、2DKの小田切家なんて、壁が薄すぎて論外だ。けれど、バイト代が入るようになった今の二人は、一ヶ月前とは違っていた。
「……ねえ、香織。次のシフト休みさ、ちょっと『女子会』しに行かない?」
紗季が少し赤い顔をして、スマホの画面を見せてきた。そこに映っていたのは、繁華街の裏路地にある、ネオンに彩られたホテルの情報だった。
当日。心臓が痛いほど脈打つ中で、二人はその建物の自動ドアをくぐった。

カチリ、と部屋の鍵を開けて中に入る。
大きなベッド、きらびやかな照明。完全に二人きりの、男たちの視線も、親の小言も届かない、本当の「女だけの世界」がそこにあった。
「すごいくつろげるね、ここ……」
香織が緊張を隠すようにベッドの端に腰掛けると、紗季がその隣に音もなく滑り込んできた。いつものように、肩がぴったりと触れ合う。
「香織、バイト頑張って良かったね」
「うん……。紗季と一緒だったからだよ」
見つめ合うと、自然と視線が唇へと落ちる。
いつもの、駅のホームの陰でするような短いキスじゃない。紗季の柔らかい唇が、何度も、深く香織の唇を塞いだ。
部屋の中に、二人の甘い衣擦れの音だけが響く。
紗季の華奢な身体が、香織の腕の中にすっぽりと収まった。男たちの下品な視線から守りたかった、世界で一番大切な、大好きな女の子。
「香織……好きだよ」
「私も、紗季……大好き」
一年間、大切に温めてきた想いが、初めて手にした自分たちの自由(お金)の空間の中で、ついに開花する。
薄暗い照明の中、二人はお互いの肌の温もりを確かめ合うように、初めての深い夜へと沈んでいった。
兄の薫がワンルームのベッドでプロへの未来を夢見ている頃、妹の香織もまた、ネオンの光の中で、大人への階段を確かに一歩、上り始めていた。





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Last updated  2026.05.31 04:41:53
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