乱読・積んどく・お買い得!?

乱読・積んどく・お買い得!?

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Calendar

Comments

chiko619 @ Re:新参者(09/22) 「新参者」読みました。 東野圭吾さんは、…
kimiki0593 @ 相互リンク 初めまして、人気サイトランキングです。 …
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ はじめまして^^ 先ほどこのロングインタビューを読み終え…
2011.01.16
XML
カテゴリ: 文芸

 正直言うと、見終えた後に少々モヤッと感が残った。
 そして、原作である本著を読んだわけであるが、
 こちらは、読み終えてスッキリ、納得の読後感である。

 どこが違うかと言えば、第一部「事件のはじまり」、第二部「事件の視聴者」
 そして、第三部「事件から二十年後」が、原作には存在すること。
 映画の方は、冒頭が第五部「事件から三ヶ月後」のワンシーン、
 そして、いきなり第四部「事件」が始まり、再度第五部に戻って終わる。

これでは、本作の持っている意味合いを、正しく理解することが出来ない。

それを知っているのと知らないのとでは、第五部「事件から三ヶ月後」に至ったときの、
読者・視聴者に湧き起こってくるであろう感慨が、まるで違ってくるからである。

即ち、第三部を知らずに、事件の経過だけをなぞってしまうと、
エンディング後に残るのは、何とも言えぬ不条理感ばかりで、
「何故?あまりに理不尽、かわいそう……」の他に、何の感慨も抱けないのである。
青柳君の最後の選択に対し「よく頑張った。良かったな!」と、決して思ってやれない。

ただし、映画の方には、原作を上回る名シーンが存在する。
その部分の台本は、原作に則り、それを忠実に再現すべく書かれているだけなのだが、
演じる役者さんの技量があまりに素晴らしく、
通常、文面から読者がイメージ出来るであろう領域を、遙かに凌いでしまったのである。

それは、青柳君の父が、押し寄せる報道陣に相対する場面。

もちろん、第五部における、毛筆の手紙「痴漢は死ね」が届いたシーンも同様である。
本作のテーマの一つとも言える「親子の結びつきの強さ」が、圧倒的な力で伝わってきた。

  「セキュリティポッドで電話の通話情報もチェックしているらしいし、
   フルに機能を使えば、効果はあるんじゃないの」
  「おまえはほんと、監視社会が好きだな」

   みたいな世界のほうがいいってわけ?」(p.47)

病院で、田中徹と保土ヶ谷康志との間で交わされた、このお話の根幹に関わる会話である。
ところが、映画では、このセキュリティポッドについて触れることがなかった。
触れてしまうと、見る者を理解に導かざるを得ず、時間的にきつくなる等あったのだろうが、
原作の持つ意味合いが曖昧となり、見る者に消化不良を引き起こす結果となった。

そうそう、 『歌うクジラ』 を読んだときにも感じたことだが、
この会話部を読んで、やっぱり『一九八四年』は、ぜひとも早めに読まないと駄目だと思った。
そして、本作も『歌うクジラ』『一九八四年』も、管理社会の中を生きる人間を描いたものだが、
今現在の日本も、結構それに近いかもと思わされる一文が、本作にはあった。

  多数意見や世論、視聴者の興味や好みに沿わない情報は流さない。
  流せないのがマスコミの性質なのだろう。
  マスコミはいけない、というつもりはなかった。
  ただ、マスコミとは、報道とはそういうものなのだ。
  嘘はつかないが、流す情報の取捨選択はやる。(p.447)

でも、本作の魅力はやっぱり、
「人間の最大の武器は信頼なんだ」を感じさせてくれる、
大学生時代の人と人との繋がりである。
伊坂さんは、本当に大学生というものを描くのが上手い。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.01.30 14:28:01
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: