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去る10月6土7日8祝、の3連休、私は山口県で「みそ仕込み祭り」に参加していました。会場となるのは、陶芸家のご自宅(工房・ギャラリー併設)です。ここでは、年に1回、20~30人の人が集まって、この土地独自の「麦味噌」を仕込みます。(最終日、みんなで容器にお味噌を詰めているところ)私がこのお祭りに参加するのは今年で4回目。みんなで仕込んだお味噌は、材料費と引き替えにそれぞれが持ち帰ります。麹歩合が多い、甘口の麦味噌は、なんと仕込んでから1週間目から食べ始めてOK。少しずつ大切に食べてきましたが、ちょうど1年たった昨年仕込みのお味噌のおいしいこと!このお味噌は、麦を蒸して麹菌をつける、「麹作り」から始まります。そのため、麹の発酵に適した気温(28度)が保てる夏~初秋に行われ、麹の花が咲くまで、全行程は2泊3日必要なのです。(今年は、全部で164kgも出来ました!)さて、この間、晩ご飯は「お疲れさま宴会」となります。参加者がそれぞれ「差し入れ」をもってくるので、大変なごちそう。今年の私達は、「盛岡ベアレンビール」を選択。普段から、ベアレンの作る様々な限定ビールを楽しんでいるのですが、今回、ちょっと思いついたことがあったんです。「20~30人も集まるんだから、樽生ビールで注文できないかしら?」と。過去、5L入りの樽のオークションをしていたこともあるし、もしかして相談してみたら何か方法があるかも!2年前、岩手の花巻温泉温泉湯治をしているときに、足を伸ばしてベアレンビールの工場見学にでかけた私。店長のシマダ氏と面識もあることから、気楽に相談メールを書いてみたのでした。そして、この直感は正しかったのですっ!「10Lの樽ならあるので、作れます。要冷蔵なので、クール便で送ります。着いたその日の内に飲みきってください」とのこと! やった~!■詰めるビールの選択肢。ベアレン樽生ビール10L・フェストビール ちなみに、この時期で選べる内容は全部で4種類。期間限定のフェストビールの他、クラシック、シュバルツ、ピルス。価格については、直接ベアレンさんに問い合わせてみてください。■ビールサーバーと、アタッチメントの話問題は、樽生ビールをグラスに注ぐには「ビールサーバー」が必要だということ。こういうマシンです。(飲食店でよく見かけますよね)幸い、今回の参加者には「山口ユースホステル」さんが居ました。食堂で使っているサーバーを借りられることに!しかしもう一つ問題が。ベアレンの樽は、アサヒタイプのサーバーに対応しているのですが、このサーバーはキリンタイプ。どうしよう~? つなげなかったら飲めないのかしら~。だった注文できないし~。するとシマダさんから提案が。「ヘッド部分の部品を付け替えれば、キリンタイプにも接続できますよ。その部品も一緒に送ります」ということで、問題解決~!無事に、サーバーから「フェストビール」を生で飲めるようになりました~!(セット完了、グラス準備OK~)そもそも、フェストビールとは、ドイツ最大のビールのお祭り「オクトーバーフェスト」で飲まれるものと同じタイプ。つまり、樽からジョッキに注いで飲むのが最高にオイシイ、ビールなのです。(通常はビンでの注文です。秋の限定1万本、売り切れ次第終了)手造り味噌を仕込むほど、ちゃんと作ったもの、おいしいものに目がないメンバーの目がキラリと輝きます!「香りがいいね!」「しっかりとした飲み口」「いくら飲んでも飽きないな~」結局、一晩のうちに、しかも、宴会半ばにして、10Lビールの樽がカラになってしまいました!考えてみたら、10Lって、500mlのグラスで飲んだら20杯分ですもんね。もっと小さなグラスで飲んでいましたが、20人も人がいたらあっという間・・・。「来年は、2樽必要なんじゃない~?」皆さんに期待されてしまい、金銭面で青い汗が出てしまう私なのであります。それにしても、フェストビールの樽生作戦は大成功!ムリな注文を聞いてくれた、ベアレンのシマダさんに感謝です!
2007.10.17
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「ハーモニーベルの音はスゴイ」と感銘を受けている私だが、この音を気軽に体験できる「CDブック」がついに発売になった。それがあなたの部屋に幸運を呼びこむCDブックである。私は、この音に出会ってから、その波動にふれるすがすがしさにハマっているのである。CDは3種類2万円弱買いましたよ!貧乏なのに! その点、この書籍で入門できる人は幸せです。定価は1575円。さらに。本の出版を記念したイベントが開かれるのだ。居田さんによれば「セッション主体の会にしたいと思っておりますので、参加くださった方には、可能な限りセッションの体験をしてもらえるようにします」とのこと。ハーモニーベル本体を使って、その「音(波動)」をカラダのツボに効かせる、というのがセッション。これは私もまだ未体験であり、やってみたらどうなるのか知りたい。しかも著者の居田さんとの「居酒屋懇親会(実費)」もアリ。居田さんの本拠地は京都。東京でパワーあふれる居田さんご本人に接する大チャンスです。詳細は以下の通り。『あなたの部屋に幸運を呼びこむCDブック』発売記念居田祐充子サイン会&ハーモニーベルセッション・イベント開催!日時:9月9日(日)16時~18時場所:読書のすすめ(http://dokusume.com/modules/store/) 〒133-0061 東京都江戸川区篠崎町1-403-4 TEL: 03-5666-0969 最寄り駅:都営新宿線・篠崎駅※18時~は、最寄の居酒屋にて居田さんを囲む懇親会も開催!
2007.08.27

時間をはずした日『クリスタルボウルと地球交響曲第6番特別上映会』7/25水 赤坂区民センターホール 前売り鑑賞券 2,000円昼の部13時開場1330開演 夜の部18時開場1830開演 [チラシ表] [チラシ裏] 7月25日(水)は「時間をはずした日」。この日にに行われるイベントに申し込んだ。 内容はといえば、これまで私が興味を持ってきたもの3種がコラボレーションしているという豪華なもの。 タイトルにある「時間をはずした日」というのは、「コズミックカレンダー(1ヶ月を28日とし、1年を13ヶ月+1日と数える暦)」の考え方。 私は数年前にこの暦と出会い、拙著「解毒生活」でも「13の月の暦」の手帳を紹介している。この暦では、1年のスタートは7月26日。その1日前は、どの月にも属さない、時間をはずした日と呼ぶ。 今年の夏至の頃は、体調を崩して「大祓」を受けることができなかった。こうなったら、この「下下」状態を脱するために、このイベントに参加してきれいなエネルギーを浴びて新しい一年をスタートさせようと思う。 実施する日にも深い意味があるが、イベントの内容も私にとっては興味深いもの。 特に「クリスタルボウル」の生演奏があるというのが見逃せない。 シンガポールの骨董屋で、チベット産のシンギングボウルを購入して以来、倍音がひびくこの楽器(?)の音に魅入られている私なのである。ぜひとも、水晶でできたボウルの倍音と、その音の重なりを身体で感じてみたいのだ。 さらに、この会場では、我が家のリビングが採用している、エムズシステムの波動スピーカーを使う。いい音を楽しめること200%保証。 とどめは「地球交響曲第6番」の上映。この作品の映画監督×スピーカー開発者×コズミックダイアリー解説者という3者によるスペシャルトークショーつき。 ここまで私のツボを直撃するイベントもめずらしい。 チケットが2000円というのも、貧乏ながらも出せないわけじゃない、という微妙なさじ加減。 私、行きます。このイベントに。 会場で妙な格好をしている女性がいたら、それがおそらく私です。 興味がわいたら今すぐチェック! 会場でお会いしましょう~。
2007.07.09
タイムドメインlight公式HP http://www.timedomain.co.jp/■毎週土日はサロンコンサートを実施[南青山] もう、すんごいものを買ってしまった。ダチョウの卵ぐらいの大きさ2個組のスピーカー。その名も「タイムドメインLight」。従来の発想をくつがえす独自のタイムドメイン方式を採用したスピーカーである。 実は、我が家のリビングには、ダーリンがすでにエムズシステムの波動スピーカーを導入している。こちらもものすごくいい音がしており、お気に入りのスピーカーではある。しかし、2Fの仕事部屋&寝室に置く、小型のスピーカーが欲しいなと思っていたのである。 そんな折り、タイムドメインの社長みずからが開発秘話を語り、スピーカーの実演をしてくれるイベントに参加するチャンスがあった。 実際に聞いてみたら、そのあまりのすごさに驚き、「即断即決、即購入決定」とあいなった。 全く新しい発想ということで、従来のオーディオマニアからは逆に反発を食らっているらしい。これまでスピーカーやアンプに大金を払ってきたユーザーにとって「2万円を切るシステムなのに、こんなに音がいい」ということは「絶対にユルセナイ、認められない」気分なんだと思う。 しかし、シロウトとしては、「安くて良い物なら、いいじゃ~ん」というのが本音。マニアからは「あれでは低音が物足りない」という声があるが、私は低音にコダワリがないので問題なし。というか、低音を重視する音楽を聞いてないんですよ、普段から。むしろ中~高音域がキレイに響くほうが重要。 このスピーカーのスゴイところは、「音の粒が立ってる」ってところ。 特に、アコースティックな楽器の音源に向いている。ギター演奏なんてスゴイよ。押尾コータロー、GONNTITIあたりはバッチリ。「スグそこで演奏しているみたい」なの。 そして、ボリュームが大きくなくても、空間全体がふわっと音に包まれて、空気が浄化されるような感じ。 ギターも良いけど、ヴォーカルもいい。デモンストレーションでは、ノラ・ジョーンズを使っていたけど、これもすぐ耳元で歌ってくれているみたい。小野リサもいい。部屋の一角で演奏しながら歌っているような気分になる。発音しているときの口の形まで再現されている、というカンジ。 そういう意味では、語学学習の発音レッスンにもピッタリ。 実は私は、先日購入した「ハーモニーベルClean up & Power up(クリーンアップ&パワーアップ)」の音源を聞くためにこのスピーカーを買ったのである。 ココロと脳みそに音がしみてきて、いい気分でパソコンに向かうことができるのである。 しかも、このスピーカーから出る音を聞くと、免疫力がアップするという実験結果も出ている。ちょっと信じられない気もするけれど、ここから出る音が心地よいのは確か。毎日触れる音、空気に、いいエネルギーを流すって、心身にいいに違いないと思う。 今、私は、部屋に引いている「ゆうせん」のチューナーに接続するピンプラグを探してるところ。これをつないで、ゆうせん440チャンネルの豊富な音源を浴びてみたい。今から楽しみ!
2007.07.05
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カルメン・エレクトラのセクシー・ボディー・レッスン BE ACTIVE公式HP http://www.carmen-lesson.com/ [~8/31まで]インターネットで動画を無料配信中 今年の5月から、私の中で「エクササイズ」がブーム。40歳を越えて、放っておけばどんどん肥大化する身体とゆるみそうなココロを同時に鍛えよう、と立ち上がったのである。 以前から愛用している体操DVDは、ニューディメンション / シンディ・クロフォードなのだが、さすがに毎日のように使っていると、飽きてくる。そろそろ違う内容も試してみたい。 今大ブームのビリーズブートキャンプ DVD版も導入し、実践してはいるのだが、いかんせんキツい。そこで注目していたのが、「カルメン式セクシーメソッド」なわけです。4枚組でリリースされており、バラ買いも可能。このシリーズの売りは、「ストリップのワザを取り入れたダンスエクササイズ」なのだが、その中でも1枚だけ「本格的なフィットネス版」が用意されている。 それが「BE ACTIVE」。 トレーナーのマイケル・カーソンが、カルメンに指導をしながらエクササイズを展開する作り。 男性陣からは、「踊るだけじゃん?」とか「くねくねしているだけで痩せるわけがない!」なんて言われているのだが、まず、この1枚を見てから意見して欲しい。 「BE ACTIVE」の55分間、すべて同じ動きをしたら、すごい運動量なのだ。ビリーのように動きは早くないが、動きのキツさは、ほぼ同等。 実際にやってみたら、次の日、あちこちが筋肉痛に。これまでやってきた体操のメニューとは異なる部分に反応が出ている。具体的に言うと、首の付け根、肩の上、背中の真ん中、脇腹。 この1枚の内容は、かなり真剣なフィットネスメニューなのだ。 踊れる身体、人に見せられる身体になるためには、まず、鍛えて引き締めるところから。その「基本のキ」を抑えている。「別に、セクシーに踊らなくてもいいわ」と考えている人でも「エクササイズで身体を引き締めたい」と思うなら、この1枚をお奨めしたい。4枚組ボックスタイプ カルメン・エレクトラのセクシー・ボディー・レッスン DVD-BOX
2007.06.22
年に3回(春分、夏至、秋分)に行われている、1回完結の「エッセンスのオリジナルボトル(ドースボトル)作り」のワークに参加した。 講師は、会員制リヴァイタルサロンを経営している先生。私はこの先生のサロンに通い始めてもう10年のつきあい。普段は、2時間という予約時間の中、私の心身の悩みを相談している。一方、ドースボトル作りのワークでは、一度に40人の人を集めて、その前で先生が自分の思いを語り、体験を分かち合う場である。今回のドースボトルは、「鉱物のエッセンス」と「植物のエッセンス」を選んで作る。鉱物のエッセンスとして選ばれたのは、アラスカンエッセンスの、ジェム・エリクサーシリーズから、6種類。エッセンスの種類は沢山あるのだが、今年の夏至のパワーを最大限に引き出すのはこの6種類、というセレクトを、講師の先生がすでに行ってくれている。*私が今回選んだのは、「スモーキークオーツ(Smoky Quartz)」→肉体のエネルギーと大地の絵寝る技^を同調させ、不要なエネルギーをとりのぞく。安定感を深め、保護作用がある。大地と第1チャクラとつながる。*続いては、植物のエッセンス。すでに日本でもポピュラーになった、バッチ博士のフラワーエッセンスから12種類、マザーラックフラワーエッセンスから23種類。ここから、今の自分に合うものを選ぶ。さて、今年の私は。「インディアン ビーンツリー Indian Bean Tree」→平和、瞑想、素晴らしい瞑想の木「ミモザ Acacia dealbata」→元気を与えてくれる木。御^ストラリア原産の木で、英国に持っていっても、母国と同じ時期(1月=オーストラリアでは夏、英国では冬)に花を咲かせるパワフルな木であった。* 毎回、選んだエッセンスからの受け取るメッセージは異なる。 今回の私は、「地に足をつけて、自分らしさを全開に、あきらめることなくコツコツと、目的達成のためにガンバレ」という意味らしい。自分ではそう感じる。うーん、まさに今人生そういう時期ですわ。 大勢の人とひとときを共有し、それぞれにメッセージを受け取って帰る。 いつも、山の中で静かに暮らしている私にとっては、心地よい刺激なのであった。 さっそく、作ったドースボトルから毎日数滴、飲んでいる。 ともすればくじけそうになる気持ちをもり立ててくれる、そんな効果をヒシヒシと感じる。
2007.06.17
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Clean up & Power up(クリーンアップ&パワーアップ) 演奏時間 43分12秒 先週の金曜日、メルマガを読んでいて私のアンテナにひっかかった商品。それは、音楽ともちょっと違う「音のCD」。使われている楽器(道具)の名前は、ハーモニーベルという。いくつもの音叉を使って、美しい音の共鳴を生み出すのだ。 視聴用の音源ファイルを聞いて、即、購入を決意。 とにかく、聞いていて気持ちが良いのだ。 毎日ハードな体操をするようになって「交感神経」が刺激されてしまい、便秘が続いていた私にとって、この音はまさに「副交感神経」のスイッチを入れてくれるもの。聞いた瞬間に、呼吸が深くなって、腸がぐるぐる動き出したのがわかった。 届いたCDを聴いてみると、音が流れている空間そのものが、静かで心地よいものに変わったのがわかる。説明によれば【「部屋の浄化&運気アップ」のために誕生した~風水にもとづくイヤシロチCD~ 】という。うん、まさにそういう感じ。 ちなみに、イヤシロチ(弥盛地)というのは、古代カタカムナ文献によると、なんとなく気分がよい場所、土地のことを意味するそうだ。なるほど! この音源をながすことで、その場所を「イヤシロチ」にすることが出来るのね。 すばらしい。 眠っている間に聴くと、運気がアップするというので、さっそく試してみる。 同じ部屋で寝ているダーリンにも、好評。澄んだ音色に包まれると、リラックスできるのだ。 特に、いいスピーカーで聴くとよい。違う部屋、違うスピーカーでも試してみたが、いい音を再現できるスピーカーを使うのがコツ。 価格的には、安くはないのだが(このサイトでは消費税分ヌキで5,524円)、「すごくいい買い物をした」という満足感がある。 うーん、お奨めです。 関連サイト http://harmonybell.com
2007.05.28
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ニューディメンション / シンディ・クロフォード 2007年5月15日より始まった、はにわきみこの「2週間で2kg減量大作戦」。(詳しくは、素焼きの部屋からを参照して欲しい) 今一番人気といわれるビリーズブートキャンプ・エリートも購入して試しているのだが、やっぱりこのDVDに戻ってくるのだ。 その理由は、私は「女性」だから。 女性が痩せたい、と願うとき、その本音は「ただ、体重が減ればいい」ではないはずだ。それに「マッチョに引き締まりたい」でもないはず。 やっぱり、女らしく」とか「ぼん・きゅっ・ぼん」というメリハリボディを求めるものだと思うのだ。 そう考えたとき、これまで買ってみた体操DVDの中で、一番長く楽しんで使っているのがこのプログラム。 基本的に、産後の女性のために作られた運動メニューなので、ハードすぎないのが特徴。赤ちゃんの世話をしながら無理なく続けられるよう、12分、16分いう短いメニューもある。私が最近、毎日やっているのが、3つめの「41分プログラム」。 ストレッチ、ダンベルを使った筋トレ、スクワット、ステップを踏む有酸素運動、腹筋などがちりばめられたメニューで、毎日やっても飽きない。しかも、それぞれの動きの回数が「あー、もうツライ。これ以上ダメっ」と思う直前に、別の動きに変わってくれるのだ。これならなんとかついていける。 他にも数種類DVDを試しているのだが、これが一番飽きが来ない。 女性に勧めるなら、これしかない! 引き締まったカラダで夏を迎えようではないか!(めずらしく、ダイエットにマジな今日この頃)
2007.05.27
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みなさま、ご無沙汰しています。「たまらない女」のはにわきみこです。今日は、解毒生活とは直接関係ないんですが、お知らせをひとつ。実は、2/24土に、講演会にゲスト出場することになりました。女性向けの講演会で、タイトルは、「フリーランス講座 実践編 ~明るく楽しいフリーランス!~」詳細は、こちらから。 参加費5000円、事前申し込みが必要です。http://www.miraikan.go.jp/kyaria_kaihatsu/222.html【コーディネーター】福沢恵子【パネリスト】◆勝間和代(経済評論家)◆はにわきみこ(フリーライター)私は、「パネルディスカッション:フリーランスの実態」のなかで、フリーランス実践者として登場します。選んでいただいた理由はズバリこの本。 最後には「交流会」も予定されています。お会いできるのを楽しみにしていますよ!
2007.02.15
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REVEX(リーベックス)24時間プログラムタイマー PT24タイマーPT24のQ&A ここ何年も、冬になると欲しい!と思っていた、タイマーがついに登場。我が家はこのタイマーを2個も買っているが、非常に便利なのでご紹介したい。この製品の特徴は「24時間15分単位で何回でも、電源を入/切できる」ってこと。1つまみ15分単位のギアがついていて、へこませるとオン、平らに戻すとオフ、という仕組みになっている。 我が家がこれを何に使っているかといえば、「ホットカーペットのオン&オフ」なのだ。 旅行の多い我が家では、冬季の猫対策が心配。深夜にふるえていないか、といつも気になっていた。でも、ホットカーペット自身は、安全対策のために連続使用×時間で電源オフになるしくみ。毎日決まった時間に通電させるため、このタイマーをコンセントの間にかませているのだ。 つまり、22~24時までオン→30分間オフ→24:30~03時の間オン、というように、こまめにスイッチを切って、連続通電させている。これならカーペットの上で眠る猫もほっかほか。 もう一つは、電気ヒーター。あらかじめ部屋を暖めることができるし、これを使えば電気の消し忘れ対策にもなる。 メーカーとしては「安全対策グッズ」(留守の間、人がいるように見せるために電気をつける)、「イルミネーションの節電」(夜中になったら自動的に電気オフなど)として扱っているが、工夫次第で使い道はいろいろありそうだ。 寝る前にふとんを電気毛布で温めている、というような人にも、いいんじゃないかな。
2007.01.17

ユニティ 耐熱ガラスのティーカップ、ポットなど、組み合わせて自分流が作れるユニーク食器。価格はすべて税込み、送料別。ユニティ+耐熱ガラス カップL 400ml ¥788ユニティ+プラスチックストレーナーL ¥578ユニティ+耐熱ガラス リッド 価格: 368円(税込) 発売元癒しのセレクトショップ「i.nestアイネスト」自分らしく創るティータイム「UNITEA(ユニティ)」 中国茶にハマって2年、毎朝毎晩、我が家では工夫茶を楽しんでいる。しかし、パソコンに向かう作業中に、ちまちまお茶を楽しむのはちょっと難しい。自分ひとりでお茶を堪能できるカップがあればなあ。しかも、茶葉や水色(すいしょく)が楽しめる、耐熱ガラスのマグなんかいいわ。でもフタがついてなきゃダメ。だって、ティーバッグだって茶葉だって、お湯を注いだらフタをして蒸らさないと香りがとんじゃうもん! そんなワガママな願いを叶えてくれるのが、「ユニティ(UNITEA)」シリーズ。 最初は、マグL(なんと400mlの大容量)とフタ(商品名はリッド)を組み合わせて買ってみた。こ、これはティーバッグにめっちゃ便利! まずは、マカイバリ茶園フェアトレード紅茶のティーバッグを試してみる。4分蒸らして取り出すと、ちょうどいいお茶の濃さに仕上がっている。こうなると、ストレーナーを組み合わせて、茶葉を楽しんでみたい。そこで、プラスチックストレーナーL、も追加購入。カップはMサイズ300mlも捨てがたいけど、大量に飲みたい私には、やっぱり、Lの組み合わせのほうがいいみたい。 お湯を注いでデスクに運び、作業の合間をぬって一口二口の休憩。ふー、いいもんだなあ~、お茶って。現在は、ストレーナーを置くユニティ ストレーナーホルダー 525円(税込)が欲しくてたまらないのであった。 実は、ユニティを企画販売している会社(株式会社キントー)は、中国茶の茶器も扱っている。そのブランド名は「チンシャン」。もちろん私はかねてよりチェック済み。やるな、おぬし!というラインナップは、私のハートをわしづかみなのだ。 先日、紅茶やハーブティーの茶葉と、ユニティのマグL・ストレーナー・リッドを組み合わせたものをプレゼントに送ったら、これが大ヒット。ふふ、やっぱりね。この組み合わせは、一人でお茶を飲む時に最高なのですわ! 画像は、ボタニカルズで購入した「ストレスブレンド」、カモミールベース。価格\2,730(税込)/100g とお安くはないが、さすがにおいしい。
2006.12.20

マカイバリ茶園フェアトレード紅茶 【有機JAS認定ダージリン紅茶】商品番号:8-FT-20 内容量:ティーバッグ 2.5g×20袋価格 945円(税込・送料別)発売元マカイバリ・ジャパン 今をさかのぼること5年前、私はマカイバリ茶園の紅茶と出会った。 それまでの私はずっとコーヒー派として生きてきた。 だって、喫茶店で飲む紅茶は色がついているだけで味がしないか、味があっても渋いだけで、おいしくないんだもの。それにくらべて街なかで飲むホットドリンクとして、はずれにくいのがコーヒー。 しかし。自然食レシピ本の完成披露パーティの席で初めて口にした、マカイバリ茶園の紅茶は、私が知っているどの紅茶とも違ったのだ。香りがある。渋みではないのに、味がある。こっ、これはなに? それからというもの、無農薬、バイオダイナミック農法で茶木を育てている、というマカイバリ茶園に興味しんしん。ついに2004年には、インドはダージリンにある茶園を訪ねて旅をした。 話には聞いていたけれど、周囲はまさにジャングル。すがすがしい空気の中「これがおいしい紅茶のふるさとなのね!」と感激したことが、昨日のように思い出される。 さてこのたび、その感激を、版画という形で表現するチャンスをいただいた。 フェアトレード製品として新発売されたパッケージ画像がそれ。文字とは違う表現方法は、大変でもあり喜びでもあり。マカイバリ茶園の風を届けられたらいいな、と思いつつ制作した。 紅茶の味の良さは申し分なし。それでいながら、お手頃価格での発売。それは「フェアトレード製品」として多くの人に、マカイバリ茶園の取り組みを知ってもらいたい、という背景もある。 自然と共存する紅茶作りを紹介するため、添付リーフレットはシリーズ物として展開予定。はにわが見て感じた「マカイバリ茶園の姿」が、素朴な版画でつづられる。 そう、おいしいものには、物語があるんです!。おいしい紅茶を、楽しんでください!
2006.11.07

日本一!旬を先取り山形の洋梨♪超大玉!優雅な芳香漂うジューシーな甘さで非常に人気の高い洋梨の貴婦人『マルゲリット・マリーラ3kg』 昨年秋、はじめて食べた大きな洋なし「マルゲリット・マリーラ」。1個500gもあって、普通サイズの洋なしの約2倍。しかしオドロキだったのは、その大きさよりも「味」。大きいモノは大味?と思いきや、その食感たるや! とってもデリケートで、クリームのような、固まるまえのシャーベットのような。冷たすぎないアイスクリーム、というか。なめらかで柔らかい甘さが、忘れられない! 500g×6個=3kgのお取り寄せを、昨年は2回注文いたしました。だって美味しいんだもん。デパ地下でホールのケーキを買ったと思えば3000円ぐらいはかかる。そう考えれば、決して高くはない。昨年はこのお店で「ラ・フランス」と「ル・レクチェ」、「シルバーベル」と各種の洋なしを買ったのだけど、その中でもダントツの味の良さ。「こんなの生まれて初めて」という感激が得られたのが「マルゲリット・マリーラ」だったのだ。今年も予約販売が始まったので、すかさず注文です! 発送は9月下旬から。今から待ち遠しい~! だまされたと思って一度試してみては。
2006.09.05
飯田橋内科歯科クリニック身体の土台である「骨盤」のズレ、屋根にあたる「あご」のズレを同時に調査し、身体の負担を取り除く治療を受けることができる。診療時間 いずれも要予約。骨盤療法(ペルビック)月・火・水・金 10~22時、木=10~20:30、土=10~17:30歯科 月~金 10~22時、土10~19時。 熱帯夜が続く間、なんだか寝苦しいなあと思っていた。ポケットコイルスプリングのベッドに変えてから、よく眠れるようになって喜んでいたのだが。近頃、あごのかみ合わせ部分がなんだか傷むのだ。 かつて、日経ヘルスの体験取材(突撃!おからだチェック22回目・かみあわせの不具合を検査の巻/2003年3月号)では、「左側のかみ合わせが悪い」と指摘されたことを思い出した。 ひょっとして、いいベッドに寝るようになって、身体の土台である「骨盤」の状態は良くなったけれど、その上に乗っている屋根「あご」にズレが移動してきたのかも。さて、どうしよう? そこで思い出したのが、骨盤チェック→かみ合わせ相談という流れの中で作ってもらった「かみ合わせ矯正マウスピース(保険適用。2003年当時の制作費は5000円ぐらい)」の存在。 あごに不調を感じなくなって以来、洗面所に水を張ってその中に保存していたのだ。時々「入れ歯洗浄剤」でケアしていたせいか、3年前に作ったマウスピースでも問題なく使える。助かった。 寝るときに、このマウスピースをはめることにした。 効果は抜群! マウスピースのおかげで、口腔内の世界が安定する。 歯を食いしばるとか、不自然に口が開く、といったことなく、あご周辺の筋肉が、ようやくリラックスしているのが、わかる。 最初は取材で訪れた飯田橋内科歯科クリニックだが、私はその後、ここを歯科のかかりつけにしている。夜遅くまで診療してくれるのも便利だ。あごのこともあるし、近いうちにまた診療をお願いしよう。昨年の手術&3週間の入院で、骨盤の状態が3年前とは変わっているかもしれないしね。
2006.09.01
株式会社ユニックス カット 5,000円~(税込5,250円)ボタニカルバス お試し価格3,500円(税込3,675円)9月末日までヘッドセラピー2,500円(税込2,625円)ここ数年私が通っている美容院は、チェーン展開をしている。(1都3県 東京・千葉・埼玉・神奈川に現在21店舗。私が愛用しているのは「川越店」、指名スタイリストは石井琢磨氏)規模が大きい、ってことは、新しい試みを研究する予算があるってことだと思う。最近、行くたびに施術を受けている「ヘッドセラピー」も非常にいいのだが、それの上を行くトリートメント法ボタニカルバスが登場したというので試してみた。ちょうど、9月末までならお試し価格なのでお手頃。カットが終了し、髪の毛を洗い流すためにシャンプー台に移動。「ボタニカルバス」は、シャンプー台に横たわった状態で施術を受ける。ぬらした頭皮に、独自配合のクリームがまんべんなく塗られ、力強い指先でマッサージがはじまる。配合されているハーブは7種。シシカイ、ヘナ、(原産国インド)、ニーム、アムラ、カチュールスガンディ、モティアロッシャオイル、アーモンドオイル(原産国スリランカ)。頭皮の汚れを取り、ハーブの持つ有効成分をしみこませ、傷んだ髪の毛にハリとツヤが戻る、というもの。においは独特。私にとっては、「タイのスチームバス」とか「インドの町に漂う緑の香り」というか。緑の青臭さの中に、苦いようなシトラスのような香りが混ざる。苦手な人もいると思われるが、私にとっては、リラックスとリフレッシュを同時に味わえる、いい香り!とにかく、頭皮そのものに、冷たくてやわらかいクリームを塗る、というのが、快感なのだ。私は、東洋医学で言うところの「頭に気が登りやすいタイプ」。頭のてっぺんに鍼を打つと、そこからプシューと毒が抜けるような気がするほど。そんな私にとって、頭皮部分をこのようにリラックスさせることは「解毒の道をつける」ことに他ならない。セルフケアもいいが、たまには他人の手を借りて、心身ともにリラックスするのもいいものだ。クリームを洗い流した後は、「ヘッドセラピー」のメニューでもある「海洋深層水海泥パック」を行う。髪の毛に潤いを持たせるための2段階ステップなのである。これが終わると、髪の毛にタオルを巻き付けた上からお湯を掛けてゆっくりパックを洗い流していく。ホント、口からよだれがツー、とたれそうなほど、キモチがよい。心底ぼーっとできる。リラックスがヘタな私にとって至福の時。髪の毛への効果というより「リラクゼーション効果」の高さで、リピートしそう。気が頭にのぼりやすい人、カッとしやすく心の平静を保つのが難しい人には特にお勧め。美容院での施術なので、基本的には、カットやパーマ、カラーなどのメニューと組み合わせて受けることになる。しかし、どこかでマッサージを受けるとか、スパに行って施術を受けることを考えたら、非常にお値打ち。財布と相談の上、予算がキビシイ時には、ヘッドセラピーを選択しよう。少なくとも今後の私にとって、カットだけで帰ることは考えられない。「月に一度は頭を解毒」なのである。
2006.08.26
「銘香 観世音 雨引観音」500円販売送料一律700円雨引観音 公式HPここイチバン、仕事に集中したいとき、私は「お香」を愛用している。「リラックスしていて脳からはアルファー波が出ている、だからこそ、いい結果が出せる」。それが私にとっての「お香効果」なのだ。特に好きなのが、神社仏閣で使われている、ちゃんと神さま仏さまにあげるお線香。お線香に火がついている間は、この空間が特別なもの、という感じになるのよね。お香は、仕事場以外でも活躍。特に、ホテルに泊まるときね。旅行でも出張でも、慣れたお香を焚くだけで、「ここは自分の場所」っていう気持ちになる。安いホテルでタバコ臭いときとか、なんとなく部屋が辛気くさいときにも効果バツグン。「場が清められる」ってことなんだと思う。これは、友人と「雨引きの里 彫刻展」の帰りに立ち寄った雨引観音で購入したもの。沈香(じんこう)の、ちょっと辛めの香り。箱には【大阪・天王寺「薫香本舗製」】と記載あり。ちなみに、私は旅行に持っていく「お香セット」として、写真の2点を活用。【そらまめ型のお香立て:210円=花巻駅そばのインテリアショップで発見】【茶さじ:250円=悟空・立川グランデュオ店で購入】この2つと、ライターを、和紙にくるんだお線香と共に、無印良品のポリプロピレンペンケースに入れて使ってます。便利!
2006.08.11

株式会社フットテクノ知恵まっと(知恵マット)・スタンダード15mm 7,800円(税込) 送料込2005年9月に購入して以来、ずーっと愛用中。「座って仕事をしていても、背筋がしゃんとして身体がスッキリするのよ!」と説明したところ、仕事仲間でこれを買い求める人が続出。ずーっと座ってパソコンを扱う仕事って、ふと気づくと姿勢が悪くなっているもの。だから、椅子にのせて座るだけで姿勢がよくなる、というこの道具はすばらしい。椅子そのもの、ではないので、持ち歩きができる。車の座席や新幹線、飛行機の移動時など、好きなところで使えるのも便利。私は、もっとも厚みのある「スタンダード15mm7,800円」を購入したが、買ってすぐの頃、「1時間椅子に座っていると、カラダが痛くなってきて、いちど立ち上がらないとツライ」という症状が。どうしてかな?と思って、商品説明をよくよく読んでみたら、「連続使用時間は1時間」と書いてあった!なーるほど。カラダは正直。1時間たったところで「この効果はちゃんと出ました。今日の分は終了」って説明していたのね!というわけで、今も、パソコン使用時に毎日1時間、この知恵まっとをお尻に敷いて作業しております。知り合いの鍼灸師さんにこの商品についてコメントを求めたら「座っている時に、骨盤が前傾になる仕組み。骨盤が正しい位置に納まるから、特に女性特有の不調には効果があるかも」とのこと。そっか、知恵まっとは「骨盤ダイエット」グッズでもあるのかも。体操するとか、治療院に通う、という手間が一切なく、「座るだけでOK」なところも、私のようなズボラさんには向いている。会社勤めの人なら、オフィスの椅子に載せて使うのもいいかも【製品展開と1日あたりの使用時間】▼時間に関係なく、オールマイティーに使用可スタンダード5mm6,800円 /スポーツ5mm6,300円 /スポーツ3mm6,000円▼3~4時間程度スタンダード10mm7,300円 /スポーツ10mm6,800円▼1時間程度スタンダード15mm7,800円
2006.08.02

取り急ぎ、期間限定情報として告知。6/8に紹介したシルクニットのキャミソールが、楽天の共同購入に登場。定価3,300円が、最終価格は1,600円に!私も前回こういう企画の時に、「ひとりで5枚買い」することで単価を1,600円にしたのだ!外気の蒸し暑さと、室内の冷房をいったりきたりする女性に、この商品はとってもお奨めできる。この値段なら、試してみるのはどうでしょう。私は胸元Vラインのが使いやすいけど、横一文字のストレートラインもあり。7/10~20の間、販売数はどちらも30着まで。<共同購入>シルクニットキャミソールVライン(限定5色)<共同購入> シルクニットキャミソールストレートライン(限定5色)
2006.07.13
*2006/06/19の報告フラワーエッセンス、をご存じだろうか。エドワード・バッチ博士(英)が、38種の植物から「エネルギー」を転写して作り上げたエッセンスだ。薬ではないが、その人の「性格」や「現在抱えている問題」にマッチしたものを選んで服用すると、病気や不調が治る、というもの。私もこれまで、治療の専門家、U先生に数種を選んでもらってきた。そのU先生が開いた、フラワーエッセンスを使ったワークショップに参加した。テーマは「光のエッセンス」。数種のエッセンスを選んで、自分だけの「ドースボトル」を作るのだ。毎年、その時期のエネルギーに合ったものを選んでプログラムが用意される。2006年夏至に合わせた光のエッセンスは、4段階のグループから数滴ずつ組み合わせた。第一段階「ジェムエリクサー(石のエッセンス)」→第二段階「環境エッセンス」→「バッチ博士のフラワーエッセンス」→第四段階「ツリーエンジェル(樹木の守護神)」。参加者は最初に、聖なるエネルギーに満ちた水(=今回は神社からいただいた湧き水)に、オーク樽で熟成させたブランデーを入れた小瓶を受け取る。そこに、自分が引き寄せられたエッセンスを数滴ずつ混ぜていくのだ。ちなみに、私が選んだものは、こう。1)ジェムエリクサー:スモーキークオーツ(肉体のエネルギーと大地のエネルギーを同調させる)2)環境エッセンス:ソルスティス ストーム(アラスカの嵐が、すべてを清める)3)フラワーエッセンス:スイートチェスナット(不死鳥のようによみがえる)4)ツリーエンジェル:アーモンド(聖なる英知がカギを与え、開くべき扉はあなたのそばにある)ワークショップはトータル4時間。選んだエッセンスに込められたメッセージを、U先生がわかりやすく解説してくれる。そう、私たちは、今の自分に何が必要なのか、本当は気が付いているのだ。それを形にしてくれるのがエッセンスというわけ。数種を混ぜてオリジナルボトルを作る、というワークショップは、イレギュラータイプ。一般的には、その製品のシリーズだけを扱う、スクール形式で行われることが多い。しかし、私はU先生の主催するこのスタイルにとっても興味を惹かれる。2004年の夏至に作った「光のエッセンス」は、私に強いエネルギーを与えてくれた。2006年の光のエッセンスでは、何が起こっていくだろう。楽天ブログでは過去の書き込みは前月までしかさかのぼれない。がーん。これからはタイムリーに書き込みをしようと決意。
2006.07.01

知り合いの治療師さんたちは、口々に「肌につけるのは天然素材にしたほうがいい」と言っている。最近はその言葉にうなずけるようになってきた。化繊を着ると、身体が冷えるのだ。「汗で身体が冷えない」というのがウリのアウトドア衣料ですら、そうなの! どうやら私の身体感覚はだいぶ鋭敏になってきている様子。そういえば、アウトドアブランドの「モンベル」も、シルクのキャミソールを筆頭にアンダーウェアのラインを展開している。シルクはコットンに比べて吸放湿性に優れているのだという。確かに、汗をかいてもさらっとしていて、コットンのようにしっとり冷たくなることがない。アウトドアブランドは機能性に優れているが、デザインで満足いなかいこともたびたび。そんな折り、私は、共同購入というワザでシルクニットキャミソールVラインを一気に5枚手に入れた。最初は、サイズがキツイかな、と心配したのだが、全然問題なし。むしろボディにぴたっとフィットして、身体をサポートしてくれる感じ。毎日5色をとっかえひっかえして愛用中。振り返れば、「シルクの腹巻き」を使っていた時代もあった。でも、腹部だけでなく、胴体全体をホールドしてくれるシルクキャミのほうが、私には合っているみたい。選ぶポイントは、シルク"ニット"(ファッション優先のキャミではなく)と、首周りのデザイン。ストレートラインがいいのか、丸いのがいいのか、はたまたVか。この辺はこだわって探すと楽しい。(もちろん値段もね!)
2006.06.08
「チャトル」小 220cc 900円/中 320cc 1000円販売:遊茶[表参道A1出口徒歩3分]ショップと茶房あり。北京を旅すること4回。どれも冬場だったけど、必ず目にするのが「ネスカフェゴールドブレンドの空き瓶に、茶葉とお湯を入れた水筒」を持ち歩いている人。ここでは「ネスカフェの空き瓶」は「高級なものを買う余裕がある、というステイタス」なんだそうだ。中国の人は、店番するとき、外出するとき、必ず自分用の温かいお茶を持ち歩く。お湯に入れっぱなしでも、茶が渋くならないため、随時熱湯をつぎ足して、茶葉が沈んだところをみはからって飲む、のである。中国食文化では、「熱湯」は「いつでもどこでも無料で手に入る」もの、なのだ。(→私はこれが非常にうらやましい!)「おお、それはいいな。あっついお茶をいつでも飲めるのは便利だ」と思っていたが、「茶こし」があればなおグッド。そこで、北京のスーパーに行って買ったのだ。アクリル製の蓋付き「口杯(コウベイ)」を。中にプラスチックの茶こしがセットされていて、茶こしの下に茶葉を入れるしくみ。フタは閉まるが密封ではない。倒すとこぼれるから注意。ガラス製も売っているが、高価になるし重いので、私はアクリル派。北京では、王府井(ワンフージン)の家庭用品売り場にズラリとディスプレイされて売っている。製造メーカーは上海にあるらしい。各国のチャイナタウンでも、見つけられる。(バンクーバーでは、ステンレス保温タイプに茶こしがついているものを発見!)台湾にはこの手の商品はないというので、「寒い土地」に限定して流通している商品だと推測する。はじめの頃は、大型のものにお湯をつぎ足して使っていた。しかし最近では小型のものを「台湾高山茶の急須」として愛用している。台湾のお茶は、「熱湯1分で抽出」し、できあがったお茶は急須からすべて注ぎ出すのが一般的。香りを楽しむお茶だから、ってことかな。そこで、私は、北京で買った200mlサイズの口杯を急須に、ベストコのステンレスボトルを茶海に見立てて、旅先での中国茶ライフに役立てている。女2人で旅するときに、とっても便利なのよ。お茶を飲むのに使うお茶碗は、北京の「天福銘茶」オリジナル、桃とコウモリ柄のもの。6客セットだけど、店のオリジナルなのでお買い得な価格設定だったの。大きさが絶妙で手になじむ、超お気に入りだ。次に北京に行ったら、絶対、大量買い付けすると心に決めている。最近、健康雑誌の編集をしている知人が、自らのブログでこの中国茶ポット(日本での製品名は「チャトル」)を愛用していると書いていたので驚いた。そう、最近では日本でも買えるのだ。ぜひお試しを。中国茶に限らず、紅茶、ハーブティーなどにも便利。
2006.06.07

ちょうど一年前、私は御茶ノ水K病院にて、子宮内膜症卵巣チョコレート膿種核出術、を受けた。執刀はは、外科技術に定評ある、婦人科部長S医師、補佐にA医師。その日3番目の手術だったので、開始時間が大幅に遅れ、手術が終わって病室に戻ってきたのは、面会終了時間(20時)ちょっと前だった。卵巣同士が子宮の裏側で絡み合い、そこに腸も巻き込んだ「凍結骨盤」という状態だったという。MRIではこれら癒着の情報を確認することはできない。お腹を切って初めて中がどうなっているかわかるのだ。子宮の外壁にも2センチサイズの筋腫ができていたという。実は大変な手術だったのだが、S部長は、難しい症例ほど腕の見せ所だと燃えるタイプ。本当にありがたい。一年前の今日、私は全身麻酔から目が覚めて「ああ、生きて戻ってきたな」と思ったのだ。全身麻酔で意識を失うのって、「死」の状態に近づいている、と思う。そこから無事に帰ってきたのだと。K病院では、手術室に入場するとき、患者の好みの音楽CDを流してくれる。何にしようか迷ったあげく、彼に頼んでパブロカザルス/バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)を買ってきてもらった。選んだ曲は「1番」だ。白い光が満ちた手術室の中、ギ~コギコギコギコ… と音楽が流れる。ストレッチャーで運ばれながら、私は、少々後悔していた。いい曲なのだが、このエコー状態で聞くと「これからのこぎりで身体を切られるような気がするなあ」と。6月6日は、私にとって大事な人のお誕生日である。その日に手術したのは「絶対に忘れられない日」になってよかった。毎年、この日は「手術記念日」にしよう。元気な身体に感謝して、これからの人生を大事にすると決意を固める日にしたい。
2006.06.06
クラール(Klal)ステンレスボトル オープン価格 330ml(実売800円前後)450ml(実売1000円前後)カラー展開 クリアブルー、クリアグリーン(2006年6月現在)製造メーカー「ベストコ(BESTOCO)」現代人に「冷え性」が増えたのは、冷たい食べものや冷たい飲み物を多く口にするからだという。そりゃそうだ。冷凍庫ができる前は、氷を入れた飲み物なんて無かったんだから! 身体に優しい飲み物は、温かいもの、ということになる。昔の私は、スターバックスの保温カップを使っていた。しかし、あれは密封できない。デスク上では便利だが、持ち歩きには不便だ(バッグのポケットに入れてこぼれた経験がある)。そこで、ステンレス水筒(小さな蓋がカップになる)を試してみたのだが、どうもまだるっこしい。「フタをはずしたらそのまま飲める、コップ状のものは無いのか?」と探し求めて、行き着いたのが「ベストコ(BESTOCO)」の「クラール(Klal)ステンレスボトル」なのである! 330mlと450mlがあって、どちらも持っているが、利用度の高いのは、330mlのほう。熱湯でつくった中国茶を入れて持ち歩いているのだ。もちろん、スタバやドトールで「マイカップ」として使うのにも便利。ステンレス保温タイプなので、温かいものだけでなく冷たいものにもOK。「マイ水筒」を持ち歩くのは、ゴミを出さないエコロジー精神にもつながる。それにこのボトルはフタをはずした状態「保温カップ」としても大活躍なのだ。マイカップでありマイ水筒。アウトドアにも普段の暮らしにも、最高に便利!ちなみに私は、旅先ではこのボトルを「中国茶の茶海」がわりにしている。茶海とは、濃さを均一にするために使うピッチャーのようなもの。旅先の急須、「口杯(コウベイ)」と組み合わせると「旅先・ホテルが癒しの中国茶サロン」に大変身なのである。私には、もう、これなしの外出は考えられない。しかし、これを買える店はごく限られている。私は、地元のホームセンター「ビバホーム」(東松山インター店、鶴ヶ島店)で買ったが、他の店では見かけないので、まとめ買いしては、友人にプレゼントしている。メーカーに問い合わせてみた。残念ながら、自社HPはまだない。インターネット通販もまだ見かけない。この商品は、問屋さんを通して各種販売店に卸しており、ベストコ自身は直売をしていない。取り扱いのあるホームセンターは、次の通り(*50音順)。地域によって販売していない場合があるので、店に直接問い合わせを。カタクラケーヨー 島忠ビバホーム
2006.06.05
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これまでずっと、日常の移動と散歩にはアーチフィッターSandal(春夏シーズン利用)と、アーチフィッターサボサンダル(秋冬シーズン利用)を愛用してきた。海外旅行にだってはいていくほどのお気に入りである。何がいいかと言えば、土踏まずをサポートするしくみと、足がむくんでも靴がきつくならない、という部分。初めて履いたときは、足が疲れずに長く歩けることにすごく感動した。しかし、これらのサンダルも、あまりのヘビーローテーションに、土踏まずサポート機能が少しヘタってきたような気が。そんな折り、友人からお奨めの靴情報が舞い込んだ。それが、メレル・ヘンプモックである。お値段も手頃だし、かかとまでしっかりサポートされる「ウォーキングのための靴」で「エアークッションミッドソール」だという。むむ。試してみてからでないと、と思って友人の靴を借りて試し履き。むむむ。足首から先全体がキュッと気持ちいい。サイズ24センチの履き心地を確認し、さっそくインターネットで買ってみた。ブラック、とあるけれど、色は少し紺色がかっている。しかし、靴ひもなしでスポッとはけるし、デザインもシンプルで着る服に困らない感じ。私はインド屋で売っている服がメインのファッションライフを送っているが、そんな格好に合わせても、イケそう。履いてみる。歩いてみる。おお~、さすが、歩くために作られた靴! 歩くだけで、ふくらはぎのむくみが取れるみたい。歩く距離を増やすと、それだけ体調が良くなる実感がある。これなら、街歩き、旅歩きがずっとラクになるなあ。ラクって楽しいという字を書くのよね。そう、身体がラクになればそれは「楽しい」ってことなのだ!歩くほどにに足が痛くなるヒールを履かなくなって久しい私だが、ついに、「ちょっとおしゃれなウォーキングシューズ」を手に入れた。万歩計と共に、外出時には愛用していく予定。
2006.06.03
2005年6月6日。私は御茶ノ水にあるK病院で「子宮内膜症・卵巣チョコレート膿種 核出術」という手術を受けた。簡単に言えば、卵巣に血のたまる袋ができて、それが日々巨大化していく病気である。袋にたまるものがチョコレートに似ているので、こう呼ばれている。あまり大きくなると、衝撃を受けた折りに体内で破裂する危険がある。漢方や代替医療で膿種の縮小を目指してきた私だったが、ついに「西洋医学の出番」がきたと認めることにしたのだ。膿種や筋腫は、小さい内なら自然消滅してしまうこともあるが、一定の大きさになってしまったら、ある程度の縮小はできても、消滅はありえないんである。しかし、本音を言えば手術はいやだ。やっぱりいやだ。そんな気持ちを前に向けることができたのは、「たんぽぽ」という体験者の会の存在だった。入会すると、この病気についての小冊子が送られてくる。それがまた実に詳しい。どの病院にしようか悩んだ時も、体験者の病院レポートを検索することができる。子宮内膜症だけでなく、子宮筋腫、子宮腺筋症の患者も含まれる団体で、同じ病気で悩んでいる人には文句なくお勧めできる。再発しやすい病気だからこそ、励ましあえる関係があると救われるのだ。昨年は入院中だったが、今年は元気。6月10日に開催される、「たんぽぽ総会」に参加するつもりだ。---------------------------------------子宮筋腫・内膜症体験者の会「たんぽぽ」たんぽぽが作っている小冊子は、会員でなくても購入可。2006.06.10土 総会&記念講演(会員対象)東京ウィメンズプラザにて
2006.06.02
28歳でOLを卒業、ライターデビューしてから、かれこれ10年。デビュー当初はテクニカルライターをしていた私だが、「たまらない女(情報センター出版局 1998年9月)」を発表し、憧れの一般書の世界に飛び込むことができた。「たまらない女」は「便がたまらない」を意味する、便秘解消体験談だ。20歳で社会人になって以来、10年間にわたって私はひどい便秘に悩まされてきた。一般的に言われる便秘解消法ではちっとも解決しないその問題に業を煮やし、「ちょっと怪しげでもかまわないから、バッチリ効果の出る方法を試してみよう」と決意したのである。「便が出る身体になれば痩せるかも」という単純な考えではあったが、各種の健康法を試すうちに、私は「健康でスリムな身体」を手に入れることができた。「たまると太る」が、「出せれば健康になる」のである。今思えば、それは、東洋医学や代替医療に興味を持つ、ということであった。私は、まさに何かと「たまりやすい女」だった。便がたまる、ストレスがたまる、悪血(おけつ)体質=血の巡りが悪くなる、その他もろもろ。それはつまり「悪い物を排除する力が弱っている」「中毒しやすい」ってことなのだ。自分で毒を作ってそれに中毒する「自家中毒体質」だ、とわかった私は、「解毒生活」の必要性を感じるようになる。疲れやすい、太りやすい、という程度の問題だったら、私はここまで熱心に研究したかわからない。実はもっとせっぱ詰まった理由があるのだ。それが「子宮内膜症」。29歳の時に1度(結婚し、ライターとして独立して半年目に病気発覚)、昨年38歳の時に2度目の外科手術を受けている。いずれも、「子宮内膜症、卵巣チョコレート膿種」で「子宮と卵巣は温存させた核出術(悪いところだけ切る)」である。健康に気をつけていても、この病気は再発する。手術前よりはるかに体調がよくなった最近だが、それでも、再発のことを考えたら、より真剣に「自分の身体の解毒」について考えていかなくてはいけない。「解毒街道」に終わりはないのだ。その道を歩むことそのものが、楽しみでありたい。
2006.06.01
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「解毒生活」(情報センター出版局:2003年6月)を発表して3年。はにわきみこが、その後の「解毒生活」について語ります!お楽しみに。
2006.05.31
成田に降り立つと、真っ白な世界が広がっていた。雪だ。すべての景色がうっすらと雪のベールをかぶっている。 ついさっきまで真夏の中にいたというのに、眠っている間に反対の季節へと戻ってきた。生まれて初めての一人旅は無事に終わったのだ。 期待していたことの何倍もの収穫があった。 私はもう、ただのお堅いだけの阿南じゃない。おろかなだけの奈々でもない。 体が軽い。歩幅は広い。足音も高らかに荷物をピックアップし、出口へと向かった。 税関を抜けて自動ドアが開くと、見覚えのある顔が叫んだ。「阿南! おかえり!」 祥二だ。わざわざ出迎えにくるとは、どうした風の吹き回しだろう。到着便についての伝言はしたが、まさか本当に来るとは思ってもみなかった。 祥二はスタスタと近寄ると、私のスーツケースを運ぼうとした。「車で来てるからさ、家まで送るよ」 物理的には楽な交通手段だったが、心理的にはまったく逆だ。話すことはもう何もない。「気持ちだけ受け取っておく。電車で帰るから大丈夫よ」「なんだよ、迎えにこいって言ったのは阿南だろ?」 そこまでは言ってないわよ。心の中で反論する。「まだ怒ってるのか?」「怒ってるわけじゃないわ。私の方こそ、連絡が遅くなってごめんなさいね」 私は立ち止まると、しっかりと祥二の目を見て言った。「今までのことは楽しかったわ。でも、もう終わりにしましょ」 祥二の動きが止まった。どうやら彼にとっては予想外の言葉だったらしい。その一瞬の間に私はスーツケースを手に、歩き出した。 懐かしい我が家につくと、客間には、にぎやかな酒宴の準備が整っていた。 東華とそのダンナの姿もある。「お・か・え・り~!」 パ・パーン、パン! クラッカーの音が派手に響く。「あらら、なんのお祝い、これ?」「阿南がいなかったからクリスマスをずらしたのよ。さあさ、早く着替えてらっしゃい」 母にうながされて、二階でコートを脱ぐと階段を駆け下りた。 テーブルでは今まさに義理の兄がシャンパンを開けるところ。 フルートグラスが5つ、すきとおった液体で満たされる。 私もその一つを取ると、乾杯に参加した。小さな泡が喉を刺激する。「ぷはあ! おいしい」 それを見て、東華がニコニコと近寄ってきた。「やっと一家そろってのだんらんが実現したわ!」「奈々が帰ってきたからね」「ホント、阿南、雰囲気が変わったわ。カドが取れてイキイキして。オマケにお酒まで飲めるようになったとはね!」「人は変われば変わるものなのよ」 私はグラスを傾けながら、父と母を見た。 あんな騒ぎを起こした娘なのに、温かい目で見守ってくれてありがとう。 今回の旅行に出る時もずいぶん心配しただろうに、と思うと胸がいっぱいになった。 大丈夫、もう、心配はかけないから。「ねえお姉ちゃん」 盛り上がる客間から抜け出て、私はキッチンで東華にお茶をいれた。「私ってばさ、恋のABCもマスターしてないくせに、一気にZまで走り抜けたって感じだよね、ハタチの時」「不幸な恋愛フルコース速攻編、だったわね」「申し込まれたから結婚しなきゃならないなんてこと、全然ないのにね」「誰にだってしんどい恋の思い出はあるものよ。楽しい恋は、これからね」 そうだ。私は自分が思っていた以上に、恋愛シロートなのだ。最初に痛い目にあってつまづいたから、健全な進行が阻まれていただけなのだ。だけど希望はある。 私の人生はまだまだこれから、なのだから。「阿南さん、熱いから気をつけて。甘酒って言っても、アルコールは無きに等しいから大丈夫。さ、体が温まるから飲んで」 末吉は約束通り私をデートに誘った。初詣を一緒に、というので気合いを入れて着物を着た。それを見た末吉の喜びようといったらなかった。「私は美しい蘭を腕に抱えているようだ!」 ――意味不明。コピーライターの真意を測るのは難しい。 でも、いわゆるデートっぽいデートを体験するのは、悪くない気分だ。終始笑顔の私を見て、末吉も嬉しそうにしている。「阿南さん。返事を聞くのはやめましょう。私は、今が楽しければそれでいい」「そうですよ。私、人のことを好きになるのに、ものすごく時間がかかるんです。信頼できる友達関係が発展するタイプなの。ゆっくりいきましょ。楽しく遊べるお友達としてなら、私、喜んでおつきあいしますよ」「じゃあ、あれは私の思い込みだったんですね。あなたは結婚に憧れてるわけじゃないんだ」「そうですよ。だって私もバツイチですもん」 末吉の目が大きく開いた。今にも落っこちてきそうな、大きな目! 私は笑いが止まらなくなった。「開けましておめでとうございます! 今年も一年よろしくお願いします!」 年明け初の出勤日は、仕事らしい仕事にならないのが恒例だ。 女性が多い会社なだけに、あちらこちらに衣装自慢の花が咲く。この日はまた、上司の武岡が張りきってホームパーティを開く日でもあった。「阿南ちゃん、よく戻ってきてくれたわ。もうすっかり体はいいの?」「とっても元気ですよ。やっぱり、たまにはお休みを取って気分転換するって大事なんですね。サンスクリーンの効果もばっちり感じられたし、いい旅行になりました」「どうせ仕事はお昼でながれ解散だから。うちに顔を出してよ」「喜んで」 嫌われたらどうしようとか、自分を誤解されたらどうしようなんて、つまらない心配はもうしない。出会うべき時に人は出会い、別れるべき時に人は別れる。 きゃっきゃとはしゃぐ女性陣を引きつれて、武岡が会社を出る。 その後を小走りに追いかけようとすると、後ろから私を呼び止める声があった。「国立さん!」 ふりかえると、どこかで見た顔の女性が立っている。 フードのへりにフェイクファーをあしらったショートコートに、ピッタリとしたパンツ。膝まであるロングブーツのヒールは10センチ近くあったが、それでも充分、背は小さい。「千紗です、ちさ! オーストラリアで会ったでしょ。覚えてません?」 おお。言われてみれば確かにそうだ。でも、今頃は夏を満喫してるはずじゃ?「どうしてここがわかったの?」「自社製品だって言って、日焼け止めくれたでしょ。会社名から探したの」「龍ちゃんとは一緒じゃないの?」「先に帰ってきちゃった。だってバカらしいんだもん。リュウってば、何を聞いても上の空。私ね、私のことを一番好きじゃない男とは、一秒だって一緒にいられないの」 ――はっきりした娘だ。「ねえ阿南さん。この私が身をひいたんだから、リュウのこと、ちゃんと幸せにしてくれなくちゃ困るわ」 相手は私だと確信しているらしい。最もあのタイミングでは無理もないけど。「そんなふうに強要されても困るわ。だって、幸せって誰かにしてもらうものじゃないでしょ?」 責任をとる、そんな言葉に振り回されて私は後に引けない結婚に踏みこんだのだ。 こと恋愛に関しては、誰かが誰かに責任をとる必要なんかないんだと、今の私は知っていた。「んもう! シャクにさわるわね、あなたって人は」「あなたのほうがフったんでしょ? もう別れた人のことなんか、ほっておけばいいじゃない。それに、私がこれから誰とつきあおうが、あなたには関係ないはずよ」 彼女は、ぶうっとほっぺたを膨らませた。「そりゃ、関係ないけど。関係ないけど…。なんで私じゃなくて、あなたなの?って」 みな、考えることは同じなのだ。どうして私じゃないの?「彼の気持ちを決める権利は、私にもあなたにもない。本人にきいてみなけりゃわからない謎なのよ」 本当はまだ好きなのね。ふっきるためにわざわざここまで来たのね。 ついに彼女の頬には涙がつたいはじめた。 私はあわててバッグからハンカチを取り出した。 ふと、あの海で私が溺れそうになったとき、彼女が手助けしてくれたことを思い出した。「あなたのことなんかキライよ。絶対にキライでなきゃいけないわ。だって、あなたがもしもいい人だったら、私が負けても仕方ないって気持ちになっちゃうもの」 だからあんなにツンケンしていたのか。私にはない発想だ。「ねえ、私たち、龍ちゃんを奪い合ってるわけじゃないでしょ? だったら、ちょっと仲良くしてみたって悪くはないじゃない」 泣きやまない彼女をあやしていると、武岡が近寄ってきた。「あら、阿南ちゃんのお友達? もしよかったらうちでやるパーティに来ない? 女のコはいつでも大歓迎よ」 おっと、意外な展開。だけど案外悪くないかも。少なくとも寒空の中、二人きりで立っているよりはマシだし、彼女が元気を取り戻す可能性もある。「さあさ、そんなに泣いたりしたら可愛い顔が台無しよ。お正月なんだから、ぱっと明るく行きましょう。女の子は笑顔、笑顔が大事なんだから」 千紗は、武岡に肩を抱かれながら歩き出した。私は一歩下がってその後をついていく。 コートのポケットに手を入れると、昨日届いたエアメールが入ったままになっていた。取りだしてもう一度眺める。 千紗が一足先に帰国。早い話がふられた。 波に乗ってたらイルカがそばに寄ってきた。 もしまた休みが取れたら、波に乗りに来ないか。 私にはもう、パスポートがある。一人で行きたいところに行ける。行く手をはばむものはない。そしてこれから誰を好きになってもいい。 あとは心の命ずるままに。ただ、自分の心の声に耳を傾ければいいのだ。――――――――――――――――――――――― おわり ――――――――――
2005.05.17
「阿南とデートなんて、初めてだな」 私は龍一と並んで砂浜を歩いていた。真っ暗な空には、降るような星と、丸くなりはじめた月。風は海から吹いてくる。「食事してワインのんで散歩ってデートのうち?」「つっこむね」「そりゃそうよ。だって、映画みてコーラ飲んで一緒に帰るってことなら、高校時代にもやってたもの」 今宵の私は、攻めの姿勢を崩さない、と自分に誓っていた。あのとき言えなかった言葉、今でも伝えたい言葉を口にするのだ。「あのころと今とでは…違うから」 何が違うというのだろう。聞いてみたい衝動に駆られたが、グッと抑えた。「私、ずいぶん長い間、龍ちゃんに見守られていたんだね。奈々っていう人格を作るときから、いずれは私の中に戻すことを考えてたんでしょう?」「あの時はそれが一番いい方法に思えたから。でも、いずれ阿南は奈々としての記憶を取り戻すべきだと思ってたし。ただ、時がこないとそれができないこともわかってた」「長かったね」「過ぎてしまえばあっという間さ」 沈黙が二人の間を吹き抜けた。 白いTシャツに包まれた龍一の背中が、ゆっくりと遠ざかる。 私は、サンダルを脱いで、裸足のまま波打ち際へと歩いていった。 水を吸って固くなった砂が、ひやりと足の裏に気持ちよかった。そのまま歩を進めて、波が足首を洗うままにまかせた。空と混じり合ってしまった水平線を眺める。「阿南?」 駆け戻ってきた龍一が、私の右手をつかんだ。手首につたわる龍一の体温が、心臓の動きを早くする。耳の中で、どくどくと音がひびく。「やだ、別に泳ごうってわけじゃないわ。ただ、こうして水にさわっていると気持ちがいいから」「もう海は怖くなくなった?」「おかげさまで。泳げることも思い出せたし。ね、それより」「なに?」「手をつないでもいい?」 おぅ、と小さな声をあげて、龍一は私の手首を離すと、そのかわりに手を握った。手のひらを通じて温かいものが私の中に流れ込んでくる。なんだか、心を輸血してるみたい。「龍ちゃん…」 私は、つないだ手を軸に体を半回転させた。暗がりに慣れた目が、龍一の顔をとらえる。「私ね、本当は、ずっと龍ちゃんのことが好きだった」 龍一は、静かにまぶたをとじた。言葉を反芻するかのように。 ゆっくり目を開けると、私の目をじっと見ながら、聞いた。「それは、過去形?」 頬が熱くなった。なんて答えればいい? このときめきは、過去からもたらされた置きみやげなのだろうか? あのときは勇気がもてなくて言いだせなかった。 その埋め合わせをしたいだけなの? それとも、今でもつづいている進行形の恋なのだろうか。 今でも私は龍一の恋人になりたいと思っている? 龍一には今、別の彼女がいるのに。 そしてかつては、私の姉を愛していたというのに。 告白したまではよかったが、先のことは何一つ考えていなかった。 口はぱくぱくと開くのだが言葉がいっこうに出てこない。「オレは…」 龍一はもう片方の手を握った。二人の手が輪になってつながる。「オレはやりたい仕事をしてるし、休暇をとって旅することもできる。可愛い恋人だっている」 ――今、充分幸せなんだから、私の恋心なんてお呼びじゃないか。 一気に血圧が下がった。「中途半端になっていた心理療法にもケリがついた。阿南がちゃんと奈々を受け入れとき、オレの役割は終わったんだ」 ――言い聞かせてるのね、私に。もう二人をつなぐ絆は消えたって。 貧血に似ためまいがやってきた。「だけど、阿南が、もう用件は終わったって車に乗ったとき…、もう会う理由が無くなったって思ったときに…」 龍一は言葉につまって、つないだ両手に力を入れた。「オレは、待ってるときの楽しさに気づいてなかった。もう待たなくていい、これが終わりだって、て言われるのは、気の抜けるものなんだな」「奈々は、もう待たなくていいって喜んでたけど」「それは。奈々はずっと阿南と一緒にいられるからだ。だけど、オレにとっては終了と別離を意味する」 ――さみしいってこと? これから私がどこかへ行ってしまうのが。 私は両手をぐいっと引っ張った。バランスを崩した龍一が私との距離をつめる。そのスキに、私は両手を龍一の背中に回して抱きついた。「私、先のことはわからないわ。でもこれまでの人生でずっと、龍ちゃんのことが一番好きだった。今この瞬間も、やっぱりそう」「今、この瞬間…ね」 つづきは言葉にならなかった。 顔が大きな両手に包まれる。 目をつぶるのと同時に、やわらかな唇が私の唇をふさいだ。 夢に見たとおりの光景。願望は今、現実になった。 私は長年の夢をやっとかなえることができたのだ。
2005.05.16
「いいお店じゃない! マイって旅慣れてるのね」「旅慣れてるってアンタ。情報の集め方を知ってれば誰にだってできるのよ。それより私はアナンの方がすごいと思うな。知らない国で車をブイブイいわせるんだから。私なんて免許はあるけど、完全ペーパードライバーだもんね」 私はバックパッカーズロッジからマイを連れ出すと、お洒落なレストランでの夕食に誘った。いつも突然で強引なのね、と笑いながらマイは相手をしてくれる。 私は今、女友達との気楽な会話を楽しんでいた。私の心を囲っていた壁は、がれきの山となって、一輪車でせっせと運び出されているところなのだ。「実は私、マイの恋愛観について知りたいのよ」「ひゃあー。照れるー。でも私、けっこうサッパリしてるからなあ。全然、ドラマチックな話なんてないよ」「たとえばね、自分の親友とか…姉妹とか、身近な人の彼を好きになったら、どうする?」「おお。ありがち。ただ、アレだねえ、成就させるのは難しいシチュエーションだよね。どーしても、比べられてる気がするしね。でも参考になることは言えないな。そんな相手は見ないようにするから」「見ないようにするってどういうこと?」「つまりさあ。接する時間が長くなると、その人のことが見えてくるじゃない? 身近な人の彼っていうのは、話にも出てくるし見る機会も多いから、自然と親しみを感じちゃうもんなのよ。だから、できるだけ見ないようにする。惚れないように」 接する時間が長いと惚れやすい。単純だけど真理かも。私は、生まれたときからのつきあいに等しい龍一のことを思い浮かべた。「じゃあ、恋は先着順てこと? ある男性がいて、二人ともその人のことが好きだったらさ。先にくっついた方に優先権があって、それに出遅れたら、いさぎよく忘れる、と」「先着順て言ったってアンタ。人には好みってもんがあるんだし。先にアタックした方がフラれる可能性だってあるじゃない?」「とにかく! ここぞっていうタイミングを逃すと、もやもやするのよ。不完全燃焼。どうせダメでも、ちゃんと告白してフラれたかったって。黙ってるだけで土俵にのれなかったのって、悔しいじゃない」「アナン、それって昔の話でしょ? 過ぎたことにこだわりすぎると、今を見失うよ。失敗したっていいのさ、それで勉強になったんだから」 鋭い。この人は鋭すぎる。マイこそ占い師のようだ。「じゃあ、話を変える。 結婚って恋愛のゴールだと思う? 私ね、結婚にいいイメージが無いのよ。契約をむすんで、お互いの利用方法を決めたって感じがして」「まあ、結婚にもいろいろあるからね。そうね、私だったら、利用価値あるかな。例えば、永住権を手に入れるためとか」 そうか、さすが発想がグローバル。私は日本の常識にガチガチに縛られていた。 人との会話には発見が多い。一人で考えているだけでは手に入らない視野が開けるものなのだ。 黙り込んだ私をみて、マイは言葉を続けた。「でもさあ、結婚なんてしたい人はすればいいし、したくなければしなくていいじゃん。日本ではまだ、年頃なのに独身だと肩身が狭いわけ? だいたい、一緒に住みたいと思える人ができたときに考えればいいじゃない? 結婚ってのは生活なんだからさ」 すごい。なんてシンプルな考え方だ。私は感動していた。 恋愛と結婚は違う。あの時の私も、うすうす気づいてはいた。ドラマのような激しい恋が、日常的な落ち着き先を持てるわけがないと。 私を夢中にさせた危険な香りは、非日常的な異国のスパイスだった。時々ならば刺激だが、毎日食べても飽きない味噌やしょうゆには成りえなかったのだ。「いいこと言うね。生活のリズムって確かにある。私は誰かのためにそれを乱されるのがすごくイヤだわ。あと、女なんだから当然って顔で家事を要求されるのもイヤ」「じゃ、結婚なんてしなきゃいい。恋に落ちたら必ず結婚しなきゃいけない、なんてルールがあるわけじゃないんだから」 胸の中に稲妻が光った。一瞬にして、真理が照らし出された感じ。 私は、恋とは結婚相手を捜すための入り口だと思っていたのだ。別々の存在としてとらえたことがなかった。 奈々と私の二人分がまざりあった意識の中で、ただよっていた言葉、「結婚」。 必要ないなら放って置けばいい。無理やり自分の人生に採用する必要なんかないのだ。 笑いがこみ上げてきた。 私ったら、なんて律儀で大まじめだったんだろう。 これまでは他人の価値観で囲まれた檻の中にいたのだ、と始めて気づいた。最初の結婚は相手の口車に乗せられた、という要素が大きいけれど。あれからもう10年たつ。 私だって成長してきたはず。自分なりの考え方で歩いていいのだ。「ほんと、マイの言うとおりだわ。やりたいことはやる。やりたくないことは、やらない。それが自分を解放するってことなのね!」 いやはや。これまでの私はいったいどれくらいの重石を使って、素直な欲求をを押しつぶしてきたんだろう! ここへきてようやく、答えが見えてきた。 選択肢は「どっちをとるか」だけじゃない。「どっちもいらない」もアリだってことに。
2005.05.12
私には、昔から車を運転しながら考え事をまとめるクセがある。 自分で運転ができれば、車は完全な個室だ。外界からきっちりと遮断され、なおかつ、目の前には常に動く景色がある。この取り合わせがいいのだ。 私には、部屋に閉じこめられ、自由がなかった時代があった。だからこそ、その反動でドライブがこんなに好きになったのだ、と今では納得できる。 なぜ、他人の運転する車の助手席をあれほど嫌がってきたのか。人の手に自分の運命を握られているようで、いいように操られる気がして怖いのだ。振り返っても、男性と二人でドライブしたことはなかった。いや、今回の龍一とのドライブは別として。 龍一は、特別だ。昔から私のことを知っていて、私の窮地を救ってくれた人だから。 龍一は、別の男と結婚した私に、手をさしのべてくれた。 失敗の後始末を手伝ってくれたのだ。そう考えると、私がどっぷり悲劇にひたっていた理由もわかる。ひどい夫に耐える妻、という立場が、龍一を私のそばに引き戻してくれたのだから。 姑息な手段だ。今さらながら恥ずかしい。 そうまでして、私は龍一を求めていたのだ。 そして本当は、彼と恋愛関係を築きたかった。 龍一は単なる友達、と言い聞かせていたのは、ふられた事実を認めないためだった。 なんて素直じゃないの? おろかな自分の姿が浮き彫りになって、私は身もだえした。好きな人の名前をノートに書いてみるだけで、真っ赤になってしまうような、幼い照れが、津波のように襲った。 こんな気持ちになるなんて。封印されていたほうがましだったかも。 つい、そんなことを考える。 だって、もうわかってしまったのだ。 龍一への思いと比べれば、祥二との関係は単なる恋人ごっこだってことに。 今の私には、どうして祥二とつきあい始めたのか、その理由が見えていた。 この人ならば、結婚をせまらないだろう、とわかっていたからだ。東華の指摘は当たっていた。私は、結婚に向かない男が良かったのだ。 彼はいろんなタイプの女性に興味があった。私はその中にあって、都合よく物わかりのいいサンプルのひとつに過ぎなかった。 だけど同時に、彼は、私にとって都合のいい男でもあった。 彼は、私に対して金を期待しなかった。癇癪を起こして暴力を振るうこともなかった。女を縛り付ける人じゃないのは確かだった。私はいつでも好きなときに彼の隣を離れて自分の古巣に帰ることができた。そうやって、自分を安全な場所に置きながら、恋人ごっこを楽しませてくれる相手だったのだ。 手をつないで歩くとか、待ち合わせて食事をするとか、そのために新しい服を買うとか。ベッドの中で肌を合わせるとか。一人ではできない楽しみの相手を、彼につとめさせていたに過ぎない、のだ。 認めるのはシャクだが、私は、彼のことが好きだからつきあっているのでは、なかった。 自分が、年相応に恋人を持っている、魅力のある女だと周囲にアピールするために必要だったのだ。たしかに彼は私を利用していた。でも、私もまた彼を利用していた。 不誠実はお互い様だったのかもしれない。 あの時私が怒ったのは、彼が別れを言い出さなかったからだ。 相互利用はお互い様。だけど、他の女と付き合いながら見逃せ、という条件はのめない。隠している間はまだいい。だけど、堂々と他の女と男を共有するなんて、そんな間抜けなマネをするのは、私のプライドが許さない。 申し訳ないから別れる、というのならいい。 あっちの女の事が好きになったから別れる、というのも問題ない。 でも、どっちも好きだけどお前を失うのは困る、というのは認めない。 本当に私を欲しているなら、他の女はすべて捨てることよ。 ただ、もし。祥二が人員整理をして、私だけを選ぶといったら? 祥二がどう出るかは、まだわからない。 私は本当はどうしたいのだろう。
2005.05.09
「龍ちゃん! 消えてる! 消えてるわ、水玉が!」 服を着ると私は部屋に駆け戻った。「知ってる。さっき、オレの目の前で、さーっと全部消えたから」 心が及ぼす体への影響、か。手の甲を顔の前にかざしてみた。もう、ソバカスのようなあの発疹はどこにもない。まだ驚きがおさまらず、手で腕をさすってみる。「阿南、信じる気になった? 自然治癒力の話」「私、自然に治ったの?」 自然に、というのはしっくりこない。薬を使ったんじゃないことは確かだけど。 ただ、治った瞬間というのがあるならば、きっとあの時だ。奈々が私の中に入ってきたのと入れ替わりに、一瞬にして毛穴から何かが蒸発した。ふちまでいっぱいにお湯が入った湯船にどぼん、と飛び込んだ時に似ている。お湯がざあっと流れ出すように、私の中から毒が押し出され、流れ出ていったのだ。 なんて不思議なの。 私は、素足のままベランダに出た。辺りは一面、ギラギラと白い光に包まれている。 夏だ。ここは、夏なのだ。 とぎれていた記憶がつながり、龍一の発言を裏付けた。 私は、昔、泳ぎが得意だった。だから、あの自殺未遂事件でも溺れないですんだのだ。 あの時死ななくてよかった。あんな可哀想なままで終わらなくて、本当によかった。 強烈な喜びがわきあがった。まるで間欠泉が吹き上がるみたいに! 私はベランダの手すりにつかまって、背中をそらせた。体の中からパワーがわき上がってくる。止めることができない勢いで。私の中には今、二人分の気力が満ちている。「龍ちゃん、私、どれくらいの時間、催眠状態になってたの?」「2時間、てとこかな。結構長かった。黙り込んでからが特に。こっちから声をかけようかどうしようか、ものすごく悩んだぐらい」 2時間もあの空間にいたのか。「あっという間だった感じがするの。それなのに、その前とは全然変わってしまった。催眠療法ってこんなに効果があるものなの?」 龍一はあごに手を当ててちょっと考えた。「オレにとっては、阿南が唯一のケースだから。比べることはできないな。ただ、阿南が奈々を受け入れる準備ができていたから、すんなり融合できたんだと思う」 私は、はずむ足取りで部屋に入った。「いつの間にかすごく天気が良くなってるじゃない。外に出ない? 私、早く自分の車を運転したいわ。なんだか気力が満ちてるの」「ホントに大丈夫? じゃあ、出かけようか」 龍一と千紗のベースキャンプまでは、龍一が運転することになった。あれから少し場所を移動したのだという。泊まる場所は固定していても、波の状態をみては、車であちこち移動するのがいつものやり方なのだと。「じゃあ、あの時会えたのは運が良かったのね。ずっと入れ違いになる可能性だってあったんだわ」 そういうと、龍一は笑った。「会いたいと強く願えば、必ずかなう、とは思ってたけどな」「私も。絶対に会って占ってもらうんだって、決めてたわ」 そうだった。私がこの地に来ようと思ったそもそもの目的は、龍一に占ってもらうことだった。「で、どう? やっぱり占ってみる必要はある?」「そうね。いらないわね」 私が求めていた答えは、違う角度から与えられた。意外な方法で。分裂していた過去の自分を統合する、というやり方で。「気力が満ちてるって言ってたけど。今はどんな感じ?」 ついさっき、自分を襲った激流のことを思うと、本当に不思議だった。私の中にはたくさんの情報が、感情が、集約されて渦巻いている。でも、決して不快ではないのだ。「ものすごい勢いで、全体をシェイクしてるって感じ。これから少しずつ細かいところをのぞいてみなくちゃ」「一人でも大丈夫?」「逆ね。一人になりたい。ゆっくり考えたいの」 それに、龍一のことを好きだ、という事実を飲み込むのには時間がかかる。自分自身がまだ納得できていないのに、龍一がすぐ隣にいるという、この状況は困るのだ。 チャンスだとは思うが、何をどうしていいのか、考えがまとまらない。まずは自分がどうしたいのかをよく見極めたい。「なんだか、今までよりも、しっかりしてきたみたいだな」「二人分だから」 私は笑った。 私は、若いときに悲惨な目にあった。でもだからこそ、その時に学んだことをベースに、成長してきたのだ。若い頃はバカだった。それはそれ、事実なのだから仕方ない。今こうして大人としてふるまえるのは、過去の資産があったからなのだ。会計の考え方では借金だって資産のうち。マイナス資産と考えるのだ、という話を思い出した。「ねえ、龍ちゃん。ハガキをくれたとき、私がオーストラリアまで訪ねて来るって、思ってた?」「それは、微妙なところだったな。できるかもしれないし、まだ無理かもしれないし。 飛行機に乗って言葉の通じない国に行くことは、ずっと避けてきてたでしょう。嫌なことを思い出しそうになるから。そのブレーキは結構強かったはずなんだ。よく、その線を越えてきたな、って感心してるくらい」「ブレーキよりも強烈なモチベーションがあったからよ」 私は久しぶりに不誠実な恋人のことを思いだした。祥二の新しいカノジョに出くわさなければ、私は旅に出ようとは思わなかっただろう。「プロポーズされたこと? それとも、恋人に裏切られたこと?」「どっちも。でも、彼の浮気の方が強烈だったかな」 旅を決意したのはたった数週間前のことなのに、はるか昔のことに思えた。 ホリデーパークの看板が見えた。短いドライブの目的地だ。 龍一は車をターンさせてから車を降りた。私は助手席から降りると、ボンネットの前から回り込んで運転席のドアを開けた。「寄っていかないの?」「千紗さんが私のことライバル視してるからね。それに三人でいてもあんまり盛り上がらないんじゃない?」 そう、今や私はハッキリと、千紗はライバルだと認めていた。だからこそ、余計な対決は避けたかった。「それはそうかもしれないけど」「厳密に言えば、私の用件は終わったわけだし」 龍一の顔に妙な表情が浮かんだ。口がへの字になっている。「龍ちゃんが背負ってくれた重荷はもうなくなったのよ。私はあなたのセッションを受けて充分にその効果を感じてるの。感謝してる。これ以上つきまとったら失礼でしょ?」 私は右手を出した。握手を求めるために。 龍一はゆっくり右手を伸ばした。私はその手をつかむと、ギュッと力を込めて握った。「だけど、帰国の前に一度、夕食でもどう? 今よりも落ち着いていると思うし、話したいこともまだあるわ、きっと。 そうね、海の見える店でシーフード。オーストラリアワインでも飲みながら、ロマンチックにね。私の部屋に迎えに来て。悪いけど、千紗さんは置いてきてよ。ゆっくり話ができないから」 私は思いだしていた。自分がアルコールが飲めない体質じゃなかったことを。酒の勢いがあのおろかな恋愛の引き金になったから、自ら封印していただけのだ。酒は冷静な判断を下せなくなるから、と。 待ち合わせの日時を決めると、私は車に乗り込んだ。 パシフィックハイウェイに乗ると、宿とは反対側、すでに走り慣れた感のあるバイロンベイを目指してアクセルを踏んだ。 一人で、自分の行きたい場所へ行けるって、なんて素晴らしいことなんだろう、と思いながら。
2005.04.27
燃え上がる紙をつかむと、イメージが指先から脳へと伝わってきた。 制服。夕暮れ。自転車を押す龍一。並んで歩く私。 土曜日の昼ごはん。龍一が作ったチャーハンと、大根葉のみそ汁。 英語で赤点を取った私に、龍ちゃんは家庭教師をしてくれた。「これからはどんな仕事に就くにしても、英語が必要になるんだから」そう言いながら、ペイパーバックをくれたよね。そのファンタジー小説には、熟語や難しい単語に蛍光ペンでなぞった跡があった。 あのころは、他の人なんか目に入らなかった。龍ちゃんはひとつ年上の素敵なボーイフレンド。 もっと親しくなりたい。ここからさらに一歩踏み出したい。 だけど。不安だった。子供時代から仲良くしすぎて、それ以上の仲にはなれないのではないか。天才子役と言われた女優は、成長してもなかなか大人の女として見てもらえない。それと同じじゃない? 幼なじみが恋人に昇格するチャンスはないんじゃない? それに。 もしも拒絶されたとき、私はそれを受け入れられるかしら。 口にした瞬間に、二人の距離が離れてしまうのが怖かった。 できるなら、いつまでも、このままでいたかった。 結局、私が言い出せずにいる間に、龍一の方が行動を起こした。 いとこという距離を飛び越えたのだ。東華に対して。 私は、龍一が東華に惚れた瞬間を、知っていた。 私は出遅れたのだった。 思い出したくない過去だから、都合良く忘れていたのだ。 だけど、それがすべての始まりになった。 うちあけるまえに壊れた恋。あの時、堂々と勝負に出なかったことが、後の悲劇の引き金になったのだ。 龍ちゃんが選んだのは東華で、私ではなかった。 あのころは、根拠なんかないくせに、龍ちゃんにふさわしいのは私だと信じていた。私は、鼻持ちならない自信家だった。それだけに、龍一が東華と付き合いだした時のショックは大きかった。全然知らない女性が相手だったらまだマシだったのに。 どうして私じゃなかったの? 東華へのコンプレックスはあの時生まれた。私の自尊心はこなごなに砕けた。 私が考えなしの結婚に走ったのは、壊れた自信を取り戻すためだった。 旅先での突然の出会いでも、私は男性を惹きつけることができる。その人が選んだのはエリさんじゃなくて、この私。私だってまんざらでもないじゃない。 龍ちゃんへの恋心がぺしゃんこにつぶれて以来、私は新しい恋に興味を失っていた。だけど、百戦錬磨の色男は、かたくなに恋愛を否定する心を開く鍵を持っていた。合鍵の束がじゃらじゃらと揺れる。 恋は楽しい、ということを味わいたかった。実る恋は、美味だということを。苦い失恋の後で、私は甘い果実を欲していた。 人を傷つけてまで、人を悲しませてまで恋人を選ぶ。最初はそのドラマに酔っていた。やがて悲劇に変わるとわかっていても、ひとときのヒロイン気分を味わっていたかった。 でも本当は。 本当に私が欲しかったのは、飾り立てられたウソの恋愛ではなかった。 結婚したい、と言ってくれるしゃれた恋人なんかではなかった。 私は、ずっと、龍一の恋人になりたかったのだ。 これまで封じ込めてきた記憶と、願い。その両方が激流となって私の中に流れ込んでいる。奈々が一人で引き受けてきた重石がずっしりと私の上にのしかかる。胸が苦しいほどだ。ちょっと待って。少しずつ消化させて。 部屋一面に舞っていた紙は、床を真っ白におおいつくしている。忘れることで逃れていた責務たちが、私の足もとにたまっている。だけど、今すぐ、そのすべてを引き受ける自信はなかった。 右手を伸ばして、手のひらを床に向けた。こっちにおいで、と念じると、紙たちは行儀のいいトランプのようにパラパラパラと音を立てて集まってきた。膝の上でとんとんとその紙束を整えると、それは一冊のノートに変わった。 10年前で止まっていた時間。今動いている時間。これからは、二人分の経験と記憶をゆっくりと混ぜ合わせながら生きていくのだ。 立ち上がろう、としてそれができないことに気がついた。そうだ、私は今、普段とは違う空間にいるのだ。龍一の手を借りる必要がある。「龍ちゃん…」「阿南、ここにいるよ。聞こえる?」「聞こえる。私、もう起きたいわ。手をひっぱって」「オーケー。じゃあ一緒に数を数えていこう。10から逆さまに数えてみて」 じゅう、きゅう、はち… 重たかった頭がすうっと軽くなっていく。 なな、ろく、ご… 左手が温かい。龍一のごつい手が私の手を包んでいるのがわかる。 よん、さん、に、いち…「さあ、目がひらくよ」 ゼロ。 私はベッドの上にいた。カーテンが乾いた風になびいている。 すでにスコールは去り、あたりは強烈な陽差しに包まれている。 私は目を上げて、龍一を見た。 龍一は優しい目をして私のことを見つめている。 ボッ、と音がしそうな勢いで、私は赤面した。 見なくてもわかるほど、頬が熱い。 私はこんなに長いこと、この人に恋こがれていたのだ、と自覚して、照れた。「水。水が飲みたい。お願い持ってきて」 慌てて、龍一の手を離す口実を作る。龍一は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、グラスにそそいで持ってきた。「気分はどう?」 冷たい水を飲み干しながら、私は自分の内部を探った。嫌な感覚はないかしら? 重苦しいことは? いや、全然ない。体は軽く、走り出したいような気分。「とってもいいわ」「それはよかった。さ、水を飲み終わったら、バスルームにいってごらん」 私は言われたままに立ち上がり、等身大の鏡の前に立った。 顔のブツブツが消えている! 顔だけじゃない。腕も、足も。 あわてて着ていた服をぬいで、背中を鏡に映してみる。 私の肌は、つるりと白く、元通りになっていた。
2005.04.26
「奈々が見えるかい。奈々はどんな格好をしてる?」 耳元で龍一の声がする。そんなもの、自分で見ればいいじゃない。奈々は今、この部屋の中にいるんだから。そう思いながらも、唇が勝手に動いて返事をしていた。「白いサンドレスを着てる」 サーファーズパラダイスで見た夢の中で、私が来ていた服だった。真夏の光をまぶしく跳ね返す、真っ白なコットンドレス。肩も腕もむき出しにしたノースリーブ。「奈々はどんなヘアスタイルをしてる?」 龍ちゃんにも見えればいいのにね、と思いながら説明する。「背中まであるロング。毛先をホットカーラーで巻いてるわ。お洒落してきたのね」 奈々はこっくりとうなずいた。そして私に謝った。「阿南ごめんね。私のせいで髪の毛を伸ばすのやめちゃったんでしょ。短かければ、髪をつかまれたり、勝手にハサミで切られたりなんかしないもんね」 鼻の奥がツンとして、涙が出そうになった。 あわてて口元に手をやる。 なんで謝るの? つらかったのは、奈々のほうでしょう?「私ねえ。あの結婚は間違ってたって、ずいぶん早くから気づいてたの。殴られるようになる前から、あのひとがいい人じゃないって、わかってたのよ」 じゃあどうして気づいたところでやめなかったの?「間違った選択をしたのは私よ。最後まで責任を果たさなくちゃダメだって思ったの。親を捨てて、友達を捨ててまでして、彼を選んだのよ。たとえそれがハズレでも、捨てることはできないと思った」 ハッとした。その生真面目な発想は、今の私そのものだ。だとしたら、私が奈々を窮地に追いやったのではないか。逃げた方がいい、と直感で分かっていたのに、理性でそれを押しとどめた。もともとは、他人になんと言われようと気にしない性格だったではないか。親に愛されている自信だってあった。 どうして人生の一大事に、それまでのやり方を180度変えようなんて思ったのよ。 わがままついでに、結婚なんてやっぱりやめるって出てきてしまえばよかったのに。 どっちに転んでも責められることに代わりはないでしょう? 奈々は寂しげに笑った。「すべてを捨てて彼を取ったの。だったら、意地でも彼と幸せにならなくちゃ」 ねえ奈々。そもそも、なんであんなうさんくさい男の言葉に耳を傾けたりしたの? 私はどうしてもそれが知りたいの。男なんていくらでもいるじゃない。「それまで、私が好きになる人は、私じゃない人が好きだった。 彼はね、生まれて初めて、私のことを欲してくれた男だったのよ。私、愛されたかった。ものすごく強い力で愛されてみたかったの」 愛されてみたい。それは自然な欲求だ。しかし、欲しいもの手に取った後の代償が大きすぎた。それにつけ込んだ男のやり方の汚さに、今さらながら胸がむかついた。「愛されてると思ってる時は幸せだった。でも、彼に愛されるためには、私には足りないものが多すぎたの」 足りないものって? そんなのは、人間的な魅力とは関係ない部分じゃない! 彼にとっての価値は、金よ。金にならない女には意味なんか無かっただけよ。あんたはなんにも悪くないの。「そういってくれて安心した。私、女として全然魅力がないんだって、がっかりしてたの。毎日ののしられるようになってからは、前向きな考え方なんてできなくなってたし」 頬に涙がつたうのがわかった。 この子は、なんてつらい目に会ってきたのだろう。今の私なら、いくらでも言ってあげられるのに。そんなに思いつめることなんか何ひとつないってことに。「阿南。二人で話をしてるの?」 龍一の声が響いてきた。そうだった、ここには龍ちゃんもいたんだわ。「うん」「奈々は、どうしてる?」「しょんぼり立ってる。ドアのそば。私、奈々をギュッって抱きしめたい」「そうしてあげて」 龍一の声が合図になったのか、奈々はおそるおそる私の方へ近づいてきた。私は両手を広げて、彼女を強く抱きしめた。奈々の長い髪からは、甘いココナツの香りがした。「阿南。私、ずっと寂しかったの。本当は、阿南と一緒にいたかった。話を聞いて欲しかったのよ。足かせになるのがわかってたから、ずっと言い出せなかったの」 わかってる。今ならよくわかるよ。ずっと放っておいてごめんね。私自身が子供だったから、奈々を受け入れることができなかった。 失敗したのは私じゃない、と思わなければ、現実に立ち向かえなかったの。許して。「阿南。奈々はなんて言ってる?」 龍一が質問してくる。こうして奈々と抱き合っていると、もう、言葉の必要性は感じなかった。メッセージは、心に直接届けられていた。「帰ってきてもいいか、って」「どうする?」「もちろん、OK」 奈々は、ぱっと体を離すと私の顔をじっと見た。嬉しそうだ。「本当にいいの?」 当たり前じゃない。迎えに来るのが遅くなって、ほんとにごめん。「いいの。もう、待たなくっていいんだから」 奈々は、再び私の首にしがみついた。 力の限りその体を抱くと、一瞬にして奈々は霧のように消えた。 そのかわり、私の胸の中がじいんと熱くなっている。体の密度が濃くなったような気がする。ふんわりとした熱が、血管の中を巡っている。そしてそれは体中の毛穴から、シュワッと外へ飛び出していった。 頭の中には、失われていた記憶が洪水のように暴れていた。こま切れの映像が猛烈なスピードで通り過ぎていく。 龍一の声が私の思考をさえぎった。「阿南。奈々はどこに行った?」「私の中にいる… 奈々が言いたかったことが、今、いっぱいに散らかってる」 今や、部屋の中は浮遊する紙でいっぱいになっていた。そのひとつひとつに、奈々の主張が描かれている。それは文字のようでもあり、絵のようでもあった。手を伸ばしてそれをつかむと、瞬時に映像として私の中に入り込んでくる。 その中のひとつを取ると、やけどしそうに熱かった。これは…。「龍ちゃん、席を外して!」 私は叫んでいた。これは、純粋に奈々と私の秘密だ。龍一に見られるわけにはいかなかった。お願い、あっちにいって。のぞかないで! 龍一の声が静かに響いてきた。「オレにできることはすべてやった。あとは阿南が好きなようにしていいんだよ」 私は安心して、燃えるような熱い紙に視線を落とした。
2005.04.25
私はがっくりと床に膝つき、手で体の重みを支えた。 どういうこと? 奈々が私? 私が奈々? 龍一は私に手を貸すと、四つの枕をクッションにして、私をベッドに座らせた。 ソファを引きずってきた龍一は、私のそばに腰掛ける。「阿南。君の名前をアルファベットで書くとどうなる?」「ANAN。昔、あだなはアンアンだった」「それを逆さに読むとどうなる?」 「NANA」 それがなに? どんな関係があるっていうの?「阿南は、オレが心理学を学んだこと知ってるよね」「うん」「奈々という人物を作って、分離させて欲しい、と言いだしたのは阿南だ。思い出せるかな?」 私は首を振った。私の記憶は一部分が欠落している。 それは奈々として事件に出会っていた頃のことなのだ、と今になってふに落ちた。「もちろん、普通の心理療法ではそんなことはしない。オレが阿南と近い存在だったこと、阿南が望めばいつでもその状態を解除できるという背景があったから、特別にやったことなんだ。あの時、オレは、プロの心理療法士にはならない、と決めた」「どうして?」「プロだったら絶対にやらない手法だから。人格を統合するという治療法はある。でも、分離するという治療法はないんだ。それは治療ではなく、病気の状態を作り出すことに等しい。ルールを破った人間には資格がないだろ」「でも…でも、そうしてくれたことで、私は生きやすくなったんでしょう? あの夢で見たことが現実だったなら、あんな目にあって元気に生きていけっていう方が難しいよ」 私は、奈々を自殺させようとしたあの男の表情を思い出して身震いした。「つらかった時間にフタをして、その間に、ゆっくり力をためていけるようにしたんだ。阿南は、奈々と別れてから力を付けていった。大学に戻り、技術を身につけ、就職した。お父さんやお母さんの元で、今まで心配かけた分までしっかり親孝行をした」 なぜ、奈々にことさらつらくあたってきたのか、やっと飲み込めた。私は会いたくなかったのだ、過去の自分に。それは人生に失敗したという屈辱であり、今後の自分の足を引っ張る存在だったから。「でもね、いつかは奈々と阿南が一人に戻る必要があった。あるキーワードが、阿南をオレの元に運ぶ役割をすることになっていた」 キーワード。もしかして、それは…。思い当たるフシはひとつだった。「結婚、のことね。私の意識の中では初婚だけど、本当は二度目の結婚になるから」 東華がパスポートの申請を代行したわけが分かった。私が自分の戸籍謄本を取り寄せれば、過去、他の名字を名乗っていたことがわかってしまうからなのだ。「そういうこと」 龍一は、私が訪ねてくることを知っていたのだ。遅すぎるくらいだ、とも言っていた。「私…。私、どうしたらいいの?」「奈々と会ってもいいって、そういう気になったって言ってたよね。奈々に会えばすべてがわかる」 私は、ふーっと息をついてうなずいた。龍一は、私の左手を軽く握る。「クッションに寄りかかって、楽な姿勢をとって。それから、オレの言うことをよく聞いて。体の力を抜くんだ。そして、お腹の中にたまっている空気を、少しずつ口から吐き出す。細く、長く。すべてを出し切るんだ。そう、上手だよ。ぜんぶ出たら、口を閉じて。今度は、鼻から空気が入ってくるのに任せる」「何をするの?」「催眠状態に入るんだ。何も心配しないで。オレを信じて」 龍一を信じない理由などなかった。彼は私を窮地から救ってくれたのだ。そして今、私が一人前に戻るために手を貸してくれる。 自然にまぶたが閉じた。次第に体が温かくなってきたのがわかる。手も足も温かい繭に包まれたように動けなくなっていく。怖くはない。私は安心できる場所にいるのだ。「阿南。奈々が君に会いたがっている。すぐ近くまで来ているんだよ。どうする?」 龍一の声が耳の中に響く。性能のいいヘッドフォンで耳が包み込まれているようだ。風の音も雷の音もなく、しんとした空間に私はいた。「奈々に会いたい。私、奈々に謝りたい」「どうして謝りたいの?」「奈々を無視したから。私、奈々が力になって欲しいと思ってるとき、あの子を突き放したの。つらいときだったのに。可哀想なことをした」 その時、部屋のドアが静かに開き、だれかが入ってきた。 奈々だった。「阿南、もう、怒ってない?」 か細い声で聞く。
2005.04.22
滝のように水が流れ落ちるフロントガラスの前にたち、ドライバーズシートに寄りかかる龍一の注意を引いた。龍一は慌ててドアを開けて飛び出してくる。「どこ行ってたの? そんなに濡れて」「まあ、ちょっと、散歩ってところよ。スコールってこんなに凄いものだと思わ…」 ピカッ! 海の色が一瞬にして白に変わるほどの閃光がグレイの空を切り裂いた。続いて、ガラガラ、ドカアンという轟音が響く。 体がびくりと反応し、しゃべりかけていた言葉が引っ込んだ。 龍一は傘を開くこともせず、私の体に手を回すと屋根のある場所を目指して走り出す。 二人揃って部屋に入ったときには、龍一の体もまだらに濡れていた。「ずいぶん早かったじゃない、車を持ってきてくれるの」「雨が来そうだったから、早めに上がったんだ。それより阿南、ちゃんときがえな」 私が歩いた後には、びしゃびしゃと足跡がくっきりついていた。スニーカーを脱いで、水が抜けるよう、壁に立てかける。 シャワーを浴びるついでに着ていたものを洗濯し、水を絞る。 部屋に戻ると、龍一は奈々のノートを開いて読んでいた。「阿南、これ、読んでみた?」「それが…。あんまりたくさんは読めなかったの。昼間あれだけ寝たのに、あれからもまた眠気が来て。ビールなんか飲んだせいかしらね?」 龍一はほほえみの消えた固い表情で言った。「オレ、阿南に聞きたいことがあるんだよ」「なあに?」「阿南の誕生日っていつだ? 生まれたのは何時?」「やだ、龍ちゃんだって知ってるでしょ。1月1日、元旦よ。時間は夜の8時で、場所は川越。ホロスコープを作るのに必要なのよね?」「ああそうだ。東華の誕生日は知ってるよね」「もちろん。8月5日、東華は獅子座の女よ」「じゃあ、奈々の誕生日はいつ?」「え?」 奈々の誕生日はいつ? 一つ年下の妹、奈々。 私があの子と疎遠になったのは、あの子が20歳の時だった。それまではそれなりに仲良くしていたはずだった。 どうして私、奈々の誕生日を知らないの? 知らないわけがない、きっと思い出せないのだ。でもどうして? 開け放った窓からゴウッと風が吹き込んで、カーテンが大きくめくれ上がった。「阿南は知らないだろう。奈々がいつ、どこで生まれたのか」 頭の奥が白くかすんで、立っていることがつらくなってきた。地面が揺れる。「しらない…」 龍一は、奈々のノートに挟んであった写真をとりだして、私に見せた。 子供時代の私たちが写っている。真ん中にスポーツ刈りの龍一。 右にはおかっぱ頭の東華。左側にいるのは…私だ。 これは、夏休みに田舎に行ったときの写真。「奈々は写ってる? どうして奈々がいないのか知ってる?」 確かにいない。一つ違いなら共に行動していてもおかしくないはずなのに。それともこの写真は、奈々がシャッターを切ったのでは? 慌てる必要もないのに、私の心臓はドキドキと音を立てた。「阿南は昨日、奈々の夢を見たって言ってたね。奈々のヘアスタイルは? 奈々はどんな顔をしてる?」「奈々は…。長い髪をしてる。顔は私によく似てる」 口は開くのだが、ゆっくりとしか言葉がでない。どうしてこんなに重苦しく感じるの?「阿南、どうして今まで奈々のことを避けてたか、わかる? どうして思い出さないでいたのか、わかる?」 私は力無く首を振った。考えないようにしてきたもの、あんな子の事なんか。「奈々の誕生日は、1月1日だ」 え? どういう意味? 偶然1年後の同じ日に生まれた? それとも私たちは双子だったとか? そんな大事なことを忘れるわけがないじゃない! 頭が混乱して、膝がふるえる。 龍一は一歩踏みだして私の肩を両手でつかむと、真剣な眼差しで言った。「奈々は、きみだ。阿南が、奈々なんだ」 稲妻が一瞬部屋の中を白く照らし、その後を追うように、轟音が鳴り響いた。
2005.04.21
ぱらりと表紙をめくり、ぎっしりと書き込まれた横書きの文字列に目をやる。 いくつかは、行をあけて大きな文字で書かれている。紙がへこむほどの勢いで書かれたその文字に目が吸い寄せられる。「彼は私を役立たずだと言う。本当にそうなのだろうか。彼にとって役に立たなくても、他の人には役に立つかもしれない、その希望を捨てたくない」「もし、彼の元から逃げられたら、私は二度とこの場所に戻らない。二度と彼につかまらないよう、自分の手でハンドルを握って走る。必ずそうする」「仕事をしたい。自分でお金を稼ぎたい。彼の家で飼い殺しの目にあうのは嫌だ。誰かの役にたって、生きていることに感謝できる日々を送りたい」「彼は私の命に感謝はしない。死んでお金になって初めて感謝するという」「両親は、東華の方が可愛かったのだろうか。私は本当に愛されていなかっただろうか。彼の言葉をうのみにするのは危険だ。しかし彼は私の弱いところを的確に攻撃する。東華へのコンプレックスがそれだ」 ぬるくなったビールを一気に飲み干すと、視界がぐらりと傾いた。 頭の奥に白いかすみがかかったようにぼうっとした。 これ以上文字をたどるのが怖い。これ以上見てはいけない、というブレーキがかかる。 いや、単に体が疲れているのだろうか。あれだけ強烈な陽差しを浴びて、慣れない運動をして。さらにはおぼれかけたのだ。疲れない方がおかしい。 私は、部屋の電気をつけたまま、ベッドに横になった。アルコールの力を借りて、重たくなったまぶたを閉じた。 今度は夢のない眠りにつかせて。もう映画はいらないわ。 目が覚めたときは、窓の外から波の音が聞こえていた。 部屋の中には自然光が差し込んでいる。 律儀に部屋を照らし続けていたスタンドのスイッチをひねって消すと、立ち上がって伸びをした。体中が筋肉痛に悲鳴をあげている。 当たり前だ。普段から、これといった運動もしていないのだから。悪い夢を見なかったのは幸いだった。 駐車場を見ると、私のセダンの姿はなかった。そうだ、昨日はあの車には龍一が乗っていた。今日の私には足がないのだ。 足がない。これまでの私が、周到に避けてきた事態だ。 いざというときに自分の行きたい場所へ行ける、それだけは奪われてはならない権利だった。 私は、自分で思うよりも強く、奈々に共鳴していたのだろうか。彼女の気持ちが痛いほど刺さっていた。 どこへも出かけられない、どこへも逃げられない苦痛。 サンスクリーンを塗った上に長袖のTシャツを着て、コットンパンツにスニーカーを合わせて外に出た。 まだ少し空気がひんやりしている。日傘は大げさだと思い、つばの広い帽子をかぶった。 海の音が聞こえる、といっても、そばにビーチが広がっているわけではない。一番近い波打ち際は崖なのだ。水平線を左手に見ながら、モーテルの近所を歩き始めた。 目的があるわけではない。ただ、風に吹かれて、足の裏から地面を感じてみたかった。車が無くても、自分の足で歩き回ることはできる。 宿があるくらいだから、小さいながらも街なのだ。少し歩けばスーパーや食べ物屋くらいはある。軽く朝ご飯を済ませると、散歩の続きにもどった。 空を見上げると、さっきまで明るかった空の色が変わっている。 いつの間にか薄暗い雲がたれこめ、海の色まで鈍くなっていた。 水平線の向こうからは、黒い雲が塊になって陸の方へと移動してくる。ごろごろ、という不吉な音がする。 雨が来る。 そういえばこの土地で雨が降るときはスコールなのだ、と龍一が言っていた。 雨雲はどのくらいのスピードでやってくるだろう。 少し足を早めて宿を目指したが、びゅう、と一陣の風が吹いたのと同時に雨が降ってきた。 乾いた道路に、親指の先ほどの水玉が、ボツボツッと音を立てて落ちてくる。 ああ、あの日傘を持ってくれば良かったと思ったが、時すでに遅し。 雨宿りも考えたが、どうせ10分も歩けば宿に戻れるのだ。私はこのまま歩き続けることにした。 大粒のシャワーのようだった雨は、やがて一粒一粒が指圧のように強烈になっていった。洗いたてのスニーカーが土と水を吸い込んで行く。 一歩ふみしめるごとに、靴の中がグショッ、と音を立てた。私は両手を広げ、手のひらに強烈な雨粒のマッサージを受けた。 初めて体験する感覚だが、不思議とここちよい。 打たれている、というよりも、洗い流されているような感じ。 雨の粒が、私の中の毒を叩き出す。 昨日は海の中、そして今日は雨の中。 この土地に来てから、ずいぶんたくさんの水に触れている。 軍鶏婆さんの説によれば、そのつど私の皮膚からは、毒が抜けていくはずだった。 激しい雨で視界はぼやけているが、手の甲に浮かぶ水玉模様の色は、だいぶ薄くなっている。ここまで濡れてしまっては、急ぐ必要もない。 私はずぶぬれのまま、一歩ごとに足の裏で水を感じながら、ゆっくりと歩いた。 宿の前につくと、雨で煙る駐車場に、見慣れた車の姿があった。
2005.04.19
いやあっ! 叫びながら身を起こしたとき、私は思いきりむせていた。息が苦しい。 はあはあと荒い息をつきながら、体がびっしょり濡れていることに気づいた。 辺りは暗い。ここはどこ? 少なくとも映画館じゃないし、海の中でもない。 私は記憶のなかから一番新しい事実を引っ張りだそうとした。 どれが最新だったっけ? たしか今、私はモーテルの部屋の中、にいるはずだった。 何か明かりをつけないと。 体を起こしてスタンドのスイッチを入れようとすると、部屋の中に人の気配がした。 パカ、っとドアの開く軽い音がして、冷蔵庫から細い光がもれる。だれかがいる。この部屋にもうひとり。思わず体が固くなった。「阿南? 目が覚めた?」 振り返った男の顔は。 一瞬。 あの男だったらどうしよう、と心臓が縮まった。 パチリとスイッチが入り、部屋がぱっと明るさを取り戻す。その中に浮かび上がったのは、間違いなく、昔なじみのイトコ、龍一の姿だった。 安堵のあまり、涙が出そうになった。「怖い夢を見たわ。ものすごくリアルな」「ずーっと苦しそうにしてたからなあ。何か飲む?」 私はベッドから出て立ち上がった。大きく背伸びをして体を動かす。着ていたTシャツは汗でベタベタ、ショートパンツも湿ってくしゃくしゃになっていた。「ビールでも飲もうかしら」「珍しい! 飲んだりして大丈夫なの?」「なんだか飲みたい気分なの」 私はシャワーを浴びようとバスルームへと向かった。 コックをひねるとぬるい水が滝になって落ちてくる。ほんものの水だ。塩辛くもなければ、冷たくもない。あの夢の中の海とは、全然ちがう。そして私の頭を押さえつけて息の根を止めようとする男はいない。 どうしてあんな夢を見たんだろう。今でも鼻先に海の磯臭い香りがまとわりついている。 この温かい海とは違う、日本の暗くて冷たい冬の海のにおい。 シャンプーの泡が顔をつたって床に落ちていく。あたまのてっぺんにお湯を当てて、かるくマッサージする。あごの力が抜けて、食いしばっていた歯への圧力がゆるむ。ただ単純に、きもちいい。そして私は生きている。今こうして、ちゃんと。 ザッと体の水気をふき取ると、ワンピースを頭からかぶった。タオルで乱暴に髪を拭く。鏡をみながら手グシで髪を整える。 鏡に映る私の顔。夢の映画館のスクリーンに映っていたのもこの顔だった。そう、奈々と私はとてもよく似ているのだ。まるで双子のように。 部屋に戻ると、龍一の姿はなかった。 ベランダに続く窓が開き、カーテンがひらひらとしている。私は裸足のまま窓に向かった。 龍一は、手すりにもたれて外を見ている。 私も、その隣に陣どって風に吹かれることにした。 左から右へ一直線に、水平線が視界を横切っている。上半分は、見たこともないほどの数の星がきらめいている。生き物が眠りにつく時間。そして星が目を覚ます時間。「降るような星、だろ」「こんなの見たの初めて」「テントに泊まってたら、もっとすごいぜ。明かりが少ない分、星がたくさん見えるんだ」「そういえば、ゴールドコーストのホテルではこんなにキレイに見えなかったわ。あれは町の灯りがまぶしかったからなのね」 龍一は、ほい、と缶ビールを1本手渡した。びっしりと水滴がついた缶はまだひんやりと冷たい。プルトップをあけて、一口飲み下す。 炭酸がピリピリと喉を刺激する。海水にむせた夢の記憶がよみがえる。「でも、おいしい」 ビールそのものの味は、まだわからない。喉にしみるし苦い。でも冷たさとともに喉に落ちていくこの感触が、自分が今生きているってことを体の内側から教えてくれる、そんな気がするのだ。「もうだいぶ落ちついた?」 うなずいた。が、暗すぎて相手に見えないことに気づき、言葉に乗せた。「うん」「昼間さ、頭を打っただろ。打ち所がわるかったんじゃないかと思ってそれが心配だったんだ」「さすがの私も、一人で動く気にはなれなかったしね」「きもちが悪いとか、どっかが痛いってことはない?」「それはない。でも、すんごく、ヘンな夢を見た」「変な夢って?」「ものすごく、リアルなの。まるで本当に海の中に頭をつっこまれたようだった。真剣に、死ぬって思った」「海の夢だったわけ?」「そうね。最初は、私と龍ちゃんが映画館にいるの。そしたら、その映画は奈々の事件をダイジェスト化したものだった。途中でそれに気づいたら、私自身がその映画の中にすっぽり入ってた。 忘れたくても忘れられない顔ってあるのね。ハワイでちょっとだけしか会ったことしかなかったあの男の顔が出てきたわ。怖い顔して、オレのために死ね、って」 ベゴン、という音に続いて、わっ、という小さな叫びが上がった。「どうしたの? 龍ちゃん」「奈々の話ね。何度聞いても、どうしても、怒りが止められないんだ。 あ、今のはね、ビールの缶がつぶれた音。中身が半分にへっちゃったな」 私は部屋にもどってタオルを取ってくると龍一に渡した。「ひどい話だね、たしかに」「助かってよかったよ。黙って民家に助けを求めたのが良かったんだよな。感謝したいのは、奈々の底力だよ。ヤツに洗脳に負けないだけの精神力が残っていたんだ。もしその強さが無かったら、奈々の命はは今頃、札束になってヤツのいいように使われていた」「人の命がお金になるって、なんだか嫌な話だわ。換金するだけしか価値のない人間なんているのかしら」「いるわけないだろう?」 思いのほか強い言葉の勢いに、驚いた。「オレが心配してたのは、奈々自身がそう思いこまされていたことなんだ。ヤツにとっては、奈々は換金材料でしかなかった。でも、他の人にとっては違うだろ。奈々は光り輝く個性であって、もっと楽しい人生を送れる人だ。他人のために命を奪われるなんて、されちゃいけない人物だ。少なくともオレにとって。東華だって、奈々の親にとってだって同じだ。 本当にあのタイミングは、ギリギリだった。奈々の自己評価はゼロに近いところまで落ち込んでいた。邪険にされた時期が長すぎたから」「だから、龍ちゃんと東華がついてカバーしてあげたのね」「そう。離婚をして、大学に復学して。裁判のための調書をとって、出頭に応じる。気の滅入るような後処理がだいぶあったから」「今までね。その話、全然聞く気にならなかったの。奈々のこと嫌いだったし、内容だって楽しくも何ともないしね。でも、やっとあの子のつらさが想像できるようになったみたい。あの夢は本当にリアルだったから」「奈々が近くまで来てるんじゃない?」 龍一はカラになった缶をベキベキとつぶした。「そうなの?」 龍一がよき占い師として活躍しているのは、母譲りの霊感の強さがあるからだ。霊感、というか、共鳴する力を持っている。その龍一がいうならば、本当にそんなことがあるのかもしれない。 この地に来て、奈々に対して閉ざしていた扉が開いた。彼女がそれに気づいて訪ねてくる、なんてことがあるのだろうか。「奈々からずっと頼まれてたんだ。阿南が会ってくれる気になったら教えて、ってね。オレは約束を守る」 今の私には、奈々に対してヤキモチを焼く気にはならなかった。あんなにひどい目にあっていて、姉やいとこが心の支えになってやるのは当然だ。むしろ私が冷たすぎた、と素直に反省しているほどなのだ。「奈々が飛行機に乗ってこの場所に来るの?」「うーん。それなんだよね。阿南が帰国するまでに間に合うかなあ。とりあえず、先にあれを渡しておくか」 龍一は私を促して部屋に戻った。メッセンジャーバッグから薄い紙袋を取り出す。「これ。奈々から」 袋の中身をみると、年季の入った大学ノートが1冊入っていた。パラパラとめくるとボールペンで文字がぎっしり書き込まれている。これは、日記?「それね。奈々が、あのひどい結婚してるころに、書いていたもの。電話も使えず外出もできず、使えるお金もほとんどない。彼女にとっては、紙だけが相談相手だったんだ。上手に隠してあったから、裁判の時の資料として役にたった。戸籍上の夫がどれほどひどいことをしたか、が書いてあったからね」 それを聞くと、ぺらぺらの紙の集合体が、ずしりと重みを増した。怖いくらい重い。 表情が暗くなった私を見て、龍一は言葉をついだ。「全部読むことはないよ。阿南にとって大事なところは少しなんだ。どう、読んでみる?」 私はうなずいた。今まで突き放してきた妹を、もう少し理解してやりたい。そんな気持ちになっていた。「わかった。これを読んでみる。龍ちゃんはもう戻って。それで明日、私をピックアップしてくれる? 明日になれば私も運転する元気が戻ってると思うから」「昼過ぎでもいいかな? 朝はちょっと波に乗りたいんだ」「OK。それじゃ千紗さんによろしく」 彼女はひとりで、龍一の帰りをジリジリと待っているだろう。気の毒に。でもガマンしてもらうほかはない。龍一は彼女のためだけに生きているわけじゃない。 龍一は、冷蔵庫の中にビールを2本残していった。これを飲んだらもう少しリラックスできるだろうか。私はあらたに1本の口をあけながら、目の前に置かれたノートの表紙をじっと見つめた。
2005.04.13
女が口を開くと同時に、回想シーンが始まる。 顔をしたたかになぐられる。目の周りにはアザが、あごには鼻血が一筋つたう。 うずくまったところを蹴られる。何度も、何度も。 裸足のまま逃げだそうとして髪の毛を捕まれ、ひきずりもどされる。 長かった髪の毛をハサミでじゃきじゃきと切られる。こんな頭ではとても外には出られない。男が去った部屋の中で一人涙する。 強引に車に乗せられ、小さな病院に押し込まれる。助けを求めることもできず、手術室へ送られる。目を覚ますと白い天井。年老いたナースが涙を拭ってくれる。 女は部屋でシャツにアイロンをかけている。 ちゃんとしておかないとまたなぐられる。 機嫌がいいときはとことんやさしく、機嫌が悪いときは徹底的に痛めつける。 その行動に規則性はない。黙ってやり過ごすしかない。やがて女は、自分が動物なのか植物なのかの区別もつかなくなっていく。 なんて暗い展開なんだろう。私は立ち上がってここから出ていきたい、という気持ちになった。 この話がどう続くのか、私は知っていた。 これは奈々がたどった道だった。 奈々は籍を入れた男の家で半ば監禁状態にあった。自発的な行動はすべてさえぎられ、精神的にも不安定になっていた。暴力と甘い言葉で男は巧みに奈々をコントロールしたのだ。まるであの子が、あの男の道具になるために生まれてきたかのように扱ったのだ。 私の気持ちにお構いなしで、スクリーンでは物語が展開している。 女は、車の運転席に座らされていた。相変わらず目には光がない。しかし、顔には傷もなく美しく化粧がほどこされていた。まっくらな画面に、白い文字が表れた。「これしか方法がないんだ。お前が金を作れなければ、オレはあいつらに殺される」 車は海にほどちかい埠頭に止まっている。手袋をした男の手が、キーを回し、エンジンをかける。「やってくれるよな。頼りになるのはお前だけなんだ」 女は無表情のまま、ブレーキを踏んでいた足を、アクセルに踏み変える。 もうやめて! もう見たくない! なのに、私の目は意志に反して見開かれたまま。 スクリーンが私のほうへ倒れ込んでくるというのに、逃げることもできない。 映画館の椅子に座っていたはずの私は、今や車の運転席におさまっている。私はこの映画の中にすっぽりとはまりこんでしまっていた。 走り出した車は、まっすぐ海に飛び込んだ。エレベーターでワイヤーがきれたらこんな感覚だろうか。ふわりと体が浮き上がる。 次の瞬間、大きな水柱が上がって車は水面へと引き込まれていく。 目の前にたくさんの星がちらつく。そこから鋭い言葉が刺のように飛び出し、私の肌にざくりざくりと突き刺さっていった。「オレの見たてちがいだった。お前はクズだ」「こんなに困っているのに親が手を貸さないなんて、お前は愛されてなんかいなかったんだよな」「親が愛したのはお前の姉さんだけだ。お前は出来が悪かったから」「お前にはオレしかいない。こんなクズのお前を愛せるのはオレだけだ」「なあ、お前がこのまま生きていても、価値なんかないぜ?」「愛する人のために命を投げ出すって崇高なことだろ。今のお前ができるただ一つのことがそれだ」「華麗に人生の幕を引くんだ。お前の舞台はオレが見届ける」 こしらえた借金を返すことができなくなった男。女の親から搾り取ることに失敗した男は、妻の死亡保険金で補填することに決めたのだった。 いわく、妻は情緒不安定だった。鬱病にかかっていた。つねに死にたいと口にしていた。自分が外出している間に、妻は車を運転して飛び出していったと証言する予定だったのだ。 車ごと飛び込んだ夜の海は、冷たい。 皮膚感覚はどこまでもリアルだ。 私は思わず息を止めた。本当に溺れるかもしれない、という不安が一気に押し寄せる。心臓はこれ以上は無理だというスピードで鼓動している。 言われるがまま、他人のために死ぬのか。 そんな命の使い方があっていいものか。 クズよばわりされて、己の人生を無価値だと洗脳されただけではないか。死んだ方がいいのはいったいどっちだ! 怒りが一点に集中し、小さな弾丸のようになる。どこまでも中央に集まろうとしたその物体は、自らの圧力に耐えられず、真っ白な爆発を起こした。死んでたまるか! シートベルトをはずし、開けっぱなしになっていた窓から身を乗り出す。水はどんどん中に入り込んでくる。窓枠を蹴る。 空気を求めて海面へと水をかく。 頭が水面に飛び出したところで、周囲を見渡してみる。男は、車が沈んだ場所をまだ見つめている。しっかりと沈んだかどうかを確認しているのだ。 水はその場で心臓の動きを止めてしまいそうなほど冷たい。足の指先がじんじんと痛み出す。肺が空気を求めるあまり、口がパクパクと開く。 立ち泳ぎのために動く手は、ヌルヌルと量感のある海水を切り分ける。動いていないと体が冷えてしまう。 頭の中には男の身勝手なセリフがぐるぐると回る。「華麗に人生の幕を引くんだ」 人生に失敗したのはあんたでしょ? あんたの失敗の穴埋めのために私の人生使うのはどうして?「お前の舞台はオレが見届ける」 あんたに見せる舞台なんかない。あんたの期待にそうようなストーリーを演じる必要なんてない。私はあんたのあやつり人形なんかじゃない! なるべく音を立てないように、岸に上がれそうな場所を目指して泳ぐ。持てる力のすべてを使って、冷たい水の中を。 ああどうして。どうして夢の中なのにこんなにも冷たいの。 そうよ、夢なんだから好きなところで醒めてもいいはず。 私は目をきつくつぶって、映画館の椅子に座っていたあの感覚を思い出そうとした。 ぱっと目をあけて右隣をみると、龍一が心配そうに見ている。 ふるえる私の右手を、龍一の温かい左手が包む。ほっと息を吐き出して、今味わった恐怖を吐き出そうとした。ねえ龍ちゃん聞いてよ、と。 顔を上げると私の手を握っているのは、海に落ちろと自殺を強要したあの男だった。その顔はすでに男前のアジアのスターではない。 あの時見た顔。ハワイのホテルで初めて見たあの顔だった。「お前が死ねばすむんだ!」 男は手をふりほどき、ちからいっぱい私の頭を水の中に押し込んだ。映画館だったはずの空間は暗く冷たい海に戻っている。 私は、酸素を求めて、ひたすら暴れる。水が肺に入ったら溺れる。水の中に押しこめられている時は口を開いてはいけない。水の外に顔をだすのだ。 しかし押さえつける手の力はゆるまるどころか、一層強くなっていく。もう、息が続かない。本当にここで私の人生は終わるのか…
2005.04.08
私は、照明が落とされて真っ暗になった部屋にいる。 映画館だ。 一番前の列に腰掛けて、首が痛くなるような角度で、スクリーンを見上げている。 椅子はマッサージチェアかと疑うほど座り心地がいい。クッションは深いのに柔らかすぎない。背中にさわる革は、まだヒヤリとしている。席についたばかりなのかしら。 膝に手を置くと、スカートのプリーツに触れた。 紺サージのプリーツスカート。身につけているのは、ラインの入った紺のカーディガンと白いブラウス。ごていねいに胸元にはえんじ色のリボンまで結んでいる。 ああこれは高校の制服だ。 右隣から、細長い紙コップが差し出された。口元いっぱいに白い泡が盛り上がり、中には小さな泡が出る黄金色の液体が入っていると知れる。 ビールなんていらないわ、断ろうとして顔を上げた。 ひとつの空席を挟んで、右にいるのは龍一だった。 高校生時代の龍一。顔がまだ幼い。 そうだ、昔はよく、二人して古い映画を見にでかけたものだった。 話の合う仲のいいイトコ。ボーイフレンドとか恋人とか、そんな緊張感がなく、人間対人間として一緒にいられる相手。ジャンケンで負けた方が、二人分のコーラを買うのがおきまりだった。 私は手を伸ばしてコップを受け取った。ひとくち飲むと、さわやかな苦みが口の中に広がった。シュワっと小さな泡が喉を刺激する。ぷはっ、と息をついて目を上げると、一瞬にして龍一は、筋肉たくましい日焼けしたサーファーへとと変わっていた。 ああこれは夢だな。 ときどき、自分で見ている夢が、現実ではなく、ただの夢だと自覚するときがある。 どんなに五感がリアルでも、内容が突飛すぎるから、わかる。 でも、その中にいる間は、いつもの生活にはない刺激が味わえる。酒もタバコもやらない私にとって、睡眠はひとつの娯楽なのだ。 今もまた、私は自分が作り出した亜空間に吸い込まれているらしい。 ビールを口にしたとたんに、私にも変化が起きた。 着ているものが白いサンドレスに変わる。長かった髪もいつのまにか短くなり、首筋に空気を感じるようになる。 スクリーンでは、モノクロの模様がカウントダウンを始めている。5、4、3、2… 画面には若い男女が現れた。男はアジアのアイドルといった風体。 太い眉にあっさりした顔立ち。黒目がちな目は二重のまぶたに縁取られている。セリフはあるが日本語ではない。耳慣れない言葉が続く。と、隣からおもちゃのようなメガネが手渡された。 これを装着すれば画面が立体的に見えるって? メガネのつるを耳にかけ、ペラペラのセロファン越しにスクリーンを見つめる。すると無声映画のようなその画面に、字幕が浮き出した。「今はじめて、この旅に出たわけがわかった。君に出会うためだったんだ」 色男が歯の浮くようなセリフを口にする。 対する女は少女のおもかげが残るふっくりとしたほっぺたにやわらかなロングヘア。はにかんだ表情が愛らしい。疑うということを知らない笑顔、恋に落ちた瞬間。「君といると楽しい。人生が輝いて見えるよ」 水着姿でビーチを走る二人。波打ち際で水を掛け合う。波に足を取られて頭まで水びたしになる女。それでも大声で笑う。首を振ると長い髪の先から水しぶきが飛ぶ。 画面は一転。キャンドルの明かりと白いテーブルクロス、ビールのジョッキで乾杯する二人。身の上話をする男、ほおづえをついてそれに聞き入る女。店内のステージには生バンド。「踊ろうよ」 男に促されて立ち上がる女。ステップを踏むよりも、体を寄せ合うことが目的のゆったりしたダンス。女は言う。「このまま時が止まればいいのに」 陳腐なストーリーだった。出会い、恋に落ちる二人。 だからそれがなに? 美男美女であれば、どんな筋書きでも絵になるってこと? 一般人はそのシナリオを見て学べ、というのか。恋を劇的に演出する方法はあまたの映画が与えてくれる、と。 どこかで聞いたようなセリフに、だれでもやっていそうなデート。 画面の中の女が、あれほどうっとりすることが不思議だった。 これではまるで女には脳味噌が足りないみたいではないか。私は居心地が悪くなって椅子の上でお尻をもぞもぞした。龍一が、私と同じ紙製メガネをかけた顔の前で人差し指を立ててみせる。しーっ。ちゃんと見て。 ホテルの部屋で荷造りする女。借り物の大きなスーツケースには、詰めるべき荷物などほとんどない。ルームメイトらしき人物の手が、受話器を手渡す。電話を手にしてハッとする女。「ちょっと出て来られない?」 小さなバッグを握りしめ、駆け出す。ロビーで待っているのはもちろんあの男だ。男は車のキーをクルクルと回し誘いの言葉を口にする。「少し外を走らないか」 夜風に吹かれながら海岸沿いを走る。一方には暗い海、もう一方にはキラキラと夜景が広がる。女の黒い髪が風に暴れる。車を止めて見つめ合う二人。「明日、きみと同じ飛行機に乗るよ」 驚き、喜びに涙する女。「もう一時だって離れていられない」 隣あったシートで体を持たせかける女。 映像はそのまま飛行機のシートに変わった。男の肩によりかかる女。二人の手はしっかりと指がからまりあっている。 空港で別れを惜しむ二人。女をきつく抱きしめて、男はささやく。「かならず迎えに行くから」 男に見送られて立ち去る女。 おきまりの別れの場面。まだこんな話が続くのかとなかばあきれ、手にしたビールを口にはこぶ。不思議にいつまでも冷たいままだ。ほてった体を中から沈める効果があるみたい。やがてスクリーンでは足早にシーンが切り替わっていく。視神経がマヒするようなビデオクリップのように。 夢見る表情で手紙を書く女。 手にした妊娠検査薬に青ざめる女。 公衆電話で受話器を握りしめ涙する女。 父親になぐりかかられそうになる女。それを止める母と姉。 小さな鞄を手に家を飛び出す女。 電車から降りてきたところを、抱きしめられる女。 泣き顔は男の両手に挟まれ、熱いくちづけが悲しみにふたをする。そして、役所に届け出をする二人。「これからはずっと一緒だよ」 喜びで顔をくしゃくしゃにする女。 そして暗転。 舞台は地味な会議室に移る。女はスチールの椅子に腰掛けている。その後ろ姿はか細い。うつろな目の中には悲しみだけがある。中年の男がくたびれたワイシャツにぶらさがったネクタイを緩める。 女の膝には、ぱたぱたっと涙の粒が落ちる。肩がふるえている。
2005.04.07
レクチャーは、足がつく深さから始まった。水面に浮かべたボードに腹ばいになり、背中を反らせて両手で波をかく、パドリングの練習である。「これができないと、波のある位置まで動けないからね。しっかり背中をそらせて!」 水面に龍一の頭がぽこんと飛び出ている。 板が水面と私をへだて、沈まないよう命綱の役割をしてくれる。 予想していたよりも、怖いとは感じなかった。沖の方からゆっくりと水がもりあがってくる。板に乗っていると、するりとその山を越えて沖へと近づける。 龍一が見守っているという安心感もあり、どんどん水をかいていく。「この辺で、ボードにすわってみようか」 こぐ手を止めて、水に浮かべた板に馬乗りになる。上半身だけ水面にでていて、腰から下は水に浸かっている。腰でバランスを取らないと、ひっくり返ってしまいそう。 言われるままに手でくるくると水をかいて方向を変え、岸に目をやった。 景色が目に入ると、ざあっと血の気が引いた。 前だけを見て必死になっている間に、ずいぶんビーチから離れていた。本当にここから自力で陸まで戻ることができるのだろうか。 軽いパニックに襲われて、私は板からすべりおりた。両手でボードをつかみながら足の下の海がどれほどの深さか確かめてみようとする。おろかな行動だった。 もちろん足がつくほど浅いわけがない。 恐怖心がフルスロットルで私を身動きのできない場所へと連れ去る。 怖い! 立ち泳ぎで浮かんでいた龍一の顔がこわばった。「阿南、怖くなった? ちょっと待って。ボードを絶対離すなよ? 大丈夫、ボードをしっかり握っていれば、おぼれたりしないから。さっきと同じように板の上に乗ってこげば、岸につけるから」 絶えず話しかけてくれるのだが、私の体はガチガチに固まってしまい、なんの命令も受けつけない状態になっている。かろうじて、頭を水面より上にだすことがやっと。 龍一がこちらに泳ぎながら近づいてくるのが見える。 そばまできてくれればどうにかなるかしら。浅くなった呼吸でそう考えていると、突然、後頭部から波をかぶった。水を吸い込んでしまい、むせる。 片手を離して顔についた水を拭っている間に、もう一度水が襲撃した。 あわてて沖の方を振り返る。 この勢いで波をかぶっていたら、溺れるのは時間の問題だ。と、次にやってきたのは、ついさっきの2回とは比べものにならない大きさの波なのだった。 両手でボードをつかもうとしたが、つるりと滑る。 あっ、と思う間もなく、私は水の中にはまりこんでいた。 頼みの綱のボードは、手の届くところにはない。 どうしよう。こんなところで私、溺れて死ぬのかしら。 必死に手足をバタつかせて、水面に顔を出す。少しだけ岸に近づいている気はする。しかしまたしても足で海の深さを調べようとして、体ごと水面下に沈んでしまう。 だめだ、海の深さなんかどうでもいい。 とにかく、平泳ぎで顔を出しながら、少しずつ進むしかない。 思うように動けないのは、私の手から離れたボードが、勝手に岸に向かって動いているから。足首につけたコードで体が引っ張られているらしい。 どうしよう。すでにだいぶ水を飲んでしまっているし、呼吸を整える余裕もない。 心臓が激しく収縮を繰り返し、頭の中には、不安感がどす黒い入道雲のようにわき上がる。これまで海を避けてきたのはなぜだった? 冷静な自分の声が、エコーをかけながら耳の中に渦巻く。「だから言ったじゃない、やめておけって」 必死に岸を目指す途中、後ろから頭に何かが激突した。水から顔を上げると、それは私の足につながっているはずのサーフボードだった。 いったいどうなってるのよ、と泣きたくなったところで、ここがすでに足のつく浅瀬であることがかった。 砂浜にあがると、転ぶようによつんばいになる。鼻水が垂れていることに気づき、手鼻をかむ。口の中に入った砂をぺっぺっと吐き出す。 つい数時間前には、海って気持ちいいじゃない、と思ったのがウソのようだ。 体中がガクガクとふるえる。 せき込みながら、深呼吸を試みているところへ、龍一がやってきた。「阿南、大丈夫? 少し休んだ方がいい」 私の足首からボードをはずし、抱えて歩く龍一の後ろ姿を見ながら、私はよろよろと車へ向かって歩き出した。 水を浴びて海水を落とし、体をタオルでくるんでいるところへ、千紗がやってきた。「リュウ。言ったでしょう。無理させちゃダメだって」「ああ。でも、阿南は昔、泳ぎが得意だったんだ。だから大丈夫だと思って」 え? 何言ってるの? 私が泳ぎが得意だったって? 龍一はヘンなことを言う。「とにかく! プールで泳ぐのと海とは違うし。波乗りに興味がない人を沖に連れ出すなんてムチャなのよ。さあ、もう今日は上がり! リュウ、彼女を宿まで送ってあげて。これで海が嫌いになったりしたら、可哀想だと思わないの?」 千紗は、テキパキと私の着替えを手伝ってくれた。乾いた服を着ると、ホッと人心地がついた。龍一が私のレンタカーを運転すると言い、私は黙って助手席に乗り込んだ。 ちょうど昼時ではあったが、とてもじゃないけど食欲なんかない。「阿南、ごめんな。怖い思いさせて」「うん。最初は楽しかったんだけど。沖にでてから、急に怖くなってきて。岸から離れていることがものすごく嫌だったの。ちゃんと陸に戻れるのかしら、って不安がどーっとやってきて」 せっかく、千紗がいないところで二人になれたというのに、何か会話をするほどの元気は残っていなかった。途中、食料品店で果物とミネラルウォーター、龍一用にビールの6本パックや食べ物を仕入れて、海の見える私の部屋へと戻った。「いい部屋だね」 龍一にそう言われると、嬉しくなった。そうだ、私はこれまで子供時代からずっと親に与えられた部屋で暮らしてきた。自分がこだわって探した部屋を誉められるのは、気分がいいものだ。「私、シャワーを浴びたら少し休憩する。龍ちゃんはすぐ戻る?」「いや。もう少しここにいてもいいかな。さっき頭、打ったでしょう。具合が悪くなったら怖いし」「わかった」 海で溺れそうになる。 この旅に出てから、あんなに不安な思いをしたのは初めてだった。普段の暮らしでは、死にそうな思いなんてしたことがない。 冷静であれば溺れる事なんてないはずだったが、パニックになると、人は持っている能力のすべてを放棄することになるのだ。 私は太陽から体を守ってくれたサンスクリーンを洗い流すと、サッパリとした格好で部屋に戻った。「少し眠ったら。体もずいぶんビックリしただろうから」 龍一の言葉に視線を落とすと、赤いブツブツの色がまた一段と濃くなっていた。 ソファに腰掛けてビールを飲む龍一に見守られ、私は溺れる心配のない、シーツの海にと仰向けになった。
2005.04.06
朝。ベランダに出ると、次第に明るくなる海に向かって大きく息を吸った。 海で泳ぐ、か。振り返れば、10年前のハワイ旅行が、海で泳いだ最後の記憶だ。 親をつれて日本の各地は旅したが、海辺は夏をさけて冬を選んでいた。どのみち、3人が求めていたのは温泉での保養と海の幸なのだ。海辺はすいている季節の方がいいにきまっている。 確かに年寄りくさい旅行の仕方ではある。 そこに若さはあるか? いや、ない。冒険のボの字もなければ、挑戦のチョの字もない。私はいつも安全なルートしか歩いてこなかった。千紗の言葉にムキになるのは、私がまるで本物の年寄りのように思われるのがいやだったからだ。私だって、冒険に全く興味がないわけではない。慎重だっただけだ。 シャワーを浴びてサッパリすると、武岡から持たされた紫外線ケアグッズをベッドの上にズラリと並べた。2人用の部屋だから、ベッドがひとつ余っているのだ。 裸のまま、体中にサンスクリーンを塗りたくる。水着には紫外線防止機能なんて期待できない。新素材と銘打ってはいるが、自らが実験する前に全面的に信じる気にはならなかった。 やがて全身がベールに包まれたことを確認すると、水着を着た。その上からは、買ったばかりの白いラッシュガードをかぶる。布地は薄くて良く伸び、水はけがいい作りになっているという。サーフパンツをはいて、着替えをバッグの中に詰める。 鏡をのぞくと、やはりうっすらと全身にぶつぶつが認められる。 でも、もう、さほど気にはならない。いずれ治ることだ。私には自信があった。肌は、前回よりも早く元通りになるだろうと。漢方医の薦め通り、太陽を浴びているしこれから海水にだって浸かるのだ。長年ガマンしてきたことにもケリがついたことだし。 サングラスをかけると、私は二人がいるはずのビーチを目指した。 車を止めて海を見やると、すでにいくつものボードが水面に浮かんでいる。しかし、波はこのあいだ見たときよりも小さいようだ。荷物を降ろして、お尻のポケットに車のキーをつっこんでベロクロのふたをバリリとしめる。降り注ぐ陽差しは強烈だったが、日焼けへの恐怖はほとんどなかった。今こそ自社製品の力を実感する時だ。 サーファー達の邪魔にならずに海に入れるのはどのあたりだろう、と観察する。 と、一人の小柄なサーファーがひらりと波にのった。黒と白に染め分けられたラッシュガードを身につけた姿は、ショーでジャンプするシャチを連想させる。よくよく見ると、それは女性だった。千紗だ。 なんだ、波乗り、うまいんじゃない。 さすが、サーフィン旅行に同行するだけのことはある。彼女自身も、海の中でこそイキイキする本物のサーファーだったのだ。ファッションだけの丘サーファーではなく。 私の中で、彼女の評価は一気に3段階アップした。能力を持った人が私は好きだ。ああまで見事に体を使うことができるなら、丘に打ち上げられた状態は面白くないに違いない。 挑戦的な姿勢の数々は、この際、棚に上げてもいい、という気になった。 サンダルを脱ぎ、熱い砂の上を裸足でビーチに向かう。 とりあえずの自分への課題。海の中に入ってみるために。 波が引いた直後の濡れた砂は、しっかりとかたまって歩きやすい。 一歩ごとに砂がけりあがる乾いた砂浜とは全然ちがう。 鏡のように景色をうつしだしている砂の上にたたずむと、白く泡だった水がざあっと足首を洗っていった。 覚悟していたほど冷たくはない。むしろ、どこかあたたかい感じ。 そのまま歩を進めると、足の下で砂が崩れていく感触がくすぐったかった。 崩れてくる波に、背中をぶつけてやり過ごす。波の力を直に受けて、その激しさに驚いた。ぼうっと立っていたら転びそうな勢いだ。 それを超えるとしばらくは波の崩れはおこらない。それを確認しながら一歩また一歩と沖へと進む。 膝から腰へ、腰から胸へと水が体を濡らす。泳げるかどうかの自信がないので、顔が水面から出る位置より奥へ歩く気にはならなかった。 ふんわりと盛り上がる波の山を見ると、それを飛び越えようとジャンプしてみる。体が軽い。陸上で跳び上がることを考えたら何倍も何倍も楽だ。 水の透明度は高く、視線を落とすと白い砂の上に立つ自分の体が見える。そうだ、このまま同じ深さの所を横に移動すれば、遠くへ行かずに済む。 サーファー達はこの浅瀬までは滑ってこない。沖よりの位置からパドリングで波の向こうへと戻っていく。安心した私は、足を蹴って、顔を水面に出したままの平泳ぎを試みた。 競技に出ようとか、人に勝とうとする必要はない。 ただ、この水の中に浮いてみたいだけ。足がつく深さなのだから、疲れたら休めばいい。小学生時代にマスターしたはずの動きに神経を集中させた。 目線が水面とほぼ同じ高さになる。海面が上下する度に、ちらりと波に乗るサーファーの小さな姿が目にはいる。陸上であれば、マンホールに体を沈めて、頭一つ分、地上に飛び出しているみたい。 これまで私は、なぜ、海に入ろうとしなかったのだろう。 何するわけでもなく、浅いところをちんたら泳ぎながら疑問に思った。いざやってみたら、避けて通るほど嫌なことじゃない。 嫌どころか、熱い陽差しが透ける海の中に体ごと包まれるのは、気持ちがいいではないか。すい、すい、と少しずつ体を進めながら、私は顔がにやけてくるのを止められなかった。思ったよりも簡単だ。ビビる必要なんてないじゃない、と。 体をくるりと回して、水面に体を浮かべてみる。耳の中に暖かな水が入ってくる。 ゆら、ゆらと浮かびながら、太陽を浴びると手と足の指の先すべてから、じわじわと何かが溶けて出ていく気がした。 私の中に凝り固まっていた何か。意固地に守ろうとしていた何か。過剰防衛で外界から遮断しようとしてきた何か。 心地よさに身を任せていたら、顔の上を波がざばりと通過していった。空気を吸い込もうと口を開けていたのだから、たまらない。 瞬時に気道の中に塩水が入ってしまい、激しくせき込みながら体を起こした。いつの間に流されていたのか、足をついたら水面は腿の中程までしかなかった。 涙を流してむせながら、水への警戒心を忘れるとこういう目にあうのだな、と納得する。 何歩か歩いて肩までの深さの場所に落ち着くと、今度は立ったまま、水の抵抗を使って体を斜めに倒してみた。水によりかかって体を伸ばす。 まだ喉の奥はしょっぱかったが、体はすっかり心地よい。 心を解放する、という言葉が脳裏に浮かぶ。 私は自分の心をどこに閉じこめてきたのだろう。そして檻の扉を開けたら、どこへ飛んでいきたがるのだろう。 指先がふやけてきたことに気づき、陸に上がった。枝にかけられた見覚えのあるバスタオルを目標に、熱された砂をふみながら歩く。頭についた塩水をタオルでザッと拭き取ると、後ろから声をかけられた。「よう、阿南。海はどう?」 振り返るとボードから水滴を垂らした龍一が立っていた。「波をかぶらない場所にいる限りは、快適だわ。10年ぶりって言っても、泳ぎ方は覚えてるもんなのね。自分でも驚いた」「そうでしょ。阿南はね、自分が何をできるかを、忘れてるだけなんだよ。ずっと封じ込めていたから」 龍一は妙な言いかたをした。 水を飲んでひと休みすると、私は彼の誘いを受けて、再び海の中へと入っていった。波が小さくなり人が減ってくる時間帯だから、サーフィンの練習には最適だというのだ
2005.04.05
翌日、モーテルの部屋に落ち着いたときには、太陽はすでにオレンジ色に変わりかけていた。 あのゴージャスなホテルをチェックアウトしてから、気に入った宿を見つけるまでにおそろしく時間がかかった。どうせなら、徹底的に自分の好みにあった所に泊まりたかった。 だって、「レンタカーが赤くなかった」のがすごく不満だったんだもの。今度は最初から自分で選べるんだから、妥協しないでいこうと決めたのだ。 海沿いに建っていて、部屋のベランダから海が見えるという条件。 せっかく長い休みがとれたのだから、時間の余裕はある。幹線道路から海に抜ける道路を何本も何本も走ってみた。ついに努力が実って、こじんまりしていて気分のいい部屋が見つかった時には小躍りしたくなった。 もし誰かと一緒に旅していたなら、こんなに時間をかけてまで部屋を選んだだろうか。どこか適当なタイミングで「もういいよここで」と言ったに違いない。 正直言って、自分がここまでしつこく部屋探しをする人間だとは思わなかった。普段通りの生活だったら絶対に見えてこない一面だ。なんの制約もなく、自分のしたいとおりに行動できる、って面白い。あのときマイが言ったとおり、私にはコドクリョクがあるに違いない。 大きなガラス窓をあけてベランダにでると、マイのことを考えた。 彼女はなんて言ってたっけ。探している人が見つかったら、教えて? もしたずね人が見つからなくても、イルカと泳ぎにきたら、と。 今になって、見つからなかったときのことを心配してくれた言葉のありがたみがしみた。毎日あの勢いで人さがしをして、それでも成果がなかったとしたら、私の落胆は想像に固くない。彼女は、必死すぎて一つのことしか見えていない私に、ほかの道もあることを教えてくれた。 ここからバイロンベイまではそう遠くない。30分も車を走らせればつく。彼女を夕食に誘ってみようか、という気になった。バッパーの敷地内にはレストランもあったことだし。 落ち着ける部屋が見つかったことで、肩の荷がおりた。さっきまでの緊張感と、本当に見つかるんだろうかという不安感、もやもやとした疲れがスッキリと消えている。さっとシャワーを浴びると、体がシャキッとした。服を着替えて車に乗り込む。 のっぺりとした大陸の上を時速90kmで走る。 空気も、土の色も、季節も。日本とはあまりにも違う。いつもだったら、一日の仕事を終わらせようとしている時間だ。暖房の効いた、清潔な箱の中で過ごす日常を思うと、今、夏の風に吹かれていることが不思議だった。 いつもと違うことをしていても、どんな場所に身を置いていても。私という人間の根っこは何も変わらない。だけど環境が変われば、これまで使ってこなかった側面が見えてくる。新しい発見だ。 部屋探しをしていた時は、本当に今日中に見つけられるのかと不安で、胸の中にピンポン玉が暴れているようだった。龍一をさがしているときに似た緊張感があった。ハンドルを握る手には余分な力が入るし、頭の奥はいつもピリピリととがっている。 ところが今は、心は波の静まった海のようにフラットだ。体はリラックスしているし、余裕のある運転ができる。日本にいたころの、安定した日常生活と何ら変わらない、足が地に着いている感覚がある。 人間を動かしているエネルギーって、一体なんなのかしら。 もしかすると、感情がガソリンの代わりなのかも。 すると、これまでの私は、とても燃費のいい暮らしをしていたということになる。低めに安定した精神状態で充分活動できていたのだから。 千紗の挑発に乗ろうとしている私は、いつもよりはるかに多い「やる気」を感じている。これは外部から受け取る刺激がエネルギーに転換されたということなのだろうか。「やだ、びっくり!」 探し当てたマイは、突然の訪問に驚きながらも、歓迎してくれた。「お礼かたがた、ご飯でも一緒にどうかと思って」「ってことは、うまく見つかったわけ? イトコ殿は」「そう、昨日、見つかったの」「わーお、乾杯しよ、乾杯」 マイはVBというビール、私はジンジャーエールで乾杯をした。メニュー選びは彼女に一任した。私はこの地に着いてから、だれかと夕食を共にするのは初めてなのだ。 龍一が見つかったら、そこからは彼と一緒に食事をするつもりでいた。まさか、それを邪魔する存在が龍一にべったりひっついているとは予想もしてなかった。 あらためて、マイと出会ったことに感謝する。会話をしながら食事ができる喜び。一人ではできないことに付き合ってくれる人と出会えたタイミングのよさ。「で、どうよ、イトコとはたくさん話ができた?」「うーん。それが…」「もっと喜んでも良さそうなもんなのに、いまいち顔が冴えないもんね。それとも元気がないのはそのじんましん、みたいなもののせい?」 言われてはじめて気がついた。この地に来てから、また、ブツブツが出ていたことを。日本ではあんなに人目を気にしていたのに。今日なんか、買い物に出たときも、部屋探しのときも、顔のブツブツのことはすっかり忘れていたのだ。思わず笑いがこみ上げる。「そうだった。じんましんがまた出てたんだったわ。やっぱり目立つ? すごくヘン?」「んーん。ソバカスが一面に出てるって感じ? ビョーキっぽくは見えないけど」 一度笑い始めたら、止まらなくなってきた。ブツブツの事を忘れていたのは、千紗の挑発に乗ってやろう、海で泳ぐための道具を買いに行こう、とムキになるので手一杯だったからなのだ。日本では、どんなに仕事に集中しようとしても、どうしても肌の事が気になって仕方なかった。それがどう? 今はケロリと忘れ去っている。 マイが変な顔をしてこちらを見ている。少しは説明しないと不自然だ。私はイトコ発見のいきさつを語ることにした。「なんだ。つまり、アナンはその女のコが気に入らないわけね。負けたくないんだ」「ちょっとちょっと。なんかそんな言い方したら、彼女が恋敵みたいじゃない?」「そんなこと言ってないよ。でも、ムキになってかかっていくところを見ると、そのコがアナンのこだわりのどこかに引っかかってるのは確かだよね。どんな言葉がヒットしたんだろ?」「スポーツが得意なようには見えない、とか。日陰でパラソルさして見てるだけがお似合いよ、とか」「でもアナンはもともと理系なわけでしょ、仕事から言っても。別にスポーツが苦手でもかまわないじゃない」「だって、海に入って泳ぐことすらムリでしょう、って顔で見られたんだもの」「そりゃあまあ、仮に泳げなくたって、浮き輪とかボディボードとかがあれば、海に入るぐらいはできるわよねえ」「私、やる。絶対海に入ってやるわ、明日」 「それで、そのコに対抗してサーフィンにも挑戦しちゃうわけ?」「できないでしょ、って顔されたら、やっちゃいそう。たとえできなくても」 マイは3本目のビールを空けながら、カラカラと笑った。「あんた見てると面白いわー。すんごく落ち着いてる大人かと思えば、しょうもないところでムキになるし」 自分でも、今までの自分らしくない行動に走っていることはわかる。 だけど。あらゆるショックがブツブツと肌から噴出した瞬間に、心のガソリンタンクはオーバーフローしたのだ。 今までの燃費のいいお利口さんではいられない。 もう、くそまじめだとか、冒険心がないと言われることにはうんざりなのだ。地球の反対側、季節も反対なこの場所でぐらい、新しいことをしてみてもいいではないか。いつもとは違うことをする、それが解毒になるはずだ。 今まで、やりたくてもやらずにいたことに挑戦してみる。やれば気が済む、ってことを体験したい。上手下手は関係ない。今までの「やらなかった自分」とは違うことをしてみたいのだ。「なんだか、マイとは気兼ねなく話ができる。不思議ね。年の頃はあのコと同じ位なのに、こんなにも違うなんて」「だーかーらー。年齢でくくるのも無理があるんだってば。アナンはまだまだこれからね。波長があう人ってのはね、年とか性別とか、国籍だって関係ないのよ。もっと数をこなさないと、わかるようにはならないかな?」 これまで、人と深い関わりを避けてきた私は、数をこなすという言葉に新鮮な驚きを覚えた。 すべての人と仲良くなれるわけじゃない。 だけど、すべての人が他人である必要もない。 自分に合う人を、自らのレーダーを使って関知していけばいいってことか。「さて。アナン、明日に備えて早く寝た方がいいんじゃない?」 確かにその通り。私はマイに別れを告げて、海の見える部屋へと車を走らせた。
2005.04.04
「私、そろそろ宿に戻るわ。なんだか疲れちゃった。車で戻ること考えたら、動き始めないと」 精神的にもいろいろありすぎた。疲れるのも当然だ。一人になってゆっくりしたい。龍一の居場所がわかった以上、もう何も慌てることはなかった。 私たちは、ゆっくりと歩いて車へ戻った。 千紗は、日陰に置いたビーチベッドで文庫本を読んでいた。「千紗さん、私、これで失礼するわ」「おかまいもしませんで」 社交辞令が返ってきた。「オレらはしばらくここにいるつもりだから。新しい宿決まったら教えて」 龍一の言葉に、千紗は失望を隠せなかった。この女、また顔を出すつもりなんだ、と顔に書いてある。あまりのわかりやすさに、笑いがこみ上げそうになった。「泳ぐつもりなら、水着の上に着るものを用意したほうがいいと思うんだ。千紗、ラッシュガード貸してあげられない?」 千紗は私の体を上から下までながめた。「龍ちゃん。サイズが違うから無理だって。彼女は私よりだいぶ小柄なのよ」 私は先を制して言った。小さくて女の子らしい体つきをした千紗の服に、私の体が入るとは、とうてい思えない。 彼女の目が勝ち誇ったようにきらめいた。言いたいことは想像がつく。「私、電信柱みたいにおっきな女じゃないから」。 つまりバカにしているのだ。まあしょうがないか。可憐なボディラインが彼女の自慢なんだから。「そっか。じゃあさ、ホテルに戻ったら近くのサーフショップに行ってみて。長袖のラッシュガードをひとつ買うといい。日焼け防止になるから。それとポケットのついたサーフパンツだな。車のキーをしまうポケットがいるから」 私はバッグからボールペンを出してメモを取った。「ね、阿南さんて泳げるの?」 千紗がちくりと攻撃してきた。「あんまり。水着を買ったのも10年ぶりってところ」「サーフィン、やってみるつもり?」「まだその勇気はないけど、海には入ってみようかなと思って」「泳ぐのも10年ぶりじゃ、ちょっと危ないんじゃない? 運動神経がいいっていうならともかく。リュウ、なんかあった時に責任とれるの?」 まるで子供扱いではないか! 温厚に接しようと努力してきた私だが、さすがにムッとした。龍一が保護者で、私はその監視下に置かれた子供? 海に入るのが10年ぶりだからって、それだけの理由でバカにされるいわれはない。 私だって人間だ。海に入るくらい何てことはない!「責任をとって欲しいなんて考えたことないわ。自分で判断できるわよ」「でもじんましん、出てるでしょう。海なんかはいって大丈夫なの? 日陰でパラソルさしてるほうがお似合いだと思うけど。無理するのは良くないわよ」 言葉の最後に、「もう年なんだし」とつけ足したいことは明白だ。二人の間に青白い火花がピシッパシッと不吉に光り始めた。「と、とにかくさ。道具を揃えてまた来なよ。波打ち際で遊ぶだけでも楽しいよ、童心に帰るって感じで」 龍一があわてて割ってはいる。 私はムキになっていた。仕事以外でこんな気持ちになるのは我ながら珍しい。 言っておくけど私だってまだ20代ですからね。あんたがいくつなのか知らないけど、10も20も違うわけじゃないんだから。絶対、海に入ってやる。ええ、入ってやりますとも。 挑戦してやろうじゃないの! 私はね、やれないわけじゃないのよ、やらないことを自分で選んできただけなの。できることとできないことを冷静に判別してるだけなんだから。 確かに私は水に入るのは久しぶりよ。でもお風呂に入るのと海にはいるのと何が違うっていうの。ちゃぽんと水に浸かるだけなら私にだってできるわよ。子供のプール教室を見学してるお母さんみたいに扱うのはやめてくれない? 言いたいことは頭の中で渦巻いていたが、口にするのはやめておいた。 そのかわり、この渦が自家発電の役割をして、どろんと疲れていた体に、エネルギーがみなぎった。私はざくざくと足を運び、レンタカーのドアを開けて乗り込むと、道路へと走り出す。 一人に戻ると、大きく息を吸い込んだ。 旅に出ると、こんなにも色々なことが起きるのか。疲労の度合いに比例して驚きもまた大きい。日本での暮らしはもっと、静かで落ち着いたものだった。なんていうか、秩序があった。会社で接する女の子たちには節度があるし、あんなに露骨に攻撃したりはしない。利害関係がないのだから当然といえば当然か。 千紗にとって私は危険な存在で、どこまでも戦う姿勢を崩せない相手なのだろう。 ふと。祥二のことが思い出された。 私は雑誌の編集者だという例の女性と戦ってまで、祥二を取り戻したいだろうか。一瞬、お互いの髪の毛をひっつかみあって、とっくみあいをしているイメージが浮かんだ。 いやだ、そんなことしたくない。 男を取り合うなんて考えられない。だって祥二は賞品ではない。恋愛とは、勝負に勝った方が手に入れる、なんて単純なものではない。奪いあうのはモノではなく、感情を持った人間なのだ。 仮に、すでに祥二を巡る戦いが始まっているのだとしても、私と彼女が直接対決する必要なんかない。ジャッジを下すのは祥二なのだから。 そう考えると、千紗の態度は興味深かった。ジャッジの目に、他の選手が映らないようどんな妨害措置でもとる、という姿勢だから。 恋愛へのエントリーに条件なんかないってことを、彼女は学ぶ必要があるだろう。一年365日、一日24時間相手を監視することなんかできないのだから。相手を信じることを学ばない限り、成長はない。 もっとも、ただ信じてさえいれば悲劇は起きないか、といえばそんなこともないが。 悔しいけれど、祥二と私のケースは彼女の逆パターンなのだ。放任しすぎれば足もとをすくわれる。 いったい、どういう距離感が、恋人という関係にふさわしいのだろうか。 私は、ぼうっと考え事にふけりながら、ビーチに林立した高層ビル街へと車を走らせた。 夜、ホテルの部屋から国際電話をかけた。家に帰ってきたタイミングを見計らって、東華の家へ。「阿南? 電話の声って意外と近いわね。遠くにいるとは思えないわ!」「お姉ちゃん、今日やっと龍ちゃんを見つけたわ」「わあ! 元気そうだった?」「うん。ちゃんとニュースも伝えたよ。よかったね、おめでとうって言ってたわ」「よかったあ。ありがとね、阿南。で、龍ちゃんとは話できたの?」 素直に喜ぶ東華の声に、迷いは感じられなかった。東華は過去の選択に振り回されてはいない。自分が選んだ道をしっかり歩いているのだな、と思う。龍一から思い出話を聞きだしたことは、黙っていよう。「ああ。龍ちゃんの彼女がヤキモチやいてね。なかなかゆっくり話せないのよ」「えっ。女の子連れで旅してたんだ、龍ちゃんて。その子も半年オーストラリアにいるのかしら? 仕事は何してるの?」「さあ。詳しくは聞かなかったけど」「せっかくまだ日数があるんだからさ、しっかり海で遊んできなさいよ。あんたって子はほんとにお堅いんだから。少しはハメをはずしてパーッとね。なんか派手にマリンスポーツとかさ」 そういえば、ここではモーターボートだってパラセイリングだって、やりたいとさえ思えばありとあらゆるマリンスポーツが用意されているのだ、ということを思い出した。どれにも魅力を感じていないのが私らしいが。千紗の指摘どおり私はスポーツが好きって言うタイプではない。せいぜい、海水にちゃぷちゃぷ浸るのがいいところなのかもしれない。「考えとく」「あ、阿南。ホテルからの電話料金ってすんごく高いから、早く切った方がいいわ。で、帰国前にはもっかい電話ちょうだい」「OK。じゃ、体に気をつけてね」 受話器を置くと、もう一本電話をかけた。今度は祥二の部屋へ。この時間に部屋にいるわけはない。留守番電話にメッセージを残した。帰国の日と、乗る飛行機の便名を。それを聞いてどうするかは、祥二の選択に任せよう。
2005.04.01
手の甲に目を落とすと、ついさっきは赤黒かったはずの水玉の色がすっかり薄くなっていた。目の錯覚かと思ってサングラスをはずしてみたが、やはり薄い茶色に変わっている。「なんだか、発疹の色が薄くなってるみたい」「どれ」 龍一は、私の顔を正面に向けるとじろじろと遠慮のない視線で眺めた。「そうかもしれないな。時間がたつと色が落ち着くとか、そういうこと?」「ううん。ついこの間は、どんどん色が濃くなっていったし、治るまでに10日近くかかった。もしかして、少しずつ毒が外に出てるのかもしれない。この間一回出たから、体内の毒素の総量が減ってきてるのかも」「毒って?」「今回さ、上司の命令で医者に行ったのね。いつも研究所でお世話になってる皮膚科の先生ではお手上げで、その人のお母さんって人を紹介されたのよ。お母さんの方は漢方を専門にやってる内科医だったの。 その先生が言うには、私のこの水玉は、心の毒が出てくるから起きるって。いつも自分を抑えていい子にしてる不満が、時々何かのタイミングでわいてくるんじゃないかって」「毒か。毒ねえ。でもその現象はそう悪いことでもないんじゃない? オレから見ると、亜南はすごく落ち着いてる。いつも安定した精神状態でいられるよう、自分をコントロールしてるでしょう。だからたまには、コントロールされたくない自分が、暴動をおこしたくなるんじゃないの」「そんな言い方したら、私が二重人格みたいじゃない?」「だれでも多かれ少なかれそういう要素は持ってるのさ。自分の中に、自分の理想にはそぐわない自分がいる。一方が楽天的なら、もう一方が悲観的だったりね」 そんなものかしら。「旅に出ると、今までの自分とは違う面が見えて来るって事があるじゃない?」 返事に困っていると、龍一は説明を続けた。「一人で海外にでてきて、砂浜を歩いて。最近、海を見たことなんてあった? 長い時間、太陽の下にいたこと、あった? ずっとビルの中で働いて、休みになると家にいたんでしょう。自然を楽しむってこと、してこなかったんじゃない?」「国内旅行ならしてたけど」「皮膚で感じてた? 風や太陽を」 ――それは。私はずっと肌をさらすことを避けてきた。それが仕事だったから、ということもあるが、夏でも長袖を着ていたのは、自分自身を外界から隔てて守るためだったのかもしれない。「今みたいに、肌で夏を感じるのは、ずいぶん久しぶりだわ。気持ちがいい」「心を解放してやることさ。カゴから出して羽ばたかせてやるんだ。今の阿南ならきっとそれができる。ついでに海で泳いでみればいい。しばらくやってなかったでしょ」 心を解放する。どこかで聞いた言葉。ああそうか、漢方の軍鶏婆さんが同じ事を言った。そして、塩水に体を浸すのは肌にいいとも言った。 海で泳ぐ。せっかくだからやってみるか。「そうね。でも私、プールならともかく、波があるところでなんか泳げないわ。水着を買ったのだって10年ぶりだったんだから」「泳がなくたっていいじゃない。地球の懐に入ってるって感覚を味わうだけでいい。そうだ、サーフィンに挑戦してみない? 教えてあげるから」「そんな勇気はまだないわ」「じゃあ、海に入るだけなら? やってみる?」「うーん。足がつくあたりまでならいいかな」 龍一はニッコリと笑った。「オレが占いをしないって言ったのはさ。阿南にはそんなやり方は必要じゃないって思ったからなんだ。阿南にとっては、オレに占ってもらうことがこの旅の目的だったんだろうけど。でも、目的なんて必要かな?」「海で泳いだあとなら占ってくれる、ってこと?」「どうしてもあきらめないなら、考えるけど」「だって、目的を果たさないなんて気分が悪いわ。私は何のためにここまで来たのかって」「旅しに来た、っていうのが目的でいいじゃない。旅っていうのは、一心不乱に目的を果たすだけじゃつまらないのさ。目的は何でもいいんだ。それにこだわる必要なんかない。動く動機になれば充分。動いて感じること、それが旅なんだし、人生の薬になるんだ」「薬って?」「いったでしょ。自然治癒力。旅ってのは自分のなかの治癒力を引き出す一番簡単な方法なんだ。特に一人旅はいいね。すごく効くよ。悩める女性にはもっと薦めたいと思ってるんだ」「それができれば、占いなんて必要なくなる?」「はは、商売あがったりだね。ただ、占いが必要ないっていうより、占いに頼るパーセンテージが低くなる。自分で決められる力がつくんだ」 龍一に会いたかったのは、自分の将来を自分で決められないからじゃない。 自分自身が何を求めているのか、目隠しになっているものを取り除いてほしかっただけなのだ。 それでも、彼が言わんとすることは、少しだけ理解できた気がする。知らない土地で車を運転する。海を間近で見る。それだけのことなのに、今までの自分とは違ったきた気がするのは確かだった。
2005.03.31
「阿南は、奈々のこと、忘れたわけじゃなかったんだ」 龍一はちょっと驚いた顔をした。「思い出したくなかっただけよ。完全に忘れることなんて、やっぱりできないわ。あの悲劇が始まったとき、私も隣にいたんだから。 あの子がバカなのは仕方ないけど、その場にいながらあの子を引き留められなかった私はもっとバカだって」「お姉さんなのに、そばについていながら何もしてやれなかった、って?」「そうよ。実のところ、最初にあの男を見たときの第一印象はサイアクだったわ。 うさんくさくて信用ならないって。奈々だって同じ印象を受けたと思ってた。 あんなに調子のいい言葉をずらずら並べられて、それをうのみにするほど脳が足りないと思わなかったのよ」「だけど、奈々のこと、本当に止められた? 恋は盲目って言うじゃない。奈々は一途で情熱的な子だった。横でいくら注意しても聞かなかったんじゃない? 奈々の相手がとんでもない男だって、その時は誰にもわからなかったんだよ。結果を見るまでわからなかったことで、自分を責めることはないさ」「そう思いたいわ。でも、奈々にとって初めての男が、あんなヤツだったってこと、私、許せないの」 いつのまにか、体が小刻みにふるえていた。 奈々のことを思い出さずにいたのは、考えただけでつらくなるからだった。 もし、あの男が目を付けたのが、奈々でなく私だったら? エリさんだったら? 「どうして私を止めてくれなかったの」。そう奈々に責められているような気がしてたまらなかった。私は妹を救う努力を放棄して、その場から逃げたのだ。 「龍ちゃんと東華がついていてくれなかったら、奈々、あの時ほんとに死んでたかもしれない」「奈々が死ななくて良かったと思う?」「うん。あんな目にあってそのまま死んじゃうなんて可哀想すぎる」「奈々が阿南に会いたがってるとしたら?」「私には会う資格がないわ。止められなかったし、助けてあげられなかったんだから」「でも、奈々がそんなこともう気にしてないって言ったら? あっちが会いたがってるなら、構わないんじゃない?」「そうね。奈々に会って謝りたい、っていう気持ちはある。もちろん、奈々にも謝って欲しいことがあるけど」「阿南、ずいぶん変わったね」 龍一は静かに笑った。「そうかしら」「そうだよ。奈々が家に帰ってくることは絶対に許さないって。ずっとそういうスタンスでいただろ。ひとり暮らしを避けて実家にいたのは、奈々が戻ってくるのを阻止するため、っていう意味もあったでしょう」 その指摘に、びくりとからだが反応した。 そうか、年老いた親が心配、そんな気持ち以上に、私は、あの家に奈々を近づけたくなかったのだ。私が門の前に頑張っていれば、奈々は絶対に家に入れない。もうこれ以上お父さんとお母さんを苦しめないで。「うちの両親が奈々の結婚を反対したのは、不幸になるのが目に見えていたからよ。 奈々はそれを逆恨みしてた。お父さんだってお母さんだって、ものすごく心が痛んだのよ。あんな重い時間を過ごすのは二度といやだった。元凶である奈々がいなくなれば、平安な日々が過ごせるって思ったの。そういうものじゃない?」「みんな、奈々が今どうしているのかって心配してるのさ。阿南だって、実はそうでしょう? やっとその気持ちを認めることができるようになったところだ」「そうかもしれない。ねえ、龍ちゃんは奈々の居場所を知ってるの?」「ああ。もし阿南が会いたければ、いつでもセッティングできるよ」 その時私はどんな顔をしたらいいのだろう。 東華が望んだように、子供が産まれるときは三姉妹が仲良くいられるのだろうか。そして、それは私の決断にかかっているのだ。 人にはみな、いろいろ事情がある。 龍一のうちあけ話は、さびついた扉のちょうつがいに油を差す役割をしてくれたのだった。
2005.03.30
それにしても、私はずいぶん奥手だったなと思う。適当に優しそうな人を捕まえて、恋人ごっこを堪能することだってできたはずなのに。腕を組んで歩く。服を選んでもらう。腕枕をしてもらう… でも、形から入る恋人なんて欲しくなかった。もっと、私を深く知って、他の人じゃなく、私でなきゃダメだって言ってくれる人じゃなくちゃ嫌だった。「龍ちゃんは優しいから、その子の希望をかなえてあげたんだね。付き合いたいって言われれば付き合ったし、別れたいといわれればその通りにした。でもさ、龍ちゃんはホントに好きだったの? 相手のこと」「痛いところをつくね。そう、オレは押されると弱い。相手に勢いがあると、かわせない。まず、理想の女性像っていうのが無いんだよ。みんな可愛いし、みんないいところがあるって広くとらえちゃう。だから誰がきても受け入れられるのかもしれない。ストライクゾーンが広いんだよな。 特別な誰かに魅力を感じるってことが、あんまりなかったんだ」「こだわりがなさすぎるわけ」「そう。そんな中で、改めて見た東華は飛び抜けていた。個性ってこういうことか、って思わされた。すごく惹きつけられたんだ。大人なんだけど、精神的には子供っぽい所もある。発想は自由でしなやか。冒険心があって積極的。まあ、国立家の女性はみんなそうだけど」 冒険心と積極性ね。私には薄いけど、確かに東華と奈々にはそれがある。母の若い頃もまたそうだったらしい。「大学に入ったら、酒を飲むようになるじゃない。東華はいい店をよく知ってたし、飲みながらの会話も弾んだ。週末になると国立家で朝まで宴会ってときもあったよ。亜南が受験を控えてるから、あんまり騒いだりはしなかったけど」 龍一は私よりも1年早く、大人の世界に入って行ったのだ。私はそのころ、次のステップに飛びあがるためにしゃがんでいた。二人の世界が大きくかけ離れる時期だったのだ。いろんな意味で、私は二人に置いてきぼりをくらっていた。 今聞いてみても、やっぱり、おもしろくない。「東華のことが好きだって気づいてからは大変だったよ。 その気持ちを黙って今まで通りの仲のいいイトコでいるべきか。それとも、もう一歩踏み込む勇気を出すのか。 でも、今までの時間の積み重ねは、たとえこの恋が成就しなくても、消えて無くなるものじゃないだろ。気まずくなるのはイヤだけど、もっと近づきたかったんだ、彼女に。 誰かにさらわれてしまう前に、隣に並んで歩いていたかった。 あんなに必死になったの、あれが初めてじゃないかな。もう断る隙は与えないって感じで」「今度は自分が押す方に回ってみた、ってこと?」「後にも先にもあれっきりだよ。絶対この人と一緒にいたいと強く望んだのは」 ふと。 千紗のジェラシーの原因がわかった気がした。彼女はおそらく自分からぶつかっていったのだ。だからいつも龍一の気持ちを確かめたくて仕方ない。 彼が私に夢中なんだ、という自信があればあんなにキャンキャン吠える必要はない。「そんなに好きだったの。別れるときつらくなかった?」「男だから泣いちゃいけないってこともないだろ。泣いたのはオレで励ましたのが東華。どうして彼女は、自分がつらいときでも人を励ますことができるのか、って思うともっと泣けてしかたなかった」「じゃあ、別れた原因は、もしかして…」「そう、東華の妊娠。彼女はオレに率直に事実を説明してくれた。 今、子供を産むわけにはいかないから、病院に行っておろすつもりだと。もし嫌じゃなければ付き添って欲しい、書類に名前が必要だからって。 一瞬、考えなくはなかった。結婚してもやっていけるんじゃないかって。親同士は近所に住んでるし、親戚っていうベースはすでにできてる。ひょっとしたらうまく行くかもしれないじゃないか、って。 でも現実的じゃないよね。それに東華はハッキリ言った。 今の私には出産や結婚に魅力を感じていないし、他にやりたいことがある。ひとつの命をつみ取るのは気が引けるけど、私自身の人生の方がもっと大事なの、って。ひどい女と思われてもいい。私は自分にウソをつかないで生きたい。 オレは無力だと思った。好きな人につらい決断だけ押しつけて、自分は何の力にもなれない。オレは彼女を幸せにするどころか不幸な目にあわせてる。嫌いな人にだってやらないようなひどいことを、オレは、一番好きな人に対してしてしまった。しばらく立ち直れないほどのダメージだったな」「やっぱりそういう事件があると、つきあいは続かないものなの?」「今でも忘れられないよ。東華は、オレとの間の子供だってことは嬉しい、って言ったんだ。ただ時期が悪いって。冷凍しておければいいのにね、って言われたとき、どうして自分に経済力がないのか悔やんだよ。もしオレの方が歳が上だったら、そのときから家庭を作ることが出来たはずだから。好きになったのが早すぎたのか。それとも彼女は永遠に追いつけないほど先を歩いているのか。 別れることになったのは、オレが自分の未熟さにうんざりしたからだ。惚れた女を幸せに出来ない自分には恋をする資格なんかないって。彼女にはオレよりももっといい男がふさわしい。そういう人が彼女の前には必ず現れる、って。だって東華はすてきな女性だから」 龍一にとって、東華との恋が壊れたことは相当なダメージだったのだ。 私がハワイで壊れた友情のことを引きずってきたのと同じ。 龍一はまだその傷に自分で塩を塗り込んでいるのだろうか。「龍ちゃんの失敗は、東華を好きになった時期が早すぎたことじゃないよ。避妊に失敗したっていう現実が引き金になっただけなのよ」 龍一は細めていた目を開けて、私を見た。 まさかそんなに深い傷を負っているとは思ってもみなかった。その時、力に慣れなかったどころか、こんなに時間がたってからほじくり返すなんて。悪いことをしたな、という後悔がわき上がった。「子供を産んで育てるってことは、その段階から大きく生き方が変わってしまうってことじゃない? やめておく、っていう選択肢があっていいのよ。奈々は絶対子供を産むってムキになったから、結婚でひどい目にあったんだし」
2005.03.29
「阿南ちとオレんちはずいぶん仲良くしてたよね。 小さいころから一緒に遊んでたもんな。でも、彼女が恋愛の対象として見たのはずいぶん後になってからだ。東華は、阿南より4つ年上で、オレからみたら3つ年上だろ。オレらが中学に上がる頃、彼女はもう高校生。それくらいになるとほとんど接点はなかったもんな」 そうなのだ。東華は頭ひとつ抜けていた。 同じ学区内だったから小中学校と通った学校は同じだ。しかし、年齢の違いで東華だけが一歩先を歩いていた。龍一にとって近い存在は私の方だ、という自信があったのに。「で、結局いつからつきあいだしたの?」「高校を出て、大学入る直前の春。東華は卒業まであと1年って時だね」 すると私が高校3年になるときの話か。 当時の龍一は、用があろうがなかろうが、学校の帰りは我が家でともに夕食をとっていたし、週末にもよく顔を出していた。 私も私で受験の準備に忙しかったから、二人のことには気がつかなかったのかもしれない。「東華のどこが好きだったの」「彼女はオレの人生にとっての、鍵だったんだ。将来はどんな仕事をしていこう、って考えたとき、オレの前には重い扉が立ちはだかっていた。先が全く見えない状態だったとき、彼女がその扉を開けて、その先に何があるのか、見せてくれたんだ」 なかなかに詩的な表現だ。 ストレートに言えば、彼が今の仕事で身を立てるきっかけを作ったということだろうか。「あのころは、占いって、免許を持たない人が外科手術をするようなもんだと思ってたんだよね。時には人の人生を左右する言葉を相手に与えるくせに、それに対する責任を果たす気は、ない。 母がやってる仕事は無責任で、人をあおってお金を稼ぐ不当な商売だと思ってたんだ。人を助けるんだったら、もっと深くつっこんで付き合うべきで、資格だって必要だって」 大学での専攻の話までは、私も知っている。 そういえば大学生になってからの龍一は、我が家に顔を出す機会がめっきり減った。 高校生と大学生の間には、子供と大人という線引きがされるのだ、とひとつ違いの年齢差を寂しく思ったものだ。私は今まで通り制服に身を包み、毎日規則正しく檻の中に通い、来るべき未来のために受験勉強をする。同じ歳の友人達とたわいないおしゃべりに興じる。その頃、龍一はもっと大きな歩幅で未来へ向かって歩いていたのだ。「オレさ、それまでは女の人って男が守るべき存在だと思ってた。フェミニストをきどってたんだな。でも、それがどこか違う、と気付かせてくれたのが、東華なんだ」「東華を好きになった時は、守ってあげたいと思った?」「いやいや、逆」「東華は強い女だもん」「そう。彼女は本当に独立したいち個人だった。すごく新鮮だった。それまでの自分の恋は間違ってた、と思ったくらい」 衝撃を受けた。 高校時代の龍一は、付き合っている女の子がいるなんて一言もいわなかったではないか。 私は勝手に、龍一は硬派で奥手で男の子たちとじゃれている少年だと決めつけていた。少なくとも私といるときはそう見えたから。もちろん私にも恋人なんかいなかった。お互い、奥手なんだって同胞意識まで持っていたのだ。 なんて的外れな思い込みだったんだろう。「龍ちゃん、高校時代に彼女がいたんだ」「そう。一つ下のコ」「同じ学校の?」「よくあるだろ、体育館の裏に呼び出されて手紙を渡されるってヤツ。あの子の偉かったところは、手紙を自分で持ってきたことだな。女の子ってよく友達に配達を頼むだろ。オレはそういうのシャイっていうより卑怯者だと思ってたから、まずはその勇気に感心してね。映画に行ったりお茶飲んだりする程度の関係だったけど」 なんだ、お子さま恋愛ごっこではないか。しかし、それまでに付き合っていた人がいたのに、東華が初恋の人っていうのは、どういう意味?「ところがその子が積極的で。私、龍さんとならいいよ、なんて言ってくる。こっちも血気盛んな高校生でしょ。そりゃもう、坂道を転げ落ちるように欲に溺れた日々が始まっちゃう。夜、うちは母親が留守だしね」 思わず、目を伏せる。また肌の水玉の色が濃くなってきている。 サイテー。龍一にも世間のバカな男なみに、やりたい盛りがあったのかと思うと吐き気がした。知りたくなかった事実だ。 龍一の言葉がよみがえった。聞いてみてはじめてわかるのね。聞かなきゃよかったっ、て。「どうしてその子とずっと付き合わなかったの?」「受験勉強しないといけない時期になっても、放って置いてくれなかったんだ。 オレが勉強のための時間が欲しい、って言っても納得しない。彼女はお嬢様学校に進むつもりだったから、受験の感覚が違うんだよな。それでも、女の子を泣かせちゃいけないと思ってずいぶん尊重したつもりだ。突然家に来るもんだから、受験勉強はぜんぶ国立家でやってた。その子も、国立家っていう存在は知らなかったから、いい隠れ場所でもあったんだ。 女の子っていつでも構っていて欲しいもんなんだね。ちょっと連絡をしない間に、むこうは新しい恋人を作ってた」「それこそ、私と受験とどっちが大事なの?って感じだったんでしょ」「そう、まさにそういう感じ。彼女は、相手にとっていつでも自分が一番大切な存在でなくちゃイヤだったんだな。そういう意味では、必ずしも相手がオレでなくてもよかったわけ。つきあい始める頃、オレのどこが気に入ったのかって聞いたら、優しそうなところ、って言ってたもんな。オレにはそれしか取り柄がないのか、って正直がっかりした」 高校生なんて、恋に恋する時代である。無理もない話だ。
2005.03.28
「なんだか今日は、オレの秘密の暴露大会みたいだなあ」 龍一はふうーっと長いため息をついた。「ごめん。でもホントなの? 東華が昔妊娠した時の相手って、龍ちゃんなの?」「東華から聞いたんじゃないの?」「ううん。不妊治療について聞いたら、昔、妊娠したことがあるから必要ないと思ってたって言ってたの。それだけ。それに、さっき、東華が初恋の人だって聞いたもんだから。もしかしたら、と思ったの」「言っておくけど、千紗が言うようにしょっちゅう東華の話がでたわけじゃないよ。あいつは、ふとしたタイミングに質問をはさんでくるんだ。今思うと、それをつなぎ合わせて、ひとつの話ができあがっていたんだな」「好きな人ことは何でも知っておきたいのよ、きっと」「でも阿南は恋人の過去をほじくったりはしないだろ」 確かにそうだった。祥二と付き合ってもう4年が経つが、彼の過去について気にしたことはない。ルックスも悪くないし性格だって明るく前向き。ヤツのような男がモテなかったわけがない。しかし、ヘタに昔話を聞きだして、嫉妬に駆られるのがいやだった。だったら知らない方がよっぽどすっきりする。自分から質問するだなんて愚の骨頂だ。「知らない方がいいことって、世の中にはたくさんあると思わない?」「まあね。でも阿南の場合は、知りたくないこと、の間違いじゃない?」 またしても心臓が不整脈を打った。なにかが引っかかる。龍一の言葉のいくつかは、腕のいい鍼灸師のひと鍼に似ている。ここぞ、というツボに鍼が刺さった時のように体が勝手にピクッと反応してしまうのだ。「知らない方がいいことだから、知りたくない。別に矛盾はないでしょ」「知らない方がいいことっていうのは、結果論だろ。その内容を理解してからでないと、知った方が良かったのか、知らなかった方が良かったのかはわからない。阿南の場合は順序が逆だ。知りたいことも、知りたくないこともひっくるめて、質問しないというスタンスでいたんだろ」 自分の人生をズバリと言い当てられて、私は身がすくむ思いだった。これが龍一の占いのスタイルなのか。「だって。人の心には、ずかずかと踏み込んじゃいけない領域があると思わない? 少なくとも私にはそういう場所がある。だから人に対してもそれをしない。ルールを遵守する、それだけのことよ」「オレには、ズバッと切り込んできたじゃない。ついさっき」「それは――」 そうだった。さっきの私のしたことは、主義に反することではないか。相手が心にしまっていた話を無理に聞き出そうなんて。「私だけ知らなかったってことが…龍ちゃんから友達扱いされてないって気がしたから」「そりゃあ、東華とのつきあいが長く続いたんなら、阿南にだって話をしたさ。だけど、二人の関係がものすごく時間で決着していたとしたら、どう?」「…ごめん。私の言い方、ちっとも優しさがなかったね」「いいさ。阿南だってビックリしたんだろうから。じゃあ、誤解のないように話をするよ。初恋の話」 龍一は大きく息をすってから、ゆっくりと話し始めた。
2005.03.25
食事が済んで食器を洗ってしまうと、もう、やることも話すこともなかった。昼食の後はいつも少し昼寝をして、夕方また波が立ってくるのを待つのが日課なのだという。 龍一は、恋人に向かって優しく言った。「千紗、少し日陰で休んでなよ。体きついんだろ。オレは阿南と話があるから、ちょっとその辺を散歩してくる。いい子にして待ってて」 彼女は渋々だったが承諾した。 ようやく龍一とゆっくり話ができる。 ビーチまで並んで歩くと、さっき放り出したままの日傘が白い砂浜の上でころころと転がっていた。 あわててそれを拾うと、頭の上に日陰を作った。大きな黒いパラソルをクルクルと回す。「なんだかずいぶんごっつい日傘だね」 龍一は笑う。「龍ちゃん、私が今なんの仕事をしてるのか知ってるでしょ。化粧品メーカーで美白の研究してるのよ。その私が日焼けするわけにいかないもの。ただでさえ敏感肌なのに、こんな強い陽差しの下にいたらどうなるかわかったもんじゃないわ」「昔よりもっと色が白くなったんじゃないの? 赤い水玉がよく目立つ」 そうか、子どもの頃はもっとダイナミックに太陽の下で遊んでいたような気がする。東華と、龍ちゃんと、私とで。夏休みは父の田舎でどろんこになって遊んだではないか。セミの抜け殻を集めたり、親戚の畑でトマトの収穫を手伝ったり。「あのころの阿南は面白かったな。ちょっといじめるだけですーぐ真っ赤な水玉になって、わんわん泣くんだから」 その頃はみな横一列だった。私たちはたった一人のいとこである龍一と、適度な距離を保ちながら仲良く過ごしていたのだ。そのバランスが崩れ始めたのはいつからだったのだろう。「オレ達、こうして会うのは10年ぶりになるのかな?」「そうね。なんで今までこんなに意地になってたのかって、後悔してる。 私ね。龍ちゃんと東華は奈々の味方であって、もう私のことはどうでもいいんだって、ガッカリして。それ以来もう、話す気がなくなったのよ」「奈々のこと、今でも許せないの?」「わからない。 ただ、奈々のことにこだわりすぎて、今まで時間を無駄にしてきたことだけは納得できた。今では顔も見ることもない人に、いまだに振り回されているのバカらしい、そう思うようには、なった」「阿南もあのころから比べたら大人になったでしょう。奈々のつらかった気持ち、少しは想像できるようになった?」 私はムッとして黙った。東華と龍一の言うことは同じだ。意固地な私をさとして、一番下の妹との仲を回復させようとする。「私、あのころのことを思い出すととっても気分が悪くなるのよ。だから考えないようにしてるの。もしも考え続けていたら、この水玉は消えるヒマがないでしょうね。永遠に私の肌はボツボツよ」 龍一は、ちらりと私の顔に目をやった。「おかげで大人になってからしばらくこの発作とは縁が無かったの。この間出たのは社会人になって初めてなんじゃないかな。上司が心配して医者に行けってうるさくて」「その時は薬で治ったの? 子どもの頃は、とにかく放って置くしかなかったよね。自然治癒を待つっていうか」「しぜんちゆ。難しい言葉を使うわね、龍ちゃん」「最近、色々考えるんだよね。人間の体や心のシステムって不思議だよなあって。例えば、悩みすぎて病気になるタイプの人っているじゃない。 オレのセッションを受けて、その瞬間から顔つきから肌の色までぱあっと変わっちゃう人っているんだよね。それまでは病気だったのに、一瞬で治っちゃう。あれって、心が体に作用してるからなんだとしか思えない。オレは医者じゃないから、病気を治してくれって来るひとには困っちゃうんだけどさ」「そんな不思議な話がいっぱいあるの?」「もう、日常的に発生してる。女の人ってなんかすごいんだよ、パワーが。精神力がそのまんま体につながってる感じ。見てて驚くことばっかりさ」「だから消耗するの? その疲れを海に流しに来るの?」 私は雑誌のインタビューで書かれていたことを思い出して言った。「まあそんなとこ。とにかく、人と向き合って心を見せてもらうっていうのは、ものすごく疲れる。自分が心底ハッピーでいないと、相手の絶望とか無気力に引きずられちゃうんだよ。感応しちゃう」「なんか、龍ちゃんのそれって…占いを越えたものじゃないの?」「自分では、占いの看板を掲げたセラピーだと思ってるから」 だからあんなに多くの支持を集めているのか。ふと、私は職場の後輩が龍一のセッションを受けたことを思い出した。「私の会社の女の子がね、龍ちゃんに占ってもらったことあるんだってよ。彼女が投稿したから、雑誌に龍ちゃんが紹介されることになったんだってね」 私はバッグからページがシワになった雑誌を取りだした。「ああ、これ、こんな風に載ったんだ。わっ、なんかやっぱり照れくさいね。こんな書かれ方したら、すんごいかっこいい生き方をしてるみたいじゃない?」 充分かっこいいわよ。体は引き締まっていて無駄な贅肉なんかひとかけらもない。日焼けした体に健康な笑顔。自由でありながら、金には困らない仕事を持つ。そして可愛い恋人も連れている。成功した人そのものね。「で、阿南が会いに来たわけ、話してくれる気になった?」「もちろんよ。さっきは邪魔が入ったから途中になっちゃっただけで」 龍一は、木陰に腰を下ろした。私も日傘をたたんで隣に座る。「オレはさ、阿南とはもう少し早く再会できると思ってたんだ。予想よりも時間がかかった。だからハガキを書いたんだ」「もっと早くに会いたかった、ってこと?」「そう。君が望めば、オレはいつでも会って話をするつもりだった。いつ来てくれるのかって心待ちにしてたんだ」「私が龍ちゃんに会いに来たのは…人生の岐路に立っているからよ」「そうでしょう」「男の人に結婚してほしいって言われたわ」「遅いくらいだ」「ううん、その人とは、食事を3回しただけでそれ以上の付き合いはなかったのに、突然プロポーズされたのよ。反対に、4年も付き合ってた人には浮気されて、その現場を目撃しちゃった」「うひゃあ~」 龍一は気の抜けた顔になった。「阿南のブツブツが出たのは、それが原因?」「たぶんね。どっちも同じ日に起こったし」「阿南の人生には、強烈な事件が起きるね。そういう星回りなのかなあ?」「そう、それよ。私のホロスコープを作って欲しいの。私も龍ちゃんのセッションを受けたいの。そのために来たのよ。少しでも早く相談に乗って欲しくて。お願い、特別に見てくれない?」「そんなこと言ってもなあ。今回の旅には、ホロスコープを作るソフトとパソコン、持ってきてないんだよ。すぐには無理」「じゃあ、昔みたいに話を聞いてよ。相談にのって」「うーん。でもさ、今の阿南なら、どんな問題だって一人で解決できるだろ? 人に相談するときには、自分なりの結論がすでに出ているもんだよ」 なに言ってるの? 龍一は、私がどれほど勇気を振り絞ってこの一人旅に挑戦したのか、わかっていないの? ただ懐かしがるだけで終わり? 悲しみよりも怒りの感情の方が強かった。黙っていようと決めたはずの言葉が、口から飛び出してくる。「奈々のことは助けたでしょう? どうして私はダメなの? ここに来たのが東華だったら、もっと優しくするんでしょう? あの時の選択が違っていたら、この海にいるのはあの娘じゃなくて、東華よね。龍ちゃんも、優雅な独身貴族じゃなくて、小学生のお父さんだったはずよ」 龍一は、遠くを見つめたまま、クールに質問した。「東華はホントにそう言った?」 私の心臓は、パタッと音を立ててとまりそうになった。
2005.03.24
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