この時期のマイルス・デイヴィスのライブ演奏盤として有名なのは、『フォア&モア』と『マイ・ファニー・バレンタイン』の二部作で、これらは同じライブ演奏の音源を一定のコンセプトに沿って2つに分けてアルバム化したものである。つまり、前者には躍動感ある楽曲群を集め、後者には、よりおとなしめのバラード曲などを配置したというものだ。これら2枚は数あるマイルスの実況盤の中でも名盤として知られ、実際にそれぞれが見事な演奏を収録している。けれども、見方を変えれば、コンセプトにそった選曲という要素が濃く、その結果、各々の盤の曲の傾向に偏りがある。これに対し、本盤『マイルス・イン・トーキョー(Miles In Tokyo)』(演奏は1964年だが、レコード化されたのは1969年)は、この頃のマイルスのライブ演奏がより自然な雰囲気に近い形で再現されたものであり、そのバランス感ゆえに、筆者にとってはたまに聴きたくなるアルバムとなっている。