31日は、11周年コースの最後の仕上げともいえるいつものK氏のワイン会(さかもとこーひーの坂本さんも参加する会)でした。このお花は、その会に参加された外科医のO先生にいただきました。O先生は20年来のお客様です。この春は、たくさんお花をいただきました。ありがとうございました。他にも3月の初めにはO先生の後輩であるIクリニックのI先生に私の大好きなエグリ・ウリエのシャンパーニュをいただいたり、このワイン会からということでK氏からも開店年2001年のジブレ・シャンベルタンをいただいたり、いまでやさんのO君からもお祝いのワインをいただきました。みなさん、ありがとうございました。
11周年記念コース、今回は大盛況で合計50名も来ていただきました。¥11000という高額なコースのため、実は「30名来てくれたら凄いなぁ」と思っていたので、ちょっと驚きでした!11周年記念コースにご来店いただいた皆様ありがとうございました。今回のメニューは、ラカン産の鳩という最高級の素材を使ったことも含めて、技術的にも自分の限界に近いメニューでしたから、このひと月余り結構緊張していたようです。
昨日1日も昼夜と予約も多く、忙しかったのですが、11周年記念コースと違って、普段のレギュラーメニューだけだと、「あれ?こんなに楽だったっけ?」と思ってしまいました。やはりそれだけ緊張していたんだと思います。毎年、クリスマスディナーとこの周年記念コースは特別な思い入れで臨みますからね。クリスマスは4~5日のことですが、周年コースはひと月余りやりますから、ここ一月は好きなワインも控えめにして節制してました。仕込みが追いつかないので、3月は何回も早朝出勤しました、、。
忘備録も兼ねて、11周年記念コースを振り返ってみたいと思います。前菜盛り合わせは、私の中の定番の美味しいもので、、、スモークサーモンとイチゴ、対馬産イノシシの自家製スモークハムとフランス産ドライイチジク、帆立のスモーク(後半はホタルイカのマリネ)、フォアグラのフォンダン、ジビエのリエット。
2品目は、ブルゴーニュ産エスカルゴ。これは、本場ブルゴーニュで、ブドウの葉っぱを与えて育てたブルゴーニュ種の“本物”のエスカルゴです。「やはり違うね!」という声が多かったですね!缶詰のエスカルゴとは、全く違う食感と風味の良さに納得された方が多かったようです。
次が、牛蒡とトリュフのポタージュ。牛蒡と言うと田舎くさい野菜のイメージがありますが、このところ使っているうちに牛蒡の香りの上品な部分だけを何とかうまく使ってみたいという気持ちになりまして、、それなら、やはり土系の香りであるトリュフと組み合わせたら面白いに違いないと、思ったわけです。実はこの考えはさかもとこーひーの影響があるような気がします。元来コーヒーは、雑味が多くてお茶(紅茶や中国茶や日本茶)やワインなどに比べるとあまりきれいな飲み物とは思っていませんでした。それがさかもとこーひーに出会って、仕事の上でもさまざまにコラボしているうちにそのコーヒー離れした綺麗な風味と雑味の無さに色々と感じるものがありました。
さかもとこーひーはスペシャルティーコーヒーですから、素材の良さはもちろんなんですが、いくら材料が良くても表現する技術が伴わなければ美味しくはなりません。今回のラカン産の鳩もそうですが、最高の素材をたしかな技術で仕上げてこそというわけですよね。それで、さかもとこーひーを味わっていると、コーヒーの良いところだけを引き出すような焙煎とブレンドのクオリティーの高さを感じるわけです。それで、牛蒡とトリュフを使ってさかもとこーひーのような、一見サラッとしているのに実は核に確固とした風味を感じる綺麗なポタージュを作りたいという気持ちでやりました。ポタージュと言うとピュレスープというのがあります。ジャガイモのピュレとかトマトのピュレとか言いますけど、、ピュレというのは、英語でいえばピュア、つまり純粋なる物という意味です。まあ、調理用語としては裏漉ししたものという事なんですが、、、。
牛蒡は薄切りにして薄い鶏のブイヨンで約10分火を通します。灰汁を引き、塩で味を整えてミキサーにかけます。目の細かいシノワで漉します。出来た液体は、ほとんどサラサラで牛蒡のお茶みたいな感じです。そこに生クリームをほんの少し加えて、トリュフのみじん切りをたっぷり加えて、最後にウルバーニ社のトリュフオイルをポトリと落とします。このポタージュは香りが命ですから、作り置きはできません。コーヒーやお茶が淹れ立でないと話にならないのと一緒です。ですから、エスカルゴを召し上がるタイミングを見ながら作るわけです。こういうア・ラ・ミニュート(作り置きせずにその都度作りたてを供するやり方)な仕事は、厨房スタッフが充実した大きなお店でやることなんですが、私の場合常々ア・ラ・ミニュートで危ない橋を渡りまくっているので慣れてはいるんですが、このように瞬間をとらえねばならない仕事は、やはり難しかったですね。出来たスープはあえてコーヒーカップに盛り付け、手に取って口に近付けてカップからの香りを楽しんでいただくようにしました。思い通り“牛蒡の高貴さ”が表現できたと思います。
4品目は、フォアグラと牡蠣のソテー。これにはナツメヤシで作ったヴィネガーのソースを添えました。フォアグラと牡蠣の組み合わせはサンク・オ・ピエでは定番のひとつですね。ナツメヤシのヴィネガーは、黒くて濃度があり酸が穏やかで甘み旨味ともに最高級のバルサミコにも引けを取らないかんじで、フォアグラにも牡蠣にも良く合いました。
そして、ラカン産の鳩!今回ポワレという調理法にしたのは、鳩をさばいてばらし、出たガラで美味しいジュを取りたかったからです。それに丸焼きよりパーツごとに正確に焼けるので、あえてポワレにしました。ただ、鳩をばらすと胸肉2枚モモ肉2本手羽先2本と6個のパーツに分かれますから、2人前でも12個、31日のように7名ですと42個(実際にはサービスで一人前多い8人前で48個)ものパーツを正確に焼きあげねばならないので、結構大変です。手がもう数本欲しいぐらい。鶏系は皮の香ばしさが大事ですから、皮目は最強の火加減で焼いてゆきます。赤身のほうはそのままさっと焼くだけです。特に胸はレアくらいに焼きあげて、プラックの棚の上で休ませてちょうどよく火が入るように、スープを出した直後に焼き上げます。
デリケートなスープを出したらすぐに鳩の焼きに入りますから、この時間帯は緊張感がピークになってます。絶対に邪魔されたくないので、11周年コースの予約が入った日は、他のお客さんの予約はちょっと制限してました。他の料理を作りながら出来る仕事ではないからです。全霊を込めてと言ってはオーバーかもしれませんが、真剣勝負で焼き上げたラカンの鳩はおかげさまで大好評でした!
31日のワイン会で、さかもとこーひーの坂本さんの反応を見ていたら、一口食べた後に「なんだこれ?」とつぶやいたのを聴き逃しませんでした。そのくらい鳩離れ肉離れした別次元の美味しさなんです。 坂本さんがブログにもアップしてくれました。
デザートについては、自分の過去ログと 坂本さんのブログ
デザートは、ヴァローナ社のグランクリュのショコラ"カライブ"(トリニタニオというカリブ海地方産のカカオ1種類だけで作られたショコラ)のテリーヌ・ド・ショコラにカリスマパティシェ、ピエール・エルメ氏の有塩バターとシナモン風味のカラメルアイスクリームをのせて、イチゴの12年熟成バルサミコ和えを添えてあります。
このアイスクリームは作るのが大変に難しいんです。かなりの量の砂糖を焦がしてカラメルを作るんですが、甘くするために入れる砂糖の量の3倍近い量なので、ギリギリまでしっかりと焦がして甘味を殺さないと、べたべたに甘くなってしまうから、本当に炭なる寸前まで焦がさなければならないのだ。一歩間違えれば、苦くて使い物にならないし、少しでも焦がしたらないと甘くなりすぎる。そのちょうどいいタイミングは、色と香りで見極めるしかない。記憶と感覚だけが頼りの仕事です。
イチゴに使ったバルサミコは12年熟成の品で、250ccで数千円もするもので、やはり風味が良いです。濃厚なショコラとアイスクリームですから、さっぱりとしたイチゴとバルサミコの酸味が良い感じでバランスが取れます。
これに合わせる、さかもとこーひー11周年記念ブレンドがまた最高です!とても繊細で軽い味わいなんですが、ショコラとアイスクリームの濃厚な余韻を優しく受け止め、イチゴとバルサミコの味わいにも心地よく寄り添います。本当にどうやったらこうも旨くマッチするブレンドを作ることができるのか?と不思議に思うくらいです。新しい焙煎機に変えたさかもとこーひーはますます絶好調ですね!
昨日今シーズンの初生ハムが出ました。若いカップルでしたが、「香りが良いし、ちょっと噛むととけちゃうんですね!どうやって切ってるんですか?」と訊かれたので愛用の刃渡り40センチ近い特大の牛刀を見せてあげました。「凄ーい!」と言って驚いてましたね。
生ハムを特大の牛刀でスライスする人は多分あまりいません。普通は細身の生ハム専用ナイフで、削るように切るんです。私の切り方はちょっと独特ですが、肉の繊維を断つ方向に切るので、うまくいけば口解けが良いんです。昨日久しぶりに生ハムを切ってみたら、また一段と薄く切れるようになった気がします。「何だこれだったのか?」という感覚ですね。以前より力まずにサラッと切れる気がします。長く仕事やっているとこういう瞬間がたまにあります。スーッと生ハムを切って、「またつまらぬ物を切ってしまった、、、。」という感じですかね(笑)
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