ら組三番町大安売屋碧眼の魔術士

2005年05月03日
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カテゴリ: ラピスの休日

「お安くないね。いつのまにラピスでこんな可愛いお嬢さんを育てていたんだ?」

「何言ってるんだ。初心者講習会で知り合った、弟子だよ。」


 シャルベーシャの申し入れを、ギルドマスターである軟弱な魔術士の碧眼はからかいながらも快諾し、同時に彼自身のサブギルドへの移籍も取り計らってくれた。こちらであれば、サブではあるが、近い階級の冒険者も多く在籍している。彼は同じギルドに彼女の名前が並んだことを見て、ようやく安堵した。

「まぁ、2人の時は邪魔しないようにするさ。私もそんなに野暮じゃないって。



 目立つ旗としてラピスの地である程度は名の知れたギルドだけに、ここにいれば一緒に遊ぶことの出来る冒険者も多いだろう。自分のいない時間、大切な彼女が少しでも楽しく過ごして欲しいと彼は願った。変に気を回す魔術士に悪態をつきながら、彼は同じ旗を背負うことになった弟子と共に、また狩り場へと歩き出した。


 幸いにもそのギルドには、彼が住む世界で時折り見かける冒険者の、ラピスでの別の姿も在籍していた。後に彼女をよろしく頼むと、彼は声をかけて歩いている。もっとも声をかけられた側は相当に驚愕しただろう。雲の上にいるような遠い存在の人が、突然に見ず知らずの相手に遠いラピスの地でのことで頭を下げに訪れたのだから。


 落ち着いて過ごせる場所を得た凰赫だったが、そう簡単に親しく話せる相手が増えるわけもない。けれど、背負った旗を見て声をかけてくれる人もいた。深夜になるとふらりとギルドを訪れる冒険者もあり、彼らが新しい友人を紹介していくうち、言葉を交わす知人が少しづつ増えていった。





「凰赫さん、お師匠がもういないなら支援しますぜ。
 俺を探して見つけ出してくださいよ。」




「どうしよう・・・!」

 喜びより困惑が先に立った。同行していた聖騎士はそれが本職ではないし、戦乙女である彼女にも無用のものだ。けれど自分の目の前にコエリス神がこれを落としたことの意味を考えると、ただ売り払ってお金を分ければいいものとは思えなかった。このルゥを持って楽しんでくれる身近な人に渡したいと心から思った。

 彼女は同行していた聖騎士と、長い間話し込んだ。師匠であるシャルベーシャと出会ったからこそ、今も自分はこの大陸にいる。おそらく彼の地での師匠は、これ以上の武器を手にしているだろう。けれど、ラピスの地で一緒に過ごす師匠にこそ、自分が初めて得たこの剣を持って欲しいと思った。


 そんな彼女の思いを理解し、同行した聖騎士は笑顔で答えた。

「凰赫さんのお師匠に差し上げましょうや。

 そして、もしも引き取り手がない時には、2人でカイヌの橋の上に乗って、
 ルゥを放り投げて、消えていくのを見守る会にしましょ。ね。」 







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最終更新日  2005年05月03日 02時40分54秒
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