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最近、第2次大戦史に興味を持って調べていて、たまたまナチスやソ連の強制収容所についての記述を読みました。やるせない気分になる内容ばかりでしたが、ひとつだけ、私の心を打つものがありました。
それは心理学者フランクル氏のナチス収容所体験記です。
フランクル氏はフロイトなどに師事し、心理学者の新鋭として活躍し、美しい妻と2人の子供に恵まれて幸せに暮らしていました。しかし彼はユダヤ人であったため、一家そろってナチスの強制収容所アウシュヴィッツに送られてしまいます。(彼は知るすべもありませんでしたが、送られた直後に彼以外の家族は全員殺されたと思われます)
この世の地獄のような収容所の生活の中で、フランクルは精神科医・心理学者として自分を含めた周囲の人々の心理状態を観察しつづけます。そうして、彼はこの過酷な環境を4年間耐え抜き、生きて解放されます。そして体験記を書きました。その後、フランクルはロゴセラピーという精神療法の創始者となります。
私はどうしても気になり、この体験記「夜と霧(新訳版)」(みすず書房)を読んでみました。(ちなみに原題は「心理学者、強制収容所を体験する」というシンプルなものです)
収容所に入れられた人々は、あまりの過酷な現実に感情が麻痺していきます。そうしないと生きていけないから・・・。「いい人は帰ってこなかった」という著者の言葉が重く突き刺さります。しかし、その中でも、わずかとはいえ自己の内面を高めていった人々がいた、と著者は書いています。
一体なにが彼らの魂を励ましていたのでしょうか?著者が語るところを読むと要素はいくつかありそうです。(他の感想サイトさんのまとめも参考にしました)
愛情 ・・・たとえば家族への愛。強制労働の間、著者は愛する妻の姿を想像し、会話を心の中でイメージしました。それを繰り返していくうちに、まるで妻が傍にいて優しく語り、答え、微笑む様をまざまざと感じたといいます。すると全ての苦しみを忘れたといいます。「人は、 この世にもはやなにも残されていなくても 愛する人の面影に心をこらせば、いっときにせよ至福の境地になれる」・・・と。愛情の持つ救いの力の偉大さを著者は強く語っています。
美 ・・・ほんの少しの自然の美を感じられるか。強制労働で死んだように疲れきっていた時に、仲間たちで見た夕陽の美しさに皆は言葉もなく心を奪われたといいます。鉄条網の向こうに見える緑、そんなわずかなものですら、心を震わすほどに美しく感じられたと。
希望 ・・・もし収容所を出ることができたらこんなことをするんだ!という目標も彼らを支えていたようです。愛する家族に再会しよう、こんなことをしよう、また元の仕事で大活躍してやるぞ、などなど・・・。私が同じ立場であったらこのような目標を持てるだろうか?
これらを読んでみると、私は「イメージの持つ力」の大きさを感じずにはいられませんでした。想像力・・・イメージというものがこんなにも大きく人の心と身体に影響するんだ・・・と。
誰かを愛することや、美に対する感受性を磨いたり、人生の目標を持つ・・・それらのことは普通の生活を送るうえでも大きな力をくれるのではないでしょうか?(そしてもちろん創作好きな者の一人としても感じるところがあります。)
しかし、それでも収容所では死はいつでも誰の元にでもやってくる状態でした。それでも(だからこそ)フランクル氏は語ります。
「わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、生きることがわたしたちになにを期待しているかが問題なのだ」
極限状態を乗り越えた人の持つ言葉の重みを感じます。甘ったれな私などはつい「さ~て♪人生が私に何をしてくれるのかしら?」と受け身的期待をしているのではないだろうか・・・それよりも逆に「人生が私に何を期待しているのだろうか?」と考えてみることは意義がありそうです。
この本は単なる体験記というより、途中からはほとんど哲学書です。
また、この本で印象深かったのは、収容所に入れられた側にも仲間を虐待するような最悪な人間がいたし、逆に収容する側に稀とはいえ善意の人がいたこともあったという記述です。ヒューマニストらしい著者の視点を感じます。訳者があとがきで書いていますが、いまだに某地区で続いている痛ましい争いを著者が見たら胸を痛めるのではないかと私も思ってしまいました。
この本は深い内容であり著者の言葉からは人間愛を感じます。60年以上読み継がれてきたのもさもありなん。また、フランクル氏自身は明るくユーモアのある人柄だったといいます。
けれども、やはり過酷な記述はかなり気分をブルーにさせるので、そういうものが苦手な人はもちろん、精神的に弱っている人は読まない方がいいと思います。でも、もしもちょっとばかり生きる意味を見失ってモヤモヤしている人がいたなら何かしらの指針にはなるかも・・・?
このブログの記事だけでも、何かの参考になればと思います。
※写真資料などのついた旧訳版と、著者が加筆修正したものを新たに訳した新訳版があります。
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