書評日記  パペッティア通信

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Dec 6, 2005
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カテゴリ: 政治


森嶋通夫『サッチャー時代のイギリス』(岩波新書 1988年) のヒソミにならおうとする、「お手軽な本」としか思えない。おまけに、筆者が大問題のひとつ。これまで、小選挙区制度による2政党制を強力に推奨して、イギリス労働党に好意的だった、政治学者山口二郎。サッチャーを毛嫌いしていたことで、対象との否応のない格闘を迫られ、全編に緊張が漲っていた、森嶋の誉れ高い新書の<後釜>を彼が書くのか?? どこまで、対象を客観視して書けたのか、読んでいないものがみると、いささか心もとない。

とはいえ、なかなか面白かった。
イギリス政治のバックボーンを解説した、なかなかの入門書といえるのではないでしょうか。

● 「当然の与党」労働党の誕生

2(大)政党制とはいえ、選挙で勝って首相の地位に就いた労働党党首は、ブレアが3人目にすぎない。保守党こそ「当然の与党」で、労働党の政策は国民に信を置かれていなかった。「1つの国民」の名の下、保守・労働両党とも、「福祉国家」に対する「 バッツケリズム 」と呼ばれるコンセンサスが存在していた。サッチャリズムは、「民営化」「小さな政府」によってコンセンサスを打ち壊してしまう。教育や医療の荒廃の中で、労働党は、総選挙4連敗。その最中、前任者スミス党首とブレアは、党改革に立ちあがって、ブロックボート制の廃止、国営化条項の削除する。この際、 激しい論争を公開でおこなうことによって、マスコミの目をひきつけ「改革」のイメージを有権者にアピール することに成功をおさめたという。

● 「環境整備型国家」「人間の力を強化する国家」へ転換したイギリス

ブレア路線「福祉国家の現代化」では、もはや 「結果の平等達成」が放棄 されていると云う。狙いは、グローバルな競争の中で適合した、自立した人間を作り出すこと。 「競争力強化」と「公平性」の追求 自立支援策と現金給付を巧みに組み合わせることで「社会的包摂」 をおこなった。教育でも、学力引きあげ、競争強化がねらわれる。そのため、格差の拡大をおさえる程度しか効果がないという。 

● 「政治の人格化」「反既成政党政治」とともに
   「市民運動」と「地方自治」が活性化させたブレア労働党


既成政党への不満、左派的政策の普及によって、明確な対立軸がつくれない… 「政治の人格化」「反既成政党」のパラダイムは、イギリスが一番最初にあらわれた国であるらしい。それは、 擬似的な直接性によって、人々の不満をすくいあげる「大統領型首相」類型を生みおとして、議会制民主主義の形骸化 がすすむ一方、市民運動と地方自治は、むしろ活性化しているという。ブレア労働党の新しさは、「国家か、市場か」の枠組では捉えず、「自発性と無償労働と協力原理」にささえられる「社会」の領域において、市民セクターの拡大と強化を積極的に推進している面にあるという。

● ブレア外交の特徴「国際協調主義」と、安全への全体主義

極東のゴミ売新聞などもそのお先棒を担いだことで有名な、イラク大量破壊兵器のウソ。そうした、無理ともいえる対米協調をおこない軍事的一体化がみられる一方で、前政権とは比較にならないEU重視をおこないバランスをとっているという。また、途上国債務削減についての積極的なイニシアティブにみられるように、「人権」「民主主義」を重視した労働党伝統の国際協調主義は健在であるらしい。ただ、安全に関しては 保守政権よりも「邪心がない」ことを強調できる 分、取締強化はテロ・移民・迷惑行為など多岐にわたっていて、保守党以上に強硬で、妥協がない面があるという。

● イギリス政治に「社会民主主義」を埋めこんだ97年体制
「ビッグ・テント」 の成立


コミュニケーション総局を設け、「スピンドクター」によるメディア・コントロールを展開したブレア。その成功の一因は、税金と治安面で保守党と同質化させた一方、効率的な公共サービスの提供という面で差異化することに成功したことにあるという。ただ、保守党と戦うとき、労働党を支援する伝統的な支援者は、困惑を隠しきれていない。様々な公共サービスの改善がみられるにもかかわらず、 「政権維持が自己目的化」などの批判を招くのは、中間層をつなぎとめるため、ブレア労働党があえて賞賛回避をおこなっているためだという 。このへん、自画自賛の小泉自民党との差異ともなるだろう。「目からウロコ」賞を進呈したい。

● 「第三の道」がかかえる、社会管理する「生活リスク」の複雑化と、
   敗者救済のむずかしさ


「生活リスク」を誰が管理すべきか? それをめぐる争いが、「社会民主主義(リベラル)VS新自由主義(保守)」の対立であるという。 社会全体でリスクを管理する方が効率的である のは当然ではあるものの、20世紀中葉のようにリスクの質が分かりやすい時代は、とっくに過ぎさってしまった。それが、「小さな政府」による極端な 「生活リスク」への無為無策を、「生存のリスク」を言い立てることで覆い隠して集票活動をおこなう、「恐怖の政治」戦略が横行する原因 であるという。市場適合型の人間をつくりだしても、生まれるであろう敗者はどうすればいいのか?とともに、政治的処方箋を提示することが求められている、として本書は終わる。


今、迷走をしているように見える、前原代表率いる民主党。その状況に引きつけて読むと、参考になる部分がとても多いのではないか。なによりも、守るべき理念は何で、そのため現実とどう妥協しているのか。それが分らないのが、民主党のかかえる最大の問題のひとつであろう。保守と社民の同居は、日本政治の縮減であるから、ある程度、止むをえまい。また純化路線など、論外に等しい。とはいえ、理念がどっちで、妥協がどっちなのか分からないのでは、明確なメッセージを発することはできまい。遠からず、次の総選挙までに、民主党は「背骨」となる理念の提示が迫られている。

来る時期必ず必要とされるはずの社会民主主義的「第三の道」 になるべきではないか?と提言している本書は、かなり参考になるのではないだろうか。

ビッグテントは、明確なメッセージと人々を奮い立たせるような価値観の提示をさせにくくするという。とはいえ、ビッグテントなくして多数をとることはできない。多くの人びとが、入ってくれるビッグテントの創設。それを民主党に願って止まない。


評価 ★★★
価格: ¥735 (税込)

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Last updated  Jan 6, 2006 07:50:58 PM
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