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2025.11.29
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カテゴリ: 昭和期・後半男性
『蛍・納屋を焼く・その他の短編』村上春樹(新潮社)

 本書は、1984年の発行となっています。収録されている短編小説は前年の1月から当年4月の間に文芸雑誌に掲載された5つの作品です。(さらに参考までに、筆者の年齢は35歳であります。)

 少し調べてみると、筆者のキャリアの中での本短編集の位置はこんな感じです。
 ・1979年『風の歌を聴け』デビューから五年目。
 ・長編作品では、1982年『羊をめぐる冒険』と1985年『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のあいだで、参考までにその次の長編『ノルウェイの森』は1987年。
 ・短編集では1983年『中国行きのスロウ・ボート』『カンガルー日和』に続く三冊目。

 この事実から何が見えてくるかというと、まー、これも結果論的な分析になりますが、デビューして5年、次のキャリア・ステップを求めて、全体として若書き感がありながらも、それは未熟ということではなくて、意欲的に様々な試みや企みを作品に取り込んでいこうとする、まさにその言葉そのものの「若々しさ」が感じられる作品、ということでありましょうか。

 例えば単純に、タイトルにしてもどうでしょう。
 おやっと思うのは、「その他の短編」の部分ですね。
 この「業務連絡」のようなそっけない表記は、普通は付けないでしょう。書名にこんなフレーズは基本的には付けないし、確かに似た表記としては、「他〇篇」と言うのがありますが、あれは文庫本等に多く(つまり文庫本用にまとめた形で)、タイトルそのものではないと思います。(「他〇篇」というのは、例えば、本棚からランダムに取り出したのですが、『小僧の神様・他十編』『ウィヨンの妻・桜桃・他八篇』という表記、見ると、岩波文庫が多いですね。)

 では「その他の短編」の表記とは、何なのでしょうか。

 私がそれを最も作品中に感じたのは、「めくらやなぎと眠る女」という収録作でした。
 本短編集の五作品の中で、現代日本のリアリズム(日本でなくてもよさそうではありますが)を舞台にして書かれているのは、これとあと「蛍」「納屋を焼く」の三作だと思います。

 その中で、「めくらやなぎ」は一番描かれているエピソードが多い作りになっています。
 あとの二つの短編は、前半エピソードと後半エピソード(なんかお能の「ワキ」と「シテ」みたいにも感じます)で作られているように思います。
 しかし「めくらやなぎ」には、私は、四つくらいのエピソードが混ぜ合わされながら入っているように思いました。

 それが表すものは何か。
 私は、筆者が、今後も小説のストーリー性を重視し追求していこうとしている「宣言」である、と思いました。(従来の小説の、「伏線」などという言葉では全く収まりきらない複雑なストーリー展開。)

 そもそも村上春樹は、デビュー時から、登場人物の内面や感覚を説明する描写にかなり独特な魅力がある(特に特徴的なものして個性的な比喩表現がある)作家でした。つまり、どちらかといえば、「文体」にこそ、魅力のある作家ではなかったかと思います。
 しかし、本書の作品にしてもそうですが、丁寧にそんな部分だけを読んでいくと、それがどこかルーティーンめいた「限界」のようなものになっていそうにも感じます。(特徴的な文体でデビューした作家が、次に一番にせねばならないのは、自らの文体との格闘であるとは、古くより多くの作家の軌跡が示しています。)
 例えばこんな部分です。


 今、こうして抜き出してみても、とても魅力的な文章だと思う一方、そもそもが形のないものを描こうとしているせいももちろんありましょうが、分かる気もしながらやはりそこには具体的な像が何も結ばれないようにも思います。(いえ、それこそがこの文章の魅力なんじゃないかとも思いつつ。)

 私はそこに、筆者はさらに複雑なストーリーを付け加えようとしていると読んだわけであります。
 ただ「めくらやなぎ」では、まだそれはぎこちなく、やや継ぎはぎめいて感じられますが、このあとの作品で、筆者が描く複線のエピソードは、さらに混然一体となって描かれ、もはや見分けがつかない、ただ、読んでいてとても深い思いの残るものになっているように思います。

 それが、こののちの長編小説作家としての筆者の、もはや誰もが認める実りあるキャリアを生み出した一因、とは、かなり強引な読み方でしょうか。
 ともあれ、私はこの短編集を読み終え、筆者の若い力にあふれた瑞々しさに、とても強い魅力を感じました。
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Last updated  2025.11.29 09:46:12
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
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