書評日記  パペッティア通信

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Mar 7, 2005
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カテゴリ: 歴史




とはいえ、この期待はあっけなくしぼんでしまい、拍子ぬけさせられた。ベースは、保坂正康が史実をつぎつぎと提示し、原武史が解釈をおこなう役回り。そして、原の提示するアウトラインにしたがって、さまざまな解釈があたえられていく。

ラジオの演説でイデオロギーを注入した枢軸国や連合国。それとはことなり、ラジオやサイレンの「時報」を合図にして、帝国内でいっせいに黙祷・遥拝・万歳をおこない、「一億一心」をシンガポールやフィリピンにまでおよぼそうとした日本。畏れおおいとして、ラジオではわざわざ声を消されていたため、人々がはじめて聞いた天皇の声=「玉音放送」の衝撃。満州国皇帝・溥儀は、天皇になりたいばかりに「惟神(かんながら)の道」を実践したのに、譲りうけた神器は、にわかづくりのお土産でしかなかったこと。1938年から1978年までにかぎられた、天皇の靖国神社参拝。弟、秩父宮や高松宮との微妙な関係。現天皇の少尉任官要請を拒否した天皇。臣民の生命は二の次と、三種の神器に異様に執着する天皇。…ほかにも、昭和天皇にまつわる、さまざまな史実が紹介され、読者を飽きさせることはない。

ただ、浮遊するイメージの乱舞に、いささかうんざりさせられたのも事実だ。1921年を画期とする、「君民一体」「見える」天皇像への転換。君主制をデモクラシーとナショナリズムのカナメとするための適合。これはいい。しかし、可視化された帝国の象徴秩序をしめす「視覚的支配」。言語の統一を必要としない「時間支配」。「視覚的支配」から「時間的支配」への移行。はたまた「声の支配」…となってくると、アイデアはともかくとして、実証からみれば、掛け声倒れの感がぬぐえない。そもそも、3つの属性とその相互関係がまるでわからない。そのためか、皇祖神に対しては「まつる」=奉仕せねばならない天皇といった、丸山真男が摘出した天皇制論と、どう接合させて語っているのか、はたからみて判然としない。松本清張の『神々の乱心』でとりあげられた、宮中スキャンダルにしめした関心。天皇の御心をおしはかるため、「<御製>を読む」あたりになってくると、自己投影もほどほどにしておくようにね、と声をかけてあげたくなる。

と、ここまで書いてきて、わたしは分からなくなった。昭和天皇は、2・26事件と終戦の2回だけ意思をしめして、立憲君主の枠をはみだした、と語ったとされる。在位64年でわずか2回。ウソつけ、こら!という話は、脇へおいておく。ならば、昭和天皇本人を研究する意味など、どこにあるのだろうか。この書では、「欠如」=昭和天皇=を隠蔽するために、周囲に織りなされた象徴秩序「天皇制システム」を「声」「時間」「身体」から分析してゆく。そのとき、天皇そのものはみえるはずもないし、そもそも天皇など語る必要性はどこにもない。原はともかくとして保坂は、後書きをみるかぎり、このことを理解していないようにおもわれる。いや、保坂はまだいい。右翼のジャーナリスト・学者でさえ、天皇が人間であることを、機関にすぎないことくらい知っている。でありながら、天皇が人間をこえた偉大なものであるかのように振舞い、その剰余にむけて「戦前とかわらない」テクストがかさねられている。

欠如に気付いて「声」「時間」「身体」に場をうつす、いや、欠如にさえ気付かない「天皇」論をくわえた、天皇をめぐるテクストの無限増殖。

その意味でわれわれは、戦前とおなじように、戦後も、現在も、そして未来も、「天皇制ファシズム」に絡めとられつづけてゆくのであろう。心温まる未来を予感させてくれる、そんな格好のテクストである。

価格: ¥756 (税込)
評価 ★★★







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Last updated  Nov 7, 2005 10:52:21 PM
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