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んと 全裸少女シリーズ
午前1時のまつげさん -1-
どうしてこのステージは横を向いているのだろう。見にくいったらありゃしない。
観客は全員首を横に向けて、まったくおもしろくない演劇だかコントだかよくわからない出し物を見ている。前の席では、サングラスをかけた老女が、赤ん坊らしいものを抱いて、なでている。顔にタオルがかぶせてあるから、赤ん坊だかなんだかわからない。なんだか気味が悪い。早く外に出たい。せめて少し外の空気を吸おう。息がつまりそうだ。そう思い、少し体を浮かすと、それを制する細くて長い指の手がある。
僕の隣の、まつげさん。
「しっ 落ち着きがないのはキミの悪い癖だよ。」
黒いツバの割れた帽子を深くかぶり、全身黒いコートに身をつつんだ、まつげさん。彼女がどういうつもりで、ボクをひきづりまわすのかよくわからない。でも、まつげさんの言う事には逆らえない。彼女はボクの好きで好きでたまらないアノ人とそっくりな顔と姿を持っていたからかもしれない。
ステージの上で、巨大な蛇のおもちゃを首にまいた人が
「あたる~あたる~」
と、泣きながら訴えはじめた。みんなそれを首を横に向けて見て、ニヤニヤしたりクスクスしたりしている。僕は何がおもしろいかまったくわからない。強いてあげれば、売り出し中の漫才師のツービートのたけしに顔が似ているなと思っていた。
ステージが横にあるので、まつげさんの席がボクの右だか前だか、何とも言えないんだけど、通常の感覚だと、右だとして、ボクの左は、ウエストサイドストーリーに出てくるみたいな、ポニーテールに大きなリボン。そして水玉のミニスカートを履いた女性だった。流行の'60ってやつだろう。でも女性はどう見ても、50歳以上はいっている。その'60の女性をちらっと観察すると、どうしても顔と顔が向き合う形になるわけだが、'60の女性はステージに夢中で、ボクの顔が目の前にあってもまったく見ていない感じだった。
「まつげさん? トイレに行ってくるよ」
そう耳打ちを、まつげさんにしたけど、まつげさんはステージの蛇使いの男を夢中で見入っている。ボクは勝手に席をたって、外に出た。
劇場は新宿の映画館みたいにでかいわけではないので、広いロビーみたいのがあるわけでもない。外に出るとすぐトイレだったし、出口の階段があった。トイレは誰かが使っていた。そんなにしたいわけじゃなかったけど、一応待つ事にした。このまま階段をあがって、勝手に帰ってしまおうかとも考えたけど、まつげさんに悪いと思って、それもしなかった。
なんだか寂しいような午前1時。
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