Oceaniaとアテネ五輪開会式 アテネは今まで見た五輪で唯一,面白い開会式だった.歴史絵巻は教科書的でやや興冷めしたけど,全身青塗りのワイヤ吊りの天使が視覚的アクセントになり,いつの間にか目が離せなくなった.そしてBGMの良さが,それを茶番以上のものに見せた.音楽はクラシックな雰囲気ながら,リズムや音色は現代的で,飽きのこない上品なアレンジが施されていた.そして知らされていなかったビョークの登場に度肝を抜かれた.歌は oceania.和訳の歌詞がテロップで流され,母なる海の息子と娘が,悠久の時の中で,様々な生物に姿形を変え,陸を海を駆けめぐる様を誇らしげに歌う.エイなど,あまり一般的には詩的でない生き物が登場して,へんてこな感じがしたが,それも彼女の不思議なイメージと合っていた.会場をすっぽり包む広大な青の薄衣が波うち,観客に配られた無数のダイオードの光の明滅と,鈴の音がつくる不規則な波のような心地よい音.どれも単純で安価なアイデアながら,信じられないほどドラマチックな雰囲気を作り上げることに成功していた.最後のフレーズ "I am why" を「私は神秘」と書いたのは明らかに誤訳.「私こそがその理由」と訳すべき.そうすれば,直前のフレーズも含めた文脈,「あなた達の汗は塩からい.なぜなら私(=海)があなた達を生んだから」となって意味がしっくりくる.