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『中国化する日本』11
すでに中国脅威論に染まった大使にとって、この本の読み方が、どうしても「敵の本質とは何か?」という読み方になってしまうのです。
それにしても、中国が嫌いなはずの与那覇先生は、そういう感情を表に出さず、中国を客観視して述べるところが、さすが歴史学者という感じで・・・・歯がゆいのです。
日本は「中国化」しつつある
・・・先生へのインタビュー
与那覇先生
・清朝は「中国化」社会の究極形p68~71
・ポスト「3.11」の歴史観へp293~297
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『中国化する日本』10
>目次
・憲法改正をまじめに考えるp288~283
・近世で終わった歴史:内藤湖南の中国論p31~33
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『中国化する日本』9
>目次
・日本の未来予想図1p278~280
・日本の未来予想図2p281~283
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『中国化する日本』8
>目次
・郡県化する日本:真説政治改革p247~248
・ベーシック・インカムをまじめに考えるp275~278
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『中国化する日本』7
>目次
・中国化した世界:1979年革命p233~235
・真説バブル経済p239~240
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『中国化する日本』6
>目次
・真説「大東亜戦争」p206~209
・真説田中角栄p223~225
・人権は封建遺制であるp267~271
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『中国化する日本』5
>目次
・真説日中戦争1p197~200
・真説日中戦争2p203~205
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『中国化する日本』4
>目次
・真説明治維新p120~123
・真説自由民権p138~140
・工業化された封建制p167~169
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『中国化する日本』3
>目次
・明朝は中国版江戸時代?p61~63
・窓際族武士の悲哀>p103~105
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『中国化する日本』2
>目次
・「中国化」とは本当は何かp15~17
・真説源平合戦p43~45
『中国化する日本』1
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<清朝は「中国化」社会の究極形>
p68~71より抜粋
中国史上最後の王朝である清朝は、明朝の後半、東シナ海周辺の闇経済の利権をめぐる勃興マフィア勢力どうしの『仁義なき戦い』を制した、満州族が建国したものです。そもそも最初に先手を取ったのは、分裂抗争していたさまざまな組の大合同を達成した日本マフィアでした――これがいわゆる、豊臣秀吉の朝鮮出兵(1592~98)ですね。
秀吉の狙いは、最低でも朝鮮半島をシベリア近辺まで征服して環日本海貿易圏を独占し、可能なら寧波(上海の貿易港)に自身の根城を移して東南アジア交易をも支配下に・・・というあたりにあったといわれています(村井章介『海から見た戦国日本』)。結局、この野望は李氏朝鮮の抵抗と明の援軍の前に潰えますが、これでいよいよ明朝が疲労困憊したところに、トンビが油揚をさらうごとく天下を獲ったのが、満州マフィアの愛新覚羅一家です。
マフィアマフィアとしつこく書いていますが、これは元来、明朝が社会主義政権のごとく自由経済を抑圧するからマフィアとしてやっていかざるを得なかったという話で、別にマフィアだから野蛮とか遅れているとかいった話ではありません。むしろ、長らく「夷荻」として卑しまれてきた満州族から「天子」を出した清という王朝は、宋朝以降の中国社会の変化を集大成した、ひとつの極点ともいうべき文明でありました。
(中略)
紫禁城が「是的!(Yes,We can)」の大合唱に包まれたかどうかは知る由ももありませんが、これはジョークではありません。バラク・オバマ氏の演説の巧みさが、「差別されてきた黒人である自分でも大統領になれた事実こそが、アメリカというこの国の輝かしい伝統であり希望の証」という形で、放っておけば自分と対立しそうな人々をも、彼らが奉じる建国の理念に訴えることで味方に取り込んでいく点にあることは、よく知られていますね。
実は、「少数民族による多数派統治」というディレンマを抱え込んだ清朝のヨウ正帝も、自分を批判した漢人の儒学者を教え諭すという趣旨で書かれた『大義覚迷録』(1729)で、まさしく同じことをやりました。主流派である漢民族の人々が掲げてきた理念が全世界に通用する普遍的なものであるからこそ、それを正しく身につけた人物であれば、天子の座についてもよろしいのであって、「夷荻」が皇帝になることは中華帝国の恥辱ではなく、むしろ進歩を示すことなのだと、アピールしたのです。
さらに、満州族は中国本土に侵攻する前に、モンゴル族とも義兄弟の契りというか同盟関係を結ぶのですが、その際に元朝以降、彼らの信仰となっていたチベット仏教(昔風にいうラマ教)を摂取しています。そこで、大陸の覇者となりチベットを傘下に収めた後でも、漢族に対して「儒教道徳の実践者」として君臨したのと同様、モンゴルやチベットに対しては「仏教の庇護者」として振る舞うという使い分けをしたので、今日とは対照的に、清朝政府とチベット民族との関係はおおむね良好だったと見られています。
この相手の信じている理念の普遍性をまず認め、だったら他所から来たわれわれにも資格があるでしょうという形で権力の正統性を作り出すやり方が、宋朝で科挙制度と朱子学イデオロギーが生まれて以降の、かの国の王様のエッセンスです。言い方を変えると、世界中どこの誰にでもユーザーになってもらえるような極めて汎用性の高いシステムとして、近世中国の社会制度は設計され、そのことを中国の人々は「ナショナル・プライド」にしてきたと見ることもできます。
この清朝は、経済政策でも宋朝以降の路線に極めて忠実で、人頭税を完全に放棄して民衆の所在の緻密な把握を諦め、貨幣流通の管理も民間に丸投げするなど、ほとんど政府が社会のために何もしない究極の自由放任政策をとったことで知られています。この結果、明朝の統制経済から一変して、社会に活気が戻り未曾有の好景気が生まれたことも確かです。
これはまさしく、世界で最初に身分や職業を自由化した、中華文明の光の側面でしょう―― 一方、それと表裏一体の影の側面としては、国家が再配分機能を放棄していますから、(現在の中国と同様)市場競争の勝者と敗者とのあいだに、絶大な格差が作られることになりました。
この場合、できる限り親族ネットワークのメンバーを増やしてサヴァイブしようとするのが、やはり宋朝以降の宗族主義ですから、清代の中国は空前の人口増加を経験し、そして政府は万事レッセ・フェールで、それをコントロールする手段を持っていません。
すなわち、近年まで中国を悩ませてきた過剰人口時代の始まりであり、それがやがて、近代にはかの国の衰退を導くことになります。
朝鮮半島をめぐる日本マフィアと満州マフィアという表現が斬新ですね♪
また、清代の人口増加を反省し、共産党による一人っ子政策が採られたようですが・・・
与那覇先生も中国の人口問題に着目しているとおり、中国が自壊するとしたら人口問題と格差からでしょうね。
ということで、
老いゆく中国
を読み返してみましょう♪
<ポスト「3.11」の歴史観へ>
p294~297より抜粋
本書の「はじめに」に、「『2010年代』を迎える前後から1~2年間をかけて、『日本社会の終わり』が徐々に明らかになりつつあったのであり、『3.11』はそのことをあからさまにする、最後の一撃となったに過ぎない」と記したのは、そのことです。むしろあのような未曾有の天災の前後においても、私たちの社会が抱える問題の構図は、表層的には変化していても、その根幹においては変っていないのだと思います。
なるほど、日本人が在日米軍に対して感じる親近感は、「辺野古ヘリポート反対」と「トモダチ作戦」のあいだで真逆になりました。しかし、沖縄という島嶼に基地が偏在し、福島の沿岸部に原発が立地してきた理由は、同一のまま何も変っていない。「中国に屈するな!」という「右寄り」のスローガンが、「原発即時全廃!」という「左巻き」な旗印に変ろうとも、合理的戦略よりも情動的倫理感情に突き動かされた群衆行動が放つ熱気と危うさは、やはり一貫しています。
この意味で、「震災前」から一貫して「中国化」という観点で、日本がなぜ行き詰まったのかを考えようとしてきた本書の試みは「震災後」も決して無意味にはなっていないと思っています。否、むしろ「ポスト3.11」においてこそ、「長い江戸時代の終焉」という視点は、ますます重要になってくるものと判断しています。
あの巨大地震の後でも、ひとまずは自らの統治機構を信じて秩序整然と「城郭」への避難行動をとることのできた、戦国時代以来の日本人。物資が窮乏する中で、村ぐるみで助け合って地域の灯り守り続けようとした被災地の人々。それらにまつわる挿話を聞くと涙がこぼれます。
しかし一方で、被災地でもないのに「我が家に備蓄を」とばかりに買い占めに走る姿、放射能汚染が噂される事物や避難者を「この土地には来るな」として排除しようとする地域、そして縦割行政と前例踏襲、コンセンサス重視の組織慣行に阻まれて強いリーダーシップを取れない指導者。これらもまた(「郡県性」に対する)「封建遺制」、ないし「長い江戸時代」という同じコインの表と裏なのです。
そして、ついに多くの日本人が、政府の公式発表も選挙を通じた議会への信託をも信頼せず、むしろ統治者に対する道徳的糾弾と直接行動のみによって、やり場の無い怒りを民意として表出しようとしているように見えます。それを、歴史上これまで何度も生じてきた「中国化」の最後のリフレインとして把握してはいけない理由は、私には見だせません。
この国の人々が生活の基盤を置いてきた地域という共同体が丸ごと飲み込まれてしまうような大津波の経験、さらあに政府や企業の公的機構では行き届かないケアの不足の中で、ある意味で日本人は初めて、中国のような社会で生きるとはどのようなことかを、理解しつつあるのかもしれません。そもそも、生活地域が丸々消滅してしまうような洪水、旱魃、疫病等は、地形が比較的平板かつ大河の多い中国では古代から頻繁に起きたことで、だからこそ中国人は危機の時には「一箇所に家族で肩を寄せ合う」のではなく、「宗族のツテを辿ってバラバラに他の土地へ逃げる」選択をしてきました。そして公的政府がほとんど生活の面倒を見てくれず、永続性のある企業共同体も乏しかったからこそ、いざという時は既存の制度や組織ではなく、個人でポンと寄付をしてくれるような「有徳者」のネットワークに望みを託してきた(ないし、託さざるを得なかった)
そのような状況にまさに今、日本社会は入っていきつつあります。もともと行き詰っていた「長い江戸時代」の崩壊が、不幸にも大地震という、悲惨な災害によって加速されたことで。
たとえば津波に生産手段のすべてをさらわれてしまった沿岸部はもとより、原発事故による放射能汚染(および風評被害)が拡大する地域において、もはや江戸時代の職分性と同様の「公共事業や規制政策による雇用維持を通じて生活保障を代替する」やり方が、通用しないのは自明でしょう。ましてこれから「脱原発」を真剣に考えるのであれば、原発産業の撤退による地元経済の停滞、さらんは電力コストの増大による日本全体の産業空洞化がもたらす雇用の減少も視野に入れつつ、いまこそ「雇用に依存しない福祉」を一から作っていかねばならない。
しかし、これまで地域や職場ごとに結ばれてきた絆を失ってもなお、私たちは生きていけるだろうか。あるいは中間集団なき流民と化した国民と、生活の手綱を一手に握る国家とが対峙した時、そこには日本史上かってない専制権力が生まれはしないだろうか。
たとえばこういった問題を探るヒントを、かような状況の大先輩とも言える中国の歴史にも求めながら、われわれは模索を続けていかざるをえない。もはやそこに安易な希望はなく、ただただ陳腐で気の遠くなるような反復があるだけだとしても。
与那覇先生も、この章では庶民の憤り、倫理観に共感しているが・・・・・学者としての冷厳な洞察はいささかも揺るがないようですね。この本を読んだあとは、大使の歴史認識のタイムスパンが、少なくとも室町時代くらいまで広がったことは確かです。
だけど、気の遠くなるような反復・・・・与那覇先生の希望の芽を摘むような洞察はとりあえず聞き流しましょう。(さもないと精神衛生上、よくないのです)
中国や日本本土、そして米軍まで、付かず離れず付き合ってゆくしかない地政学的地域で暮らした与那覇先生だけに、地に足がついた骨がらみの歴史認識なんでしょうね。
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