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はっとして、赤いキャットフードのお皿を振り返ってみれば、それは確かにミケの言うとおり、キャットフードとは大違い。 姿かたちといい、匂いといい、どう見ても、小動物の死骸、腐敗物あるいは虫のようなもの、すなわち、猫が野生動物であったころ狩って常食としていた違いない、もろもろの食糧。
「きゃっ! いやーん!」
思わず悲鳴をあげて飛び退ったたまこを見下ろして、青緑色の目玉が、怒りの色にゆらり、と揺れた。
揺れた視線が、不気味な光を放って、すっ、と、ミケに向けられる。
「おのれ、三毛猫、まだ生きていたのか!」
ミケの全身の毛が、針のように逆立った。
「おだまり! お前のような大嘘つきが作り出すめくらましには、もうだまされないよ! たしかに、自分にむごい仕打ちをした人間を、あるいは自分を冷たく見捨てた人間を、憎まずにはいられなかった猫たちの気持ちは、肌身にしみてよくわかったよ。 そりゃあ悲しかったことだろう。 悔しかったことだろう。 どんなにか苦しかったことだろう。 だけど、よく思い出してごらん。 おまえだって、人に愛されたこともあった、と、さっき言っていたじゃないか。 縁もゆかりもないお前を、優しい心で包んで慈しんでくれる、そんな人たちだって、この世にはたくさんいるんだ。 そんな人たちまで恨んだり呪ったりするのは、筋が違うと思わないのか? ときに残忍な行いもするけれど、慈悲の心は決して失わない、人間てそういう生き物だと、おまえだって、ほんとうはよくわかっているはずだよ」
青緑色の目玉が、一瞬、考え込むように不安げに揺れた。
が、それもほんのつかの間、――― 激しい憎しみと不審の色はすぐにもとの勢いを取り戻し、ミケに向かって牙を剥きだした。
「慈悲の心、だと? ふん、そんなものがやつらにあるものか! 俺は人間の言葉など二度と信じぬ! 三毛猫、それにそっちの白猫も、われらの仲間に引きずり込んで、この悔しさを骨の髄まで味わわせてやろうぞ! お前たちも、われらと同様、この憎しみの無間地獄の中で、永遠に苦しみ続けるがいいわ!」