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2006/10/01
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カテゴリ: 恋愛小説(連載)
【「きっと、二人なら…」を最初から読む】 【目次を見る】

 タクシーが立派な二十回建てのマンションのエントランス前に停車し、その後部ドアを開く。美和子が支払いを済ませている間に、急いで貴子は隣で眠り込んでいる入江医師へと声を掛けた。
「先生、起きてください。着きましたよ」
 貴子の肩に寄りかかって眠っていた彼が、ゆっくりと重い瞼を開く。数度瞬きを繰り返した後、彼は貴子の瞳を静かに見つめた。
「良かった、すみれ…居てくれたんだね」
 彼の酔いは、タクシーで僅か30分走った程度では、どうやら全く覚めなかったようだ。
手早く支払いを済ませた美和子が車から降りるのに続いて、貴子も
「さぁ、降りますよ」と彼に手を差し伸べる。
「ありがとう」

 エントランスをくぐる美和子に続いて、貴子も彼を脇から支えたままゆっくりと足を踏み入れる。
 昼光色の電灯に照らされたエントランスホールは、ガラス製の二重扉となっており、その横の壁には白いインターフォンが設置されていた。
「さ、入江君」
 言うと美和子が入江医師の背をそっと後押しする。彼は酔っているために瞳こそ茫漠として虚ろだったが、インターフォンの前に立つやいなや、ものすごいスピードで暗証番号を入力し、その後シャツのポケットからICカードを取り出すと、インターフォン下部にあるセンサーへとそれをかざした。
その泥酔している割には機敏な彼の動作に、貴子は驚いて目をしばたかせながら静かに見守る。
 センサーが反応し、ガラスの自動ドアが低い電子音を立てて、緩やかに両側に開く。彼は一度貴子に淡い笑みを送ってから、彼女の手を取りマンション内へと入る。
どうやら隣に居る女性がすみれであると、完全に信じて疑わない様子だった。
 三人の背後で自動ドアの閉まる音が低く聞こえる。美和子は再び二人の前に立って歩き出すと、広いエレベーターホールに設置されている四台のエレベーターのうち、向かって一番左のエレベーターの前に立った。
 程なくしてエレベーターが一階へと降りてきて、ドアが開く。美和子の後について二人がエレベーター内に乗り込むと、彼女はドアを閉めて三階のボタンを押した。
 ふわり、僅かな無重力間。エアコンの風は頬に心地良かったが、それは夏独特の湿気の匂いを含んでいて、小さかった頃いたずらをして母に叱られた時に罰として閉じ込められた納戸の匂いとよく似ていた。
 三階。エレベーターのドアが開く。美和子の後について、コンクリートの廊下に足を踏み出す。

 エレベーターから一番近い角部屋。そのドアの前で立ち止まると、美和子は貴子に言った。
 その部屋の隣にも、ドアが五つも並んでいる。
 301。そう書かれたドアの前で入江医師は再びシャツのポケットからICカードを取り出すと、ドアの脇に設置されている銀色のセンサーにそれをかざした。
かちゃり、ドアの向こうからそんな音が聞こえる。
 入江医師が手を伸ばしドアを引くと、それは見事に開いた。

~To be continued~




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最終更新日  2006/10/01 04:58:03 PM コメント(2) | コメントを書く


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