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今朝やっと読み終えました。作品のヒロイン・エリースの正体が最初わからなかったんで、「?」と思いながら読み進めるうちにその正体と目的がわかったので、彼女があの判事に近づいたことに納得がいきました。ダンカンははじめエリースを疑ってたんですが、夫と犯罪組織のボスが繋がっていることを知って彼女に協力するようになるんですね。最初、エリースの美しさに心を奪われているんじゃないかと思ったんですが。まぁ、悪役たちはそれ相応の報いを受けたのでスッキリしました。635ページはあっという間に読んでしまいました。
2009年02月21日
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“伝説の島”で、ユリウスとルドルフは海賊が隠した宝を何のてがかりもなしに探していた。「もう諦めた方がいいんじゃないですか?そもそも、地図もコンパスも持っていないと浜辺に戻るのも無理ですし・・」生い茂る雑草をかき分けながらユリウスはただひたすら前進するルドルフを見て言った。「宝が見つからなくても、僕はそんなことどうでもいい。ただ、お前とこうして過ごしていられることが楽しいんだ。」「ルドルフ様・・」「こんな遊びは、ホーフブルクではできないからな。」そう言ったルドルフの顔に、屈託のない笑みが浮かんだ。(ルドルフ様のこんな顔、初めて見る・・)初めてバイエルンで出会った頃、ルドルフは終始厳しい表情を浮かべていた。その理由ははじめ解らなかったが、ホーフブルクで共に暮らすうちにその理由がだんだんと解ってきた。というよりも、解らなければならなかったのだ。絢爛豪華で煌びやかな世界である宮廷の裏側には、悪意を持った人間が空を覆い尽くす黒雲のように自分達の周りにいるのだということを。オーストリアの皇太子として、ルドルフは悪意の声を撥ねつける強さをいつも保っていなければならなかったから、子どもらしい表情を浮かべることができなかったのだろう。だがユリウスとウィーンを離れた地中海に浮かぶこの島で、ルドルフはオーストリア・ハンガリー帝国皇太子としてではなく、ただ1人の子どもとして、暮れゆく夏空の下束の間の自由を満喫しているのだ。今この時がもう2度と自分達の元に巡ってくることはないだろうと、ユリウスは確信していた。穏やかで幸せな時間は、あっという間に過ぎてしまう。その時間が過ぎ去ってしまうまで、ユリウスはルドルフとこの時間を楽しむことにした。宝探しなど、もうどうでもよくなってきた。ユリウスがルドルフの後について歩いていると、突然彼が足を止めた。「どうされましたか、ルドルフ様?」「ユリウス、宝を見つけたぞ。」ルドルフはそう言って指差した方向には、まるで舞い踊るかのように美しい翅をひらひらとさせながら飛んでいる蒼い蝶の群れだった。「綺麗ですね・・」ユリウスとルドルフはしばしその美しい群れに魅入った。「海賊たちがこの島で見た宝というのは、この蝶達だったかもしれないな。」「ええ、そうでしょうね、きっと・・」ユリウスはそう言ってルドルフに微笑んだ。その後2人は船に乗ろうとしたが、漁師はとっくに島を離れてしまい、2人は島で一夜を過ごす羽目になった。「お寒くないですか?」たまたま断崖の下にあった洞穴で夜を過ごすこととなったので、ユリウスはそう言ってルドルフを見た。「ああ。それにしても急に風が冷たくなったな。」「もう夏は終わりですからね。」ユリウスがそう言って洞穴の外を見ようとしたとき、突然ルドルフの手が伸びてきた。「ルドルフさ・・」ユリウスの唇に、柔らかいものが当たった。それがルドルフの唇と解るまで数秒かかった。「何を・・」「別に。キスしたいからしただけのことだ。」顔を真っ赤にしたユリウスの反応を楽しみながら、ルドルフはそう言って洞穴を出た。「お待ちください、ルドルフ様!」慌ててユリウスも洞穴を出ると、空には無数の星が煌めいていた。「今日は楽しかったな。」「ええ・・」翌朝2人が戻ると、待っていたのはジゼルとアフロディーテの叱責だった。南イタリアで過ごした休暇は、ルドルフとユリウスにとってとても大切な思い出となった。51話へにほんブログ村
2009年02月14日
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「あら、それは何?」 街を散策して疲れたというアフロディーテとともにカフェに入ったカエサルは、ミレーヌに出す手紙をポケットから出したところ、アフロディーテが目ざとくそれを見つけた。「ミレーヌに出す手紙ですよ、アフロディーテ様。彼女はまだイギリスにいるんです。」「あの子のお母様はイギリスの方だと聞いているわ。わたし達と一緒に南イタリアに来られなかったのは、たちの悪い風邪をひいたからだってメイド達が噂してたわ。」「たちの悪い風邪ですか・・こじれて肺炎になる前に早くよくなるよう、毎日祈っているんですよ。」「優しいのね、お前は。こんなに優しいフィアンセを持つミレーヌが羨ましいわ。」アフロディーテはそう言って笑うと、パニーニを頬張った。「向こうはここよりも寒いので、ミレーヌの病状を更に悪化させるだけだと思っているんですが、母親の傍で療養した方がいいと彼女が言いましてね。確かに、噂好きのメイドに囲まれてここで休暇を過ごすよりマシだと思いますね。」カエサルはコーヒーを飲みながら、暮れゆく夕日の眩しさに目を細めた。「うちのメイド達は噂好きなのよ。暇な人間はゴシップを好むものよね。わたしにとって運が良かったのは、煩い記者連中がここまで追いかけずにウィーンで大人しく仕事してるってことね。彼らの所為でせっかくの休暇を台無しにされることを想像したらゾッとしちゃうわ。」朱色に近い橙色の夕日が、アフロディーテのブロンドを明るく照らし、彼女の背後に後光を作った。カエサルはその美しさに見惚れながら、紺碧の海を窓の外から見下ろした。「明日からお前とわたしは離ればなれね。なんだかいつも一緒にいたから、寂しくなるわ。」「わたしもですよ、アフロディーテ様。」カエサルはそう言って主の手を優しく握った。「イギリスに帰ったら、ミレーヌに宜しくと伝えておいてね。病気が早く治ることを祈っていると、言っておいてね。」「わかりました。確かにお伝えいたします。」カエサルはそう言って椅子から立ち上がり、ミレーヌへの手紙を出す為にカフェを出た。(アフロディーテ様はまだご存知でいらっしゃらない・・ミレーヌが不治の病に罹っていることを・・) イギリスへ便りを何百通も書いた気がするが、その返事が来た事はこれまで一度もないようにカエサルは思えた。色々と考えた後、彼女が手紙を書ける状態ではないのではないかとカエサルは結論を出したのだ。きっとイギリスへ戻ってもミレーヌは自分の前に姿を現さないだろう。彼女は天に召されるその時まで、ユリウスに対する想いを封印して毎日を過ごしていることだろう。彼女のことを愛しているのかどうかは、あまり考えたことはない。所詮家同士で決められた許嫁で、幼い頃何度か遊んだ幼友達としてしか彼女を見ていないし、それ以上でもそれ以下でもない。死にかけている恋人がいるというのに、何て自分は冷淡なのだろうーそう思いながらカエサルは自嘲の笑みを浮かべた。そして、手元にあるミレーヌへの手紙を見た。これが彼女に出す最後の手紙となるだろう。彼女の命がもう長くはないことは、自分も、彼女自身も知っていることだろうから。「さようなら、ミレーヌ。」カエサルはそう呟き、手紙をポストに投函し、カフェへと戻った。過去に別れを告げ、未来への道を歩くために。「遅かったわね。」「ええ。もう日が暮れそうですよ。しばらくここにいますか?」「もういいわ。屋敷へ帰りましょ。」アフロディーテはそう言って椅子から立ち上がり、従者に手を差し出した。「ええ。」カエサルは彼女に笑顔を浮かべながら、皇女の手を取った。にほんブログ村
2009年02月14日
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「お加減はいかがですか、お嬢様?」「ええ、だいぶよくなったわ。」ルドルフ達が休暇を過ごしている南イタリアから遠く離れたイギリスで、カエサルの許嫁・ミレーヌはそう言って自分付きのメイド・マリアに微笑んだ。「英国は夏でも寒いですからね。ウィーンとは大違いですわ。」「ええ・・そうね・・」半ば消え入るような声でミレーヌはそう言った途端、激しく咳き込んだ。「お医者様をお呼びいたしましょうか?」ミレーヌが咳き込むのを見たマリアは、そう言いながら彼女の華奢な背中を擦った。「いいのよ。少し横になれば大丈夫だから。」「ですが・・」「もうお医者様に注射されるのは嫌なのよ。」「カエサル様には、おっしゃっておられないのですか?」ミレーヌは首を縦に振った。「あの方は・・カエサル様はわたくしには勿体ないわ。それに、彼には心配させたくないの。」ミレーヌは弱々しく微笑んで、ゆっくりと目を閉じた。「お嬢様・・」部屋を出たマリアは、涙を堪えながら廊下を歩いていった。「あら、こんなところにいたのかい。旦那様と奥様がお呼びだよ。」メイド頭がそう言ってマリアを見た。「どうしたんだい、あんた?目もとが真っ赤じゃないか。」「何でも・・ないんです。」マリアは俯いて、廊下を走って行った。「どうしちまったんだろうね、あの子・・」メイド頭は首を傾げながら、仕事をさぼっている新入りのメイドを叱りつけた。「あんた、そんなところでくっちゃべってないで、玄関ホールの掃除をしな!全く、最近の若い子は隙を見てすぐにサボろうとするんだから・・」彼女はそう言ってミレーヌの朝食を準備するために、厨房へと向かった。そのミレーヌはゆっくりとベッドから起き上がり、ベッドのそばにある引出しから、1枚の封筒を取り出した。そこには南イタリアで皇帝一家と休暇を過ごしているカエサルの名前と、滞在先の住所が載っていた。ミレーヌは大事な宝物を扱うかのように、そっと封筒から便箋を取り出し、カエサルからの手紙を読み始めた。“愛しい僕の天使へ, 君と一緒に南イタリアで休暇を過ごせないのはとても残念に思う。今はゆっくりと休んで病気を治して、また僕の前に元気な君の姿を見せて欲しい。アフロディーテ様も君のことをとても心配していらっしゃるよ。”たった数行の、短い手紙だが、それでもミレーヌにとってそれは常に心の支えとなった。最近身体の調子はよくなるどころか、悪くなっていくばかりだ。もしかしたらアフロディーテとともに学校に戻るのは無理なのかもしれない。カエサルには自分の病気のことを、まだ話してはいない。彼に余計な心配をさせたくないし、自分がその病気だと認めるのは嫌だから。それに不治の病に罹った自分を、カエサルが見捨ててしまうのではないかという恐怖を常に持っているからだ。(あの方は、わたくしがこんな病気だと知っていても見捨てて下さらないかしら?)ミレーヌの脳裏に、美しく磨きあげられ、極上の輝きを放つエメラルドのような美しい翠の瞳を持つ少年の姿が浮かんだ。貴族の子弟が通うイートンの中で、平民として初めてそこの生徒となった彼は、身分の違いなど関係なく、舞踏会の時自分に礼儀正しく接してくれた。もし彼がカエサルと同じ階級で名家の出身ならば、彼と婚約できたのに。(神様はわたくしにいつも意地悪だわ・・)流麗な文字が綴られた羊皮紙の上に、ミレーヌの涙の粒が落ちた。窓の外は、ミレーヌの悲しみを表すかのように、雨が静かに降り始めていた。にほんブログ村
2009年02月14日
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船に揺られて小一時間かかるところに、ルドルフとユリウスは“伝説の島”に着いた。島は紺碧の海に囲まれた無人島で、手づかずの自然と野生動物が2人を歓迎した。「これが、“伝説の島”か・・なるほど、海賊がお宝を隠すにはうってつけの島だな。」ルドルフは双眼鏡で森林の向こうを見ながら言った。「わくわくしますね。ここに宝が埋まっているのかもしれないと思うと。」「ああ。休暇の最後をここで過ごすのはいい考えだと思わないか?」「ええ。それにしてもルドルフ様が海賊に興味をお持ちになっていたなんて、初耳です。」ユリウスはそう言ってルドルフを見た。今隣にいる彼の表情は、ホーフブルクにいる時よりもいきいきしているように見える。「病弱なこの身体ですることと言えば、ベッドの上で読書を楽しむことぐらいしかできなかったからな。ヴァイキングの伝説が書かれている本や、カリブ海賊の武勇伝が書かれている本を片っ端から読んでいた。」「そうなんですか・・」「お前は聖書以外は読まないようだから、海賊に興味がないだろうな。」ルドルフは少しユリウスを馬鹿にしたようにフッと笑った。「わたしをそんな風に思っていらっしゃったのなら、どうしてわたしをここにお誘いになったんですか?」「1人だとつまらないからだ。だが2人なら面白い。」「単純明快な理由ですね。」ユリウスはそう言ってクスリと笑った。「さてと、行こうか?」「ええ。」自分に差し出された手を、ユリウスはしっかりと握り、ルドルフとともに“伝説の島”への冒険に繰り出した。「宝の地図などはお持ちでしょうか?」「そんなもの持ってないに決まってるだろ。地図に頼るなんて、冒険じゃない。」「そんなぁ~」ユリウスは溜息を吐きながら、ルドルフの隣を歩いた。「どこから探しますか?」「適当に探して、なかったらさっさと帰るか。」ルドルフはそう言って森の中へと入って行った。「待って下さい、ルドルフ様~!」ユリウスが島でルドルフに振り回されている頃、カエサルとアフロディーテは街を散歩していた。「相変わらず暑いわね。でも潮風があるからいいわね。」パリから直輸入したレース付の日傘を持ちながら、アフロディーテはそう呟きながら街の様子を見た。「ねぇ、カエサル、ひとつ聞いていい?」「なんでしょうか?」「お前、わたしといて楽しい?」ルドルフと似た蒼い瞳が、じっとカエサルの顔を見つめる。「わたしは、アフロディーテ様と一緒に過ごしていると、楽しいですよ。」「本当に?」「ええ。」アフロディーテはカエサルに向って天使のような笑顔を浮かべた。「そんなこと言ってくれるのって、お前だけよ。」アフロディーテはカエサルの腕に、自らの腕を絡めた。「なんだか恥ずかしいですね、こういうの・・」「あら、いいじゃない。こうしてると、まるで恋人同士のようだわ。でもお前はわたしよりも兄様の方が好きなのよね?」「そんなことは・・」「隠さなくてもいいのよ。お前が兄様を見る顔はまるで憧れの異性を見る目つきのようだわ。」(アフロディーテ様に隠し事はできないか・・)夏の太陽の下、カエサルはそう思いながら苦笑した。にほんブログ村
2009年02月14日
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カエサルは中庭で呆然自失となり、芝生の上に蹲っているユリウスを見て笑みを浮かべた。(これであいつは僕に構う事はないだろう。あいつにダメージを与えた今、次は皇太子様とあいつの仲を引き裂く方法を見つければいいだけ・・)「あら、カエサル、ここにいたのね。」「アフロディーテ様、おはようございます。」カエサルはそう言ってアフロディーテに微笑んだ。「ユリウスは何処?休暇は今日が最後だから彼と一緒に遊ぼうと思って。」「ユリウスはまだ寝ておりますよ。もしわたくしでよろしければ、お付き合い致しますが?」アフロディーテの蒼い瞳が落胆で少し曇った。「そう・・ユリウスはまだ寝てるのね。でもお前といるのも悪くないわね。ついていらっしゃい。」「かしこまりました。」ルドルフと同じ顔をした皇女の後を、カエサルはゆっくりとついていった。(嘘だ・・カエサルがあんなこと思ってたなんて・・わたしは、彼のことを友人だと思ってたのに・・)中庭でカエサルの本性を垣間見たユリウスは、その衝撃に耐えられず芝生の上に蹲って涙を流した。カエサルの言葉が耳朶と脳裏に焼き付いて離れない。“いつも君は天使のような笑顔を浮かべながら、みんなを騙してる・・先生も、友達も、街の人みんな!いかにも自分は善人だって顔して、裏で他人を見下して!そんな姿の君を見てると、虫酸が走ったよ!”ショックだった。彼には好かれていたと思っていたから。イートンに入学したての頃、彼はいつも慣れない環境にいる自分に何かと気を遣ってくれた。それに、あの舞踏会でアフロディーテに口応えした時も、上手く取り成してくれた。その行動が自分への友情ゆえのものだと、ユリウスはいままで思っていた。だが、そう思っていたのはユリウスだけだったのだ。カエサルは最初から、ルドルフやアフロディーテに取り入る為に自分に近づき、利用したに過ぎないのだ。その理由は簡単だ。カエサルは貴族で、ユリウスは平民で、しかも孤児だからだ。貴族である彼は平民である自分を利用し、踏みつけても当然だと思っているのだ。(酷いよカエサル・・信じていたのに、君のことを信じていたのに・・)闇のように深い絶望が、ユリウスを襲う。しかしそれとは別に、新たな感情が彼の中で生まれつつあった。(君を絶対に許さないよ・・絶対に!)ユリウスはゆっくりと立ち上がった。美しい翡翠の瞳には、カエサルに対する激しい怒りが宿っていた。(誰も信じない・・カエサル、君のお陰で世間というものが少しわかるようになったよ、ありがとう。)「ユリウス、どうした?顔色が悪いぞ?」急に肩を叩かれて振り向くと、そこには心配そうな表情を浮かべたルドルフが立っていた。「ちょっと気分が悪くなりまして・・でももう大丈夫です。」ユリウスはそう言って笑顔を浮かべた。「そうか?」「ええ。ルドルフ様、今日はどこへ行きましょうか?」「海は飽きたから、今日は街を散策しようと思ってな。そういえば地元の者に、伝説の島があると聞いたんだが、そこへ行ってみないか?」「・・いいですね、行きましょう。」ルドルフとユリウスは港へと向かい、漁師に頼んで地元民が話す“伝説の島”へと向かった。「ここには難破した海賊船のお宝があるそうだ。」「あなた様がお宝に興味があるなんて、初耳です。」「まぁな。」(カエサル、君がわたしのことを嫌ってるなら、思う存分嫌えばいい。もうわたし達は友達じゃないんだから。一生憎しみ合って生きていかなきゃいけないんだから、当然のことだよね?)にほんブログ村
2009年02月14日
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「えーっとですね・・夕食が終わった後、カエサルがわたしに、あなた様のことをどう思ってるかと聞かれたから、友人と思ってると答えたんです、そしたら・・」「回りくどい説明はいい。簡潔に話せ。」「カエサルはわたしが司祭になってルドルフ様にお仕えすると彼に話したら、彼は“醜い本心を隠して皇太子様に近づいて、いずれは権力を握ろうと思っているんだろう”と言って、わたしを浴室に閉じ込めたんです。」「そうか・・あいつがそんなことをね・・」ルドルフはそう言って紅茶を飲んだ。「それにしても、カエサルは最近変だな。以前はお前にはそんなことを言うような奴じゃなかったんだろ?」「ええ・・イートンに入学して慣れない環境にいるわたしに、彼は優しく声を掛けてくれましたし、何かと助けてくれました。」イートンに入学したての頃、寮で同室だったカエサルは、何かとユリウスに親切にしてくれた。それなのに今の彼は、ユリウスに対して少しよそよそしくなり、ユリウスが話しかけても冷淡な態度を取ることが多くなってきた。「わたしが何か彼に悪いことでも言ったんでしょうか?」「それもあるかもしれないな。お前は知らぬ間に人を傷つけることがあるからな。親切心で言ったことでも、相手を傷つけることがあるからな。」ルドルフはそう言ってクッキーを摘まんだ。「カエサルが今、わたしのことをどう思っているのかはわかりませんが・・わたしは彼のことを大切な友人だと思っています。」ユリウスはカップを握り締めながら震える声で言った。「たとえ彼がわたしのことをどんなに憎んでいても、彼にどんなに嫌われても、わたしは彼のことを友人だと思っています。」「もう遅い、部屋に帰れ。」「わかりました。では、失礼いたします。」ユリウスはルドルフに頭を下げて彼の部屋を出て行った。「ユリウス、ランプを持っていけ。」「ありがとうございます。」ユリウスはランプを持ち、漆黒の闇が包む廊下を歩き出した。(カエサルは、わたしのことをどう思っているんだろう?もう彼はわたしのことを友達じゃないと思っているんだろうか?だからあんなことを・・)脳裏に、ユリウスの言葉が木霊する。“君はいつも嘘を吐くのが上手いね、ユリウス。君は聖職者なんかよりも間諜の方が向いているんじゃないかい?醜い本心を隠して皇太子様に近づいて、いずれは権力を握ろうと思っているんだろう、君は?”そんなこと、ちっとも思ってやしないのに、カエサルは何故あんなことを言ったのだろうか?(カエサル、君は何故、あんなことを言ったの・・?)ユリウスは溜息を吐き、窓の外を見た。空には美しい無数の星が輝いていた。ここで過ごす休暇はあと1日しかない。明日はカエサルと話をしよう。ちゃんと話し合えば、彼も自分のことをわかってくれるだろう。そう思ったユリウスは、ベッドに入ってゆっくりと眠りに就いた。翌朝、ユリウスは中庭へカエサルを呼び出した。「話って何だい?」カエサルはそう言って射るようにユリウスを見た。「ねぇ、昨日のことだけど・・君が何と思おうと僕は君のことを大切な友達だと思ってるよ。ただ知りたいんだ、どうして君があんなこと言ったのかって・・」ユリウスの言葉を黙って聞いていたカエサルは、口端を歪めて突然笑い始めた。「どうしてあんなこと言ったって?決まってるじゃないか、君が憎いからさ!」カエサルはキッとユリウスを睨みながら言った。「いつも君は天使のような笑顔を浮かべながら、みんなを騙してる・・先生も、友達も、街の人みんな!いかにも自分は善人だって顔して、裏で他人を見下して!そんな姿の君を見てると、虫酸が走ったよ!」「カエサル・・何言って・・」ユリウスはカエサルを呆然と見つめた。「君はさっき、僕のことを大切な友達だと言ったよね?僕はね、君のことをとても恐ろしい敵だと思ってるよ!あの日、イートンで出会った時からずっと!」「そんな・・嘘だ・・」カエサルは涙を流すユリウスを見て勝ち誇った笑みを浮かべて、中庭を去った。「嘘だ、そんなの・・」にほんブログ村
2009年02月14日
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「開けてくれ、カエサル!」カエサルに浴室に閉じ込められたユリウスは、ドアを叩きながら彼を呼んでいた。しかし待てど暮らせどカエサルは部屋に戻ってこない。(このままじゃルドルフ様と会えない・・一体どうすれば・・)ユリウスはそう思いながら、周囲を観察した。すると浴槽の横にカーテンが吊るされてあった。その上には小さい窓があった。ユリウスはカーテンを持ってそれで壁を登り、小さい窓から慎重に身を乗り出し、カーテンを握り締めながらゆっくりと芝生の上に着地した。(これでルドルフ様に会える!)約束の時間はとっくに過ぎていたが、ユリウスは中庭に向って走り出した。(ルドルフ様きっと怒っていらっしゃるだろうな・・)息を切らせながらユリウスが走っていると、彼は誰かにぶつかってしまった。「いたたた・・」「なんだ、お前!危ないだろう!」そう言ってユリウスをキッと睨みつけたのは、ルドルフだった。「ルドルフ様、すいません・・中庭に行こうとしていて・・」「中庭に?カエサルからお前は中庭に来られないと言ってたが?」ルドルフは怪訝そうな表情を浮かべながら言った。(カエサルがそんな事を・・一体どういうことなんだろう・・)「それはわたしにもわかりませんが・・実は、カエサルに閉じ込められていたんです。」「カエサルに?それは本当か?」「はい。ちょっと話したいことがあるからと言って・・気がついたら浴室に閉じ込められていました。なのでお約束の時間に遅れそうになってしまって・・」「そうか。このままこんなところで話すのも何だから、僕の部屋でその話、じっくりと聞かせて貰うぞ。」「はい。」ユリウスとルドルフは、邸の中へと入って行った。その頃中庭では、カエサルが溜息を吐いていた。(皇太子様はユリウスの本性を知らない・・このままでは皇太子様はユリウスの餌食となってしまう・・)ユリウスの本性を、ルドルフはまだ知らない。彼は権勢欲の塊だということを。(彼は皇太子様に相応しくない・・)一刻も早くルドルフとユリウスとの仲を引き裂かなければ。だが、ルドルフはユリウスのことを信頼しているし、ユリウスはルドルフのことを慕っている。そして何よりも、2人の間には主従を超えた絆が生まれつつある。一体どうすれば、そんな2人の仲を裂くことができるのだろうか?ユリウスに関して悪い噂を流してみようか。それともルドルフにユリウスの邪悪な本性を話そうか。だがルドルフは自分が言うことなど信じないだろう。彼は自分の考えを持ち、決して他人の意見に振り回されない。カエサルが悪い噂を流したところで、鼻で笑うだろう。(どうすればいいんだろう?)どのように2人の仲を引き裂こうかと考えながら部屋に入ると、浴室に人の気配がしないことに、カエサルは初めて気づいた。もしや、と思い浴室に入ると、小さな窓が開け放たれ、そこから秋を告げる風が入ってくる。それを見た瞬間、カエサルはユリウスへの激しい怒りを感じた。(やられた・・)「ユリウス、絶対に君をぶちのめしてやる・・絶対に・・」カエサルはそう言って、浴室を出た。「で、どうしてカエサルに閉じ込められたんだ?」所変わってルドルフの部屋では、ルドルフがソファに座りながら隣に座っているユリウスを見た。にほんブログ村
2009年02月14日
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「お待たせしてしまって申し訳ありません、皇太子様。」カエサルはそう言ってルドルフに微笑んだ。「お前が何故ここにいる?ユリウスはどうした?」「ユリウスはここへは来ません、皇太子様。」榛色の瞳は、ルドルフを一途に見つめている。「それは本当か?」「はい。」その1時間前―(急がないと、約束の時間に遅れてしまうな・・)部屋を出たユリウスは、そう思いながら廊下を走っていた。「どこへ行くんだい?」彼の前に、カエサルが突然現れてユリウスの行く手を遮った。「君には関係のないことだ。そこをどいて貰おう。」「ちょっと君と話がしたいんだ。」カエサルは有無を言わさず、ユリウスの手を掴んで自分の部屋に引き摺り込んだ。「いったい何を・・」「君と話がしたいと言っただろう?」カエサルはユリウスをソファに突き飛ばした。「君は皇太子様のことをどう思っているの?」「僕はルドルフ様のことをかけがえのないご友人として・・」「そんなのは嘘だね。」榛色の瞳が、射るようにユリウスを捉えた。「君はいつも嘘を吐くのが上手いね、ユリウス。君は聖職者なんかよりも間諜の方が向いているんじゃないかい?醜い本心を隠して皇太子様に近づいて、いずれは権力を握ろうと思っているんだろう、君は?」「僕は・・そんなことはちっとも・・」「思っていないとでも言うつもり?君はどこまでも狡猾な人なんだね。残念だけど、君に皇太子様と会わせることはできないよ。」カエサルはそう言ってユリウスを浴室に閉じ込め、ドアに鍵をかけて部屋を出て行った。「開けろ、カエサル、開けろ!」ユリウスの叫び声は虚しく浴室に響いた。中庭に行くと、ルドルフが驚いた表情を浮かべて自分を見ていた。「お待たせいたしました、皇太子様。」「何故お前がここにいる?ユリウスはどうした?」「ユリウスはここへは来ません、皇太子様。」カエサルはそう言って一歩、ルドルフに近づいた。「彼に近づいてはなりません、皇太子様。彼は虫も殺さぬような顔をして、腹の中では何を企んでいるのかわからない奴です。」榛色の瞳で愛おしそうにルドルフを見つめ、カエサルは彼の頬を撫でようとした。「彼よりもわたしの方があなたに相応しいです。だから、ユリウスのことはもう忘れてください。」ルドルフはだた黙って、カエサルの言葉を聞いている。「愛しています、皇太子様。」カエサルはルドルフの唇を塞ごうとした。「わたしに触れるな。」中庭に乾いた音が響き、蒼い瞳に怒りを宿したルドルフは冷たくルドルフを見下ろした。じわりと頬に鋭い痛みが走る。ルドルフは一度もカエサルの方を振り返りもせずに中庭を去った。「・・絶対にあなたのことを諦めませんよ、皇太子様。」ルドルフの姿が見えなくなるまで、カエサルはじっとその背中を見続けていた。その瞳には、何としてでもルドルフをユリウスから奪い取ってみせるという決意が宿っていた。にほんブログ村
2009年02月14日
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「ユリウス、何ボケーッとしている。岸まで泳ぐぞ。」「は、はいっ!」我に返ったユリウスはルドルフとともに岸まで泳いだ。「んもうっ、2人ったらわたしのこと忘れて・・」アフロディーテは頬を膨らませながら、2人の後について泳いだ。「アフロディーテ様、こちらですよ。」カエサルはそう言って主に手を振った。「カエサル、お前肌がピンク色になってるわよ。」「少しはしゃぎ過ぎたようです。アフロディーテ様もくれぐれもお気をつけくださいね。」「言われなくてもわかっているわよ。お前は卒業したらどうするつもりなの?」「まだ決めておりませんが、あなた様のお傍にお仕えしたいと思います。」カエサルは主に向かって微笑んだ。「お前、ユリウスと同じことを言うのね。ユリウスは卒業後、司祭様になって兄様にお仕えするんですってよ。ユリウスはホント、兄様のことが好きなのねぇ~、少し妬いてしまうわねv」アフロディーテは笑いながら海水に濡れた髪をタオルで拭き始めた。(ユリウスが・・皇太子様のお傍に・・)一介の孤児が名門寄宿学校へ進学できただけでも名誉だというのに、これ以上彼は何を望むのだろうか。宗教画に描かれる、無垢な天使のような顔をして、心の奥底ではきっと宮廷内で権力を握ろうと今から画策しているに違いない。(君は見かけによらず、腹黒い奴だとわかったよ、ユリウス。君の望みが権力を手にすることなら、僕も負けはしない。)ルドルフと波打ち際で戯れているユリウスを睨みつけながら、カエサルはある決意を固めた。「楽しかったですね。」日が暮れる前、邸へと向かって歩いていたユリウスはそう言って隣を歩いているルドルフを見た。「ああ。今まであんなに楽しいことはなかったな。」南イタリアでの休暇は、ルドルフにとってもユリウスにとっても楽しいものとなった。窮屈な宮廷での生活から解放されたルドルフとアフロディーテは、同じ年頃の子ども達と同じように夕暮れ時まで海で泳いだり、同年代の子ども達と一緒に遊んだりした。楽しい時はあっという間に過ぎ、南イタリアでの楽しい休暇は終わり、ルドルフとアフロディーテがウィーンへ、ユリウスとカエサルがイギリスへと戻る日が刻々と近づいてきた。「もうすぐお別れね。何だか寂しくなるわね。」南イタリアで過ごす最後の夜、夕食の席でアフロディーテはそう言って溜息を吐いた。「毎日お手紙を書きますから、そんなに寂しがらないでください。」「いくら手紙を貰っても、お前の顔を毎日見られないんじゃ寂しいわ。」「クリスマス休暇にはウィーンへ伺いますから、待っていて下さい。」カエサルはそう言ってアフロディーテを宥めた。「ユリウス、この後時間あるか?」「ええ、ありますけど・・」「10時に、中庭で待ってる。」「わかりました。」「待っているからな。」ルドルフはユリウスの耳元でそう囁くと、ダイニングを去っていった。その会話を密かに聞いていたカエサルは、あることを企んだ。約束の10時、中庭に先に来たのはルドルフだった。「ユリウス、遅いな・・」10分経ってもユリウスはなかなか現れない。諦めようとしたとき、後ろの茂みの中から音がした。「ユリウスか。遅いぞ、一体僕を待たせて何を・・」そう言ってルドルフが振り向くと、そこには自分に笑みを浮かべるカエサルが立っていた。「お待たせしてしまって申し訳ありません、皇太子様。」にほんブログ村
2009年02月14日
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「それにしても暑いわね~、カエサル、この暑さなんとかならない?」気だるそうにソファに横たわりながら、アフロディーテはそう言って従者を見た。「そう言われましても、わたしは魔法使いではありませんので。」「なんだぁ~、つまんない。」アフロディーテはそう言ってアイスティーを飲んだ。「ウィーンにいても、ここに居ても、暑さからは逃れられないのね。」「海に泳ぎに行かれてはどうですか?」「遠慮するわ。日焼けするの嫌だもの。行きたいなら行っておいで。」「では、行って参ります。」カエサルはそう言って部屋を出て行った。「あ~あ、つまんな~い!」アフロディーテはそう叫ぶとソファに横たわった。「どうしたの、アフロディーテ。そんなところでグッタリして。」部屋に入ってきたジゼルはそう言ってアフロディーテの隣に座った。「暑くて何かやる気が出ないのよね。姉様や兄様はどうしてこんな暑い中溌剌としていらっしゃるのかしら?」「家族水入らずで過ごす久しぶりの休暇なのよ。思う存分楽しまなくちゃ損よぉ。」「暑いから何もやる気がしないわ・・」「駄目よ、そんなこと言っちゃ!これから先、のんびり過ごすことなんてできやしないわよ。」この休暇が終わったら、アフロディーテはプロのオペラ歌手として正式にデビューすることになる。プロとなれば今過ごしているような、のんびりとした時間は2度と過ごせないだろう。「そうねぇ、もしかしたら一生に一度しかないわよね、こんな時間は。海にでも泳ぎに行こうかしら。」ゆっくりとソファから起き上がったアフロディーテは、ブロンドの巻き毛を揺らしながら海へと向かった。その頃海では、ルドルフとユリウスが夏の陽光を浴びながら泳いでいた。「気持ちいいですね。」「ああ。これからこんな時間は過ごせそうにないな。」「ええ。」この休暇が終わったら、ユリウスはウィーン大学への進学に向けて再びイギリスへ戻り、ルドルフはウィーンへ戻り、互いに多忙な日々を送ることになる。この時間は2人の為に神がお与えくださったものかもしれない・・ユリウスはそう思いながら、泳いでいた。「ユリウス~!」背後から声がして振り向こうとしたとき、アフロディーテがユリウスに突進してきた。「アフロディーテ様・・」「部屋でぐうたら過ごすよりも泳いだ方がいいから来ちゃったv兄様なんか放っておいて、わたしと遊びましょうよv」アフロディーテはそう言ってユリウスの手を掴んだ。「アフロディーテ、ユリウスは今僕と遊んでいるんだ。邪魔をするな。」「あら~、いいじゃないの。」「休暇中ユリウスは僕と一緒にいるんだ!」「いいえ、ユリウスはわたしと過ごすのよ!」(また始まった・・)ユリウスは内心溜息を吐きながら、目の前で自分を巡る争いを繰り広げている皇子と歌姫を見た。この2人が居る限り、自分はずっと彼らのわがままに振り回されることだろう。だが彼らが一介の孤児で、あのままバイエルンにいたら一生広い世界を見ることもなく死ぬことになっていたユリウスに、広い世界と希望ある未来を与えてくれたのだから、感謝しなければならない。特に、ルドルフには。彼と会っていなかったら、自分はこんなに広い世界を見ることはできなかっただろう。(わたしはずっとお傍におります・・ルドルフ様・・)夏の陽光を浴びたルドルフの癖のあるブロンドは、まるで天使の頭上に輝く輪のように美しい光を放った。にほんブログ村
2009年02月14日
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