突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.07.23
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 『眠りの青い粉』をふところにしのばせて、ベベルギアは、薄暗い廊下から、階段部屋の中の様子ををそっとうかがい見た。
 予想通り、階段の前にはあの化け物ジャムルビー、ヤックシャーが、不気味な三叉戟を手に立ちはだかっていた。 真っ黒なその表情は、厳しい怒りの形相にも見えると同時に穏やかな安らぎの表情にも見える。 それは三叉戟から繰り出される突きが、緩慢な動作に見えながら意外にも敏速でかわしにくいのと同様で、どうにも、ベベルギアの理解の枠を超えていた。 
 少しの間、様子を見ていたが、この不可解なジャムルビーは、石像のように動かない。 こんなふうに、よく気を張りつめ続けていられるものだとあきれるくらい、まったく隙というものを見せないのだ。 
 だが、これはかえって好都合かもしれない、とベベルギアは考えた。
 『眠りの粉』は、動いているやつにはあまり効きめがないという。 ならばジャムルビー族のような動きの遅いやつに使うのにはうってつけかもしれない。 まして、こいつのようにじっと動かないやつが相手なら、なおさらだ。
 ただし、粉を投げつけるその瞬間にも、こいつがじっとしていてくれれば、だが。
 ヤックシャーの、突きはともかくあの三叉戟から放たれる正体不明の青白い光は、正直なところベベルギアには対処の仕様がない。 致命傷を受けるわけではないが、その一瞬、全身が硬直して動かなくなってしまうのだ。 防ごうにも防ぎようがない。 
 なんとか、ほんの一瞬でも、あいつの気をそらすことはできないか。 
 ベベルギアがそう考えた時、何という幸運だろう、まるで何者かがベベルギアの心の声を聞いて手を差し伸べてくれたかのようなタイミングで、階段の下から、奇妙な声が響いてきた。 子どものような年寄りのような、甲高いのに聞き取りにくい、目の前のヤックシャーの存在と微妙に重なり合う、おかしな声だ。

 今だ!
 機を逃さずベベルギアはふところから『眠りの青い粉』の瓶を取り出し、栓を抜くなりヤックシャーの足もとめがけて投げつけた。
 パン、と、軽い音と共に瓶が割れる。 同時に、青い煙がぼわっとまいあがってヤックシャーの全身を押し包んだ。
 ぎょっとしたようにヤックシャーがこちらを振り向く。
 が、もう遅かった。
 ベベルギアは、瓶を投げつけると同時に廊下の壁に張り付いて身を隠していた。
 ヤックシャーは侵入者の姿を探す暇もなくその場にどさりと倒れこみ、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
 ヤックシャーの倒れた音を耳で確認してから、そっと階段部屋の中を覗き込む。
 階段の下り口で、ヤックシャーは薄い青色の煙に包まれて昏々と眠っていた。

 ほんの少し躊躇したあと、ベベルギアは、倒れ伏したヤックシャーの体を跨ぎ越え、そろそろと慎重に階段を下り始めた。
 階段の下の暗闇には冷たい空気が澱んでいるのか、一歩下るごとに、冷気が足もとを這い上がってくる。

 半ばまで下りたところで、階段下の様子が見えてきた。 
 階段の下には、大きな扉が一つあるだけだ。
 扉の上の部分には、ミミズののたくったような古めかしい文字で、『エタ』と書かれていた。
 大きく開いたままの、その扉の奥から、冷気はのっそりと這い上がってくる。
 足音を立てず一気に階段下まで飛び降りる。 

 開け放した扉にぴたりと背中を貼り付け、中の様子をうかがう。
 中は、ほとんど真っ暗だ。
 おそろしく広い部屋らしい。 はるか遠くのほうで、人の話し声がしていた。 
 さっき、階段の上まで聞こえてきた、あの奇妙な声だ。
 できるだけ小さく体を縮めて、すばやく扉の中へと回りこむ。
 少しずつ、暗闇に目が慣れてくると、その、広い穴蔵のような部屋の内部は、ぎっしりと石の箱で埋め尽くされているのが見えてきた。 いや、石の箱ではない。 棺、いや、ついさっきまでベベルギアも寝ていた、あの同じベッドだ。

 ――― ぞっとするような光景だった。
 真っ暗な冷たい穴蔵の中に、おびただしい数のベッドが、その一つ一つに生命の兆しのまるで感じられない人影を横たえ、時を止めたようにひっそりと並んでいるのだ。
 この無数の冷たいベッドのどれかに、カノンも眠っているのだろうか。





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最終更新日  2009.07.23 17:26:03
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