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なまけいぬ
自作の小説を載せています。ツッコミどころ満載ですが…
2006年06月27日
テーマ： 連載小説を書いてみようｖ(10178)
カテゴリ： 楽園に吼える豹
アスカは一瞬状況が理解できなかったのか、茫然としていたが、目の前の人物が誰だか思い出すと、力いっぱい掴まれた手を振り払おうともがいた。
「聞いて！ お願いだから聞いてくれ！」
橘はもう一方の手でアスカの肩を掴み、必死に訴える。ここで逃げられたら、今度こそ間に合わないかもしれない。彼女は超えてはならない一線を超えてしまうかも知れない。それは絶対に嫌だった。
「おい、何だよお前…」
と、リョウジが横から口を出す。が、橘を私服警官だとでも思ったのか、文句を言う口調は少しばかり迫力に欠ける。
「うるさい！ 君は黙ってなさい！！」
そう一喝した橘のほうが、気迫に満ちていた。
その間もアスカは必死に橘から逃れようとするが、腕と肩をがっちり掴まれてはなかなかそれもかなわない。彼女は、敏捷さについてはGSでも随一だが、パワーのほうは十二歳の少女のそれだった。力では大人の橘にはかなわないのだ。
「アスカ！！」
「…先行ってろ」
あごをしゃくってリョウジを行かせる。リョウジはさほどためらう様子も見せず、うなずいてさっさと歩いていった。
「―――何だよ」
アスカはふてくされたように言う。
これだけのやり取りで、橘はもう息が切れていた。今まで何時間もぶっ通しでアスカを探し続けていたせいもあり、体力がもう限界に来ていたのだ。
だが橘は無理矢理に息を整えると、ゆっくりと話し始めた。両腕はアスカを捕まえたまま。なおかつ蹴りを食らわないよう下にも気を配りつつ。
「アスカ……君がつらい思いをしてるのは知っている」
ピクリとアスカの肩が揺れた。彼女の眼は下を向いたまま、橘を見ようとしない。
「君は自分のことを責めてるのかも知れないけど……でも、でもね………」
無意識に涙声になってしまう。思いがけない彼の声の調子の変化に、アスカは驚いたように橘の顔を見た。
「君は悪くないんだ。―――君のせいじゃ、ないんだよ」
ダークブラウンの瞳が、困惑の色を湛えるのがわかった。
（じゃあ、誰のせいだっていうんだ…）
父はずっと、アスカと目も合わせようとしなかった。
兄は言った。家族が壊れたのはお前のせいだと。
母も口にこそ出さなかったが、きっとそう思っている。
「アスカ？」
「一体誰のせいだっていうんだよ！！」
刹那、橘の右足に激痛が走った。脛（すね）を蹴られたのだとわかったときには、アスカは橘の手を振りほどいて走り出していた。
小柄な体が、雑踏の中に飲み込まれてゆく。
「ま、待って！！」
痛みに顔を歪ませながらも、橘は必死で後を追おうとする。
だが大勢の人間が行きかう中を風のようにすり抜けていくアスカを追いかけるのは、たとえ足の痛みがなくとも到底不可能だった。
「くそっ！！」
自分の不甲斐なさに対する憤りが体中からあふれ出し、思わず電柱に拳をぶつける。
拳の痛みと足の痛みがじんじんと脳を刺激して、蓄積した疲労が何倍にもなるような気がした。その場に座り込みたい衝動に駆られたが、踏ん張って耐えた。
上着のポケットからおもむろに携帯電話を取り出す。
ゴウシとユキヒロに連絡をしなければならない。アスカはまだこのあたりにいるはず。すぐに探せば、まだ見つけられるかもしれない。
（―――まだ、希望はある！）
橘は勢いよくボタンを押した。
つづく
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「聞いて！ お願いだから聞いてくれ！」
橘はもう一方の手でアスカの肩を掴み、必死に訴える。ここで逃げられたら、今度こそ間に合わないかもしれない。彼女は超えてはならない一線を超えてしまうかも知れない。それは絶対に嫌だった。
「おい、何だよお前…」
と、リョウジが横から口を出す。が、橘を私服警官だとでも思ったのか、文句を言う口調は少しばかり迫力に欠ける。
「うるさい！ 君は黙ってなさい！！」
そう一喝した橘のほうが、気迫に満ちていた。
その間もアスカは必死に橘から逃れようとするが、腕と肩をがっちり掴まれてはなかなかそれもかなわない。彼女は、敏捷さについてはGSでも随一だが、パワーのほうは十二歳の少女のそれだった。力では大人の橘にはかなわないのだ。
「アスカ！！」
「…先行ってろ」
あごをしゃくってリョウジを行かせる。リョウジはさほどためらう様子も見せず、うなずいてさっさと歩いていった。
「―――何だよ」
アスカはふてくされたように言う。
これだけのやり取りで、橘はもう息が切れていた。今まで何時間もぶっ通しでアスカを探し続けていたせいもあり、体力がもう限界に来ていたのだ。
だが橘は無理矢理に息を整えると、ゆっくりと話し始めた。両腕はアスカを捕まえたまま。なおかつ蹴りを食らわないよう下にも気を配りつつ。
「アスカ……君がつらい思いをしてるのは知っている」
ピクリとアスカの肩が揺れた。彼女の眼は下を向いたまま、橘を見ようとしない。
「君は自分のことを責めてるのかも知れないけど……でも、でもね………」
無意識に涙声になってしまう。思いがけない彼の声の調子の変化に、アスカは驚いたように橘の顔を見た。
「君は悪くないんだ。―――君のせいじゃ、ないんだよ」
ダークブラウンの瞳が、困惑の色を湛えるのがわかった。
（じゃあ、誰のせいだっていうんだ…）
父はずっと、アスカと目も合わせようとしなかった。
兄は言った。家族が壊れたのはお前のせいだと。
母も口にこそ出さなかったが、きっとそう思っている。
「アスカ？」
「一体誰のせいだっていうんだよ！！」
刹那、橘の右足に激痛が走った。脛（すね）を蹴られたのだとわかったときには、アスカは橘の手を振りほどいて走り出していた。
小柄な体が、雑踏の中に飲み込まれてゆく。
「ま、待って！！」
痛みに顔を歪ませながらも、橘は必死で後を追おうとする。
だが大勢の人間が行きかう中を風のようにすり抜けていくアスカを追いかけるのは、たとえ足の痛みがなくとも到底不可能だった。
「くそっ！！」
自分の不甲斐なさに対する憤りが体中からあふれ出し、思わず電柱に拳をぶつける。
拳の痛みと足の痛みがじんじんと脳を刺激して、蓄積した疲労が何倍にもなるような気がした。その場に座り込みたい衝動に駆られたが、踏ん張って耐えた。
上着のポケットからおもむろに携帯電話を取り出す。
ゴウシとユキヒロに連絡をしなければならない。アスカはまだこのあたりにいるはず。すぐに探せば、まだ見つけられるかもしれない。
（―――まだ、希望はある！）
橘は勢いよくボタンを押した。
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