葵の紋に生きる徳川の家の志だ
それから数刻ののち、浜御殿では招かれた琉球一座の踊りと歌が繰り広げられ、月美香太夫一人の舞の舞台になり、正面に置かれた装置に太夫が立ちますと扉がまわり、 笠で隠した一人の女の人が
出て来ます。
階段を降り
、音楽が鳴り止むと同時に 舞台にすくっと立ち
、笠を飛ばし 羽織っていた着物を脱ぎます
。老中堀田加賀守が「あっ、若さま」と、英明院、鈴木や唐金屋も一同びっくりします。そして刀を手に取った熊谷民部らに、若さまが「 静まれ
」と制止ます。







若さま「 はっはは
、琉球一座よりもっと面白いものをお目にかけよう」。


若さまが正面座敷に座っている堀田に向い
若さま「加賀守、 しばらくだな
」
加賀守「これは若さまには先ぶれもなく、 何の御用でございますか
」
若さま「 あっはっはっ
、何を言ってやんでい。先ぶれをすりゃおそらく、その唐金
屋と鈴木采女、風をくらって逃げうせるだろうからな」

唐金屋「妙なことを承りますな。私が 何故逃げなくてはなりません
」
若さま「唐金屋、御上の御用を取りたいばかりに、異国の芸人にまでとんだ日本の
恥をさらしたな」
唐金屋「何でございますって」
若さま「小納戸役頭取と交わした取引状に、琉球芸人の世話まで書き込んだとは、
呆れ返った馬鹿ものだ
」
そう若さまに指摘された唐金屋は鈴木の方を見ます。

今度は唐金屋の隣りに座っている鈴木采女の方を見て、
若さま「また、その取引にうまうま乗って、天下の財政をかえりみず、私利私欲の
ままに 御用商人を取りつぶし
、その悪事に加担した下役を無頼武士を使っ
て 闇から闇へ葬る
」

そういうと、今度は、熊谷民部の方を見て、また続けます。
若さま「正月元旦の 夜明けに一人
、城の見回り番士が 下城そうそう殺されたはず
」



すると、鈴木が、「何を証拠にそのようなことを申される」といってきたので、若さまは「よーし、この後に及んで 証拠呼ばわり
、・・・ おちか
」、若さまに呼ばれ「はい」とおちかが舞台の中央にやってきます。


若さま「采女、この娘の前に 恥ずかしいとは思わぬか
」
びくともしない鈴木を見て、
若さま「また、この 取引書状
、江戸八百八町の 町民の前に
、さらしてやろうか」
そう言って、若さまは、 ひろげた書状を見せます
。


そして、堀田にいいます。
若さま「 加賀
、直ちに城内におもむき、この由上様に申上げ 、鈴木采女を裁きにか
ける
」

堀田は落ち着いた口調で若さまに、葵の御紋をめされている若さまのお言葉とはいえ、お聞き届けはいたしかねる、といってきました。
加賀守「若さま、これにいさせられるはどなた様と心得なさる。先の将軍家御部屋
様、英明院様であらせれられるぞ、お控えなされ」
若さま「 ふざけるねい
」
若さまは英明院の方へ歩きながら
若さま「天下万民を思うてまつりごとをとられた、先の将軍家の御皇室さまが、そ
の方ごときに 恥かしめをうけられるはずがない
。誠の英明院様ならば、一
室にこもってひたすら、亡き将軍家の御霊を弔い、正しい太平の世を 祈ら
れるは
ずだ
」
英明院は、若さまにいわれたことに下を向きます。


若さま「真に尊いのは、人の身分ではない、 見ろ
」
若さまは葵の御紋のある羽織を脱ぎ、着流し姿になります。


若さま「 世を捨てて
、 天下を守り
、それが 葵の紋に生きる
徳川の家の志だ
」


「葵の御紋がないその者は若さまとはいわせん」と堀田はいうと、民部に「斬れ」と命令し、家臣達も 若さまを取り囲みます
。
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