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カテゴリ: 實戦刀譚


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  大八が薩州元平の門に入って研鑽した模様の仔細その他は不明である。
 ただ大八の元興が、元平の娘を妻として江戸へ出立する時、
 会津侯へのおみやげとして、
  一、長さ二尺三寸七分、鎬づくり大乱
    表銘、此刀為角元興鑄以傳鍛錬之術
    寛政五癸丑秋
    裏銘、奥大和守平朝臣元平
  二、長さ二尺三寸八分、鎬づくり大乱、反少々浅し
    表裏銘、前同斷
 の二振りを精鍛してこれを大八に携えさせた事で、
 大八がいかに元平の意にかなっていたかがうかがわれる。
  この銘の示すがごとく、寛政五年の秋に薩摩を出立、その年の冬には帰京、
 翌六年には長男の大治が出生したのであるから、
 五年の結婚説もこれで裏書きされるのである。
  角大八元興が会津へ帰ると、俸米七石五人扶持、
 別に弟子扶持十五人扶持を給わせられたのである。
 一人扶持は一日五合の割合であるから、総計約四十三石の給米であった。
 大八は、文政七年三月二十八日七十一歳で世を終えるまで、
 ただ会津に止(とど)まって、
 藩用のため孜々營々(ししえいえい)として武用刀を鍛えた。
 彼の打った大小の利刀は、藩の武庫に収められ、それが戊辰の戦に使用され、
 もの凄い切れ味を発揮したという。
 かつて水心子が江戸家老田中氏に推薦したごとく“日本一二の刀匠”ともならず、
 またなろうともしなかった。
 彼が一生涯を犠牲にして得た“秘伝”のために、先師水心子の大業は成り、
 その門から莊司直胤という大巨匠、細川正義という名匠、
 その他大小百余の銘鑑に名をとどむる刀匠を輩出せしめたのであって、
 前にも述べたるがごとく彼は単に裏面の人に終始したのであった。
 法名は、高國院釋元興居士、会津若松市浄光寺に葬る。
 先妻即ち元平の娘は、享和元年九月十二日歿、釋尼妙圓大姉、
 後妻は天保十年四月十二日歿釋尼妙喜大姉、
 長男角大治は刀を打たず、病弱で文政二年十月二十五日
 行年二十六歳をもって父に先立ってこの世を去り、
 孫角大助、祖父の名をつぎ二代目元興と名乗って刀を打ち、
 行年八十歳をもって明治二十四年三月十二日に歿した。
  元平から会津侯に贈った前記二振りの刀は、一は君公の差し料となり、
 一は城内に止められた。
 後者は戊辰の役にも処置がよく紛失を免れたが、君公の差し料は紛失した。
 後これが東京のある研ぎ師の方に売り物に出ていたのを、
 大八の孫が買い取って、右二振りとも角(すみ)家の所蔵に帰したという。
 因縁深い話である。

  水心子の著書、書簡集などを仔細に読んでみると、右の事実は文字外にも
 それとなく現れている。
 無論文章のあちこちにも、それと頷ける節々がある。
 山田浅右衛門著『古今鍛冶備考』の六冊目十五頁にある中心押象に、
 大八の作刀が出ている。
 それには角大八源元興作之と雄大な筆致で銘が切られている。
  同書四冊目には、
  角元興と打、奥會津住角(すみ)大吉と號、
  初め水心子正秀門にして秀國と打、寛政の首薩州へ往き元平と成り改名す。
 とある。
 『新刀銘集録』には、水心子の門人七十二人中に、
 山村綱廣、角秀國の名が見えている。
  水心子書簡集に、
 (前略)石堂是一之家に備前一文字之傳藥焼刃の法御座候由承り及是一に便り
 数年懇望致候へども其法を傳へ申さず漸く九ケ年に及び
 唯一度土の塗方を教え焼刃を渡し見せ候迄にて其藥方は終に免し申さず候
 (中略)其後綱廣より正宗の系圖を授り候彼の藥法を傳授致しくれ候(中略)
 尤當代の綱廣は愚老の門弟に相成(下略)
 とある。石堂是一の襖の下張りを買って読んだとか、
 元平の秘法を手に入れたとかは、まさか大っぴらに書けなかった事であろう。
  一時は水心子を陥れようとした首斬り浅右衛門ではあったが、
 水心子の武用刀完成後は互いに提携したと見え、
 その著書の中に、相当の行数を割愛した上、
  相州備前の両傳を授かりて復古刀を造る、云々。
 と記している。







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Last updated  2012年04月27日 02時38分28秒


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