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つげ義春ワールドR7
<つげ義春ワールドR7>
図書館で『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』という本を借りたのだが、読んでゆくと既視感がわくわけで・・・
実際、この本を読むのは2度目であることに気づいたのです。(イカン イカン)
この本は、つげ義春作品の実写映画について、原作マンガ、撮影シーン写真、つげさんの見物日記、出演者、スタッフの談話、「ゲンセンカン主人」のシナリオなどを満載した本になっていて、まさに「つげ義春ワールド」であり、つげファンにとっては・・・・
堪えられないのです。
・『苦節十年記/旅籠の思い出』(2009)
・『ねじ式/夜が掴む』(2008)
・『つげ義春1968』(2002)
・『つげ義春を旅する』(2001)
・『つげ義春幻想紀行』(1998)
・つげ義春女性を語る『ガロ(1993年8月号)』(1993)
・ロケ見物日記『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』(1993)
・対話録・現代マンガ悲歌(1970)
R7:『苦節十年記/旅籠の思い出』を追記
<『苦節十年記/旅籠の思い出』1>
図書館で『苦節十年記/旅籠の思い出』という文庫本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、旅籠の写真やら、各地の鄙びた温泉のイラストやら、苦労ばなしのエッセイやら・・・サービス満点のつくりになっています。
【苦節十年記/旅籠の思い出】
つげ義春著、筑摩書房、2009年刊
<「BOOK」データベース>より
つげ義春が、エッセイとイラストで描く、もう一つの世界。旅籠、街道、湯治場の風景や旅先で出会った人。貧乏旅行の顛末を綴った文章、自らの少年時代などを記した自伝的エッセイなどをセレクトした。つげ的世界の極致ともいうべき「夢日記」は、絵と文章のコラボレーション。さらにカラーイラストも付いた、ファン必携の1冊。
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、旅籠の写真やら、各地の鄙びた温泉のイラストやら、苦労ばなしのエッセイやら・・・サービス満点のつくりになっています。
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苦節十年記/旅籠の思い出
<『ねじ式/夜が掴む』>
帰省先の図書館で『ねじ式/夜が掴む』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、「ねじ式」と「ゲンセンカン主人」を押さえていてその他に、シュールなもの、エロっぽいものと、大使好みのラインナップになっています。
つげさんと言えば漂泊願望の人だと思うが、解説でそのあたりを見てみましょう。
p340~343
<つげ義春の場末趣味:川本三郎>
つげ義春の作品の舞台となった土地を旅するのが好きだ。文学散歩ならぬ漫画散歩である。最初に出かけたのは「長八の宿」の舞台になった西伊豆の松崎、それから「二岐渓谷」の福島県の二岐温泉、「リアリズムの宿」の青森県の鯵ヶ沢。
千葉にもよく出かける。作品の中で明示されていないが、「海辺の叙景」の海は外房の大原、「ねじ式」は外房の太海、「やなぎ屋主人」は内房の袖ヶ浦というのでこのあたりを歩いた。
これは、いまはなくなった漫画雑誌『ばく』の読者の投稿欄で知ったのだが、太海には、「ねじ式」のあの汽車が路地に入ってくる超現実的な絵そのままの風景が残されているという。それで、1993年の6月、その路地を探しに太海に出かけたら、港のところに、ほんとうにあの絵のままの石段のある路地が残っていて驚いてしまった。
93年の6月にはまた、随筆集『貧困旅行記』に出てくる千葉県のちょうどまんなかあたりにある養老渓谷に出かけた。その帰り、タクシーの運転手に「西部田村ってある?」と聞いたら、なんと、あるという。「西部田村事件」の舞台である。面白い名前なので架空の村かと思ったらちゃんと実在していた。タクシーで出かけてみたら、田んぼのなかに、あの漫画のとおり精神病院が実在していたので、これまた驚いてしまった。
つげ義春の作品は、幻想譚・奇譚が多いが、その舞台は実在しているのである。実在の場所を旅することから、少し不思議な物語が生まれてくる。だからそれは奇譚といってもあくまでもリアリズムのなかの出来事であり、日常のなかの一瞬の白昼夢である。
つげ義春の作品の舞台を旅してみると、どこも、寂し気なところが多いことに気がつく。観光地などまずない。港町、田舎町、ひなびた温泉。あるいは鉱泉。いわば「場末」のような、すがれたところだ。大喜田町西部田などまずふつうの地図には載っていない。袖ヶ浦もそうだ。養老渓谷は、千葉県ではそれなりに知られている観光地だが、全国的にはあまり知られていない。
つげ義春が作品の舞台に選ぶ場所は、どこも、裏通りか場末といったような、隅っこの小さな町や村。そこがいかにもつげ義春らしい。つげ義春の旅先は、日本の田舎ばかりなのだ。温泉といっても熱海や箱根はまず出てこない。有名温泉地では、「義男の青春」の湯河原があるくらい。「長八の宿」の松崎は、吉本ばななの「TSUGUMI」で有名になってしまったが、「長八の宿」が発表されたころは、決して広く知られた温泉場ではなかった。
「ほんやら洞のべんさん」の新潟県魚沼郡の雪におおわれた小村、「オンドル小屋」の秋田県と岩手県にまたがる八幡平の温泉群、「会津の釣宿」の会津の玉梨温泉…、あげていくと切りがないが、つげ義春の作品の舞台は、まず普通の観光客が行きそうもない、そもそもはじめから存在も知りそうにない、忘れられた場所ばかりである。
(中略)
つげ義春は徹底した場末趣味の作家なのだ。零落趣味、世捨人志向といってもいい。もともとの資質が引っ込み思案だから、おのずから旅の場所、作品の場所がうらぶれた町や村になるのか。それとも、忘れられた場所への旅を続けるうちに、その資質に磨きがかかったのか。それは定かではないが、つげ義春の描く忘れられた小田舎が、いつしか穏やかな桃源郷、ここにあってここにはない隠れ里に見えてくることは確かである。
【ねじ式/夜が掴む】
つげ義春著、新潮社、2008年刊
<「BOOK」データベース>より
つげ義春ワールドの極点「ねじ式」に始まる“夢の作品群”と、それと並行して書かれた若い夫婦の生活を描いた“日常もの”を集大成。
【目次】
ねじ式/ゲンセンカン主人/夢の散歩/アルバイト/雨の中の慾情/夜が掴む/コマツ岬の生活/外のふくらみ/必殺するめ固め/ヨシボーの犯罪/窓の手/夏の思いで/懐かしいひと/事件/退屈な部屋/日の戯れ
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、「ねじ式」と「ゲンセンカン主人」を押さえていてその他に、シュールなもの、エロっぽいものと、大使好みのラインナップになっています。
rakuten
ねじ式/夜を掴む
<『つげ義春1968』>
図書館で『つげ義春1968』という本を、手にしたのです。
著者の高野さんは、青林堂に入社し『ガロ』の編集を手掛けたそうで、とにかくつげ作品の第一番目の読者であったというのが・・・ええでぇ♪
【つげ義春1968】
高野慎三著、摩書房、2002年刊
<「BOOK」データベース>より
マンガ史上の名作「ねじ式」。1968年発表直後の世間の反応は意外にも冷やかなものだった。著者は雑誌『ガロ』の編集者として、その創作プロセスをつぶさに見とどけている。構想されながらも、陽の目を見なかった幻の作品のこと、つげ義春をめぐるさまざまな人々の交流など、1968年という時代に生まれた傑作とそれを生んだ時代の熱気をいきいきと伝える。
<読む前の大使寸評>
著者の高野さんは、青林堂に入社し『ガロ』の編集を手掛けたそうで、とにかくつげ作品の第一番目の読者であったというのが・・・ええでぇ♪
rakuten
つげ義春1968
「ねじ式」登場の前あたりを、見てみましょう。
p59~63
<「ねじ式」の思い出>
私は、1966年から5年と数ヶ月のあいだ青林堂に在籍し、『ガロ』の編集に携わっていた。「ねじ式」の発表された『ガロ増刊号・つげ義春特集』は、私が想い入れを注いで編集した1冊であり、30年以上経過した今日にいたるも当時のことは忘れられない。
増刊号に「つげ義春論」を寄せて下さった方々と会った時と場所まで記憶に残っている。唐十郎さんとは、新宿の花園神社の紅テントの公演中にお会いした。唐さんは、化粧したままで、「海辺の叙景」論を手にしながら、
「これから芝居が始まるから見ていきませんか」
と声をかけた。
劇作家の竹内健さんとは、四谷のモダンな喫茶店の二階でであった。はす向かいの席で作家の井上光晴さんがどこかの編集者らしい人と談笑していた。映画評論家の佐藤忠男さんのお住まいは世田谷の閑静な住宅街にあった。私は世田谷線のチンチン電車にゆられて訪ねた。美術評論家の石子順造さんとは46時中顔を合わせていたので特に記すこともないが、それらはみなまるで、昨日のことのようでもある。増刊号の思い出だけを綴っていると少しも先に進まないので、このへんでやめておきたい。
すでに告白したことだが、私が青林堂への転職を希望したのは、つげ義春という作家にこだわりたかったからだ。私にとって、「沼」「チーコ」「初茸がり」の衝撃は計り知れなかった。しかし、つげ義春はそのあと「古本と少女」や「手錠」の旧作を改稿するばかりで新作に手をつけようとしなかった。
私は苛立ちをおぼえていた。「沼」や「チーコ」の出現によって、ようやくマンガが表現として耐えうる地平にたどりついたと判断した矢先だったからだ。このままつげ義春が作品を発表しなかったら「沼」や「チーコ」の表現的な価値まで消し飛ぶのではないか、との惧れを感じていた。
私が青林堂に入社して数日後、水木プロダクションにつとめていたつげ義春さんと話す機会があった。
「もうマンガは描かないのですか?」
と私はたずねた。つげさんは、
「あの作品もあまり評判は良くなかったんですよ。マンガを描くのはもうやめようかと・・・」
と低い声で、自信なさそうに答えた。私の周囲では「すごいマンガ家が現れた」とささやきあっていたものだから、つげさんのそんな話を聞いて我が耳を疑った。そして、これはなんとかせねば、と思った。
親しくしていた石子順造、山根貞男、梶井純と相談して『漫画主義』という批評同人誌を出すことになった。創刊号で「つげ義春特集」を編んだ。つげ作品への評価を保留した石子を除いて、山根、梶井、私の三人がつげ義春の作品について言葉を重ねた。私たちは自らの判断に相当の自信をもっていた。それは、20代半ばの私たちの傲慢を意味していようか。あるいは、つげ作品に対する私たちの買いかぶりに過ぎなかったのだろうか。
つげ義春本人が『漫画主義』のつげ特集をどのように受け止めたのかを直接聞くのはためらわれた。つげさん自身も、私にどのような感想も伝えてこなかった。ただ、同じ水木プロのアシスタントであるK君から、「うれしかったといっていまっした」という言葉を聞いて、少しはプラスに働いたかなあ、という印象をもった。
それから1,2ヶ月して、つげさんは「通夜」の原稿を持って青林堂に現れた。確か当日は紺色地のジャンパーを着込んでいた。原稿を裸のまま丸めて輪ゴムで留め、ポケットに突っ込んでいた。私は、その無頓着さにあきれると同時に、そこにつげ義春という作家のすごさみたいなものを感じていた。自らの表現に対して、必要以上に神経質にならない態度は、きわめてさわやかであった。
以後、私はつげ作品の第一番目の読者という恩恵に浴すことになった。これは編集者の役得、特権と言っていいかもしれない。やがて、私はつげさんから幾つもの作品の構想を聞く機会に恵まれたのである。その半数以上がついに陽の目を見ることがなかった。それらの作品についてここで詳しく記す紙数はないが、氏がポツリポツリと作品の粗筋を語り始めたのは「海辺の叙景」あたりからだったろうか。
ともかく、「通夜」「山椒魚」「李さん一家」が続けざまに発表されると、山根も梶井も、私も有頂天だった。私たちの評価が、買いかぶりでなかったことがあらためて実証されたからだ。
「ねじ式」登場のあたりを、見てみましょう。
p234~238
<『ガロ』編集長・長井勝一との別れ>
『ガロ』は、新人の発掘にもエネルギーを費やした。毎日のように作品が郵送され、2日か3日に一人の割合で、作品を小脇に抱えた若者が青林堂を訪れた。それらの投稿作品に長井さんと私が目を通した。作品を採用するに際して、長井さんと私が意見をたたかわすことは皆無だった。長井さんが、「これなかなか面白いんじゃない?」と評価した作品は、すぐに採用した。そして、私が推薦する作品に対して、長井さんは、「そうだね、悪くないね」といって掲載を了承した。お互いが、「遠慮がち」に自らが評価する作品を交互に選ぶ感じがしないでもなかった。
もちろん、見解の一致をみることも多々あった。佐々木マキさんの「よくあるはなし」が届いたときなど、二人して「これはじつに鋭い風刺だ」と讃えあった。あるいは、いまやハードボイルド作家として活躍している矢作俊彦さんが、ダディ・グースのペンネームで作品を持ち込んできたときは、まだ高校生だった彼に長井さんも、そして私も、「カッコつけるばかりじゃなく、もっと他人の生き死にを見つめたらどうなの?」と注意した。
(中略)
ともかく長井さんは、無類の大衆小説愛好家であった。仕事の暇なときは、お茶をすすりながら、林不忘にはじまり、吉川英治、白井喬二、海音寺潮五郎、山本周五郎の時代小説や牧逸馬、山中峯太郎のピカレスクロマンについて多くを語りつづけた。私もまた中山義秀、長谷川伸、子母沢寛といった戦前の時代小説のファンであったので、長井さんのいつ終わるとも知れぬ話に聞き惚れていた。そして、日本漫画社や三洋社を興し、さらに『ガロ』で白土さんや水木さんのマンガに情熱を傾けるのは、そうした長井さんの青春期の読書体験に出自するのだな、と私は理解した。
(中略)
長井さんは、白土さんの『忍者武芸帳』を出版したあと、白土さんを中心に『忍風』という短篇誌を出した。そのとき、『迷路』以来のつげファンであった白土さんが、つげさんを迎え入れたいむねを長井さんに伝え、長井さんは初めてつげさんに作品を依頼したようだ。その当時はつげさんも時代ものばかりを描いていたのだが、「李さん一家」や「紅い花」をつげさんが発表したとき、長井さんはこれらの作品を絶賛した。「西部田村事件」「長八の宿」といったいわゆる“旅もの”を仕上げたときも、「つげさん! こういう作品をどんどん描いてよ」と応援をおしまなかった。
ところがである。ある日、つげさんが「ねじ式」をたずさえて青林堂にやってきた。長井さんは、「ウーン、どんなものかなあ」といったきりだった。つげさんは、作品を置くとそそくさと帰っていった。私は、完成以前に作品の断片を目にしていたので、“絶対不安”を表象するシュールな作品になることは予想がついていた。
つげさんが帰ったあと、長井さんは「時期尚早なんじゃないですかね?」と私にたずねた。「いや、そんなことはないと思います」と言うと、「大丈夫かなあ」と二度ほどつぶやいた。ボツになりそうな気配が感じられた。
私は、原稿をかかえると白山下の写植屋にとんでいった。社にもどると、香田さんが食事に出た長井さんの留守を見計らって、「昔、出版で事件にまき込まれたことがあったのでちょっと心配しているんだと思いますよ」とやさしく声をかけてくれた。「ねじ式」をめぐるやりとりのなかで、私は、不機嫌な表情を見せてしまったのかもしれない、と香田さんの言葉を聞きながら反省した。
その後、つげさんは、「ゲンセンカン主人」「もっきり屋の少女」「やなぎ屋主人」等々を『ガロ』に発表したが、長井さんは、ほとんど感想をもらさなくなっていた。“旅もの”からどんどん遠ざかっていくつげ作品を寂しい思いで見つめていたのかもしれない。
つげさんは70年に入って休筆期間をもった。長井さんは、「あれだけの才能があるのにもったいないよねえ、ホントに困った人だなあ」と嘆息することしきりであった。
【つげ義春を旅する】
高野慎三著、筑摩書房 、2001年刊
<「BOOK」データベース>より
「ガロ」の編集者だった著者がつげ作品の舞台となった風景をさがして東北の秘湯から漁港の路地裏までを訪ね歩く。砂煙のまいあがる会津西街道で見つけたワラ屋根のある景色や、老人たちとともに時間がとまった上州・湯宿温泉、赤線の雰囲気を残す東京下町など、貧困旅行を追体験する。失われた日本の風景のなかに、つげ義春の桃源郷が見えてくる!つげ義春との対談も収録。図版満載。
<読む前の大使寸評>
漂泊願望があるつげさんだから、その旅の独特な味には・・・しびれるわけです♪
rakuten
つげ義春を旅する
つげ義春を旅する
byドングリ
<『つげ義春幻想紀行』>
図書館で『つげ義春幻想紀行』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、漫画のシーンと旅先の写真が並べてあり興味深いのです。
太海の路地
外房の太海を、見てみましょう。
p162~167
<「ねじ式」之章>
以前に訪れたときは、遠慮が左右して漁村の奥深くまで足を踏み入れなかったが、このときは「路地探検」を敢行することにした。狭い石段や急な坂道をはさんで平屋の木造家屋がひしめきあっている。ほとんどが瓦屋根だが、まだところどころにワラ葺きが残る。路地は縦横に展がっていて、まるで迷路のごとき様相を呈している。「ねじ式」の少年ではないけれども、漁村の中をあてもなくさまようがごとき錯覚を強いられるほどだ。
「イシャはどこだ!」ではなく、「出口はどこだ!」という不安にさいなまれるといったらオーバーに聞えるかもしれないが、実際、路地探検の途中で、どこに抜ければいいのか思案にくれていたところ、民家の縁側から老人がヒョコッと顔を出し、「ああ、そこんちの庭をつっきれば下の通りに出られるよ」と案内してくれた。他人の家の庭を無断で通っていいものか迷っていると、「みんなそうしているんだから大丈夫だよ」とつけ加えた。
庭の先には再び路地が続いていた。さらに路地を伝わって、ぐるりと周り込み、石段を下ると、なんと「ねじ式」の機関車が到着する家と家の間に出たのである。そして、このとき、太海の漁村こそは“「ねじ式」の迷路”と名づけていいように思った。もともと私には、箱庭的な小空間への異常なまでの偏愛があるのだけれども、「ねじ式」という作品がさらに拍車をかけたことは言を俟つまでもない。
その結果、1年おいてのこの夏、四度目太海行ということになった。いまでは、太海の漁村を隅々まで極めないと「ねじ式」の全体像さえ味わえないのではないかという脅迫観念が生まれる始末である。
今夏は、雨降りだった。仁衛門島は、目前にもかかわらずかすんでいた。そんな天候でも、子どもらは、仁衛門島の飛び込み台から夢中で海中へのダイビングをこころみていた。漁村は、悪天候ゆえに、ひなびた感じがいちだんときわだっていた。路地の奥では、れいによって縁側にしゃがみこんで老夫が網の修繕に取り組んでいた。
まだ踏んでいない路地をたどってみた。石段を登りきった所にお堂があった。漁港の入口に札所の案内が出ていたのがそこかもしれない。信心深い老女でも訪ねることがあるのだろうか。素朴なつくりだが、忘れ去られたようなたたずまいがより以上の関心をよぶ。
さらに、ぬれそぼる雑草をかきわけかきわけ登り道をたどってみたが、どこに続いているのか見当もつかない。まさか、眼科医の並ぶ町や、産婦人科の看板を掲げる工場に行き当たるとは思えないが、激しい雨にさえぎられて、引き返すことにした。そういえば、仁衛門島の船着場の前にある古風な旅館の二階座敷などには、和服を着た女医がいてもおかしくないと思った。
【つげ義春幻想紀行】
権藤晋著、立風書房、1998年刊
<「BOOK」データベース>より
つげ義春作品と写真で解き明かす。「つげ式」旅術の書。
【目次】
1 「二岐渓谷」之章/2 「もっきり屋の少女」之章/3 「海辺の叙景」之章/4 「初茸がり」「紅い花」「西部田村事件」之章/5 「ゲンセンカン主人」之章/6 「大場電気鍍金工業所」之章/7 「隣の女」之章/8 「チーコ」「義男の青春」之章/9 「ねじ式」之章/対談 ワラ屋根のある風景(つげ義春/権藤晋)
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、漫画のシーンと旅先の写真が並べてあり興味深いのです。
rakuten
つげ義春幻想紀行
<つげ義春女性を語る>
三宮センター街の古書店でゲットした『ガロ(1993年8月号)』という雑誌が積んどく状態になっていたので、読み始めたのです。
まあ 12月はじめに喪中はがきを出してしまい、暇になったせいもあるんですが…
この雑誌で「つげ義春女性を語る」という箇所を見てみましょう。
p44
<つげ義春女性を語る>
旅先で女性となんかあるってのは、マンガにはよく出てきますけれども、実際はないです(笑)。やっぱり女性が関わると旅のムードが壊れてしまいますよね。すごい通俗的になるんじゃないのかね(笑)。
どこかへ旅して、そこの女性と知り合ってそこに住み着いてしまって、なにかの職について暮らしたいという願望は昔からありましたけれども。それはまあ、一種の蒸発ですよね。
自分の作品に出てくる女性はわりと突き放した感じで描かれてますけれども、それは自分の蒸発的な願望の、そこへ住み着いた場合の手段みたいなもので精神的な部分は関係ないんですね。
だってもしその女性に惚れてしまったら、それは蒸発にならずにそこでまた新たな現実が始まってしまうわけですから。それはただ単に引越しをしたっていうのと同じ事になってしまいますからね(笑)。蒸発ではなくて。
好みのタイプっていうのも別にないんです。自分の作品っていうとなぜか女性について聞いてくる人が多いんですけど、ドラマを作る上で女性がいた方が話が作りやすいから出てくるだけでね。中年のぼてっとした女性が出てくるからって、それが好みっていうわけじゃなくて(笑)、ドラマの中で必用だからああいう描き方をしているだけなんです。飽くまでも自分の内面の問題を描いているだけで。
別になんとも思わないし理想のタイプなんてないんですね。好きだった女優なんかもいないですし。ですから以前、文春文庫の映画の本でアンケートを頼まれたときにも、男優では好みの人もいるんですけど女優は別にいないんですよ。だから女優の蘭にはいないって書いたんですけど。
フェミニズム運動なんかにしても女性にしてみれば男性の欠点も見えるでしょうけど、女性側からは気付かない部分っていうのは我々男性からすれば逆によく気が付きますからね。運動をやってる人からみれば、男には反省すべき点がたくさんあるんでしょうし事実あるとは思うんですが、女性にも反省すべき点はあるように思うんですよね。女性自身がそこに気付かないで男性を攻撃するというのはね。
自分なんかが思うのは、女性は本能的に支配されてる部分が多いっていうことですね。そのことを女性自身は絶対気が付かないですよ。やっぱり男と女は敵ですよ(笑)。
北九州に住む女性読者を訪ねようということで、居所をひきはらって旅に出るというような大胆なところもあるつげさんの女性論でした(笑)。
【ガロ(1993年8月号)】
雑誌、青林堂、1993年刊
<商品情報>より
特集 「つげ義春」する!-映画『ゲンセンカン主人』公開記念:つげ義春インタビュー、赤瀬川原平・上野昂志・黒川創・川崎ゆきお・とうじ魔とうじ・高野慎三・ユズキカズ・安彦麻理絵・三橋乙揶・杉作J太郎/ガロ名作劇場17 勝又進「狸」/「パースペクティブキッド」刊行記念 ひさうちみちおインタビュー
イタガキノブオ/松井雪子/鳩山郁子/安部慎一/三本義治/友沢ミミヨ/唐沢商会/QBB/土橋とし子/沼田元氣/みぎわパン/ねこぢる/松沢呉一/高杉弾/中ザワヒデキ/四方田犬彦 etc.
<読む前の大使寸評>
三宮センター街の古書店でゲットした『ガロ(1993年8月号)』という雑誌なんですが…
特集:「つげ義春」する!と銘打った本号が、売価で500円(定価550円)という優れモンでおました♪
anamon
ガロ(1993年8月号)
<ロケ見物日記>
この4作品を実写で見せるオムニバス映画ということだが、こんなレア物はさすがに町の映画館には掛からないだろうね。
しかしま~、「ゲンセンカン主人」の実写映画にチャレンジする石井監督、佐野史郎たちの蛮勇が、ええなぁ♪
<ロケ見物日記>
p106~108より
'92年10月〇日
二十日ほど過ぎて、石井監督宅を訪問する。
先日の喫茶店で、ワイズ氏、北冬氏、評論家のM氏と会う。北冬書房の雑誌「夜行」で監督へのインタビューをする、そのため三氏の待ち合わせである。自分は北冬氏に用事があり顔を出したが、誘われたので同行する。監督宅は同じ調布市内である。
監督は気遣いをして腰を低く対応されるので、先日よりかえって緊張した。ご馳走もお酒もたくさん出され、M氏の巧みな司会でインタビューが続けられたが、三氏とも映画通で、とくに石井監ファンである。私は話題についていけない。今度の映画に関しては、「ねじ式」の蒸気機関車をどうするのか質問が出たりしたが、何か秘策があるかして笑って答えない。
アルコールも回って監督の口も滑らかになった処で、私は家庭に心配事があって、ひと足先に帰ろうとすると、三氏も腰を上げ、せっかくの盛上がりをシラケさせてしまった。私は日常の変化を好まない。自作の映画という幸運事にしても、それは何か厄災の前兆ではないかと悪く考える癖がある。談笑しながらも変にその不安がこみ上げて腰が浮いていた。何かあるといつもその例でご迷惑をかける。
10月〇日
自家から十分ほどの日活撮影所でプロデューサーと会う。諸般の事情により当初予定のオムニバス五作のうち「ねじ式」を外し、「ゲンセンカン主人」の題名に変更するとの報告であった。五作を1時間40分ほどに収めるのはきついと思っていたが、際作費の都合もあるとのことで自分もとくに異存はない。が、長年想を温めてきた監督には気の毒である。たっぷり金を使わせて上げたい。低迷する映画産業の現状が、かつての貸本マンガ業界の衰退期を思い出させ、せつない気持ちになる。
11月〇日
十日後、日活撮影所で雑誌「フォーカス」からの取材で、主演に決まった佐野史郎氏と監督の三人で写真撮影をされる。佐野氏はテレビドラマのマザコン役で絶妙な演技をみせ、たいへんなスターだと聞いたが、時代にズレている自分は初めてである。竹中直人氏も日活で同じ「フォーカス」の取材で会うまでは顔を知らず、周囲の者に無知を笑われた。佐野氏は中学生の頃から私のマンガを読み、今度の主演を買って出て下さったそうで、まことに有難く思う。
佐野氏がかつて愛読していたという雑誌「ガロ」からも氏にインタビューするため、私とは顔なじみの編集者が二人来た。役柄作りについて質問をされていたが、素地のままでいいのではないかとの印象を持った。
しばらくしてプロデューサーに案内され、ガロの二人と一緒に別の部屋で衣装合わせを見物する。そこで美術監督その他のスタッフを紹介される。「紅い花」の少年、少女の子役二人がその扮装をして見せた。
撮影開始は五日後からで、主なロケ地は、夏のシーンで紅葉を避けるため伊豆の山中と下田に決定された由、約二十日で仕上げるそうだが、四作のオムニバスでこの日程は大変なことだろう。
【つげ義春ワールド ゲンセンカン主人】
つげ義春×石井 輝男著、ワイズ出版、1993年刊
<内容紹介>より
古書につき、データ無し
<大使寸評>
以下のつげ義春作品の実写映画について、原作マンガ、撮影シーン写真、つげさんの見物日記、出演者、スタッフの談話、「ゲンセンカン主人」のシナリオなどを満載した本になっていて、まさに「つげ義春ワールド」であり、つげファンにとっては・・・・堪えられないのです。
しかし、「ゲンセンカン主人」の実写映画にチャレンジする石井監督、佐野史郎たちの蛮勇が、ええなぁ♪
・李さん一家
・紅い花
・ゲンセンカン主人
・池袋百点会
Amazon
つげ義春ワールド ゲンセンカン主人
【対話録・現代マンガ悲歌】
対談集、青林堂、1970年刊
<「BOOK」データベース>より
古書につき、データなし
<読む前の大使寸評>
つげ義春、佐々木マキがでているのが、借りる決め手でんがな♪
この本は、ページをめくる際にそれぞれ引っかかりがあるわけで、神戸市では私が最初の読者のようである。
今まで図書館に死蔵されていたわけだが…
やっと日の目をみたわけかと、感慨深いものがあるのだ(笑)
<図書館予約:(12/22予約、1/06受取)>
Amazon
対話録・現代マンガ悲歌
この際、つげ義春関連のネット情報とか過去の日記を集めてみました。
・
つげ義春の画像
・
芸術新潮1月号(特集:つげ義春)
・
つげ義春ワールド☆湯宿温泉・湯本館
あと見つけ次第に、追加予定でおます。
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