夏の甲子園は大阪桐蔭高の春夏連続優勝で幕を閉じた。印象に残ったのは、自分の失策が原因で敗れ去った選手の姿。
一発勝負のトーナメントを戦う高校野球は、ひとつのミスが勝敗を分ける。たとえ失策しても、その後に汚名返上できれば救われるが、それがないまま敗戦した時、選手の心情はいかばかりか?
■ボクは今年5月開かれた春季関東大会を連日観戦した。健康福祉大高崎高が優勝して閉幕したけれど、その中で最も印象に残った選手は関東一高・ 岸直哉
(3年)である。自分のミスが原因で同点に追いつかれ、その後汚名返上のために懸命なプレーでチームをサヨナラ勝ちに導いた選手。ボクが印象を強くしたプレーは、次のような内容だった。
準決勝の作新学院高戦(5月23日)。
作新学院 000 001 00 4
=5
関東一高 101 100 11 1
X=6
■ドラマは、まず9回表に起きた。
この回から岸(背番号:9)がライトのポジションについた。この時、スコアは5-1、関東一が4点のリードしている。ボクに予備知識がないこともあって、スタンドから見る限り、岸は守備固めに登場した一選手にしか見えなかった。だがその岸の思わぬミスが、試合展開に大きな波乱を巻き起こした。
最後の粘りを見せる作新学院は、安打と2個の四球で二死満塁のチャンスを作る。そして作新の打者は2番・ 鶴田剛也
(3年)。ファールで粘った後の5球目、鶴田の放った打球は岸のいるライトへ飛んだ。
イージーフライ・・・
岸は軽く手を挙げて捕球体勢に入ったように見えた。ボクはこれで試合が終了したと思ったが、次の瞬間、なぜか球は岸のグラブの先を弾いて、フェンスに向かって転がったのだ。
えっ?
三塁走者はもちろん、二塁、一塁走者までが生還して走者一掃の適時打になった(記録は二塁打)。この時点でスコア5-4。
自分の守備位置に立ち尽くす岸。
さらに3番・ 石井一成
(3年)の中前適時打で、あっという間に同点に追いつかれてしまった。後続の打者をアウトにし、ベンチに全速力で戻る岸の表情は、先ほどの呆然とした表情から一転、口元をキュッと閉めて「ドンマイ!」と迎える控え選手を完全無視してベンチに消えた。
■楽勝のはずが同点になって迎えた9回裏、先頭打者はこの岸だ。打席に立つ姿は気合十分。「必ず出塁して、何が何でも自分の足でサヨナラのベースを踏んでやる!」。そんな強い意志が岸の背中から感じ取れた。
そして一塁手の位置をちらりと見やり、初球に意表を突くセーフティバントを敢行した。懸命に一塁を駆け抜けてセーフ。作戦はまんまと当たって出塁に成功した。たぶんエラーした直後から、自分にとって出塁確率の高いバントを頭の中でイメージしていたのかもしれない。
さらに次打者の時、2球目に二盗に敢行して成功。内野安打で三塁を陥れると、次打者の投ゴロで生還した。表情を固くしたまま、ひとりでダイヤモンドを駆けまわってチームを勝利に導いた岸。生還した時でさえ、笑顔は見えなかった。
この回が始まってから、たった2~3分間のサヨナラ劇。相手に息つく時間さえ与えない、凄まじいばかりの岸の執念が勝利を呼び込んだように見えた。見事な汚名返上プレーだった。
ボクがアマチュア野球を生観戦する時、プロ注目のスラッガーや投手を見るのも楽しみだけど、岸のような選手の懸命なプレーを見るのが一番好きだ。朝日放送の 安部憲幸
アナがかつて 「ジス イズ プロ野球!」
と叫んだことがあるが、岸のプレーはボクにとって、まさに「ジス イズ 高校野球!」だった。
■翌日の決勝戦(対健康福祉大高崎高)も、ボクは岸を見るために球場へ足を運んだ。ところが試合前のシートノックに岸の姿が見えない。どうしたんだろう? と心配したが、両チームの挨拶の時、チームメイトから少し遅れて整列する岸の姿が見えた。足には固くギブスが嵌められているように見えた。昨日のサヨナラ生還時に故障したのかもしれないが、ま、これはご愛嬌か。
(後日談)
関東一高はこの春季関東大会で準Vに終わった。そして夏は東東京大会4回戦で、甲子園に出場した成立学園高にサヨナラ負けを喫し、甲子園は叶わなかった。
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