アオイネイロ

May 28, 2010
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カテゴリ: 小説
「葵、使い魔を連れてきた。コレと契約を交せ」
絶対的な言葉に、機械的に頷く。
食えない笑みを顔に湛えた女性は、まるで他人のようにそのやり取りを面白そうに眺めていた。
契約を交わせば、人間という醜悪な生き物に仕え、従わなくてはいけないというのに……。


「………名前は?」
契約を交した後、部屋に二人きりになった時に葵はその使い魔に尋ねた。
「名前? 何でそんなコト聞くワケ? アンタ………御主人がテキトーにつければいいんじゃない?」
面倒そうな顔をして、使い魔はそう言う。
一応契約を交した後だったらか、アンタという言葉は訂正して、でも絶対に主とは認めていないような言い様だった。

自分の名前で呼ばれる方がいいだろうと考えながら、葵はそう問いかけた。

「………御主人は、買ってきたペットに名前を聞くワケ? それと同じでしょ。テキトーにニンゲン流の、キャサリンとかエリザベスとか、和名で言えば花子でも何でもつけたら良い」

大して興味も無さそうにそう言う使い魔。
「…………」
「何、オイとかオマエとかポチとかタマとかでも良いケド?」
黙り込んでしまう葵に、使い魔は肩を竦めて見せるとそう言った。
「それは嫌だから聞いた。私は誠士葵。貴女の名前は?」
そう言うと、紅亜は露骨に面倒くさそうな顔をして溜息をつく。
「ニンゲンってのはこんなヤツじゃなかったと思ったケドね」
そう呟きながら、葵をちらと見た使い魔がもう一度溜息をついた。

「紅亜」


女性、紅亜の言葉に葵が再び聞く。
「苗字なんて使い魔には無いよ。呼び名が色々増えるだけで何の意味も無い」
紅亜はそう答えて軽く笑った。
「御主人、アンタ人形かロボットみたいな顔してるね。誰かに操られて従って、それだけで生きてる。馬鹿みたいだと思うよ」
そう言われて、葵は目を瞬かせた。

親の言うことをよく聞いて良い子ね、とか、良くできた子ね、
そんな言葉を口にする人は居れど、否定する人などいなかったから。
だから、笑った。
紅亜は不振そうな目つきで葵を見てくる。

「私も、そう思う」
「ふぅん。ま、いいや。とりあえず宜しくってコトで、一応使い魔だから、命令されれば聞かないワケにもいかないし」

葵の返答に少し驚いたように目を見張り、その後ニヤリと笑ってそう言ってきた。
変わらず食えない態度と表情。
けれど葵は、親が決めたこの使い魔と一緒に居る事を
初めて自分自身で肯定できた気がした。





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Last updated  May 28, 2010 02:28:35 PM
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