書評日記  パペッティア通信

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Nov 10, 2005
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カテゴリ: 歴史


大谷暢順 『ジャンヌダルクと蓮如』(岩波新書) がゴミ新書の「金字塔」であった時代が懐かしい…

閑話休題。

本日ご紹介するのは、そんな岩波新書から、装いもあらたに出版された、高山一彦著『ジャンヌ・ダルク』です。国民国家フランスの創世神話、「ジャンヌ・ダルク」伝説。その形成過程を丁寧に追跡した、いぶし銀のような作品になっています。

簡単に内容をまとめいたしましょう。

● 一度改悛したのち、「戻り異端」として火刑台に送られたのであって、
   魔女として裁かれたのではないジャンヌ


イギリス・ノルマン王朝が、フランスの諸侯出身という遠い事実に起因する、 フランス王位の継承戦争でもあった、「英仏百年戦争(1337~1453年)」 。15世紀初頭、イギリス・ランカスター王家は、ブルゴーニュ派と手をむすんで、「英仏二元王国」を推進する。フランス・ヴァロア王家の王太子シャルルは、「フランス王」を名のりながら、7年もの間、ランス司教教会で「聖別・戴冠の儀式」を挙げられない。そんな中、イギリスがオルレアンに軍隊をすすめ、すわ、フランス大ピンチ。そこに現れた、ジャンヌ・ダルク。フランスを救うためにたちあがり、1429年5月8日、イギリスの包囲からオルレアンを解放。「オルレアンの乙女」は、7月19日、シャルルをランス教会で「シャルル7世」として戴冠させるも、国王シャルルと側近たちは煙たがり、翌年5月23日ジャンヌはイギリス陣営(ブルゴーニュ派)の捕らえられてしまう。1431年5月24日、ジャンヌは判決文朗読の際、火あぶりを恐れたためか、神の声を否認して男装をやめることを誓う(改悛事件)。ところが5月28日、前言をひるがえす。救済の余地のない「戻り異端」として、5月30日、ルーアンで処刑される。

● 伝説化をかきたてた、ジャンヌのあらゆる行動原理、「神の声」

そんなジャンヌの人となりは、「進んで」家事を手伝い、教会にかよう普通の、それでいて固い信念をもつ、女の子だったらしい。浩瀚な『処刑裁判記録』『復権裁判記録』が残されて、 彼女の19年間の生涯は、ほぼ余すところなく明らかにされているという 。処刑直後に、「偽ジャンヌ」が現れるほど、人々に惜しまれたジャンヌ。それは、1455年に開始された「復権裁判」につながって、翌年、無罪宣告をうける。「処刑裁判」は、弁護士さえいない、パリ大学神学部の「神の声を聞く小娘」への憎悪と、イギリス側のシャルル7世の戴冠式を否認する政治的要請が結びついたものらしい。

● フランス絶対王政下忘れ去られ、ナポレオン帝政期に復活するジャンヌ

羽飾りと美しい胴着を身にまとった美女ジャンヌ (吏員系)の肖像。それは、以後250年間、ジャンヌ像の定番となったくらい、「 ジャンヌは忘れ去られてしまった存在 」だったらしい。19世紀半ば、「ジャンヌ・ダルク史料集」刊行と、ジャンヌ・ダルクの復権。それは、今にいたる、史実に合致した「鎧と刀剣」のジャンヌ像にかえただけではないという。ジャンヌの魅力も、「戦場で戦う女性」から「 裁判での厳しい追及にあっても、自らの内的使命を語る少女 」へ、移っていったという。

● ジャンヌ列聖によって、ますます騒がしくなるジャンヌ論争
● フランスに危機が訪れるたびに作られる、あらたな「ジャンヌ像」


並外れたキリスト教的美徳に加え、列福には2つ、列聖にはさらに2つの「奇跡」が必要な、カトリック聖者の手続き。1869年に開始されたジャンヌ列聖の手続は、証人として歴史学者が呼び出され、1909年に福者、1919年には聖者になったという。さまざまな立場の人がえがく、ジャンヌ像。ドレフュス事件の時には、社会主義的立場から、「 人類と祖国の救済の祈りをこめて無償の戦いを戦おうとする 」気高きジャンヌ像が。ジャンヌ列聖に危機感を抱き、聖性を徹底的に剥ぎとった< 人間ジャンヌ >像を描こうとした、20世紀初頭の文学者アナトール・フランス。「 傀儡 」「 ヒステリー患者 」を読み取ろうとする、反教権派。ジャンヌは、「神の啓示」を直接受けとろうとする、 プロテスタントの先駆け だ!! 否、「 女傭兵 」にすぎない!! あげくの果てに「 ジャンヌ王女説 」というのもあるのだから、侮れない。




な~に日本は、フランスのジャンヌ論争を笑えません。ジャンヌ・ダルクは明治以来、「愛国心」「キリスト教ヒューマニズム」「良妻賢母主義(ちょっと失敗)」など、笑うくらい色んな立場から、さかんに描かれていたらしい。

ほかにも、ジャンヌは改悛の際の誓約文に記した「十字架」についての論争や、フランス語処刑裁判記録には書き換えがあることなど、たいへん興味深いものが多い。 少女の名を借りた、現代社会批判 としての性格をもつ、ジャンヌ・ダルク論。そんなインスピレーションを与える、格好の素材らしい。日本だと、ジャンヌ・ダルクに相当する伝説的人物とは、誰が該当するのだろう。案外、 田中角栄あたり なんかは、後の世には、ジャンヌ的な性格を帯びるのではないか。

ただ、ちょっといただけない。
批判に終始 する筆者。読んでいて、むしろ逆効果。興がそがれた部分が多い。「吏員系美人ジャンヌの肖像は史実に反するのに表紙カバーに使うとは何ごとか!!!」と、 ジャンヌを題材に女性像の変遷を追った新書まで批判 する下りには、もううんざり。いい加減にしてほしい。だいたい、女性イメージの変遷に、史実のジャンヌとやらが、なんの関係があるのか。好意的に紹介されていたのは、アナトール・フランスとドレフュス事件がらみのジャンヌ像くらいか。

そもそも、筆者本人は、どのようなジャンヌを描いているんだろう? 正しいジャンヌ像とは何だと思ってるんだろう? 「人間ジャンヌ」こそ、正しいジャンヌだから、アナトール・フランスの欠陥に甘いのか??おまけに、興味を持ったら「裁判記録」を読めと連呼するだけ。この辺、筆者の態度は、まったくいだだけない。大いに減点させていただいた。

とはいえ、ある研究者のジャンヌをめぐる論争を評した以下の一節は、フランスでおきた暴動をみると痛切にひびく。

  これらの多くの筆者たちは、存在するはずのないジャンヌの墓にそれぞ
  れに墓石を建てて、ジャンヌを自己の陣営に引き寄せて自らの主張の象
  徴としてきた。国王はジャンヌを見捨てたのに、その国王に連なる王党
  派も。少女を処刑したのは教会だというのにカトリック派も。少女は教
  会に帰依していたというのに反教権主義者も。そしてジャンヌの時代に
  はまだ祖国なるものは存在していなかったのに国粋主義者たちまでも。


ジャンヌをもって、現代社会批判をおこなう、過去のフランス人。移民たちの暴動、否、プロテストに遭遇するフランス。今こそ、2つの「裁判記録」を精読した、21世紀のフランス共和国にふさわしい、ジャンヌ・ダルク像がもとめられているに違いあるまい。

どんな、新しいジャンヌ像が生まれてくるんだろう…
そんな、期待をいだかせてくれる、素敵な1冊になっています。


評価 ★★★
価格: ¥819 (税込)



追伸  ところで、書きながら思い出したのですが
     『神風怪盗ジャンヌ』って、どんな終わり方をしたんだろう…


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Last updated  Nov 30, 2005 08:39:21 PM
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