はにわきみこの「解毒生活」

PR

カレンダー

プロフィール

haniwakimiko

haniwakimiko

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2005.03.29
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 それにしても、私はずいぶん奥手だったなと思う。適当に優しそうな人を捕まえて、恋人ごっこを堪能することだってできたはずなのに。腕を組んで歩く。服を選んでもらう。腕枕をしてもらう…

 でも、形から入る恋人なんて欲しくなかった。もっと、私を深く知って、他の人じゃなく、私でなきゃダメだって言ってくれる人じゃなくちゃ嫌だった。

「龍ちゃんは優しいから、その子の希望をかなえてあげたんだね。付き合いたいって言われれば付き合ったし、別れたいといわれればその通りにした。でもさ、龍ちゃんはホントに好きだったの? 相手のこと」

「痛いところをつくね。そう、オレは押されると弱い。相手に勢いがあると、かわせない。まず、理想の女性像っていうのが無いんだよ。みんな可愛いし、みんないいところがあるって広くとらえちゃう。だから誰がきても受け入れられるのかもしれない。ストライクゾーンが広いんだよな。
 特別な誰かに魅力を感じるってことが、あんまりなかったんだ」

「こだわりがなさすぎるわけ」

「そう。そんな中で、改めて見た東華は飛び抜けていた。個性ってこういうことか、って思わされた。すごく惹きつけられたんだ。大人なんだけど、精神的には子供っぽい所もある。発想は自由でしなやか。冒険心があって積極的。まあ、国立家の女性はみんなそうだけど」

 冒険心と積極性ね。私には薄いけど、確かに東華と奈々にはそれがある。母の若い頃もまたそうだったらしい。

「大学に入ったら、酒を飲むようになるじゃない。東華はいい店をよく知ってたし、飲みながらの会話も弾んだ。週末になると国立家で朝まで宴会ってときもあったよ。亜南が受験を控えてるから、あんまり騒いだりはしなかったけど」

いろんな意味で、私は二人に置いてきぼりをくらっていた。
 今聞いてみても、やっぱり、おもしろくない。


「東華のことが好きだって気づいてからは大変だったよ。
 その気持ちを黙って今まで通りの仲のいいイトコでいるべきか。それとも、もう一歩踏み込む勇気を出すのか。
でも、今までの時間の積み重ねは、たとえこの恋が成就しなくても、消えて無くなるものじゃないだろ。気まずくなるのはイヤだけど、もっと近づきたかったんだ、彼女に。
 誰かにさらわれてしまう前に、隣に並んで歩いていたかった。

 あんなに必死になったの、あれが初めてじゃないかな。もう断る隙は与えないって感じで」
「今度は自分が押す方に回ってみた、ってこと?」

「後にも先にもあれっきりだよ。絶対この人と一緒にいたいと強く望んだのは」
 ふと。
 千紗のジェラシーの原因がわかった気がした。彼女はおそらく自分からぶつかっていったのだ。だからいつも龍一の気持ちを確かめたくて仕方ない。
彼が私に夢中なんだ、という自信があればあんなにキャンキャン吠える必要はない。

「そんなに好きだったの。別れるときつらくなかった?」
「男だから泣いちゃいけないってこともないだろ。 泣いたのはオレで励ましたのが東華。どうして彼女は、自分がつらいときでも人を励ますことができるのか、って思うともっと泣けてしかたなかった


「そう、東華の妊娠。彼女はオレに率直に事実を説明してくれた。
 今、子供を産むわけにはいかないから、病院に行っておろすつもりだと。もし嫌じゃなければ付き添って欲しい、書類に名前が必要だからって。
 一瞬、考えなくはなかった。結婚してもやっていけるんじゃないかって。親同士は近所に住んでるし、親戚っていうベースはすでにできてる。ひょっとしたらうまく行くかもしれないじゃないか、って。

 でも現実的じゃないよね。それに東華はハッキリ言った。
今の私には出産や結婚に魅力を感じていないし、他にやりたいことがある。ひとつの命をつみ取るのは気が引けるけど、私自身の人生の方がもっと大事なの、って。ひどい女と思われてもいい。私は自分にウソをつかないで生きたい。



「やっぱりそういう事件があると、つきあいは続かないものなの?」

「今でも忘れられないよ。東華は、オレとの間の子供だってことは嬉しい、って言ったんだ。ただ時期が悪いって。冷凍しておければいいのにね、って言われたとき、どうして自分に経済力がないのか悔やんだよ。もしオレの方が歳が上だったら、そのときから家庭を作ることが出来たはずだから。好きになったのが早すぎたのか。それとも彼女は永遠に追いつけないほど先を歩いているのか。
 別れることになったのは、 オレが自分の未熟さにうんざりしたからだ。 惚れた女を幸せに出来ない自分には恋をする資格なんかないって。彼女にはオレよりももっといい男がふさわしい。そういう人が彼女の前には必ず現れる、って。だって東華はすてきな女性だから」

 龍一にとって、東華との恋が壊れたことは相当なダメージだったのだ。
 私がハワイで壊れた友情のことを引きずってきたのと同じ。
 龍一はまだその傷に自分で塩を塗り込んでいるのだろうか。

「龍ちゃんの失敗は、東華を好きになった時期が早すぎたことじゃないよ。避妊に失敗したっていう現実が引き金になっただけなのよ」

 龍一は細めていた目を開けて、私を見た。

まさかそんなに深い傷を負っているとは思ってもみなかった。その時、力に慣れなかったどころか、こんなに時間がたってからほじくり返すなんて。悪いことをしたな、という後悔がわき上がった。

「子供を産んで育てるってことは、その段階から大きく生き方が変わってしまうってことじゃない? やめておく、っていう選択肢があっていいのよ。 奈々は絶対子供を産むってムキになったから、結婚でひどい目にあったんだし





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005.03.29 07:28:06


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: