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千菊丸2151さんコメント新着
にっこりとうなずいて、昇一さんが続ける。
「だから、これも正樹が提案してくれたんだけど、今度店を建て替えるときも、駐車場は整備するけどクロのお墓とその周りの生垣は壊さずにきれいに造り替えて、猫塚という形で残そうと思うんだ。 思えばこの店の前の通りでは、クロだけじゃなくて今までにたくさんの猫が命をなくしてるわけだから、その供養の意味でもね。 そうすると、猫たちの霊も喜んで、この店と俺たち家族を守ってくれる、そういうものなんだって」
もちろん、これは本当は正樹の提案ではない。
正樹がミケに伝授してもらった『猫の知恵』。 小さな森のお寺の、えらい守り猫さまの受け売りだ。
「えーっ! 店、建て替えるの?!」
美緒と珠子が同時に叫んだのを、虎雄がけらけら笑って見比べた。
「なんだよ、二人とも、知らなかったの? 来月からもう店の建て替え工事始まるんだぞ。 いつまでもこの二階のボロ部屋じゃ、昇一さんたちかわいそうだろ?」
「じゃ、この店もう壊しちゃうの? 工事の間、ラーメン食べられないの?」
美緒が情けない声で叫び、おばさんがくすくす笑って応えた。
「この店はまだ壊さないよ。 工事中ずっと店休んでたら干上がっちゃうもの。 ここはしばらくこのままで、まず駐車場のほうに住まいを作るの。 それから、この店の住まい部分を店に改造して、あとは、このカウンターを取っ払って調理場にちょっと手を加えるだけ。 本当に営業できないのは、そうだねえ、一日か二日だけさ。 でも、店は広くなるよ」
正樹が楽しそうに付け加える。
「今度の店には大きな看板をつけて、大きな龍の絵を描くんだって。 目玉がぎらぎら光るようなネオンもつけて、通りを睨むようにするんだってさ。 遠くからでもよく目立つようにね。そして、夜中でもまぶしいほど明るい店にするんだって。 そしたら、通りを横切ろうとした猫だって、びっくりして思わず立ち止まるよな」
「なるほど」
まじめな顔でうなずいた珠子を、くすくす笑って眺めてから、昇一さんが思い出したように言った。
「ところで正樹、おまえ、家をちょっと留守にしてる間におふくろさんにバイク処分されちゃったんだって? ウチの頑固親父ならそのくらい涼しい顔でやってのけるだろうけど、おまえんちの、あの、優しいおふくろさんがそこまでやるとは、正樹、おまえ、相当親不孝したな?」
珠子の隣で正樹が困ったように頭をかき、うーん、まあその、いろいろとね、とかなんとか、口の中でもごもご応えた。
その様子をおかしそうに見て、昇一さんが言う。
「でも、おまえにとっては大事なバイクだったんだろ? じゃ、これから通学のときとか、どうすんのよ? バイク仲間の付き合いもあるだろうし、新しいの買うんだったら知り合いのバイク屋、紹介してやろうか? 中古だけど、俺の知り合いだと言ったら、きっと格安で世話してくれると思うけど?」
「新しいバイク、かあ・・・」
