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陰陽道の教えは、暮らしに深く根付いているのだとわかりました。
Jan 30, 2024
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プロローグの部分からラストまで一気読みするほど面白かったです。これ以上書くとネタバレになりますが、悪役がとんでもない屑でした。もうね、こんな屑早く●ねばいいのに・・と思いながら読んでみたら、望み通りの結末を迎えてスカッとしましたね。サンドラ・ブラウン作品は、勧善懲悪があって安心して読めます。
Jan 26, 2024
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いまいちだった「顔」とは違い、ラストまで見逃せない展開が続いて、伊豆の美しい海岸線の風景も相まってか、これぞ松本清張!と思わせるほどの良作でしたね。というか、二夜連続よりも、「ガラスの城」だけ放送したらよかったのでは?木村佳乃さんと波瑠さん、武田真治さんがいい演技していましたね。特に、悪役を演じるのが上手い武田真治さん・・まさかの黒幕だったとはね。ラストシーンは悲しいものでしたが、面白かったです。
Jan 25, 2024
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「やめろ、来るな!」有匡は女を睨むと、威嚇フェロモンを彼女にはなった。女は悲鳴を上げ、壁に激突し気絶した。「一体、何があったのですか!?」「お前か、この女を部屋に入れたのは?」「アダム様、お許しを!」気絶した女の仲間は、そう言うと手枷と足枷を外した後、有匡の前に平伏した。「ここは何処で、火月は何処に居る?」「そ、それは・・」「わたくしから、お話ししましょう。」凛とした声が部屋から響いたかと思うと、高原鈴子が部屋に入って来た。「手荒な真似をして申し訳ありませんでした。」高原鈴子は、そう言うと有匡の手を握り、微笑んだ。「お待ちしておりました、土御門有匡様。」「何故、わたしの名を・・」「スウリヤ様から、あなたの事をお聞きしておりましたよ。」「母から・・」母の名を聞いた途端、有匡の胸に見えない棘が刺さったような気がした。自分と父を捨てた母。その母が、この施設内に居る。「母を、知っているのか?」「ええ、存じておりますとも。スウリヤ様は、長年我々に貢献して下さいました。」「貢献、ねぇ・・随分と立派なこの建物は、信者達の金によって建てられたのですね。わたしの母は、あなた方の為に貢献したのだから、家を捨てなければならなかったのかもしれない・・」「それは違います。スウリヤ様は、妊娠されていたのですが、旦那様のご親族に反対された上に暴力をふるわれて、ここへ逃げて来たのです。」「そんな事、父は何も・・」「あなたのお父様は、あなたの事を慮って、自分が悪者になったのでしょう。」高原鈴子の言葉が嘘ではないと有匡が確信したのは、ある物を彼女から渡された時だった。それは、生前父が母に贈った、ペアリングだった。プラチナの台座には、美しく研磨され加工されたガーネットとダイヤモンドが載っていた。―有匡、どうした?―お父さん、それなぁに?―これは、この世で一番大切な物なんだ。亡くなる一月前、有仁は有匡に、首に提げている指輪を見せた。―いつか、大切な人が出来たら・・「こちらです。」高原鈴子が有匡を案内したのは、“聖母の間”と呼ばれた部屋だった。「ここは・・」「我らが聖母・炎様の遺骨が安置されているお部屋です。」白一色の部屋で、女性の肖像画が一際存在感を放っていた。女性は、火月と瓜二つの顔をしていた。「火月・・」「“マザー”、“聖女”様をお連れしました。」「せ、先生・・」「火月、無事だったのか?」有匡がそう言って火月に駆け寄ると、彼女は苦しそうに喘ぐと床に蹲った。「どうした?」「躰・・熱い・・」「どうやら、発情期を迎えたようですね。我々はΩだけで構成された教団です。αは、あなただけです。」「そんな・・」有匡は、火月の全身から漂う、蜜のような甘い匂いを嗅ぎ、気が狂いそうな程欲情していた。αの本能―今まで向き合おうとしなかった雄の本能が、火月を抱いてしまえと、悪魔のように耳元で囁くのを感じた。「彼女を、抱きなさい。」「わたしは・・」生涯番を持たない、父のようにはならないと、そう己に言い聞かせていた。だが―「抑え込まれていた本能を、解放なさい。」「火月、立てるか?」「はい・・」「あちらの部屋をお使いください。」高原鈴子は、そう言うと有匡と火月を、“紅の部屋”へと案内した。「火月、この部屋で休んでいろ。」「嫌です、お願いです、抱いて下さい。」有匡は、火月の華奢な身体を寝台の上に横たえた。「どういう意味か、言ってわかっているのか?」「はい。」「抑制剤は?」「飲んでいません。」「そうか。」有匡は火月から離れようとしたが、火月は有匡から離れようとしなかった。「僕、あなたの子供を産みたいんです。」「望むところだ。」有匡はそう言うと、火月の唇を激しく貪った。―“運命の番”?―あぁ、お父さんとお母さんは、“運命の番”だったんだ。―お父さん、僕にも、“運命の番”が現れるかなぁ?―あぁ、現れるよ。その時は、運命に抗ってはいけないよ。―うん!ずっと、こわかった。大切な人が、自分の前から居なくなってしまうのが。大切なものが、両手の隙間から零れ落ちてしまうのが。ずっと、こわかった。だが―「先生・・噛んで・・僕のうなじ・・」「あぁ・・」もう、迷わない。有匡は、鋭い犬歯を、火月の白いうなじに突き立てた。「後悔していないか?わたしと番になった事を?」「はい。あの、こんな事を言うのはおかしいと思うんですが、先生と初めて会った時、僕は嬉しかったんです。やっと、先生に会えたって。」「そうか・・」「もしかしたら、僕と先生は、前世では夫婦だったかもしれませんね。」互いの想いが通じ合った後、火月はそう言うと有匡を見た。「これから、どうします?」「それは、これから考える。色々と問題が山積みだからな―母の事や、妹の事、それに家の事も。」有匡は火月に、スウリヤと、彼女の娘の事を話した。「それで、お母様とは会えたのですか?」「母は、半年前にここを出て、妹と共に渡英したそうだ。」「渡英?」「英国は、母が生まれ育った国だからな。それに、Ωに対する福利厚生が整っており、バース性による差別も厳しく罰している国らしい。」「先生は、お母様と妹さんに会いたくないんですか?」「さぁ、わからん。母が自分達を捨てたのではなく、止む負えぬ事情があって逃げたのだろうと頭では理解していても、まだ混乱している。」「そうですか・・」有匡は今、ただ静かに眠りたかった―愛しい人の隣で。―先生、おやすみなさい。その声に応えるかのように、有匡は静かに目を閉じた。―先生、起きて下さい。 有匡が目を開けると、そこには袿姿の火月が立っていた。―先生、もうすぐ家族が増えますよ。 火月はそう言うと、嬉しそうに笑った。「ん・・」「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」 有匡が目を開けると、隣に火月の姿は無かった。「“聖女”様なら、“マザー”と共に菜園にいらっしゃいますよ。」「ありがとう。」 菜園には、様々な種類のハーブや花が植えられていた。「火月。」「先生、おはようございます。」「おはよう。」 有匡はそう言うと、火月の頬にキスをした。「火月、お前はこれからどうしたい?このまま、ここで暮らすのか?」「いいえ。ここは居心地が良いけれど、僕の居場所じゃありません。僕の居場所は、先生の傍しかありませんから。」「そうか・・」 そんな二人の姿を、高原鈴子が木陰から見ていた。「“マザー”・・」「あの二人は、ここに居てはなりません。」(あの二人に、この世界は似合わない。)「わざわざお二人をこちらに呼んだのは、“聖女”様・・いえ、火月様、あなたのお母様についてのお話があるのです。」「え・・」「炎様は、孤児のΩでした。彼女は、あなたと同じように施設で暮らしていましたが、彼女は酷い虐待を受けていました。」 火月の母・炎は、施設を抜け出し、山中を彷徨った末に、“輝きの星”へと辿り着いた。 そして彼女は、一人の男性と出会った。 彼は、高原良―鈴子の一人息子だった。 良と炎はいつしか惹かれ合い、番となった。「そして、あなたが生まれたのです。」「でも、どうしてお母さんは、死んでしまったの?」「二人は、死んだのではありません。殺されたのです、炎様の親族に。」 炎の親族は、平安の御世から続く、由緒ある巫女の家系だった。 だが度重なる血族婚の末に、その家系は断絶寸前になってしまった。 しかし、彼らは炎の血を濃く受け継いだ火月に目をつけ、炎から奪おうとした。 炎は彼らから火月を守ろうと、火月を施設に預けた後、夫と共に事故死した。「そんな事が・・」「炎様の親族は、あなたの事を諦めていません。いずれ、この場所も彼らに知られる事でしょう。」 鈴子がそう言った時、外から激しい音と悲鳴が聞こえた。「“マザー”、大変です、襲撃が・・」「あなた達は、逃げて下さい。もう、ここは終わりです。」「でも・・」「有匡様、火月様を・・わたしの孫娘を宜しくお願い致します。」 鈴子は有匡にスウリヤのペアリングを手渡すと、炎の中へと消えていった。「嫌ぁ~、お祖母様!」「行こう。」 有匡と火月は、燃え盛る教団の施設から命からがら脱出した。「僕、また独りになっちゃった・・」「独りじゃないだろ。」「え?」「わたしが、お前を護ってやる。」「先生・・」 夜が明け、朝日の光を浴びた二人を、警察が発見・保護した。「火月、無事で良かった!」「心配かけてごめんね、禍蛇。」「本当だよ!」 禍蛇は火月と抱き合った後、有匡に向かって頭を下げた。「火月を助けてくれて、ありがとう。」「礼は要らん。」 事件から数ヶ月後、有匡と火月は日常に戻っていった。 ただひとつ、変わったのは―「え、火月あいつと番になったの!?」「うん・・」「おめでとう~、俺、いつかあいつと結ばれるんだろうなって思ってたんだよね。」「え?」「いや、昔色々あったじゃん、火月と有匡。結ばれて双子が産まれるまで・・」「昔って・・禍蛇、もしかして、前世の記憶、あるの?」「うん。だから施設で火月と会えた時、嬉しかったんだ。あ、琥龍ともね!」「そうか・・」 火月は禍蛇とそんな事を話しながら、有匡と築く未来へと想いを馳せた。「先生、おはようございます。」「おはよう。」 火月が登校すると、丁度出勤してきた有匡と会えた。「丁度良かった。お前に贈り物がある。」「贈り物?」「あぁ。」 有匡はそう言うと、火月の左耳に紅玉の耳飾りをつけた。「お前の瞳の色と同じだ。」“証さ、専属契約更新の” 火月の脳裏に、遥か遠い昔に、有匡が自分に言ってくれた台詞がよみがえった。「ありがとうございます、大切にします。」「泣く事はないだろ。」「すいません、嬉しくて、つい・・」―何あれ・・―どうなっているの? 教室の窓から、火月のクラスメイト達が恨めしそうに二人の様子を見ていた。「高原さん、ちょっといい?」「僕、急いでいるんだけれど。」「あなた、先生と一体どういう関係なのよ?」「別に。」「ふ~ん、じゃぁ言うけど、あんたみたいな子は、先生とは釣り合わないの!」「そうよ!」 クラスメイト達から一方的に責め立てられた火月は、黙って俯く事しか出来なかった。「その耳飾り、寄越しなさいよ!」「嫌だ、放して!」 彼女達と火月が揉み合っていると、突然冷水が彼女達を襲った。「きゃぁ~、冷たい!」「少しは頭冷えた?ギャーギャーうるさいんだよ、メス猿共。」 少し甲高い声と共に、一人の少女が教室に入って来た。 彼女は美しい銀髪をお団子にし、両耳には個性的な耳飾りをつけていた。「あ、あんた誰よ!?」「エル=ティムール神官、今日からこの学校に世話になる転校生さ。」 少女―神官はそう言うと、火月を見た。「ふ~ん、あんたがアリマサの・・」「え・・」(もしかして、この子・・)「神官、こんな所に居たのか?」「アリマサ~!」 教室に渋面を浮かべながら入って来た有匡に、少女は躊躇いなく抱きついた。「先生、その子誰ですか!?」「アリマサの妹だよ。」(え~!) 突然の有匡の妹・神官の出現に、学校中が騒然となった。「妹、聞いてないわよ!?」「嘘でしょ、そんなの!」にほんブログ村
Jan 25, 2024
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恋人のDVに耐えかねて事故に見せかけて殺した女性。歌手としてプロデビューを果たそうとするが、過去の罪が…松本清張らしい、人間の業を描いた作品。ちょっとモヤモヤしたけど。あれ、主人公が顔出ししなかったら捕まらなかったのかなぁ。でも、いずれ隠された罪は明らかになってしまうから、ああいうラストで良かったのかと思いましたね。ただ、弁護士娘のエピソードとかは余計だったかな。う~ん、物語に厚みがないような気がしますね。昔の松本清張原作ドラマ「霧の旗」と比べると、何だかなぁ・・いまいちだったので、「ガラスの城」に期待します。
Jan 24, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「今日は月が綺麗だな、晴明よ。」「あぁ。」源博雅は、いつものように親友であり恋人である安倍晴明と共に、空に浮かぶ紅い月を眺めていた。「知っているか、博雅。紅い月には魔力があって、願い事を叶えてくれるそうだ。」「そうか。」「もし、願いを叶えるとしたら、博雅よ、お前は何を望む?」「こうして、いつまでもお前と酒を酌み交わしたい。」「そうか・・」そう言った晴明の横顔は、何処か悲しそうに見えた。「なぁ、晴明・・」博雅がそう言って晴明の方を見た時、激しい揺れが京の都を襲った。「何だ!?」「晴明、俺から離れるな!」揺れは暫くすると治まったが、晴明の邸の土塀が少し崩れていた。「無事か、博雅?」「あぁ・・」晴明はそう言って邸の周辺を見渡すと、向こうの通りから誰かの叫び声が聞こえた。「どうした?」「何やら、おかしい。」「おかしい、とは?」博雅がそう言って晴明に尋ねた時、彼の姿は既になかった。「晴明!?」京が地震に襲われる数時間前、鎌倉では一組の夫婦が生命の危機に瀕していた。「火月、しっかり掴まっていろ!」「はい!」土御門有匡と、その妻・火月は、突如幕府から倒幕祈禱に加担したという疑いをかけられ、逃亡先の唐土への次元通路を開こうとしたが、開かなかった。「先生、これから一体何処へ行けば・・」「それはわからん。今は、追手を撒く事だけを考え・・」有匡がそう言いながら馬を走らせていると、突然地の底から轟音が響き、地面に大きな裂け目が出来た。「先生!」「火月!」有匡と火月は、互いに抱き合ったまま、静かに落ちていった。「う・・」「火月、大丈夫か?」「はい。でも・・」火月はそう言うと、有匡の肩越しに何かを見て、怯えた。「どうした?」“美味そうだぁ・・”闇の中で不気味な声が響いたかと思うと、鋭い鋏と牙を持った巨大な蜘蛛が二人の前に現れた。「火月、さがっていろ。」“この芳しい匂い・・其方から、白狐の匂いがするぞ。”蜘蛛はカチカチと牙を鳴らしながらそう言うと、有匡に襲い掛かって来た。「縛鬼伏邪、急急如律令!」“おのれ・・”蜘蛛の身体は、砂のように消えていった。「先生、大丈夫ですか?」「あぁ・・」火月を安心させる為に有匡はそう言ったが、蜘蛛の毒牙が右胸を掠めていた。「おぉい、あそこに誰か居るぞ!」「運が良い、こんな日に貴族を見つけるとはなぁ!」「しかも連れの女は上玉だ。さっさと男を殺して女を売り飛ばそうぜ。」そう言いながら二人の前に現れたのは、野盗と思しき男達だった。「火月、お前は先に逃げろ。」「嫌です!」(まだ毒は全身に回っていない・・相手は五人・・一か八か、やるしかない!)「火月、目を閉じていろ。」「はい。」有匡は深呼吸した後、妖狐の力を解放した。「ひぃっ・・」「た、助け・・」「わたしに会ったのが、運の尽きだったな。」物言わぬ骸となった男達を見下ろしながら、有匡は苦しそうに喘ぐと、地面に蹲った。「先生、しっかりして下さい!」「心配するな。お前は、わたしが守る・・」 有匡は、自分達の方へと近づいて来る人の気配を感じた。(敵か・・?)「おや、俺と同じ“気”を感じるなと思って来てみれば、“同族”だったか。」紅い月が、自分達を見下ろす一人の男を照らした。「あなたは、誰?」「俺は、安倍晴明。この京の都を守る陰陽師だ。」「先生を、助けて下さい!」火月は、そう晴明に助けを求めた後、有匡を己の方へと抱き寄せ、涙を流した。その涙は、美しい紅玉となった。「晴明、そこに居たのか。」「博雅、いい所へ来た。」「その者達は?」「話はあとだ。まずは、怪我人を邸で手当てせねば。」「あぁ、わかった・・」 鎌倉の世と平安の世に生きた二人の陰陽師は、こうして紅い月に導かれる様にして、出会った。その出会いが、二人の運命を変える事になろうとも、この時の彼らには知る由もなかった。にほんブログ村
Jan 24, 2024
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何とも後味が悪い事件でした。
Jan 23, 2024
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究極の「悪」を目撃した少年達は、どう行動するのか。正義と悪との戦いは単純なものではなく、それぞれの正義をもった者の戦いだと。タイトルの意味がわかったとき、腑に落ちました。
Jan 23, 2024
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何とも摩訶不思議な作品でした。
Jan 23, 2024
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素材は、湯弐様からお借りしました。「火宵の月」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が闇堕ちする描写が含まれます、また一部暴力・残酷描写有りですので苦手な方はご注意ください。リドルの横暴ぶりにハーツラビュルの寮生達が彼に反旗を翻し、激昂したリドルがオーバー=ブロット、所謂“闇堕ちバーサーカー”状態に陥ってしまった。精神崩壊は何とか免れたが、リドルの意識はオーバー=ブロットして数日経っても戻らなかった。「このままだと、リドルの生命が・・」「医療の力には限界がある。」「失礼。」有匡はそう言うと、リドルの額に手を当てた。(微かに生気を感じる。)「なぁ、何か手はあるのか?」「彼の精神下に潜る。」「何ですって!?他人の魂の中に入るなんて、どんなに修業した魔法士すら無理だと言うのに・・」「一か八か、やってみないとわからないでしょう。」有匡はそう言った後、祭文を唱え、リドルの精神下に潜入した。そこで見たものは、母親に生活の全てを管理された、リドルの心の叫びと、深い孤独だった。―友達が、欲しいだけなのに。「友達なら、お前の帰りを待っている。」―本当?「あぁ、だから帰ろう。」有匡は、そう言って小さなリドルの手を握った。「ん・・」「リドル、良かった!」「監督生、凄ぇ!」リドルの命を救った有匡は、オンボロ寮へと引っ越す事になった。「ここか。名の通り、古いな。」そう言いながら数少ない荷物をオンボロ寮へと有匡が運び込むと、そこには先客が居た。「お前、ここは俺様の部屋なんだゾ!」寝室に居たのは、尻尾が鈎型をした猫だった。「俺様はグリム、さっさとツナ缶を寄越すんだゾ!」「黙れ。」「フナァ~!」こうして、有匡と奇妙な猫・グリムとの共同生活が始まった。「おはよう監督生!」「また、お前達か。」朝食を取りに大食堂へと向かった有匡は、そう言ってエースとデュースを見て溜息を吐いた。「なぁ監督生、オンボロ寮にはゴーストが居るんだろう?」「あぁ、うるさいから黙らせた。」「え・・」昨夜、有匡が寝ようとしたらゴーストたちが騒いだので、“力”をぶつけて彼らを黙らせた。「寮長の様子はどうだ?」「オバブロする前より少し丸くなったかなぁ。」「そうか。」「あ~、もうすぐ期末テストかぁ~。」「期末テスト?」「監督生はその様子だと余裕なんだろうな。」「は?わたしは受けんぞ。下らん試験よりも、大切な事を・・」「いけませんよ~、いくら魔力が高いからって、わたしはあなたを特別扱いしませんからね。わたし、優しいので!」(下らん、何が試験だ。)そう思いながらも、有匡は期末テストで全学年2位の成績を取った。―誰か、助けて・・闇の中から、誰かの声がした。有匡が目を開けると、そこには助けを求める火月の姿があった。「火月!?」―先生、助けて!自分に向かって手を伸ばそうとした火月の手を有匡が掴もうとした時、彼は夢から醒めた。(あれは、一体・・)「おはよう子分・・って、お前その髪どうしたんだゾ!?」「は?」グリムからそう指摘され、有匡が鏡を見ると、自分の髪が紅くなっている事に気づいた。「うわ、どうしたんだよ、その髪!?」「リドル寮長よりも真っ赤じゃん!」そう言ったエースとデュースの頭には何故かイソギンチャクが生えていた。「お前達、それは何だ?」「え~と、これには深い理由があって・・イテテ!」二人が急に痛みを訴えたので、有匡が怪訝そうに周囲を見渡すと、頭にイソギンチャクが生えた生徒達がある場所へと吸い込まれるかのように、ぞろぞろと大食堂から出て行った。「ここは?」「各寮に繋がる鏡舎だ。うわ、みんなオクタヴィネルの方へと引っ張られていく!」「おい!」 エース達に腕を掴まれ、有匡はオクタヴィネル寮へと足を踏み入れた。(何だ、ここは?まるで海底に居るかのような・・)有匡がそう思いながら水槽を眺めていると、水面に紅玉の耳飾りが光ったような気がした。にほんブログ村
Jan 22, 2024
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2017年からコツコツと、足掛け約7年位書いていた薄桜鬼と火宵の月のクロスオーバーパラレル二次創作小説「想いを繋ぐ紅玉」、漸く完結させました。この作品を書くきっかけは、昔書いてデータごと誤って削除してしまった「瑠璃色浪漫譚」のリメイク版として書き始めました。しかし、書いている内に薄桜鬼とのクロスオーバーにしたら面白いのではないのかと思い、有匡様と火月ちゃんが純血の鬼設定で書いていったら・・と、ある程度構想が固まった所で書き始めました。全40話で終わらせるつもりが、色々と書きたい事が多過ぎて、全54話となりました。大学ノート三冊分の長編二次小説を漸く書き終えて良かったという思いと、もうこの物語を書くことが出来ない寂しさに襲われたりしていますが、無事完結出来て良かったです。最終話まで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございました。2024.1.20 千菊丸
Jan 20, 2024
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戸籍から自分のルーツをたどるミステリー、面白かったです。
Jan 20, 2024
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道満がいい味出しているなあと思いました。
Jan 20, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。1905年、二百三高地。果てしなく広がる雪原と塹壕では、絶えず砲撃の音や人々の怒号、悲鳴などが響き渡っていた。「嫌だ、死にたくねぇ・・」「俺の帰りを待っている母ちゃんが居るんだ。」まるで瘧にでも罹ったかのように、恐怖に震える兵士達の中に、仁と弘匡も居た。「仁、もし俺が死んだら、髪と爪だけでも、故郷に・・」「そんな事を言うな。一緒に帰るんだ。」「あぁ、そうだな。」そう言って自分に微笑んだ従兄の笑顔が、眩しく見えた。「皆、家族に訣別の挨拶をしろ!」「突撃~!」連隊旗を掲げ持った旗手と、上官の号令を合図に、仁達は砲弾と機関銃の嵐の中、只管敵の陣地へと突進していった。次々と仲間達が倒れる中、仁と弘匡は敵を斬り伏せていった。「仁、やったな・・」「あぁ・・」仁がそう言って弘匡の方を見ると、彼は側頭部を撃たれて、息絶えた。「弘匡・・」仁は、彼の髪と爪を懐紙に包んだ。「一緒に帰ろう・・」仁がそう言って目を閉じると、何処からか母の声が聞こえて来た。―まだ、死んではいけませんよ。(母・・上?)彼が目を開けると、ひらひらと一羽の紅い蝶が自分の方へと飛んで来るのが見えた。蝶は、まるで仁を安全な場所に導くかのように、戦場を飛んでいった。「待って・・」仁はその蝶を追い掛けている内に、意識を失ってしまった。「う・・」「気が付いたようですね、良かった。」「あの、ここは?」「ここは、大阪の陸軍予備病院ですよ。」あの地獄の戦場から、仁は生還した。半年間仁が陸軍予備病院で療養した後、家族が待つ東京へと戻ったのは、クリスマス=イヴだった。「父上、只今戻りました。」「仁、良く帰って来た。」仁の帰還を指折り数えて待っていた有匡は、聖心寺で彼と再会した時、力強く彼を抱き締めた。「白雪は?」「あぁ、彼女なら澪殿と・・」「仁様!」「ただいま、白雪。」「お帰りなさい、仁様。」仁は、有匡に辛い報告をしなければならなかった。それは、弘匡が戦死した事だった。「そうか・・」「これだけしか、持って来られなかったのです。」仁はそう言うと、懐紙に包んだ弘匡の遺髪と爪を有匡に見せた。「文観達には、わたしから伝えておこう。」「はい・・」京で有匡が文観達に彼らの一人息子の戦死を告げると、彼らは落ち着いた様子で有匡にこう言った。「ありがとうございました、息子を連れ帰ってくれて。」「これから、どうするつもりだ?」「唐土へ。向こうにも、京と同じような学校を作りたいと思いましてね。」「達者でな。」 1925年、春。「ここに来たのは、わたし一人だけか・・」毎年のように家族総出で来ていた花見だったが、子供や孫達は皆巣立ち、賑やかだった広い屋敷は、急に静寂に包まれ、有匡はそこで独り、気楽に暮らしていた。気づけば、かつて幕末の動乱を駆け抜け、志を共にした仲間達は、皆鬼籍に入ってしまった。家事全般はひと通り出来るし、時折有匡を心配して輝匡が様子を見に来てくれるので、不自由も何もなかった。「ひい祖父様は、新選組と戦ったというのは本当ですか?」「あぁ、本当さ。」「その話、聞かせて下さい!」「わかった。」年を取るにつれ、有匡の右目には、鮮やかで激しい過去の光景が、まるで万華鏡のように見える事があった。「ひい祖父様は、これからどうなさるのですか?」「さぁな。」少し、長く生き過ぎたか。「輝匡、医学校は楽しいか?」「はい。」「そうか。」「お母様は、鬼は長寿な者も居るといいました。でも、それは個々によるものだと。」「人とは違う、鬼だからこそ、わたしは天から役目を与えられたのかもしれん。」「役目、ですか?」「あぁ。この世を―人が作った世を、見届けよと。」「わたしも、お供致します。」「すいません、郵便です!」「ご苦労様です。」有匡が郵便配達人から文を受け取ると、それは唐土に渡った妹夫婦からだった。 そこには、学校運営が軌道に乗り、現地の者達と仲良く暮らしている事などが書かれていた。「二人共、元気よく暮らしているようだな。」「ええ。」「仁は、どうしている?」日露戦争から帰還した後、仁は心に深い傷を負ってしまい、塞ぎ込むようになった。「白雪伯母様のお陰で、最近笑うようになりました。」「わたしも、火月を喪った時鬱になり、何をするのも・・息を吸うのも嫌だった。だがそんなわたしを救ってくれたのも、火月だった。」「そう、ですか・・」「最近、昔の夢ばかりを見る。年を取った所為かな。」「何をおっしゃいます。ひい祖父様には、長生きして貰わなければなりません。」「仙人になれというのか・・」有匡はそう言うと、輝匡と酒を酌み交わした。「珍しい、こんな季節に蛍が・・」「きっと、皆が心配してわたしに会いに来てくれたのだろう。」「そうですか・・」「輝匡、もしわたしが死んだら、棺にこの懐剣を入れてくれ。」「これは、ひい祖母様の・・」「頼んだぞ。」「わかりました。」そんな約束を交わした二人を、蛍が優しく照らしていた。 1945年8月15日。その日は、雲一つない青空が広がっていた。有匡は蝉の声を聞き、低く呻きながら起き上がった。鏡を見ると、皺だらけの顔が映るのかと思っていたが、目尻の目立つ皺以外、彼の美貌を損なうものは何もなかった。この世に生を享けて、百十年という時が流れた。鬼は人よりも長く生きるというが、もしかしたら自分はあの妖狐玉藻前のように二千年も生きるかもしれないな―有匡がそんな事を思っていると、彼は突然心臓に鋭い痛みを感じた。あぁ、遂に来たのか―有匡が静かに目を閉じると、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえて来た。―有匡殿・・―アリマサ・・―父様・・―父上・・―義兄上・・聞こえて来るのは、懐かしい人々の声。だが、本当に聞きたい声は、聞こえて来ない。(火月・・)彼女は、まだ自分の元には逝くなと言っているのだろうか。(わたしは、もう充分生きた・・)―先生・・風に乗って聞こえて来たのは、妻の声。「火月・・」「先生、今までお疲れ様でした。」「火月、わたしは、良い人生を送れていたか?」「はい。子供達を育てて下さり、ありがとうございました。」火月はそう言って微笑むと、有匡の唇を塞いだ。「有匡。」「父上、母上・・」「逝こう、皆が待っている。」「はい・・」有匡は、火月と共に、桜の木で待つ家族や仲間達の元へと旅立った。「ひい祖父様、戦争がやっと終わりましたよ。」南方の戦地から命からがら帰還した輝匡は、自室の縁側で永遠の眠りについている有匡の姿を見つけた。「ひいお祖父様、長い間ご苦労様でございました。後は、わたしにお任せ下さい。」その日、一匹の―いや、一人の鬼が静かに旅立った。その死に顔は、とても安らかなものだった。輝匡は、有匡の遺言通り、火月の懐剣を彼の棺の中に入れた。戦禍で全てが灰と化した中で、有匡達が花見をした桜の木だけは、昔のように美しい花を咲かせていた。「ひいお祖父様、いつか、会いましょうね。」 2005年、春。「ここか・・」桜舞う聖心寺の境内へと続く石段を、一人の少年が息を切らしながら登っていた。彼の名は、土御門有匡。聖心寺に来たのは、最愛の曾祖父・輝匡にある遺言を頼まれたからだった。“このロザリオを、棺に入れておくれ。”そう言って輝匡が有匡に手渡したのは、かなり古いロザリオだった。“これ、なぁに?”“お守りだよ。”日露戦争の年に生まれた彼は、家族に見守られながら、桜が咲き始めた頃に息を引き取った。「曾祖父さんも、長生きしたわね。」「本当に。百歳の壁ってよく言うけれど、うちの家系は長寿なのかもしれないな。」「それよりも、あの屋敷をどうするかねぇ?」「修繕するのも金がかかるから、いっそ潰して売っちまうか・・」「駄目だよ、そんなの!曾祖父ちゃんが帰る所がなくなっちゃう!」有匡がそう叫ぶと、親族達は彼を馬鹿にしたような顔をした。「有匡、あとはわたしに任せなさい。」親族達から罵倒され、泣くまいと下唇を噛んで耐えていた有匡を助けたのは、有仁だった。その後、有仁が彼らと何を話したのかはわからないが、屋敷は取り壊さずに有仁と有匡が住む事になった。「お父さん、この写真なぁに?」「あぁ、これはわたし達のご先祖の写真だよ。」断捨離と称して、有匡が父と共に蔵の中を整理していると、長持の中から古い写真が見つかった。その中に、一組の夫婦が写っているものがあった。「この子、あの子にそっくりだ!」「あぁ、この前お前が話していた子か。きっと、その子がお前の運命の人かもしれないね。」「運命の人って、居るのかなぁ?」「居るよ。」幸福に満ちた、父と過ごした幼年時代は、彼の死と共に終わりを告げた。「本当に、行っちゃうの?」「うん・・でも、また会えるよ。」「約束して、必ず僕の元に戻って来るって。」「あぁ、約束だ。」いつも一緒に遊んでいた桜の木の下で、有匡は金髪紅眼の少女と約束を交わし、英国へと旅立った。『お前が・・そうか・・』母方の祖父は、そう言った後、有匡を抱き締めてくれた。―先生・・時折、誰かに呼ばれているかのような感覚に有匡が襲われるようになったのは、高校生になった頃だった。それと同時に、不思議な夢を見るようになった。「誠」の隊旗を掲げ、京の町を、戦地を駆け抜けた夢。またある時は、家族に囲まれながら幸せに暮らす夢を。「それって、前世の記憶ってやつじゃないの?」「馬鹿馬鹿しい。」当時付き合っていたガールフレンドの言葉を、その時有匡は一蹴したが、もしかしたら自分が見ていた夢が、前世の記憶だとしたら―(下らん。そんな事に構っている程、わたしは暇じゃないんだ。)有匡は、ロンドンで起きた銃乱射事件に巻き込まれ、療養する為、約二十年振りに帰国する事になった。 2025年、春。(ここは、変わらないな・・)二十年振りに英国から帰国した有匡は、川沿いの道を歩きながらそう思っていると、またあの声が聞こえて来た。―先生・・何処か懐かしく、それでいて愛しい“誰か”の声。―約束して、必ず僕の元に戻って来るって。遠い昔に、“少女”と交わした約束が、有匡の脳裏を掠めた。激しい雨の中、有匡が傘をさして歩いていると、傘は突風に吹かれ、桜の木の近くまで飛ばされた。有匡が舌打ちしながら傘を拾おうとした時、彼は一人の少女が泣いている事に気づいた。「おい、どうした?」「すいません・・」よく見ると少女が着ている制服には泥が所々ついており、彼女が穿いていたストッキングは破れていた。少女が俯いていた顔を上げた時、有匡の脳裏で、あの“少女”と、“声”の正体に気づいた。あぁ、あれは―「先・・生・・?」「お前、火月か・・?」自分に向かって微笑んでいるのは。“その子が、お前の運命の人かもしれないね。”自分が、かつてこの世で愛した人。「お帰りなさい、先生。」「ただいま。」そして、再びこの世で愛する人。桜の木が、まるで恋人達の再会を祝福するかのように、桜色の雨を降らせた。(完)にほんブログ村
Jan 20, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 1905年、元日。「お祖父様、新年明けましておめでとうございます。」「今年もよろしくお願い致します。」「あぁ、よろしく頼む。」 土御門家で、有匡は家族でお節を囲みながら新年を祝っていた。「毎年こうして集まるのも、悪くないな。」「そうですね。」 華はもうすぐ満一歳を迎えようとしている息子をあやしながら、父がもうすぐ古希を迎えようとしているのに、全く老けていない事に気づいた。「不老不死と鬼の血は、関係があるのでしょうか?」「さぁ、聞いたことがないな。」 有匡はそう言うと、孫を抱いた。「名を何とつけた?」「輝匡(てるまさ)です。」「良い名だ。それよりも、何やら世間がきな臭くなっているな。」「そうですね。」「父上、遅くなりました!」 そう言いながら息を切らして大広間に入って来た仁は、有匡の隣に座った。「色々と立て込んでおりまして・・」「新年を迎えると、羽目を外す連中が居るからな。」「それもありますが・・最近、上司から縁談を次々と持ち込まれて、困っております。」「何を困るものか。」 有匡は漸く息子に春が来たと思い、微笑んだ。「わたしは・・僕は理想が高いのです。それに、今は結婚など考えた事は・・」「先斗町の白雪という芸妓とは、別れたのか?」「な、何故それをっ!」「妹から色々と聞いている。」「それに、わたくし達も居るから、この家で隠し事は出来ませんよ、仁。」「はぁぁ・・」 仁は乱暴に髪を掻き毟りながら、溜息を吐いた。「白雪とは、そのような仲ではありません。同じ趣味を持つ者同士、親しくなっただけで・・」「お前は動揺する時、いつも平静を装っているが、猪口を持つ手が震えているぞ。」「鉄面皮の父上とは、違います。」「新年早々、嫌味は辞めろ。」「わかりました。では、新年の祝いに、和琴でも弾きましょう。」「正月らしいな。わたしは横笛でも吹くか。」 仁が和琴を奏で、有匡が横笛を吹いていると、その音色に誘われるかのように、土御門家に一人の女がやって来た。「すいまへん、誰か居てはりまへんやろうか?」「まぁ、どちら様ですか?」 華が玄関先で女を出迎えると、彼女は黒紋付きの着物姿に、髪には鼈甲の簪を挿していた。「うちは、先斗町の白雪と申します。こちらに、土御門仁様はご在宅でいらっしゃいますか?」「さぁ、こちらへどうぞ。兄ならば、大広間にいらっしゃいますわ。」 華は半ば強引に、女―白雪を大広間へと連れて行った。「仁様・・」「白雪、お前どうして・・」「お会いしたかった!」 白雪はそう言うと、仁に抱きついた。「白雪、京に居る筈では・・」「うちを身請けして下さい、仁様!」「え、ええっ!」 仁が突然の恋人の困惑に来訪しながら有匡の方を見ると、彼は仁にこう言った。「もう年貢の納め時だぞ、仁。」 元日に白雪に半ば押し切られるような形で求婚され、彼女を身請けし仁が祝言を挙げたのは、奇しくも有匡が古希を迎えた日だった。「仁、白雪殿と幸せにな。」「はい。」「白雪殿、仁は優柔不断な所があるが、よろしく頼む。」 先斗町で名妓と謳われた白雪を、仁が身請けした事は大きく新聞で報じられた。「白雪さん、小姑が居て気を遣うでしょうが、よろしくお願いしますね。」「へぇ。」 気が強い姉と妹に挟まれ、白雪が二人と上手くやっていけるのか心配していた仁だったが、それは杞憂に終わった。「白雪、辛い事があったら、この家を出て二人で暮らそうか?」「仁様、おおきに。そのお気持ちだけで充分どす。」「そ、そうか・・」「うちは、早うに親を亡くして、ずっと寂しかったんどす。でも仁様とお会い出来て、夫婦になって嬉しい。」「白雪、共に白髪が生えるまで生きような。」「へぇ。」 一度も喧嘩らしい事をした事が無い位仲睦まじい仁と白雪だったが、中々子を授からぬ事が、二人にとっては悩みの種だった。「子は夫婦を繋ぐ鎹と言うが、子を持つ事が全てではない。」「父上・・」「御免下さい、土御門仁様はこちらにご在宅でしょうか?」「はい、僕が土御門仁ですが・・」「市役所の者です。この度はおめでとうございます。」 そう言って役人が仁に手渡したのは、赤紙だった。「嫌や、行かんといてっ!」「僕だって、君を置いて戦場へ行きたくない。けれど、仕方無いんだ。」「仁、これを。」 出征前夜、仁は有匡から美しい紅玉の指輪を手渡した。「これは?」「お祖母様の形見だ。お前に幸運を運んでくれるだろう。」「ありがとうございます、父上。」「必ず、生きて帰って来いよ。」「はい・・」 翌朝、仁は家族に駅で見送られ、戦地へと旅立った。「白雪殿、仁は必ず約束を守る男だ。」「へぇ・・」 白雪が有匡をそう励ましていると、そこへ澪がやって来た。「澪殿、どうされたのです?」「恵心尼様が・・」 長く肺を患っていた恵心尼が危篤状態に陥り、有匡と白雪が聖心寺に駆け付けると、彼女は奇跡的に意識を取り戻した。「恵心尼様・・」「わたくしは、実に良き・・人生を・・」「どうか、安らかな眠りについて下さい。」 恵心尼は、一足先に神が待つ天国へと旅立った。「この寺は、わたくしがお守り致します。」「澪殿・・」「きっと、恵心尼様は天から我々を見守って下さる事でしょう。」「わたしも、そう思います。」 ふと有匡が空を見上げると、そこには一際美しく輝く星があった。(恵心尼様、また会いましょうぞ・・)にほんブログ村
Jan 20, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「羅刹を作ったのは、旧幕府の方ですか?」「あぁ。蘭方医の、雪村綱道という者が、変若水を作った。一族再興の為に。」「一族再興?」「雪村は、人間によって滅ぼされた鬼の一族だ。そして火月も、わたしも鬼だ。」「じゃぁ、僕達も?」「わたしは、自分の呪われた血をお前達に受け継がせたくなかった。わたしと同じ苦しみを味わわせたくなかった。」 人と違う事で、いつも苦しんで来た父。「大丈夫ですよ。人と鬼は長年いがみ合って来ましたが、いつか互いを認め合える時代が来る筈です。」「そうか?」「必ず、僕達がそんな時代を作ります。」「お前は昔、泣き虫だったのに、いつの間にか強くなったのだろうな。」「もう、父上ったら僕を幾つだと思っているの?」 父子がそんな和やかな会話をしていた時、仏間の方から物音がした。「来たか。」「父上、大丈夫なのですか?」「年は取ったが、潜り抜けて来た修羅場の数がお前とは違う。」「昔の自慢話は止めて下さいよ。」 仁がそう言いながら仏間の襖を開けようとした時、中から獣が吼える声が聞こえた。「血ヲ寄越セ~!」「やはり、来たか。」 口元から涎を垂らし、禍々しい紅い眼で自分を睨みつけている羅刹の首を、有匡は躊躇いなく刎ねた。「警戒するまでもなかったな、こんな雑魚が・・」「やはり、あなたはお強いですね、有匡殿。」 中庭から男の声がしたかと思うと、大山愛助が有匡と仁の前に現れた。「愛助殿、今更我が家に何のご用ですか?」「今日は、あなたのお孫さん・・桃代さんでしたっけ?その子をお迎えに上がりましたが、どうやらいらっしゃらないようで、残念です。」「孫に何の用だ?返答次第では、この場で斬り伏せる。」「桃世さんには、あなた方の、鬼の血を濃く受け継いだ者。彼女には、この国の為に貢献して貰います。」「貢献だと?」「富国強兵の為に、彼女には鬼の血をひく子を産んで貰います。」「あの子を、貴様の汚い政の道具にしてなるものかっ!」 愛助は、有匡の刃を胸に受け、絶命した。「最近の羅刹騒ぎは、桃代を狙ったものだったのか?」「そうらしい。それよりも、後始末をせねばな。」「はい。」 羅刹と愛助の遺体を山に捨てた有匡と仁は、聖心寺へと向かった。「父上、桃代をあの者達の仲間が狙っているとは、どういう事ですか?」「桃世は、わたしの・・正確に言えばわたし達の鬼の血を受け継いでいる。愛助殿が桃代を狙っていたのは、それだけではない。あの子は、火月に似ている。」「母上に?」「彼は火月に懸想し、火月の義姉を身勝手な理由で殺した。火月を手に入れようとして失敗し、今度は桃代を・・」「身勝手な男ですね。桃代が、無事でいればいいのですが・・」「あぁ、桃代が無事であればいいが。」 有匡はそう言うと、馬の尻に鞭をくれてやった。「お母様、どうしてここに泊まらなければいけないの?今夜は、お祖父様と一緒に寝たかったのに。」「わがままを言うものではありませんよ。桃代は、本当に父様が好きなのね。」「はい、大好きです。お祖父様は、お父様よりもお優しいし、色々と教えて下さいます。」「そう。」 雛は、夫・貴之が外に女を囲っている事を知っていた。 だが、有匡には相談出来なかった。「姉様、どうかなさったの?」「何でもないわ。」「もしかして、お義兄様が・・」「華、外へ出ましょう。」 雛はそう言うと、宿坊の外へと華を連れ出した。「あの人の事は、もう諦めているわ。あの人の女癖が悪い事を、わたしがもっと早くに気づいていたら・・」「そんなの、姉様の責任ではないわ!あの男は、姉様を苦しめたいだけよ!」「やめなさい、子供達が聞いているかもしれないわ。」「ごめんなさい。」 華がそう姉に謝った時、宿坊の方から悲鳴が聞こえた。「あなた達、何をしているの!」 宿坊に二人が戻ると、そこには貴之が数人の男達と共に桃代を連れ去ろうとしていた。「雛、桃代はわたしが連れて行く。この子は、鬼の国を作る為に必要なんだ。」「そうはさせません!」 凛とした声が宿坊の中に響くと共に、薙刀を持った澪が貴之達を撃退した。「澪様、助かりました。」「雛、桃代、無事か!?」「はい、父様。」「澪殿、かたじけない。」「いいのです。」「お祖父様、今夜は一緒に寝ても良いですか?」「構わぬ。」「やった!」「これ、はしたないですよ。」 こうして、有匡達は一緒に同じ部屋で寝る事になった。「こうして川の字になって寝るなんて、何年振りかしら?」「そうだな、まだお前達が七つか八つにならぬ頃だったな。華は、火月の腹の中に居たな。」「まぁ、そんな昔の事でしたの。」「あの頃は漸く御一新後の混乱も落ち着いてきて、穏やかな生活を送れる事自体がありがたかった。」 時折寝返りを打って布団からはみ出る桃代をそっと起こさぬように、有匡は彼女の上に布団を掛けた。「桃代には、この子には光ある未来を生きて欲しい。悲しみや絶望に塗れた未来ではなく、明るく幸せな未来を・・」 有匡はそう言った後、桃代の髪を優しく梳いた。 羅刹と愛助が土御門家を襲撃してから数日後、貴之が親族の者と共に土御門家を訪れた。「用件は手短に願おうか。」「お義父様、この度は・・」「わたしがそなたに言いたい事はひとつ。直ちに雛と離縁せよ。」「どうか、やり直す機会を・・」「幼い娘を母親から引き離そうとする男は、父とは呼べぬ。それに、そなたには先斗町や祇園、あぁ向島や深川、神楽坂にも色々と“あて”があるのだろう。」「そ、それは・・」 有匡の言葉を聞いた貴之が酷く狼狽えるのを見て、彼は扇子をパチンと鳴らして閉じた。「去ね。」「有匡殿、どうか・・」「くどい!」 有匡はそう言って貴之達に向かって“力”を使うと、彼らは悲鳴を上げ土御門邸から出て行き、二度と来る事は無かった。にほんブログ村
Jan 19, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「実は、わたし付き合っている方が居るの。」「相手は、一回り年上の、外国人か?」「どうして、知っているの?」「お前達の声がわたしの部屋まで聞こえていたぞ。雛、お前は恋の熱にのぼせ上っているだけだ。」「父様まで、父様までそんな事を言うの!?」「昔、同じような事があったからだ。外国人との結婚は許さん。一度冷静になれ。」 有匡はそう言って興奮する雛を宥めようとしたが、彼女はますます興奮するだけだった。「お祖父様とお祖母様だって、最期まで仲睦まじい夫婦だったのでしょう?それなら・・」「自分達も上手くいくと?夫婦の形は人それぞれだ。」 有匡は、雛をある場所へと連れて行った。 そこは、仏間だった。「お前は、お祖父様とお祖母様が仲睦まじい夫婦だと言っていたな?」「ええ・・それがどうかしたの?」「ここで、二人は自害した。今からもう、十七年前になるが・・」「詳しく話して、父様。」「御一新の折、京の土御門家は、江戸の分家を賊軍として切り捨て、処分しようとした。それを受け入れられず、父達は死を選んだ。父は自分の手で腹を切り、わたしが介錯した。母はキリシタンで、戒律で自害する事は禁じられていたから、わたしが彼女の頸動脈を切り裂いた。実の親を手にかけたわたしの罪は、一生消えまい。」「父様、ごめんなさい・・」「人は一時の感情に任せて全てを失う事になる。今となって、わたしは後悔している。何故、あの時父上と母上を説得していれば、孫達と共に過ごせた生活が送れたのに、と。」「自分を責めないで、時代が悪かったのよ。」「そうかもしれぬな。だが、その言葉は嫌いだ。」「父上、何を・・」「やめて、父様!」 雛と仁は、有匡が仏間の式台に置かれている刀へと手を伸ばしている事に気づき、彼がまた自害するのではないかと思い、慌てて彼を止めようとした。 だが、有匡が切ったのは頸動脈ではなく、長く伸ばした髪だった。 黒く艶やかな髪が、畳の上に広がるさまは、まるで黒い海のように見えた。「自分で切ると、上手くいかないな。」 一気に短くなった己の髪を梳きながら、有匡はそう呟いて溜息を吐いた。「床屋を呼んで来ましょう。切った髪は、どうなさいますか?」「鬘にでも何にでもするがいい。」 有匡はそう言った後、床に広がった己の髪を一房掴むと、それを懐紙に包んだ。「いいんですかい、こんなに綺麗な髪を。」「女のように櫛や簪で飾るものでもないし、長い髪はもうわたしには必要ない。」 有匡は、かつて自分の髪を優しく梳いてくれた火月の事を思い出していた。 床屋の鋏が、小気味良い音を立てて自分の髪を切ってくれている様子を鏡で見ながら、有匡は一羽の蝶が自分の肩先に止まっている事に気づいた。“蛍や蝶を見たら、僕だと思って下さい。”(お前は、変わらずに傍に居てくれるのだな・・)「どうしたんですかい、旦那?何処か痛みます?」「いや、何でもない。これは、嬉し涙だ。」 姿は見えずとも、有匡は確かに、火月が自分に寄り添ってくれるのを感じた。 その時、初めて有匡は、左目で、“未来”をー明るい未来を見たような気がした。 1895年、春。 有匡は、家族と共に、あの桜の木の下で花見をしていた。「ここはいつ来ても変わらないな。」「そうですね、お父様。」 十七歳となった華は、漆黒の長い髪を靡かせながら、姉達がやって来るのを見た。「遅れてごめんなさいね。」 雛は、三人の子供達を連れて、有匡達の元へとやって来た。 彼女はあの後、当時の恋人と別れ、今の夫と結婚した。「仁叔父ちゃま、遊んで~!」「後でな。」「やだ、今遊ぶの~!」 甥っ子と姪っ子達にまとわりつかれて苦笑いしている仁は、警察官として日々懸命に働いていた。「お前は、子供達に懐かれているな。」「まぁね。ほら三人共、お祖父様にご挨拶は?」 仁がそう言って甥っ子達に挨拶を促したが、彼らは仁の背に隠れてしまった。「ごめんなさいね、この子達ったら人見知りで・・」「良い、気にするな。それよりも仁、お前はまだ独身か?」「あぁ。」「まぁ、あんたは理想が高過ぎるからね。」「うるさいなぁっ!」 久し振りに家族で楽しい時間を過ごした有匡は、聖心寺へと向かった。「有匡殿、久しいですね。還暦、おめでとうございます。」「ありがとうございます。お身体の具合はいかがですか?」「まぁまぁです。相変わらず、お孫さん達から怖がられているそうで。」「いつも厳しく接している所為かもしれませんね。わたしは、そんなつもりはなかったのですが・・」「思うようにいかないものですね。」「本当に。」 両親と妻の墓参りをした後、有匡が帰宅すると、奥から子供達の賑やかな笑い声が聞こえて来た。「どうした?」「お祖父様、お祖父様は昔、お姫様のように髪を長く伸ばしていたのでしょう?」「そうだが、それがどうしたんだ?」 雛の長女・桃代は、じっと有匡の短い髪を見て、こう言った。「また、伸ばして下さい!」「そう言われても、髪はすぐには伸びないよ。」「それでも、伸ばして欲しいです!」「わかった・・」 幼子の願いを無下にする事が出来ず、有匡は再び髪を長く伸ばす事になった。「父様も、孫のお願いには弱いのですね。」「うるさい、放っておけ。」「それにしても父様、左目の調子は如何ですか?」「最近、また痛むようになってな。」 有匡は、時折左目が痛む時は、災いが起きる兆しであると感じていた。「父上、大変です!」「どうした、そんなに慌てて?」「昨夜、この近辺で羅刹が出没したって!」「それは本当か?」(羅刹は、もう居なくなった筈・・なのに、何故今更・・)「父様、気をつけてね。」「あぁ、お前達もな。」 念の為、有匡は雛達を聖心寺へと避難させた。「ねぇ父上、羅刹って何?」「そこから聞くのか。」 有匡はそう言って溜息を吐くと、仁に羅刹と変若水の事を話した。「変若水は、羅刹は、産み出してはならぬものだったのだ。」にほんブログ村
Jan 19, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「静馬伯父さん、診療所がお忙しいのに、毎日来て頂いてありがとうございます。」「いいんだ。それよりも有匡殿は?」「そろそろ起きて来る筈・・」 厨で朝食の支度をしながらそんな事を静馬と仁が話していると、姉の悲鳴が父の部屋から聞こえた。「一体、何が・・」「姉上、どうなさったのです?」 父の部屋へと仁が静馬と共に向かうと、そこには血の海の中で倒れている父と、父を抱き締めて泣きじゃくる姉の姿があった。「父様、父様~!」 仁は、父が握り締めているのが母の懐剣だという事に気づいた。「早く有匡殿を診療所へ!」 火月の懐剣で自害しようとした有匡だったが、一命を取り留めた。ー先生・・(火月、何処に居る?)ー僕の事を、忘れないで・・(嫌だ、行くな!) 有匡が目を開けて手を伸ばすと、その手を握ったのは雛だった。「父様、良かった・・」「わたしは・・」「有匡殿、あなたは妹の懐剣で自害しようとしていたのですよ。」「何故、あのまま死なせてくれなかったのです?わたしは・・」「あなたには、妹との間に三人のお子がおられるでしょう!命を救う医師が、己の命を粗末にしてどうするのです!」 そんな静馬の訴えは、絶望に彩られた有匡の胸には何も響かなかった。 その日から、有匡は独りで自室に籠る事が多くなった。 医学校は何とか卒業したものの、生きる力を失った彼は、家族とも会話を交わさなくなった。「そうですか、有匡殿が・・」「文観叔父様、どうしたら、父様は以前のお姿に戻ってくれるのでしょう?」「心の病は、完治するものではありません。時が経つのを、只管待つだけです。」 火月が亡くなってから、五年の歳月が経った。「おはようございます、姉上。」「おはよう、仁。」 仁は雛と厨で朝食の支度をしていると、塀の向こうで子供達が何やら騒いでいる声が聞こえて来た。「なぁ、本当に居るのか?」「見たって言っている奴が居たんだ。ここに、髪の長い女の亡霊が出るって・・」「こら、お前達そこで何をしている!」 仁が屋敷の周りをうろついている子供達に向かって声を張り上げていると、彼らは蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。「どうしたの?」「近所の悪童達が、父上の事を噂していたのですよ。髪の長い女の亡霊だと。」「女の亡霊、ね・・」 雛は弟の言葉を聞き、昨夜見た父の姿を思い出していた。 昨夜開いた襖越しに見えた父の黒髪は腰下までの長さがあり、それが畳を覆うさまは、まるで黒い海のように見えた。 母を喪い、生気を失った父の姿は、まるで生きた屍のようだ。「京から文が届きました。」「まぁ、ありがとう。」弟から文を受け取った雛は、嬉しそうにそれを懐にしまった。「また、あの方からですか?」「ええ。父様には内緒よ。」 文の送り主は、京で知り合った英国人の医師だった。 彼とは、教会で行われたバザーで出会った。 共通の趣味があり、意気投合した二人は、いつしか結婚を考えるようになった。「仁、雛はどうした?」「姉上なら学校へ行きましたよ。どうかされたのですか、父上?」「最近、あいつ宛に男からの文が届いているな。」 有匡の言葉を聞いた仁は、この人には嘘は通じないと思った。「父上、実は・・」「お父様、おはようございます。」 仁が姉の事を話そうとすると、厨に華が入って来た。「おはよう、華。」 自分と瓜二つの顔をしている末娘を、有匡は殊更可愛がり、鬱の症状が軽い時は彼女と出かけたり、遊んだりしていた。「ねぇお父様、今日はこのリボンにしたのだけれど、似合うかしら?」「良く似合っているよ。」 華の黒髪を飾っているリボンは、有匡が選んだものだった。「あのね、わたしは将来、お父様のお嫁さんになるの!」「お父様は、もうお母様と結婚しているから無理かなぁ。」「え~!」「華にもいつか、大切な人が出来るよ。」「本当?」「あぁ、本当だ。」華は、有匡が大好きだった。縫い物や和歌、和琴などを教えてくれたり、時々一緒に行きたいところに連れて行ってくれたりした。でも、時折彼は何日も部屋に閉じ籠って塞ぎ込む事があった。「お父様は、何処かお身体が悪いの?」「あのね、父様は心がお風邪を召されているのよ。だから、そっと見守りましょうね。」「はい・・」 有匡はその日、華と近所にある和菓子屋に来ていた。「これ、下さい!」「はいよ。」「お父様、今日は天気が良いわね。」「あぁ、そうだな。」 店の軒先で、有匡と華が店で買った菓子を食べていると、そこへ近所に住む女性達が通りかかった。「あら、珍しいわね・・」「ほら・・」「お父様?」 華は、自分の手を握っている父の様子がおかしい事に気づいた。「何でもないよ、帰ろうか?」「はい・・」 その日から、有匡はまだ塞ぎ込むようになった。「今までお元気だったのに、どうして・・」「上手く付き合っていくしかないよ。それよりも姉上、あの人とはやめておいた方がいい。」「仁、どうしてそんな事を言うの?」「相手は一回りも年上だよ?上手くいく訳がないよ。」「わたしは、このままずっと家に居ろっていうの?わたしが、女だから?」「それは・・」 姉と兄が喧嘩している事に気づいた華は、それ以上聞きたくなくて両手で耳を塞いでいた。「姉上、あの人との結婚を考え直してくれ!」「嫌よ!」「結婚?雛、仁、一体どういう事だ?」 氷のように冷たい声がして雛と仁が振り向くと、そこには眉間に皺を寄せて自分を睨みつけている有匡の姿があった。「父上・・」「父様?」「二人共、わかるように話せ。」にほんブログ村
Jan 17, 2024
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このシリーズ、好きです。短編集ですが、晴明と博雅の関係が読んでいて心地いいです。
Jan 17, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。『髪を、切ってしまったの?夜の闇のように黒く、人魚のように美しく長い髪だったのに。』 スティーブはそう言うと、肩先で切りそろえられた有匡の髪を一房、優しく梳いた。『男の長髪は、風紀を乱すものですから。』 有匡はスティーブの手を軽く払うと、彼に背を向けて診療所の中へと戻ろうとした。 だが、スティーブは有匡の羽織の袖を掴んで離そうとしなかった。『まだ何か、わたしに用ですか?』『暫く、僕と付き合ってくれないか?』『付き合う、とは?』『あ、勘違いしないで!ベッドの中で、じゃないよ!一緒にお茶したいという意味だよ!』 隣で静馬が噴き出しているのを横目でちらりと見た有匡は、溜息を吐いた後、スティーブにこう言った。『わかりました、お付き合いしましょう。』『じゃぁ、後ろに乗って!』 有匡は着流し姿でありながらも、颯爽と馬に乗り、その場に居た者達を驚かせた。「有匡殿、妹にはしっかりと伝えます故、ご安心を!」『しっかりつかまってね!』 スティーブが向かった先は、横浜の外国人居留地にあるホテルだった。『立派な旅籠だな。ここへわたしを連れて来た理由は?』『一緒にお茶をしたいだけ。』『そうか。』 有匡がホテルの中に入ると、周囲に居た客達が一斉に彼の方を見た。『日本人は、珍しいのか?』『うん。』 スティーブは有匡とホテル内のカフェでアフタヌーンティーを楽しんだ。『ねぇ、アリマサは今、何をしているの?』『診療所の手伝いをしながら、医学校に通っている。毎日忙しいが、充実している。』『そうなの。僕は英国海軍に入って、色々と大変だよ。それよりもアリマサ、その左目はどうしたの?』『昔、戦でな・・』『そう。実は、ロンドンでこの写真を刑事さんから渡されたんだ。大切な物だから、君に直接渡したくてね。』 そう言ってスティーブが有匡に手渡したのは、一枚の写真だった。 そこには、洋装姿の両親が写っていた。(父上、母上・・) あの時と違った、優しい顔をした両親の姿を見て、有匡は俯いて涙を堪えた。『どうしたの?』『写真を渡してくれて、ありがとう。』 スティーブとアフタヌーンティーを楽しんだ数日後、有匡は家族を連れて写真館へと向かった。「本当に、魂を抜かれないんですか?」「大丈夫だ。」「では、皆さんいきますよ!」 家族六人で写真を撮った後、有匡は火月と二人で和装と洋装姿で写真を撮った。「良く撮れていますね。」「あぁ。良い思い出になったな。」「先生、どうしたんですか?」「実は、母の親族から両親の写真を渡された。若い頃の、優しい両親が写っていた。」 その日の夜、有匡と火月はそんな事を話しながら、庭の池に集まっている蛍を眺めていた。「ねぇ先生、蛍って、死んだ人の魂なんですって。知っていました?」「あぁ、知っている。蝶も魂の化身だと言われているな。それがどうかしたのか?」「もしどちらかが先に死んだら、どうします?」「なんだ、藪から棒にそんな話をして?」「この前、お医者様から、もう永くはないと言われたんです。長くても一年、短くても半年だといわれました・・」 火月の言葉に、有匡は絶句した。「そんなに悲しい顔をしないでください。僕は、肉体が滅んでも魂はあなたの傍に居ますから。」「お前が死んだら、わたしはどうしたらいい?お前が居たからこそ、わたしは今まで生きて来られたのに、それなのに・・」「蛍や蝶を見たら、僕だと思って下さい。」 それから、火月の体調は急激に悪化していった。「父様、母様は死んじゃうの?」「母上は、もう永くは生きられないそうだ。だから、母上との時間を大切にしよう。」 有匡はそう言うと、双子を抱き締めた。「義父上、入ってもよろしいですか?」 ある日の夜、有匡が自室で読書をしていると、そこへ千歳がやって来た。「どうした、眠れないのか?」「実は、母上の事を思い出したのです。母上は、労咳で亡くなりました。周りの大人達から、部屋に入るなと言われ、最期を看取る事が出来ませんでした。」そう言った千歳は、涙を堪えていた。幼い頃に母と死に別れ、その後父にも死なれて、彼はとても辛かっただろう。「ですからせめて、義母上を・・」「わかった。」 有匡は、医学校の講義が終わるとすぐに帰宅し、火月との時間を作った。「先生、その花・・」「庭に咲いていた。」「うわぁ、綺麗・・」 火月は、有匡が見せてくれた百合の花を見て微笑んだ。「もうすぐ咲きますね。」「楽しみだな。」 これが、有匡と火月が交わした、最後の会話となった。 1880年5月30日。 その日は、美しい青空が広がっていた。「火月、朝食を・・」 有匡がいつものように朝食を火月に持って行くと、彼女は苦しそうに咳込んでいた。「火月、しっかりしろ!」「父上・・」「仁、静馬殿を呼べ、早く!」 静馬が土御門家へ駆けつけた時にはもう、火月は危篤状態に陥っていた。「子供達を、ここへ。」 有匡が震える声で子供達を呼ぶと、彼らは泣き腫らした目をして部屋に入って来た。「お母様にお別れを言いなさい。」「先・・生・・」 火月は苦しそうに呻いた後、有匡の頬を撫でた。「あなたと会えて、幸せでした・・」「火月・・」「みんな、お父様の言う事をよく聞くのですよ。」 火月はそう言って、夫と子供達に見送られながら、静かに息を引き取った。 三十四歳の若さだった。 葬儀は、有匡が喪主を務めた。「大丈夫なの、アリマサ?」「あぁ。これから、わたしがしっかりせねば・・」 子供達の手前、有匡は気丈に振る舞ってはいたが、火月という心の支えを喪い、徐々にその心は、“何か”に覆われていった。「父様、おはようございます、起きていらっしゃいますか?」 母が亡くなって半年後、雛が中々起きて来ない有匡を起こしに行くと、部屋の中から何の反応もなかった。「父様・・?」 雛が恐る恐る父の部屋の襖を開けると、中は血の海だった。にほんブログ村
Jan 16, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「先生・・」「こちらは、雪村千歳殿だ。火月、彼にも膳の用意を。」「はい。」火月が厨へと消えた後、有匡は千歳の方へと向き直った。「雪村、といえば故あって千鶴殿の姓を名乗っているのだな?ご両親は息災か?」「父は西南の役で、母は三年前に亡くなりました。」「そうか・・火月から、君は蝦夷地から遥々こちらまで来たと聞いている。」「はい。これを、父から必ず有匡様に渡すようにと、言われました。父は、有匡様のことを、最良の友だと言っていました。」千歳から歳三の文を受け取り、有匡はそれに目を通した。そこには、ただ一行だけ“ありがとう”とだけ書かれていた。それを見た有匡は、気づかぬ内に頬を涙で濡らしていた。“嫁さんと、達者で暮らせよ。”別れ際―あの時の、美しく澄んだ歳三の紫紺の瞳を、有匡は九年経っても忘れずにいた。だが、彼の魂は、新選組の魂は、彼の息子へと引き継がれた。ならば―「千歳殿、頼れる者は居るのか?」有匡の問いに、千歳は首を横に振った。「では、わが家へ来るか?」「いいのですか?」「僕は構いませんよ。独りぼっちで居るより、皆で居た方がいいでしょう。」「お世話に、なりますっ!」こうして、千歳は有匡の家族となった。「父上、母上、行って参ります!」「気をつけてな。」「今日も良く学ぶのですよ!」元気よく登校する子供達を正門前で見送った火月の腕には、有匡と瓜二つの顔をした娘が抱かれていた。「火月、体調は良いのか?」「ええ。」火月は次女の華を産んでから、体調を崩しがちになっていた。「兄上によると、この子のお陰で僕は生きているんだそうです。」「それは、どういう事だ?」「僕の中に流れていた、“陰の血”が、華を妊娠してから、“陽”へと変わったみたいです。」「そうか。余り無理をするなよ?」「はい。」有匡が火月と娘と共に屋敷の中へと戻ろうとした時、突然彼は腰に軽い衝撃を感じた。(何だ?)「伯父様、お会いしたかった!」「弘匡・・」自分に抱きついて来た弘匡は、火月に気づくと慌てて彼女に挨拶した。「お初にお目にかかります、伯母上!」「まぁ、元気な子ですね。丁度、あなたのお父様からお菓子を頂いたから、一緒に頂きましょう。」「はい!」突然の甥の来訪に有匡は戸惑った。「何故、急に京から来たんだ?」「実は、伯父様を捜していらっしゃる方が居ると、聞いたのです。」「わたしを捜している者?」「はい。何でも、一月前黒谷の宴で、伯父様の凛々しい御姿に惚れられたとかで・・」甥の話を聞いた火月は、少し噴き出してしまった。「どうされたのですか?」「いいえ、先生は昔も今も同性からそのような目で見られているのだと思いまして、つい・・」「火月。」有匡がそう言って軽く咳払いすると、火月は愚図り出した華をあやし始めた。「伯父様にそっくりですね!将来は美人になりそうですね!」「まぁ、な・・」「さてと、そろそろお昼の支度をしないと・・」「わたしがやる。お前は華を見ていろ。」「わかりました。」有匡は厨に入って昼食の支度をしていると、外から何か物音がした。(何だ?)有匡が厨から外を見ると、塀の向こうからかすかに屋敷の中を覗いている数人分の人影があった。―あれが・・―土御門有匡の・・―間違いない・・「伯父様、どうかなさいましたか?」「いや、何でもない。」そう言って有匡は再び塀の向こうを見たが、そこには誰も居なかった。「どうされたんですか、先生?怖い顔をなさって・・」「いや・・」火月を心配させたくなくて、有匡は屋敷を探っていた男達の事は黙っていた。「伯父様は、今は何をされているのですか?」「高原診療所の手伝いをしている。まぁ、医師を目指すには遅過ぎるからな・・」「そんな事はありませんよ!やりたい事をするのに年齢は関係ありません!」「そ、そうか・・」半ば弘匡に背中を押されるようにして、有匡は高原診療所の手伝いをする傍ら、医学校に通う事になった。「有匡殿、医学校はどうですか?」「色々と学ぶ事が多くて、刺激的な生活を送っていますよ。」家事と育児、そして仕事と勉学との両立は大変だったが、楽しかった。「妹は、元気にしていますか?」「ええ。華を産んでから、体調に波がありますが、元気な時は子供達に薙刀の稽古をつけていますよ。それに、千歳君と双子も仲良くしていますよ。」「一気に家族が増えて、手狭になっているのでは?」「いいえ。元々両親二人で暮らしていた頃は部屋が多過ぎて困ると零していたので・・」「最近、有匡殿はよく笑うようになりましたね。」「そうですか?」「はい。妹と夫婦になる前は、何処か近寄りがたい雰囲気でしたが、夫婦となられてからは、穏やかで刺々しさがなくなりました。」「ひとえに、火月のお陰でしょう。」「あなたと妹は、比翼連理、どちらも欠けてもならぬ存在。」「わたし達は、人間と違って病や怪我になってもすぐに治りますが、寿命は人間よりも少し長いだけで、別れの時は人間のそれと同じ。太陽を失えば、月は輝きませぬ。」有匡がそんな話を静馬としていると、急に外が騒がしくなった。「一体、何事だ!?」「申し訳ございませぬ、異人が有匡殿に会わせろと騒いでおりまして・・」「異人が?」有匡と静馬が診療所の外へと出ると、そこには栗毛の馬に乗った軍服姿の青年の姿があった。「あなたは・・」『漸く会えた、サムライ!』美しい翠の瞳を閃かせながら、青年―英国海軍将校・スティーブ=レリウスはそう叫ぶと、有匡に抱きついた。「妹から聞いた噂は、どうやら本当だったようですね。」「揶揄わないでくださいませ、静馬殿。」にほんブログ村
Jan 15, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。部屋に入って来たのは、洋装姿の少年だった。彼は、母親譲りの碧い瞳を輝かせながら有匡を見ると、こう言った。「あなたが、僕の伯父様?」「これ弘匡、伯父様が困っていらっしゃるでしょう。」文観は、そう言うと有匡に抱きついている息子を窘めた。「この子は、弘匡。貴方の双子達とは一歳違いの、甥ですよ。」「ねぇ父様、伯父様と今夜一緒に寝てもいい?」「弘匡、外で遊んで来なさい。」「嫌だ、伯父様と遊ぶっ!」「別にいいんじゃないの?今からする話は、この子の為にもなるんだからさ。」神官はそう言うと、有匡を見た。「ごめんね、アリマサ。この子にあんたの話を子守唄代わりに聞かせていたら、あんたに会いたがってさぁ。」「そうか。」「さてと、そろそろ学校の話をしましょうか。」文観はそう言うと懐から一枚の紙を取り出すと、それを机の上に広げた。「これは?」「学校の見取り図ですよ。校舎と寄宿舎、教会・・」「かなりの広さだな。土地のあてはあるのか?」「ええ。土御門家本家の土地をわたしが買い取りました。」「土御門本家の土地を?」「御一新の折、福子様が播磨に移られるので、手持無沙汰となった土地を譲ってくださいましてね。」「叔母上が・・」「この学校は、旧教(ローマ=カトリック)に基づいたものにしようと思いましてね。耶蘇教(キリスト教)は、京では余り歓迎されませんが、やるしかないでしょう。」「それで、その校舎とやらは完成したのか?」「既に、政府の方々には承認を得ましたので、校舎はもう完成間近ですよ。しかし、問題があります。それは、人材の確保です。」「人材?」「旧教の司祭や修道女を集めて、英語とラテン語、フランス語、歴史や経済などを子供達に教えたいのですが、何せここは外国の方にとっては縁遠い場所・・」「それで?わたしに何をしろと?」「明日、黒谷で政府の方々が集まられるのですよ。共にそこへ来て頂けませんか?」(黒谷、か・・)かつてそこには―金戒光明寺には、京都守護職本陣があった。「わかった。」「伯父様、遊ぼ~!」「わかった、わかった・・」弘匡に強引に屋敷から連れ出された有匡は、近くの神社へと立ち寄った。そこはかつて、新選組が屯所を構えていた西本願寺の近くにあった。縁日が開かれており、境内は人でごった返していた。「はぐれないように、手を繋ごう。」「はいっ!」そう言って自分の手を握って来た弘匡は、嬉しそうに笑った。「伯父様、射的がやりたいです!」「わかった。」弘匡は鉄砲で的を撃とうとしたが、ことごとく外れた。「貸してみろ。」有匡はそう言うと、弘匡から鉄砲を受け取り、次々と的を当ててみせた。「旦那、凄いねぇ!」「伯父様、すご~い!」「暗くなる前に帰るぞ。」「うん!」仲良く連れ立って歩く二人の姿を、木陰から誰かが見ていた。(盛況だな。)翌日、黒谷の商家で開かれた宴には、政府関係者をはじめ、英国やフランスの貴族や軍人などが多く出席していた。有匡はなるべく目立たぬよう、会場の隅で酒を飲んでいた。するとそこへ、一人の男がやって来た。「失礼、貴殿は土御門有匡殿か?」「そうだが、あなたは?」「お初にお目にかかります、わたしは久田佑介と申します。一度、貴殿とお手合わせを願いたい。」「急にそのような事を言われましても、わたしはとうに剣を捨てた身。」「あの新選組の土方歳三と肩を並べ、鬼神の如く戦った貴殿の剣を知りたいのです、何卒お願い申し上げる!」やんわりと有匡が断っても、佑介は引き下がらなかった。それに加え、二人のやり取りを聞いていた者達は、何やら面白い余興が始まるのかと勘違いしたらしく、有匡はひけにひけなくなってしまった。「では、一度だけなら・・」商家の中庭へと出た有匡は、文観に羽織を預かって貰い、素早く襷がけをした後、木刀を握り締めた。「では、参ります!」そう叫んでサーベルを上段に構え、自分に向かって突進してくる佑介の攻撃を躱した有匡は、身体を反転させ、彼の首を強かに木刀で打った。(やり過ぎたか。)有匡がそう思いながら佑介に背を向けた時、佑介が咳込みながら立ち上がる気配がした。「まだまだぁ!」「諦めが悪いお人だ。」有匡は溜息を吐くと、木刀を構え直した。佑介が果敢に有匡へ攻撃を仕掛けたが、有匡はそれらを汗ひとつ流さずに躱し、素早い突きを繰り出し、佑介を気絶させた。「有匡殿、お見事でした。」「うるさい。」宴の余興について誰がどう広めたのかは知らないが、その日から有匡の元には、“道場破り”と称して有匡に腕試しを求めて来る者が押しかけて来た。「はぁ・・」「どうなさったのです、溜息など吐いて?」「わたしは京で学校を創りに来ただけで、若者の武芸指南をしに来た訳ではないんだがな。」「まぁ、あなたのお陰で学校に必要な人材が揃いましたので、助かりました。」「そうか。では、わたしはもう東京へ帰るぞ。」「また会える日を、楽しみにしています。」一月振りに有匡が東京へ戻ると、妻と子供達が自宅で彼を出迎えた。「お帰りなさい、先生。」「ただいま。わたしの留守中、何もなかったか?」「実は、先生にお会いしたいという子が、先日来ました。」「どんな子だ?」「その子は、“雪村千歳”と名乗りました。」「雪村・・」「もしかして、土方さんと千鶴さんの・・」「そうかもしれんな。」有匡が帰宅した日の夜、彼が家族で食卓を囲んでいると、外から誰かが扉を叩く音が聞こえて来た。「わたしが行こう。」有匡が正門に向かうと、そこには一人の少年が立っていた。「夜分遅くにお伺いして申し訳ありません。わたしは、雪村千歳と申す者です。」そう言った少年の、月明かりに照らされて美しく光る紫紺の瞳を見た瞬間、有匡は歳三の事を思い出した。「良く来てくれた、入りなさい。」「お邪魔致します。」少年―雪村千歳は、そう言って有匡に一礼すると、彼と共に屋敷の中へと入った。にほんブログ村
Jan 15, 2024
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読み応えがあるミステリーでした。衝撃的なラストを読んだ後、これぞ松本清張!と思いました。
Jan 14, 2024
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素敵な恋愛小説でした。
Jan 14, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「そなた、あの時の・・」「あなたが、姉様の・・」「まあ、こんな所に居たのですね。有匡様、いらっしゃいませ。」「恵心尼様、お久し振りでございます。」「どうぞ、中へ。」 有匡は娘と共に、聖心寺の中へと入った。「どうぞ。」「頂戴致します。」 恵心尼から茶を勧められ、有匡は彼女が点てた茶を飲むと、自分の隣に座っている娘を見た。「恵心尼様は、この娘をご存知なのですか?」「はい。この子は、火月様と長年生き別れた妹君の、澪様です。」「火月に、妹が居たなど初耳です。」「それはそうでしょう。何しろ、火月様と澪様が生き別れた時、澪様はまだ赤子でしたもの。」 恵心尼は静かに、澪が聖心寺に来るまでの経緯を有匡に話し始めた。 あの日―火月達の故郷が人間に襲われた後、火月は高原家へ、澪は土佐の商家へと養子に出された。 澪が土佐から江戸までやって来た時、彼女は心身共に深い傷を負っていた。「澪様は、鬼であるが故に、人間達から迫害を受けました。わたしが聖心寺に澪様を引き取った際、澪様は座敷牢に入れられていました。」「座敷牢?」 娘―澪は突然涙を流した。「わたしは、いつも殴られて・・」「澪様、大丈夫ですよ。有匡様、少し失礼致します。」 恵心尼は、澪を連れて茶室から出た。「恵心尼様、あの娘は、本当に火月の妹なのですか?」「疑われるのは当然ですわね。火月様とは全く似ていませんもの。母親が違うので・・」「そうなのですか。」 有匡は、茶室に戻って来た恵心尼と茶を飲みながら、陸軍省で起きた事を話した。「あの方・・大山さんには、気をつけた方がいいかもしれませんね。男の執念は、女のそれよりも恐ろしい事がありますから。」「そうですか。羅刹を富国強兵の為の道具にしようとする輩には、気をつけなければなりませんね。」「澪様は、暫くこちらで預かりましょう。火月様には、わたくしの方から文で説明致します。」「助かります。」 有匡は恵心尼の茶室から出て、両親が眠る墓へと向かった。 隠れキリシタンの門徒が居るこの寺では、キリシタンの墓―十字架の墓標がある墓が幾つかあった。 その中に、有仁とスウリヤの墓があった。「遅くなって申し訳ありません、父上、母上。」 有匡は両親の墓前で、己の近況や子供達の成長の事を報告した。「今度は、妻や子供達を連れて参ります。」 聖心寺から帰宅した有匡は、玄関先に見慣れぬ革靴が置かれている事に気づいた。「先生、お帰りなさい。」「火月、そちらの方は?」「初めまして、わたくしは山田浩介と申します。殊音文観様の使いで参りました。」「文観の?」「はい。これを、文観様から預かりました。」 山田青年は、そう言うと文観の文を有匡に手渡した。 そこには、京で学校を創るので、力を貸して欲しいという旨が書かれていた。「学校、ねぇ・・」「有匡殿は、蘭学の知識の他に、英国留学の経験もおありなので、是非ともお力を貸して頂きたいと・・」「そうですか。」「では、好い返事をお待ちしております。」 山田青年は、そう言うと土御門邸から去った。「先生、どうなさったのですか?」「すまない、考え事をしていた。」 双子が寝静まった後、睦事の最中に火月からそう尋ねられて、有匡はそう言って溜息を吐いた。「もしかして、京行きの話を断るおつもりですか?」「実は、迷っている。身重のお前と双子を残して単身京へ行くのは・・」「気が引けますか?僕なら、大丈夫です。実家で兄上達のお世話になりますし、何より妹さんに先生と会って頂きたいですし。」「妹、か・・いずれお前に話そうと思っていたが、この際だから話そう。」 有匡は、火月に澪の事を話した。「僕の‥腹違いの‥妹・・」「お前達の故郷が焼かれ、一家離散した際、澪殿は土佐の商家の養女となった。しかし、その境遇は余り良くないものだったらしい。」「その子は、何処に居ますか?」「聖心寺にて、恵心尼様がお世話をなさっている。」「会いたいです・・たとえ向こうが、会いたくないと、憶えていないと言われても、血を分けた妹ですから。」「そうか。」「あの日、お義父様とお義母様がお亡くなりになられた後、少し妹さんと話したことがありました。」「神官と?」「ええ。血を分けた兄を、僕に盗られてしまったようで憎らしかったと。でも、自分に大切な人が出来た時、先生の気持ちがわかったと話してくれました。それと、先生を恨んでいない、落ち着いたら再びお会いしたいとも言っていました。」「そうか。」 翌朝、有匡は妻と子供達を連れて、聖心寺へと向かった。「父上、母上、妻と子供達を連れて参りました。雛、仁、お祖父様とお祖母様にご挨拶なさい。」 両親の墓参りを済ませた後、有匡達は恵心尼の茶室へと向かった。「待っていましたよ。」 恵心尼は、有匡達に微笑むと、彼らに茶を振る舞った。「澪様はどちらに?」「あの子なら・・」「庵主様、失礼致します。」 茶室の扉が開き、澪が入って来た。「澪様、火月様・・あなたの腹違いの姉君様ですよ。」「姉様、姉様なの!?」 澪はそう叫ぶと、蒼い瞳で火月を見た。「澪・・澪なの!?」「お会いしたかった、姉様!」 長年生き別れていた腹違いの妹と、火月は感動の再会を果たした。「では、行って来る。」「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」「父様、気を付けてね~!」「父上、家の留守は僕にお任せ下さい!」 家族に見守られ、有匡は京へと旅立った。(京へ向かうのは、何年振りだろうな。) 大坂へと向かう船の中で、有匡はそんな事を思いながら甲板に出て、水平線の彼方を見つめた。「有匡殿、長旅お疲れ様でございました。旦那様があちらでお待ちでございます。」「わかった。」 京に着き、妹夫婦が住む家へと着いた有匡は、約九年振りに彼らと再会を果たした。「お久し振りです、義兄上。」「早速だが、学校の話は・・」「それについては後で話しましょう。色々と積もる話もありますからね。」 文観はそう言うと、有匡に茶を勧めた。「ご家族はお元気でいらっしゃいますか?」「あぁ。」 少し気まずい沈黙が三人の間に流れた時、応接間の襖が勢いよく誰かによって開かれた。にほんブログ村
Jan 13, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 1877年、東京。 文明開化が花開く中、有匡は妻と双子達を連れて、花見に来ていた。「先生、見えて来ましたよ!」「まだ、残っていたのか・・」 そう言って有匡見つめる先には、幼い頃父と妹と三人で見た桜の木があった。「まだ、あったんですね。」「あぁ。時が流れても、この桜は変わらないな。」 有匡がそっと目を閉じると、目蓋の裏に笑顔を浮かべている両親の姿が映った。―有匡、今まで良く頑張ったな。―これからも、家族で仲良く達者で暮らせ。(嗚呼、わたしは・・) 独りで自分を、両親を救えなかった自分を責めていたのか。 もう、その“呪い”を解かなくては。「父様、どこか痛いの?」 娘の声に我に返った有匡は、初めて自分が泣いている事に気づいた。「いや、目にゴミが入っただけだ。」 有匡は、そう言った後手の甲で涙を拭った。 花見を楽しみ、有匡達が帰路に着くと、家の前を一人の青年がうろついているのが見えた。「火月、子供達を連れて裏口から中へ。」「はい・・」 火月と双子が素早く家の裏口から中へ入るのを見届けた後、有匡は正門前で青年に声を掛けた。「わが家に何か用か?」「ひ、ひぃっ!」 有匡の殺気を全身で感じ取ったのか、青年は素っ頓狂な叫び声を上げながら、逃げていった。「父上、もう大丈夫ですか?」「あぁ。」「昨日もあの人、家の周りをうろついていましたよ。」「それは確かなのか?」「はい。」「仁、雛、暫く家の中で大人しくしていろ。」「え~!」「先生、過保護にも程がありますよ。不審者が居たら、僕が倒しますって!」「身重のお前に、そんな事はさせぬ。」 有匡がそんな事を家族と話し合っていると、外から誰かが門を叩く音がした。「誰でしょう?」「わたしが見て来る。」 有匡がそう言って正門へと向かうと、そこには一人の老人の姿があった。「もし、こちらは土御門有匡様のお宅ですか?」「そうですが、貴殿は?」「お初にお目にかかります、わたくしはこういう者でございます。」 老人はそう言うと、一枚の和紙を有匡に見せた。 そこには、“大日本帝国陸軍 西田貫之”と書かれてあった。「陸軍の方が、わたしに何のご用で?」「突然で申し訳ないのですが、わたしと共に来て頂けませんか?」 有匡は家族に事情を説明した後、西田老人と共に陸軍省へと向かった。「大山様、土御門様をお連れ致しました。」「入り給え。」「失礼致します。」 有匡が西田老人と共に部屋に入ると、そこには火月の姉・美祢の元許嫁であった大山愛助の姿があった。「久しいですね、有匡殿。」「愛助殿、どんなに頼まれても妻とは離縁は・・」「今日、ここへあなたを呼び出したのは、その事ではないのですよ。さぁ、そちらにおかけください。」 愛助に勧められ、有匡は長椅子の上に腰を下ろした。「今、九州の方で反乱が起きているのはご存知でしょう?」「ええ。」「この液体が何か、貴殿は存じ上げている筈。」 愛助はそう言うと、徐に執務机の引き出しから、硝子壜を取り出した。 その中に入っていた真紅の液体に、有匡は見覚えがあった。「変若水・・」 生き血を啜る化物となる物が、何故ここに―「そのご様子だと、この液体を飲んだ者がどうなるのか、ご存知なのですね?」「人の生き血を啜る化物となる。高い自然治癒力と、超人的な身体能力を得られるが、その代償はその者の命。」「そうですか。この薬は、富国強兵への足掛かりになりましょう。」「何をおっしゃられているのか、理解出来ませぬ。」「不死の兵を作れば、多くの血を流さずに済む。それに、簡単に死なぬのならば・・」「変若水は万能ではありません。羅刹は、生み出してはならぬものなのです。」「あなたとは、どうやら相容れないようですね。」 愛助はそう言うと、ペーパーナイフを掴んで、その刃先で有匡の掌を傷つけた。「何を・・」「ほぉ、やはり噂は本当だったのですね。」 有匡の掌の傷がすぐに塞がってゆくのを見て、愛助は満足そうに笑った。「一体、あなたは何がしたいのですか?」「変若水に関する資料を、我々に提供して頂きたい。」「断ればどうなりますか?」「明治政府の中には、わたしの考えに賛同してくれる者がおりましてね。彼らは、殊更新選組を憎んでいるのですよ。」「そのような脅しには屈しません。では、これで失礼致します。」 有匡はそう言うと、長椅子から立ち上がった。「美祢が何故亡くなったのか、知りたくありませんか?」「突然、何を・・」「美祢を殺したのは、わたしです。」 愛助の突然の告白に、有匡は言葉を失った。「何故・・」「美祢は、気立ての良い優しい娘でした。ですが、わたしが妻に欲しいのは、妹の火月様でした。」 愛助は己の身勝手な理由で、美祢を殺した。 だが火月には既に、有匡という許婚が居た。「あなたさえ居なければ、全てが上手くいったのに・・」 そう言った愛助の目が、紅く染まっている事に、有匡は気づいた。「愛助殿、まさか・・」「ええ、その“まさか”ですよ。」 羅刹となった愛助は、そう言って有匡に斬りかかった。」 有匡は咄嗟に護身用の脇差で応戦したが、サーベルにおされていた。「どうしました、もう終わりですか?」「抜かせ!」 有匡はそう叫ぶと、“力”を使った。 愛助は、壁に叩きつけられ、気を失った。「一体何が・・」「わたしは、これで失礼致します。」 陸軍省から帰宅した有匡は、父の書斎にあった変若水に関する資料を、竈の火にくべた。「先生、それは・・」「この世に残してはならぬものだ。」 陸軍省での出来事から数日後、有匡は両親の墓参りに聖心寺へと向かった。「もし、そこの方。」 背後から声を掛けられ有匡が振り向くと、そこにはかつて聖心寺の前でぶつかった娘が立っていた。にほんブログ村
Jan 12, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「まぁ、僕でよければ、相手になりましょう。」 火月と八重は薙刀で打ち合ったが、引き分けで終わった。「お強いのですね、八重様。流石は会津の女子だけありますね。」「わたしは、専ら薙刀よりも鉄砲です。」 八重はそう言うと、肩に提げているスペンサー銃を指した。「我が家は、会津藩の砲術師範でした。これからの時代は、銃が主流になると思っています。」「そうですか。そのお姿は・・」「鳥羽・伏見の戦で死んだ弟の形見です。火月殿、その懐剣は?」「これは、今は亡き義母の物でした。」「そうでしたか。」 八重と火月が互いの家族の事を話している頃、有匡は白虎隊の少年達と剣の稽古をしていた。「参りました!」白虎隊士中二番隊隊士・飯沼貞吉は、そう言って有匡に一礼した。「有匡殿は、何故そのようにお強いのですか?」「日頃の鍛錬を怠らぬ事だ。」「左目が見えていないのに、何故あのような動きが出来るのですか?」「目だけ頼って生活せず、感覚を研ぎ澄ませて生きよ。」「はい!」 屈託の無い笑みを浮かべている少年達の未来を、有匡は考えたくなかった。「先生、どうしました?箸が進んでいないようですけれど・・」「少し、体調が優れなくてな。」「もしかして、僕の風邪が・・」「いや、左目の調子がおかしい。」 有匡は、そう言うと夕食を残し、席を立った。「左目の調子が悪いって、どういう・・」「火月、お前は千里眼を信じるか?」「話は聞いたことがありますけど・・それが何か?」「実は、銀の弾丸を左目に撃ち込まれた時、左目で“未来”が見えるようになった。」「“未来”?」「怒り、悲しみ、憎悪・・限りなく底の無い未来しか見えなかった。」「先生・・」「両親をこの手にかけた時、わたしの心の一部は死んだ。そして、その心はお前が居た事で甦った。火月、こんなわたしでも、最後までついてきてくれるか?」「はい。」 1868年6月24日、二本松にて二本松少年隊全滅。 同年8月21日、新政府軍が母成峠の戦いで旧幕府軍を破り、8月23日、新政府軍は若松城下に侵入した。「皆、早く城へ向かえ!」 半鐘が鳴り響く中、有匡と火月は城へと避難する者達を誘導した。「先生、ご無事でしたか!?」「あぁ。」 無事城内へと避難で来た二人は再会を喜び合っていたが、そこで待っていたものは、砲撃による理不尽な死だった。 一月の籠城戦の末、会津は降伏した。「八重様、生きてまた会いましょうぞ。」「はい。」 会津を去った二人は、仙台を経由して、蝦夷地へと向かった。 そこで、彼らは静馬と再会した。「兄様、どうしてここに?」「医師として、蝦夷地にやって来たのだ。火月、少し話せるか?」「はい・・」「わたしの事は気にするな。静馬殿とゆっくり話すといい。」 そう言った有匡は、京に居るであろう妹の事を想った。 彼女は、元気で居るだろうか。「離縁・・」「この戦は、もう旧幕府軍に勝ち目はない。戦場にこれ以上居ても、お前は・・」「僕は、先生と離れる位ならこの場で自害します!」 火月はそう言って静馬を睨むと、スウリヤの懐剣を抜いた。「それ程までに、有匡殿を愛しているのだな・・」「兄上だってご存知でしょう?僕が、幼い頃から有匡様をお慕いしていた事を。僕の願いは、先生の傍にずっと居る事です。互いの心臓の音が、最後の鼓動を響かせるまで、僕は先生の傍に居たいんです。」「そうだったな。」「兄上は、この戦が終わったら、どうなさるおつもりですか?」「診療所を、屋敷を改装して開く。富める者や貧しき者も関係なく、人を助けたいのだ。」「兄上らしいですね。」「火月、有匡殿の左目はどうされたのだ?」「実は・・」 火月は静馬に、有匡が同胞によって左目を撃たれた事を話した。「そうか・・」「右目は過去を、左目は未来を見ると、先生は言っていました。先生は、左目に未来が見えたと・・でもそれは・・」「その未来は、お前が有匡殿と二人で築けば良い。」「はい。」 静馬と別れた有匡が五稜郭内を歩いていると、運悪く彼はブリュネに見つかってしまった。「“椿の君”・・」「その呼び名は止めて下さい。わたしには土御門有匡という名があります。」「そうですか・・では、何とお呼びしたらいいのでしょう?」「アリマサ、と。」「ではアリマサ様、何故あなたはここに居るのです?」「それは、この戦いの行く末を見たいからです。いや、見届ける義務があるのです。」「あなたは、戦が終わったら何をしたいのですか?」「何も考えておりません。」 有匡がそう言った時、火月が自分を呼ぶ声が聞こえた。「妻が呼んでいますので、失礼。」 その日の夜、有匡が悪夢で魘されている事に、彼の隣で寝ていた火月が気づいた。「父上、母上・・」「先生・・」「お許しください、わたしは・・」「先生、大丈夫です。お二人は先生の事を恨んでいませんから。」 火月がそう言って有匡の手を握ると、それは氷のように冷たかった。「先生、どうか僕と未来を生きて下さい。」 火月の言葉が有匡に届いたのかどうかはわからなかったが、彼の荒い呼吸が少し穏やかになった。 1869年5月11日。 新政府軍が、遂に函館への総攻撃を開始した。「土方さん、大変です!弁天台場が・・」「土方さん、わたしも行きます!」 孤立した新選組を救う為、歳三と千鶴が出撃しようとした時、有匡は彼らと共に戦おうとした。だが―「お前ぇは、まだ生きてくれ。嫁さんと、達者で暮らせよ。」 それが、歳三と交わした最後の会話だった。 彼は一本気関門で戦死したとされているが、その生死も、遺体の在り処も不明のままだ。 1870年、春。 江戸から「東京」へと名を変えた地で、有匡は産婆に呼ばれて産室に入ると、そこには産声が上げる双子の姿があった。「先生、この子達の名前、考えたんですけれど・・」「どのような名をつけた?」「姉が雛(すう)、弟が仁(じん)。お義父様と、お義母様の名から一字取りました。」「良い名だ。きっと父上も母上も、喜んで下さる事だろう。」にほんブログ村
Jan 11, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 市川でブリュネと思わぬ再会をした有匡は、自分が彼と浮気をしているという火月の誤解を解くのに時間がかかった。「わたしが男を抱く訳がないだろう?冷静に考えてみろ。」「じゃぁ、抱かれる側だったんですか?」 有匡は火月のその言葉を聞いて思わず飲んでいた茶を噴き出してしまった。「何故、そうなる?」「え、だって・・」 火月は、先程伝習隊の隊士達が話している内容を、有匡に伝えた。「あの人、色っぽいよなぁ・・」「何というか、艶っぽいというか・・」「そこら辺の女よりもずっといい・・」 有匡は、自分がそんな風に同性から見られている事に初めて気づいて、愕然とした。「大丈夫です、先生の貞操は、僕が守りますから!」 そう言って張り切る火月を前に、有匡は何も言えなかった。(全く、あいつは一体何を考えているんだ。) 有匡がそんな事を思いながら宿屋の風呂に入った後髪を櫛で梳いていると、何処からか視線を感じた。「そこに誰か居るのか!?」 有匡が部屋から中庭へと出てそう叫んだが、そこは静まり返っていた。(気の所為か・・) 新選組と伝習隊は市川を発ち、宇都宮へと向かった。「土方君、君には参謀としてこの戦いに参加して貰いたい。」「俺が参謀?」「新選組副長・土方歳三の名は全国に轟いている。それに、我々伝習隊は実戦経験がない。だが土方君、君には実戦経験がある。それを活かしてくれないだろうか。」「わかった。」 こうして歳三は宇都宮城を陥落させたのだが、城内で彼は風間千景と再会した。「お前をここで、新選組諸共葬り去ってやる!」「俺は、負ける訳にはいかねぇんだよ!」 風間に刀で斬られ、その傷が中々回復しない事に歳三は気づいた。「あれは・・」「童子切安綱、かの源綱が酒呑童子を斬ったとされる“鬼殺しの剣”だ。」「これ以上の戦いは無意味です。このまま沈みゆく船に乗り続けるつもりですか?」「俺は守りたい物は、幕府でも何でもねぇ、近藤さんと共に作り上げて来た新選組だ!」「退くぞ、興が削がれた。」 風間は、そう言うと天霧と共に炎の中へと消えていった。 宇都宮で負傷した歳三は、七日町の旅籠「清水屋」で療養する事になった。「先生、これからどうなるんでしょう?」「さぁな。それは天にしかわからん。」 有匡はそう言いながら、薪割りをした。 左目の視力を失っても、有匡は剣の稽古を欠かさずにしていた。 火月もまた、夫に倣って薙刀の稽古を毎日欠かさずにしていた。「先生、もう休まれては?」「そうだな。」 いつものように、有匡と火月が稽古をしていると、そこへ数人の男達が宿の中庭に入って来た。「何だ、貴様らは?」「土御門有匡殿とお見受け致す。我らが主、土御門匡俊様の使いで参った。」「叔父上が、わたしに今更何の用だ?」「貴殿は妻・火月と共に京へ戻り、裁きを受ける事。」「裁きだと?父の代わりに、わたしを賊軍として処罰するつもりか?」「話が早くて助かる。大人しく我々に・・」「断る。」「そうか、ならば力ずくでもそなたらを連れて行く!」「火月、下がっていろ。」「嫌です。」「そうか。お前ならそう言うと思った。」 有匡はそう言って火月に微笑むと、背中合わせで真剣の土御門家の使者達と木刀で戦った。「おのれ、何をしておる!相手は二人、女と手負いの男だぞ!手加減するな!」「手加減だと?笑わせるな。貴様ら如き雑魚が、このわたしに敵う筈がないだろう!」 土御門家の使者達を撃退した有匡は、隣に立っている火月の様子がおかしい事に気づいた。「どうした?」「急に、息が・・」 火月はそう言った後、激しく咳込んでいた。 有匡は労咳を疑ったが、火月はただの風邪だった。「やはり、あの時お前を江戸へ・・実家へ戻らせるべきだった。」「そんな事、言わないでください。僕の居場所は、先生の傍だけなんです。」 火月はそう言うと、有匡の手を握った。「火月、おまえに渡したい物がある。」「渡したい物?」「あぁ。本当は祝言の時に渡したかった、母上の懐剣だ。」 有匡は、母の形見である懐剣を火月に手渡した。「これは、本来娘である妹が受け継ぐ物だが、母上はわたしの妻―お前に託した。」「大切にします。」 火月は、涙を流しながらスウリヤの懐剣を受け取った。「土御門殿、お久し振りです。」「斎藤さん、お久し振りです。」 有匡が宿の中庭で洗濯物を干していると、そこへ斎藤がやって来た。 彼が来たという事は、近藤の事で悪い報せがあるのだろうか。「近藤局長は、去る4月25日、板橋にて斬首されました。」「そうか・・」 近藤斬首の報せを受けた歳三は、暫く一人にしてくれと有匡達に頼み、部屋で嗚咽した。 近藤斬首の報せを受けた総司が清水屋へとやって来たのは、その翌日の事だった。「何で近藤さんを助けられなかったんだ!何とか言えよ!」「俺だって助けたかったさ!」 総司は歳三に背を向け、その場から去った。「千鶴ちゃん、土方さんの事は頼んだよ。」 それが、彼を見た最後の姿となった。「ここと会津を繋ぐ峠で、斬り合いをしていたよ。戦っていたのは銀髪で紅い瞳をしていた、まるでこの町を守る仁王様のように見えたよ。」 宿の主人の話を聞いた歳三は、千鶴に身体を支えて貰いながら、総司が戦っているであろう峠へと向かった。 そこに広がっていたのは、無数の骸と、地面に突き刺さる一振りの刀―総司の愛刀・加州清光だった。「沖田さん・・」「あいつなら大丈夫だ。戻るぞ。」 そう言って峠を後にした歳三の背が、微かに震えている事に有匡は気づいた。「先生、戻りましょう。」「あぁ・・」 会津入りした有匡達は、そこで伝習隊と合流した。「土方君、怪我の調子はどうだい?」「あぁ、大丈夫だ。」 本陣入りした有匡と火月は、そこで一人の女性と出会った。 その女性は、“幕末のジャンヌ・ダルク”と呼ばれ、後に同志社大学を創設した、山本八重(新島八重)だった。「あなたが、土御門火月様ですね。ひとつ、お手合わせ願いたいものです。」にほんブログ村
Jan 11, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「千鶴、お前は人間と長く居過ぎたようだ・・そして、君も。」 綱道の視線が千鶴から火月へと移った。「え、僕?」「何故君は、鬼であるのに人間として生きようとする?君の故郷も家族も人間に殺されたというのに・・」「あ・・」 綱道の言葉を聞いた火月は、脳裏にあの、幾度も夢に見た光景が甦った。 絶え間なく響く銃声と、悲鳴。“殺せ、女子供でも容赦するな!” 逃げ惑う中父から聞かされた、衝撃的な事実―自分が鬼であるという事。―火月、お前だけは幸せに・・「僕は、人間として、先生と幸せになりたいんだ!復讐なんて、望んでいない!」「そうか・・君も、人間に毒されたのか。ならば仕方無い、ここで死んで貰おう。」 綱道は口元に冷たい笑みを湛えながら、拳銃に銀の弾丸を装填すると、その銃口を火月に向け、躊躇いなく引き金を引いた。「火月、危ない!」「先・・生・・」「良かった、お前が無事で・・」 有匡は綱道に左目を撃たれ、失明した。「ごめんなさい、僕の所為で・・」「謝るな。」 泣きじゃくる火月を、有匡はそう言って抱いた。「右目は過去、左目は未来を見る、か・・」「何ですか、それ?」「さぁな。昔、父から借りた西洋の書物の中に書いてあった。」 有匡はそう言いながら、左目をそっと押さえた。「まだ、痛みますか?」「いや。ただ視界が少し霞む位だ。心臓さえ貫かれなければ、死ぬ事は無い。明日は早いから、さっさと寝るぞ。」「お休みなさい、先生。」 寝息を立てて眠っている火月を起こさぬよう、有匡はそっと部屋から出た。 流山近辺で、全身の血を吸われた夜鷹の死体が相次いで見つかった事を知り、有匡は以前実家に出没した羅刹の仕業ではないのかと考えていた。 人気のない通りを歩きながら、有匡が宿へと引き返そうとした時、突然闇を切り裂くかのような凄まじい咆哮が向こうから聞こえて来た。(何だ?) 有匡が、咆哮が聞こえて来た方へと向かうと、そこには一匹の羅刹が居た。「血ヲ寄越セ~!」 有匡は愛刀の鯉口を切り羅刹を殺そうとしたが、その前に羅刹は灰となって崩れ落ちていった。「これは・・」「これは、水戸藩によって作り出され、寿命を終えた羅刹。」 巨大な影がゆらりと動いたかと思うと、有匡の前にあの赤髪の鬼―天霧が現れた。「やはり、水戸藩が羅刹を・・」「あなたは知っているのでしょう、羅刹の力は・・」「己の命。力を使えば使う程、命が縮まる。」「その左目は、綱道にやられたのですね。」「あぁ。だが、この世を片目で見るのも悪くない。」「あなたは、これから人として生きるおつもりなのですか?」「あぁ、わたしがそう望んだ。」 天霧は有匡の言葉を聞くと何も言わずに、彼に一礼してから姿を消した。 有匡が宿の部屋に戻ると、火月は自分の羽織を抱き締めながら寝ていた。―有匡、火月さんと幸せにな。 今際の際に、父が自分に遺した言葉。 右目は過去を、左目は未来を見るという。 未来はおろか、明日すら見えない闇の中で、火月こそが自分にとって唯一の光なのだと、有匡は思った。 新選組は、下総流山の酒屋に暫くの間滞在する事になった。「色々と、読んでいらっしゃるのですね。」「あぁ、全て軍記物ばかりだが。いつか、この物語に出てくる主人公のように生きたいと夢見ていたものだが、夢をかなえるのは難しいものだな・・」 近藤がそう言った時、歳三が血相を変えて蔵の中に入って来た。「近藤さん、すぐに逃げる準備をしてくれ、敵に囲まれている!」 窓の外を見ると、数百人の敵軍が建物の周りを取り囲んでいた。「俺があいつらを・・」「トシ、俺が投降して時間を稼ぐ。」「だが・・」「なぁトシ、そろそろ楽にさせてくれ。俺の為に、羅刹までなって、済まない。」「勝っちゃん・・」 歳三は、俯いて唇を噛み締めていた。「わかった。」「有匡殿、トシの事を頼む。」「千鶴殿が、副長を支えてくれる事でしょう。こちらこそ、お世話になりました。」 歳三達は近藤と別れる最中、敵と遭遇し、羅刹となって彼らを一掃した。「絶対見捨てきゃいけねぇ相手を見捨てて、てめぇだけ生き残って!」 茜色の空に響いた、歳三の叫びを、有匡は聞く事しか出来なかった。「先生、近藤さんは・・」「わからぬ。副長が助命嘆願書を書いているが、望みは薄いだろう。」「そんな・・」「なぁ、あいつらだろう?人斬り集団の・・」「壬生の狂犬共・・」 後方から、悪意に満ちた囁き声が風に乗って聞こえて来た。「黙らせましょうか?」「いや、いい。放っておけ。」市川へと向かった新選組は、新選組は、そこで大鳥圭介率いる伝習隊と合流した。「君が、土方君だね?はじめまして、僕は大鳥圭介。」「何だ?」「シェイクハンドだよ、知らないの?」 突然右手を眼前に差し出されて反応しない歳三に、大鳥は戸惑っていた。「先生、伝習隊の方と仲良くやっていけるのか、少し不安です。」「確かに。火月、絶対にわたしから離れるなよ。」「はい。」 有匡と火月がそんな事を話していると、背後から強い視線を感じ、振り向くとそこには一人のフランス人が立っていた。(何だ、こいつは?) そのフランス人―ブリュネは、そっと有匡の手の甲に接吻すると、有匡を抱き締めた。「嗚呼、漸く会えたね、“椿の君”!」「失礼ですが、人違いでは?」「いいえ、人違いであるものか!美しい真紅のドレスを身に纏い、ワルツを踊る君の事を、あの夜から一度たりとも忘れた事は無い!」「先生、どういう事なんですか?」 有匡が腕の痛みを感じて隣に立っている火月を見ると、彼女は有匡の腕に爪を立てていた。「火月、誤解しているようだが、彼とは何もない。」「本当に?」「あぁ、本当だ。」(少し厄介な事になったな・・)「ブリュネさん、あの人を知っているのかい?」「えぇ。」「ふ~ん・・」にほんブログ村
Jan 10, 2024
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映画は観ていませんが、石油利権と人種差別がからむ連続怪死事件。人間の強欲には限りがないですね。
Jan 10, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。一部残酷描写有り、苦手な方はご注意ください。神経を何処か逆撫でするかのような声がしたかと思うと、有匡と火月の前に神官の夫・文観が現れた。「どうして、お前がここに居る?」「言ったでしょう、結婚の挨拶に伺ったと。おやおや、そんなに睨まないでください。」「結婚とは、どういう事だ?」「まぁ、深い理由があってね。」神官はそう言うと、無意識に下腹を撫でた。「そうか、そういう事か。」「玄関先が何やら騒がしいと思ったら、お前達か。」奥の方から衣擦れの音と共にスウリヤが有匡達の元へやって来た。「母上、父上はどちらへ?」「奥の仏間にいらっしゃる。案内しよう。」奥の仏間で、有仁は苦しそうに咳込んでいた。「父上!」「漸く来てくれたか、待っておったぞ。」その時、有匡は両親が死装束を纏っている事に気づいた。「父上・・」「先程、兄上から文が届いた。わたし達を、賊軍として処罰すると。」「それは、確かなのですか!?」「あぁ。」「何で二人が死ななきゃいけないの!?そんなの、嫌だ!」「艶夜、そなたには母親らしい事を何ひとつもしてやれなくて済まなかった。三人で幸せになりなさい。」「アリマサ、何とか言ってよ、ねぇ!」「もう、お二人は覚悟を決めておられるのですね?」 有匡の問いに、有仁は静かに頷いた。「有匡、火月さんと幸せにな。」「はい・・」実家に呼ばれる様に戻って来たのは、自分がある役目を果たす為だったのだと、有匡は気づいた。それは―「有匡、合図をするまで待つように。」有仁はそう言った後、浅葱の死装束を脱ぎ、小刀を握り締め、その刃先を躊躇いなく己の腹に突き刺し、十文字に切り裂いた。「父上・・」「有匡・・」刀を握る手が微かに震え、視界が白く霞みそうになった有匡だったが、父の声で我に返り、彼の介錯をした。「旦那様、今そちらへ参ります。」「母上・・」「有匡、そなたには辛い役目を負わせてしまったな。出来る事なら、また来世で会おうぞ。」「はい、母上。」有匡は、自分に向かってロザリオを握り締め、微笑むスウリヤの頸動脈を切り裂いた。泣き叫ぶ妹と、彼女を宥める文観に背を向け、有匡は死と静寂に包まれた仏間から出た。「有匡様・・」「恵心尼様、何故こちらへ?」有匡がそう恵心尼に問うと、彼女は仏間の方から聞こえて来る泣き声を聞き、声を震わせながらこう言った。「そうですか、お二人共・・」「ええ、お二人共本懐を遂げられ、立派な最期でございました。」「そうですか。こちらにわたくしが参ったのは、聖心寺にて二人を弔う為です。我が寺ならば、誰にも邪魔されずに共に永遠の眠りに就かれましょう。」「お心遣い、感謝致します。」その後、有仁とスウリヤの遺体はその日の内に屋敷から聖心寺へと運ばれた。「先生・・」「どうした、火月?」「先生、もしかして・・」「わたしが両親の後を追おうとしていると、お前は思っているのか?」両親の弔いが済んだ後、聖心寺の宿坊へと泊まった有匡は、そう言うと自分を心配そうに見つめている火月を見た。「わたしは、死なぬ。生きて、この戦いの果てにあるものを見届けたいのだ。」「僕も、お供致します。」翌朝、有匡と火月は恵心尼に聖心寺の正門前で別れを告げた。「これから、どちらへ?」「甲州勝沼へ。」「再び、会いましょうぞ。」「はい・・」二人が恵心尼に頭を下げ、静かに聖心寺を後にしようとした時、神官と文観に会った。「義兄上、義姉上、どちらへ?」「甲州勝沼へ。お前達は?」「京へ。妻の事は、わたしが守りますから、ご安心を。」「そうか。」互いに背を向け、それぞれの旅路へと向かった四人は、一度も振り返る事はなかった。「二人共、遅かったな。実家に戻ったとは聞いていたが・・」「両親を弔ってからこちらに参りましたので・・」「そうか。」歳三は、それ以上何も言わなかった。甲州勝沼の戦いは、新政府軍の勝利で終わった。その戦いの最中、千鶴は父・綱道と再会した。彼は、羅刹の兵士達を連れていた。「千鶴、わたし達を滅ぼした人間達に復讐しよう。そして、新たなる鬼の時代を築くのだ!」「父様、わたしは復讐なんて望んでいないわ!もう、人を傷つけるのはやめて!」にほんブログ村
Jan 9, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「愛助殿、わたしの妻に何かご用ですか?」「有匡殿、火月様と離縁して頂きたい!」「何故です?」「これから、時代は大きく変わります!いつか、貴殿が与する新選組と会津が賊軍になる日も遠くない!だから・・」「先生とは離縁しない!」火月はそう叫ぶと、薙刀用の木刀を愛助に突きつけた。「僕は、たとえ先生が賊になっても、絶対に離縁しない!」「火月様・・」「愛助殿、帰られよ。」「わたしは諦めませぬぞ、火月様!」「先生、塩撒いてください、塩!」「落ち着け、火月。」有匡はそう言うと、興奮している火月を宥めた。1868年1月、鳥羽・伏見。旧幕府軍と新政府軍が衝突し、約一年半にも及ぶ戊辰戦争の幕が開けた。「みんな、これを。」歳三は真剣な面持ちでそう言うと、変若水を左之助、新八、井上、山崎に手渡した。「これは、万が一の時に飲め。」伏見奉行所は敵の砲撃を受け、炎上した。「このままじゃ、埒が明かねぇ。淀藩に・・」「わたしが行こう、トシさん。」淀藩へ援軍を要請しようとした有匡と千鶴を制したのは、井上だった。「わかった。」井上と有匡、千鶴は援軍を要請しに淀藩へと向かったが、淀藩は新政府軍に寝返っていた。「やはり、“あれ”の所為か・・」「錦の御旗、ですか。」戦場に突如掲げられた錦の御旗を見た有匡の脳裏に、愛助の言葉がよみがえった。”新選組と会津が賊軍に・・“「井上さん、あの人達は・・」千鶴が指した先には、三人の鎧姿の男達が立っていた。援軍かと思ったが、そうではないらしい。「有匡殿、雪村君を連れて逃げて下さい。」「井上さんっ・・」「トシさんに伝えてくれ。力不足で申し訳ない、最後まで共に有れなかったことを許して欲しい。最後の夢を見させてくれて感謝してもしきれないとね。」そう千鶴に己の遺言を託した井上は、凶刃に倒れた。「旗色が悪いからと言って寝返るなんて、あなた達はそれでも本当に武士なんですか!あなた達は、武士の風上にも置けない!」千鶴の声から、静かな怒りが伝わって来た。男達が彼女を襲おうとしたが、彼らは歳三によって倒された。しかし、彼は薩摩藩を放った銃弾を腹に受けた。「その傷ではもう長くはあるまい。この娘は、この風間千景が貰い受ける。」「ふざけるな!こんな所でくたばっていられるか!」「やめて、土方さん、駄目~!」千鶴の悲痛な叫びが響く中、変若水を飲んだ歳三の美しい艶やかな髪が、徐々に白銀へと変わっていった。「ふ、そう来たか。」風間はそう言ってほくそ笑んだ後、歳三と暫く斬り合っていたが、山崎が風間の刃を受けた。「何をしているんですか、副長。俺達は手足の筈でしょう・・手足を失っても、頭はまだ動けますが、頭を失っては、おしまい・・です。」「しっかりしろ、山崎!」江戸へと向かう船の中で、山崎は息を引き取った。「先生、これからどうなるんでしょうね?」「さぁな。」江戸へと向かう船の中で、有匡と火月は潮風に髪をなびかせながら、この先自分達を待ち受けているであろう苛酷な運命を想った。江戸に着いた有匡は、歳三達が皆断髪し、洋装姿になっている事に気づいた。「先生、その髪・・」「やはり、似合わないか。」「いえ・・とっても、お似合いです。」火月は、夫の洋装姿に見惚れてしまったが、彼が他の女達から言い寄られてしまうのではないかと恐れていた。そんな妻の心中を察したのか、有匡は火月の髪を優しく梳いた後、こう言った。「案ずるな、わたしは昔からお前一筋だ。」「先生・・」有匡と火月が土御門家を訪れると、そこには長年音信不通だった妹・神官がいた。「アリマサ、久し振り。」「お前、どうしてここに居る?」「結婚の挨拶へ伺ったのですよ。」「お前は・・」「お久し振りですね、有匡殿。いや、今は義兄上とお呼びした方がよろしいでしょうか?」にほんブログ村
Jan 8, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「山南さん、少しお話があります。」「何でしょうか、有匡殿?」 有匡が山南の部屋に入ると、そこには変若水を作っている山南の姿があった。「藤堂君に変若水を飲ませ、羅刹にしたのはわたしです。」「どうして・・」「彼は、わたし達の仲間です。仲間を救うのは、当然でしょう?」「あなたは、知っているのですか?変若水の副作用を。」「ええ、知っていますとも。その上で、わたしは変若水を改良しようと思っているのですよ。」「変若水を改良する?」「ええ。寿命の問題を、解決しようと思っているのですよ。」 山南はそう言うと変若水が入った壜を有匡に見せた。「これは、寿命を少し伸ばせる、わたしが改良した変若水です。これで、寿命は少し伸ばせますが、強い副作用があります。」「強い副作用?」「ええ・・それは、強い吸血衝動です。人として、生きる事は出来ません。」「それをわかっていながら、あなたは・・」「有匡殿、あなたの血も、この変若水の中に入っているのですよ。」「わたしの血が?」「あなたの、純粋な鬼の血を入れた事によって、羅刹の力は強大になる。人ならざるものとしてね。」 有匡は、無言で山南の部屋から立ち去った。「先生、どうかされましたか?」「いや、何でもない。ただ、集中できなくてな。」「何か、あったんですか?」 有匡は、火月に変若水の副作用について話した。「羅刹はこの世に生み出してはいけないものだった。」「先生、もしかして責任を感じていらっしゃるんですか?」「わたしは以前山南さんに血を提供した。その所為で、人を化物に・・」「そんなの、先生の責任じゃ・・」 睦言の最中、火月がそう言いながら自責の念に駆られている有匡を慰めていると、急に廊下が騒がしくなった。「一体、何が・・」「近藤さん、しっかりしてくれ!」 有匡が部屋から出て廊下の方を見ると、そこには血の足跡がついていた。 嫌な予感がして、有匡が局長室に入ると、そこには肩を撃たれ、蒼褪めている近藤が布団に寝かせられていた。「何があったのです?」「城への帰りに、伏見街道を通っている時に局長が銃撃されました。弾は幸い急所を外れて肩に当たりましたが、このままだと失血死してしまう!」山崎と共に、有匡は近藤の肩から銃弾を摘出した。「どうですか、容態は?」「もう大丈夫です。」「二人共、ご苦労だった。あとは、俺がやる。」「ですが・・」「わかりました、お願い致します。」 山崎はそう言って有匡に目配せしてから、局長室から出て行った。「副長に任せておいて大丈夫なのですか?」「わかっていないなぁ、有匡さんは。今、土方さんには近藤さんが、近藤さんには土方さんが必要なんだよ。」「沖田さん、身体は大丈夫なんですか?」 山崎と有匡がそんな事を話していると、そこへ総司がやって来た。「どういう意味です、それは?」「二人は、君と火月ちゃんのような関係なんだよ。どちらかが欠けても駄目な関係だって事。」 総司はそう言った後、寂しそうに笑った。「子供の頃から、僕はあの二人の事を見ていたよ。近藤さんは僕にとって、実の兄のような存在で、尊敬する師だった。でも、そんな近藤さんの隣にいつも居るのが、わがままで甘ったれな誰かさん。その隙間には誰も入れない。」 総司はそう言って言葉を切ると、激しく咳込んだ。「嫌になっちゃうなぁ・・こんな身体じゃなかったら、近藤さんの仇を取りに行けるのに。」 そう言った総司の瞳に、一瞬有匡は狂気を感じた。「沖田さん、何処ですか~!」「一体何処に行っちまったんだ、総司!」 あの時有匡が感じたあの嫌な予感は、的中した。 総司は、すぐに見つかった―羅刹となって。「どうしたの、そんな顔をして?」「何故・・」「僕は、新選組の剣でありたいと思っているんだ。それがたとえ、化物になってでも。」 その時有匡は、総司の背後に光るものを見た。「沖田さん、危ない!」 一発の銃声が、闇を切り裂いた。「沖田さんの容態は?」「弾は急所を外れていましたが、問題は弾が鉛ではなく、銀という事です。」「銀の、弾丸・・」 山南は、有匡の反応を見た後、話を続けた。「銀の弾丸で撃たれると、どんな魔物でも命を落とします。」「沖田さんは・・」「彼なら大丈夫です。」「そうですか・・」 近藤が意識を回復するまで、歳三は寝食を忘れて彼の傍から離れようとしなかった。「土方さん、少しは何か召し上がってください。」「いや、いい。」 そう言った歳三の目の下には、黒い隈が出来ていた。「俺にとって、この人は・・勝っちゃんは、かけがえのない存在なんだ。」「トシ・・」 歳三の声に呼応するかのように、近藤は静かに目を開けた。「勝っちゃん、良かった・・」 歳三の、紫水晶のような瞳から、美しい真珠のような涙が流れ、それは近藤の頬を濡らした。「近藤さんの意識が戻って良かったですね、先生。」「あぁ。だが、彼は二度と剣を振るえなくなった。」「そんな・・」「火月様、火月様はこちらにいらっしゃいますか~!」 有匡が火月と話していると、突然屯所の正門の方で男の声が聞こえて来た。「あの声・・」「知り合いか?」「美祢姉様の、許婚だった方です。先生が渡英されて以来、しつこく言い寄られて・・」「わたしが、彼と会おう。お前は、ここに居ろ。」「はい・・」 有匡が部屋から出て屯所の正門へと向かうと、そこには美祢の元許婚であった大山愛助の姿があった。 愛助は、有匡と目が合うと、睨んで来た。にほんブログ村
Jan 8, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 パリ万博の日本のパビリオンは、沢山の人で賑わっていた。 有匡はひと通り各国のパビリオンを見た後、万博会場を後にして、パリの街を歩いた。 (流石花の都だな。ロンドンのような、猥雑で混沌とした騒がしさが全くない。) セーヌの流れを橋の上から眺めながら、有匡はある場所へと辿り着いた。 そこは、“我らが貴婦人”―聖母マリアと名付けられた、ノートルダム大聖堂だった。 白亜の荘厳な建物の中に有匡が入ると、“薔薇窓”と呼ばれる美しいステンドグラスが彼を出迎えた。 この美しい風景を、火月と見たかった。(ホームシックになるとは、我ながら情けないな。) 今まで、ずっと独りで生きて来た。 家族に囲まれていながらも、人と違う己の姿に、有匡は苦しんでいた。 だが火月と出会ってから、今まで闇一色だった日々から一転して、光に満ちたものとなった。 有匡はそっと、コートのポケットからある物を取り出した。 それは、美祢のロザリオだった。 うろ覚えのラテン語で祈りの言葉を紡ぎながら、有匡は美祢の冥福を祈った。 パリを発ち、南アフリカ・喜望峰を経由してインド、上海を経て有匡が再び祖国の土を踏んだのは、パリ万博開催から半年後の事だった。(やっと、帰って来たか・・) 有匡が、横浜から江戸の実家へと向かうと、有仁とスウリヤが彼を温かく出迎えた。「長旅、ご苦労だった。」「ありがとうございます、父上。」「英国までお前を行かせてしまって、申し訳なかった、有匡。」「只今戻りました、母上。」 その日の夜、有匡は有仁と酒を酌み交わしながら英国での生活の事を話した。「お義父上は、わたしの事を恨んでいたか?」「いいえ、父上、実は・・」 有匡は、父に“呪いの血”の事を話した。「新選組の羅刹は、力を使えば使う程己の命を削る。変若水は、作ってはならぬものだったのです。」「しかし、不死の兵を欲する者ら出てこよう。時勢が変わろうとするこの時には・・」「旦那様、大変です!」「どうした?」「慶喜公が、政権を朝廷に返上しました!」「それは、確かなのか?」「はい!」 1867年10月14日、十五代将軍・徳川慶喜が政権を朝廷に返上する大政奉還を行なった。「有匡、どうしても行くのか?」「はい。」「そうか。」 有匡は江戸には残らず、火月が待っている京へと旅立った。「火月さん、そろそろ中に入った方が・・」「でも・・」 不動堂村の屯所の正門前で、火月は只管有匡の帰りを待っていた。「大丈夫ですよ、きっと土御門さんは帰って来ますから。」「・・そうですね。」 日が暮れ、空が茜色に染まろうとしている頃、有匡は漸く京に辿り着いた。 新選組の屯所が西本願寺から不動堂村へと移った事を知り、慣れない道を歩いたらすっかり遅くなってしまった。(日がすっかり暮れてしまったな・・) 有匡がそんな事を思いながら新選組の新しい屯所まで向かっていると、正門前に一人の少年が立っている事に気づいた。「有匡様、お帰りなさい。」 少女―火月は、そう言うと両腕を広げた。「ただいま。」 有匡は、火月を強く抱き締めながらそう言った後、目を閉じた。(嗚呼、やっと帰って来た・・) 愛する者の元へ。「大政奉還・・じゃぁ、幕府がなくなってしまうんですか!?」「そうなるな。先の帝が亡くなられ、幼い帝の代わりに政をするのは誰だと思う?」「う~ん、普通に考えれば、薩摩と長州、それに攘夷派の公家ですかね。」「恐らく、いや・・確かだと思うが、戦は避けられぬだろう。」 有匡はそう言うと、火月の髪を優しく梳いた。「高原の家へ文を出した。じきにここは戦場となる。その前にお前は江戸へ帰れ。」「嫌です。」「火月・・」「僕の居場所は、いつだって有匡様の・・先生の傍です。離れるくらいなら、死んだ方がいい。」 火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「お前なら、そう言うと思ったよ。」 有匡は、そう言うと火月の唇を塞いだ。「伊東さんが、近藤さんを暗殺しようとしている?それは、確かなのか、斎藤?」「はい。どうなさいますか、副長?」「どうするもこうするも、先に手を打つしかねぇだろ。」 そう言った歳三は、眉間に皺を寄せた。 1867年11月、油小路。「いいか、平助だけは逃がせ。」「承知。」 伊東甲子太郎は、原田左之助をはじめとする新選組隊士によって殺害された。 そして、伊東の遺体を引き取りに来た御陵衛士達と斬り合いになった。「逃げろ、平助!」「どういう事だよ、新八っつぁん?」「てめぇを、ここで死なせるわけにはいかねぇんだ!」 平助は、新八や左之助の思いを汲んで逃げようとしたが、事情を知らない隊士によって背後から斬られてしまった。「平助~!」 戸板に載せられ、屯所へと運ばれた平助だったが、既に虫の息だった。「暫く藤堂君と、二人きりにして頂けないでしょうか?」「はい・・」 有匡が、平助が寝かせられている部屋から出ると、入れ違いに山南が入って来た。 その懐に、真紅の液体が入った硝子壜が入っている事に気づいた。(まさか・・) 有匡は、全身に悪寒が走るのを感じた。 平助は翌日、一命を取り留めた。にほんブログ村
Jan 7, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「その髪、まさか・・」『そうだよ、あたしは、あの“血”を飲んで無敵になった!』 そう言って甲高く笑ったエレノアは、有匡に襲い掛かった。『この力があれば、誰にも虐められない、年を取らない!』 いつも、気が付けば誰かに虐められていた。 それは実父であったり、実母であったり、教会のシスターであったりした。―どうして、自分ばかり。 そんな燻る思いを抱えながら、エレノアは生きていた。」 でも、そんな時に、エレノアの元に天使がやって来た。“困った時に、お飲みなさい。” 天使はそう言って、エレノアに真紅の液体が入った硝子壜をプレゼントしてくれた。 その時は、突然やってきた。”こんな事も出来ないのか、グズ!“ いつものように、エレノアは実父から暴力を受けていた。 長く苦痛な時間が終わった後、エレノアは瀕死の重傷を負いながら、真紅の液体を飲んだ。 すると、全身の細胞がよみがえるかのように、力が漲って来た。 あいつらに、復讐する時が来た。 エレノアは、実父の酒に睡眠薬を入れ、彼の眼球を抉り出して殺した。 そして、彼の妻と子供達も殺した。 復讐を果たしたエレノアだったが、満たされなかった。 だから、今まで自分を虐めていた者達を次々と殺した。 殺して、その血を啜った。『でもねぇ、全然満たされないのよ。いつも喉が渇いて、苦しいの。』 エレノアは、真紅の瞳で有匡を見た。『そうすればいいのか、色々と考えたわ・・そして、漸くわかったの、あんたを殺せば、完璧になれるって!』 エレノアはそう叫ぶと、床を蹴り、有匡に突進してきた。「クソッ!」 有匡はエレノアに腹を刺され、その場に倒れ込んだ。 大理石の床に、彼の血が広がった。『ごめんなさい、今度は、すぐに殺してあげるから。』 己の勝利を確信したエレノアは、そう言うと倒れたまま動かない有匡を抱き寄せ、その唇を塞いだ。『さようなら・・』『余り舐めて貰っては困るな。』『なっ・・』(こいつ、髪が紅く・・)「この程度でわたしを殺そうなど、片腹痛いわ!」 エレノアは、口から血を吐いて絶命した。 有匡は腹の傷を止血する為、暖炉にあった火掻き棒で傷口を焼いて塞いだ。『アリマサ、大丈夫!?』『あぁ、大丈夫だ。』 エレノアの遺体にカーテンを被せた有匡は、彼女の冥福を祈った。 アルフレッドが足を引き摺りながら屋敷の中へと戻ると、有匡は苦しそうに息を吐いていた。 見ると、彼の腹に巻いた包帯が血で滲んでいた。『どうしたの、それ?』『大丈夫だ。』 そう言った有匡の額には、脂汗が浮かんでいた。『エレノアさんは・・』 有匡は、アルフレッドの問いに、首を横に振って答えた。『そう。』『行こう、ここには用はない。』 エレノアから受けた腹部の傷は傷口を焼いてすぐに塞がったものの、有匡は一週間高熱に苦しんだ。―化物―薄気味悪い・・―あの瞳、禍々しいわね・・(また、だ・・) 熱を出すとき、いつも有匡を苦しめるのは昔、周囲から浴びせられた心無い言葉の矢だった。 人と違う事で、有匡は子供の頃いつも仲間外れにされていた。 怪我の治りが異常に早く、その上異人との混血児であるが故に、周囲はそんな彼を気味悪がっていた。 はじめ、有匡は彼らと仲良くしようと努力したが、無駄だとわかり、独りで居る事に慣れていた。 だが、心の底では有匡は友人と共に剣術の稽古に励んだり、団子を食べたりしたかったし、そんな平凡で他愛のない事を望んでいた。 しかし、それらは叶う事がなかった。 そんな中、有匡が火月と出会ったのは、父と妹と出掛けた花見での事だった。 泣きながら家族を捜す火月を放っておけず、有匡は彼女に声を掛けた。 それが、運命の出会いだった。 火月との出会いがなかったら、どうなっていたのだろうか。(火月・・) 有匡は無性に、火月に会いたくなった。彼女は今、どうしているのだろうか。「熱っ!」「火月さん、どうかなさいましたか?」「ちょっと、火傷をしてしまって・・」「大丈夫ですか!?」 有匡が遠い異国の地で火月を恋しがっている頃、火月は屯所の厨で朝餉を作っている最中、火傷をしてしまった。「はい、大丈夫です。」 火月はそう言うと、火傷した所を見た。 そこには、何もなかった。「火月さん・・」「千鶴さん、僕と有匡様はあなたと同じ鬼なんです。」「え・・」 火月は、千鶴に自分と有匡が鬼である事に気づいた。「この事を、皆さんはご存知なのですか?」「はい。」「あ、千鶴ちゃんと火月ちゃん、居たんだ。火月ちゃん、有匡さんから文が届いたよ。」「ありがとうございます、沖田さん。」 総司から自分宛の有匡の文を受け取った火月は、すぐにそれに目を通した。『火月へ、英国へ来てもうすぐ三年になるが、英国での生活は刺激に満ちていて楽しい。帰国する前にパリへ行き、万国博覧会を見に行こうと思っている。お前と再び会える日を指折り数えて待っている。愛をこめて、有匡より。』(僕も早く会いたいです・・) 火月は、その有匡の文を、まるで彼がそこに居るかのように抱き締めた。『アリマサ様、どうかお元気で。』『ジョージ、今まで世話になった。』 1867年3月。 有匡はロンドンを発ち、花の都・パリへと向かった。 4月、パリで万国博覧会が開かれ、日本のパビリオンが注目を集めた。にほんブログ村
Jan 7, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。『それは・・』『一度だけでいいのです。』 有匡はエレノアに抱きつかれ、拒む事が出来なかった。『ひでぇな、こりゃ。』『丸焦げだぜ・・』 スコットランド=ヤードのウィリアム警部補は、イースト=エンドで起きた謎の焼死事件を捜査していた。 遺体は、性別が判明できない程炭化していた。(これは、時間がかかりそうだな。) 事件発生時、現場の周辺には誰も居なかった。 目撃者捜しをしようにも、イースト=エンドの住民達が警察に協力してくれるとは思えない。『どうした?』『いえ・・』 ウィリアムは、遺体の近くに焼け残った一枚の写真を見つけた。 そこには、赤毛の娘と、黒髪の男が写っていた。「ん・・」 有匡が寝苦しさを感じて目を開けると、そこには自分の首を絞めているエレノアの姿があった。 憎悪に歪んだ彼女の顔は、何処か苦しそうだった。 有匡がエレノアの身体を突き飛ばすと、彼女は舌打ちして窓を破り、夜の闇の中へと消えた。『一体何があったんだい?』『エレノアが、わたしの首を絞めて殺そうとしました。』『まぁ、あの子が!?』“鈴蘭亭”の女将・マーガレットは、有匡の言葉を聞いて蒼褪めた。『あの子は、何処に?』『それは、わかりません。ですが、そう遠くには行っていない筈です。』『あぁ、あの子は・・』『女将さん、あの子について何か知っているのですね?』『えぇ、あの子は・・』 マーガレットは、エレノアが実父が虐待を受けていた事を有匡に話した。『その所為か、あの子時々人格が変わったようになるんです。虐待の後遺症ですかね。』『その父親は、誰です?』『レイノルズ伯爵様ですよ。』その名を聞いた時、有匡は昼間あのパーティーにエレノアが来た理由がわかったような気がした。あれは、自分を虐待した実父に会いに来たのだ。そして、今は―『レイノルズ伯爵邸に、あの子が一体何の用なんだ?』『自分を殺した父親を殺そうと・・復讐しようとしている!』 有匡とアルフレッドがレイノルズ伯爵邸へと向かうと、屋敷中の窓が開け放たれ、白いレースのカーテンがまるで幽霊達がダンスをしているかのように、不気味にはためいていた。『一体、彼女は何処に・・』 アルフレッドがそう言った時、カーテンの陰から一人の少女が躍り出て、彼に襲い掛かろうとした。 だが、有匡が壁に掛けられてあった長剣で彼女の攻撃を防いだ。『あ~あ、見つかっちゃった。』 少女―エレノアは、何処か残念そうな、それでいて嬉しそうな口調でそう言って笑った。 月明かりの下で、エレアの銀髪と、血のように紅い瞳が不気味に輝いていた。にほんブログ村
Jan 6, 2024
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長い間読んでいたこのシリーズも遂に完結。ラストは爽やかな風を感じられるものでした。
Jan 5, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 だが、そこには先客が居た。『まぁ、あなたが・・』『火月・・』 有匡がそう呟いてしまう程、その少女は瞳の色こそ違えど、火月と瓜二つの顔をしていた。『どうか、なさいまして?』『いいえ、あなたが余りにも妻に似ていたので、驚いてしまって・・申し訳ありません。』『いいえ。初めまして、わたくし、エレノアと申します。』『土御門有匡と申します。お会い出来て光栄です、エレノア嬢。』『あちらには、戻りませんの?』『人混みは、苦手なのですよ。この国では、東洋人が余程珍しいのですね。』『ええ。あなたのような美しい殿方が珍しいのですわ。だから皆、あなたの美しい髪と肌のお手入れの仕方を知りたがっているのですわ。』『そうだったのですか・・』『世の女性達は、誰よりも美しくなりたいもの。そして、美しい殿方とお付き合いしたいものです。』『え?』 有匡が驚いて思わずエレノアの顔を見ると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。『申し訳ありません、これで失礼致します。』 自分の手を握っていたエレノアの手をそっと払った後、有匡は大広間へと戻っていった。 その日の夜、有匡がアルフレッド達に誘われて向かったのは、サザークにある高級娼館だった。『折角だから、ここでパーッと遊ぼうぜ!』 アルフレッドの友人・フレッドがそう言いながら高級娼館“鈴蘭亭”の扉を開けるとそこには胸元が大きく開いたドレスを着た娼婦達が、彼らを出迎えた。『あらぁ~、お兄さん、良い男ねぇ~』『黒髪がセクシーね。』 有匡が隅のバーカウンターで酒をちびちびと飲んでいると、数人の娼婦達がまとわりついて来た。『済まない、わたしは妻以外の女を抱く気にはなれなくてね。』『まぁ、つれないのねぇ。』 有匡が彼女達を適当にあしらっても、彼女達は諦めるどころか、俄然とやる気を出したみたいで、中々有匡から離れようとしなかった。 どう彼女達をあしらおうかと有匡が思っていると、奥のテーブルから少女の悲鳴が聞こえた。『あの子は?』『あぁ、あの子は伯爵家の非嫡出子で、ここへ売られてもう一月になるけれど、誰にも身体を許していないんだと。』『貴族の娘が、高級娼婦に?』『珍しくありませんよ、この国じゃぁ同じ貴族だって言っても、母親の身分が低くて認知されないと路頭に迷いますからねぇ。』 有匡がちらりと奥のテーブルの方を見ると、酔客に絡まれているのは、昼間あのパーティーで見かけたあの少女だった。『失礼。』 有匡は、自分にまとわりつく娼婦達から漸く離れ、あの少女―エレノアと酔客との間に割って入った。『何だぁ、兄ちゃん?』『この娘は、わたしが買った。』 何故そうしてしまったのか、有匡は自分でもわからなかった。 ただ、妻に似た少女を放っておけなかったのだ。『わたくしを、抱いて下さるのですか?』 そう言った少女の翠の瞳は、涙に濡れていた。にほんブログ村
Jan 5, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。『ジョージ、何か知っているのか?わたしの身に流れている、呪いの血の事を?』『はい。どうぞ、こちらへ。』 そう言ってジョージが有匡を案内したのは、ハノーヴァー家の地下室だった。『ここは、”ある実験“を行なっていた所でした。それは、不死の兵士を造るものでした・・』 ジョージは静かに、ハノーヴァー家の呪われた歴史を語り始めた。 ハノーヴァー家は、ルーマニアのある地方出身の名家で、宗教改革によって英国まで逃れ、今の地位を築いた。 だが、その陰には一族の身に流れる“呪いの血”の功績があった。 その血は超人的な身体能力や強靭な精神力、高い自然治癒力を持つ、吸血鬼の遺伝子。 その血を人工的に造る実験は、異国の地で生き抜く祖先達にとって、必要不可欠なものだった。 それは、自分達の血を囚人達に投与して殺し合いをさせるというものだった。『その囚人達は、力を使えば使う程、その寿命を縮めました。それは、副作用でした。』『副作用?』『吸血衝動・・人の生き血を啜る事でしか、力を制御し、使う事が出来ない。しかしそれは、己の命が源なのです。』『己の、命・・』 有匡の脳裏に、羅刹に襲われた時の事がよみがえった。 彼らは、ハノーヴァー家の化物と同じだ。 そして、その末路は死。『その者達は、寿命が尽きるとどうなるのですか?』『灰となり、消えてゆきます。』『それは、わたし達も・・』 ジョージは有匡の言葉を聞いて、その首を横に振った。『呪いの血を持った者は、灰にはなりません。ですが、精神疾患を抱えて自殺する者が多いです。』『そう・・』『大丈夫です、アリマサ様。あなた様は、芯が強い御方です。』 ジョージからそう励まされた有匡だったが、気は晴れなかった。 そんな中、有匡はアルフレッドからポロの試合に出てくれないかと頼まれた。『ポロとは何だ?』『馬に乗って、ゴールにボールを入れるスポーツだよ。馬は、乗れる?』『あぁ。』『じゃぁ、早速練習だ!』 初めて着る乗馬服に有匡は手間取ったが、馬の扱いは上手かった。『凄いね!君、本当に初心者なの?』『あぁ、そんなに珍しいか?』『うん。』 ポロの試合は、雲ひとつない晴天の日に行われた。『この国にしては珍しい日ね。』『ええ。』 観客席で貴婦人達がそんな事を話していると、試合会場となっている芝生に選手達が入場して来た。 その中で一際目立つのは、美しく長い黒髪をなびかせた有匡だった。 試合で有匡達のチームが勝ち、その後に行われたパーティーで、有匡は否応なしに注目を集めた。 人の多さと熱気で窒息しそうになった有匡は、適当に嘘を吐いて人気のないバルコニーへと向かった。にほんブログ村
Jan 5, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。バークレー子爵邸で起きた出来事は、余り社交界では大きな話題にはならなかった。それよりも大きな話題になっているのは、三年後に開催されるパリ万国博覧会だった。『ねぇアリマサ、君の国も万博に出るんだろう?』『どうかな?』有匡とアルフレッドが大学の近くにあるカフェで昼食を取っていると、そこへ数人の日本人留学生達が店に入って来た。「幕府は弱腰過ぎて、話にならん!」「そうじゃ、幕府を倒さん事には、新時代は築けん!」「日本に帰国したあかつきには・・」どうやら留学生達は、薩摩の出身らしい。『どうしたの?』『いや、何でもない。』カフェから出た有匡は、店の出入口で一人の少年とぶつかった。『ごめんよ!』有匡は、財布がすられている事に気づき、慌てて少年の後を追い掛けた。『うわ~、兄さん、高そうな髪飾りだ!』『これなら、ナナの薬代が払えるな!』路地裏で有匡の財布をすった少年は、弟と火月の簪を見ながらそう言ってはしゃいだ。だが、有匡が現れた時、彼らの顔から笑みが消えた。『妻の簪は返して貰うぞ。』『やなこった!てめぇみたいな金持ちなら、こんな物いくらでも買えるだろ!』『そうだそうだ、俺達にはパンを買う金すらないんだ!それに、妹が死にかけているっていうのに、薬代も払えない!』『だとしても、妻の簪は返して貰おう。その代わり、お前達の家へ連れて行け。薬代くらいなら置いていってやる。』『うるせぇ、施しなんて受けねぇよ!』少年は有匡の言葉に激昂し、火月の簪を有匡に投げつけ、弟の手をひいて去っていった。『どうしたの?』大学に戻った有匡がベンチに座って火月の簪についた泥を懐紙で拭っていると、そこへアルフレッドがやって来た。有匡は彼に、路地裏で会った少年達の事を話した。『その子達は、イースト=エンドに住んでいる子達だね。』『イースト=エンド?』『テムズ川の東岸にある貧民街だよ。彼らには余り関わらない方がいい。』『そうか。』『この国は、生まれついての身分が人生を左右するんだ。本人の力では、どうにも出来ない事がある。』その日の夜、有匡がハノーヴァー邸の自室で勉強をしていると、部屋の扉が激しく誰かに叩かれた。『どうした、一体何が・・』『助けて、ナナが・・妹が死にそうなんだ!』『アリマサ様、この子供は一体・・』『ジョージ、ヘンリク博士をここへ呼べ。』『しかし・・』ジョージは、胡散臭そうに少年の、継ぎはぎだらけの服を見た。『もういい、わたしが呼んで来る!』『お待ちください!』『お前、名前は?』『テッドだ。』『テッド、わたしは有匡だ。今からお前の家まで案内しろ。』『わかった!』テッド少年の案内で、有匡は初めてイースト=エンドに足を踏み入れた。そこは、貧困と悪臭に満ちた場所だった。『ナナ!』テッド少年の妹・ナナは、粗末な寝台に寝かせられていた。有匡は、そっとナナの額に手を当てると、そこは炎のように熱かった。『熱はいつから?』『一昨日から。』(高熱と咳・・ただの風邪だが、放置すれば肺炎になるな。)江戸で診療所の手伝いをしていた時に、ナナのような症状の子供を診た事があった。その子供には、麻黄湯を飲ませたが、ここにそんな物は無い。(何か、代わりになるものを・・)有匡が薄暗い室内を見回していると、台所にある物が置かれている事に気づいた。『これは?』『これは、シナモンさ。母ちゃんが、それをすり潰してクッキーに入れるんだ。』『台所、借りるぞ。』有匡は月明かりを頼りに、静馬の見様見真似で薬湯を作り、それをナナに飲ませた。暫く彼女は荒い呼吸を繰り返していたが、やがてその呼吸も落ち着いて来た。『ありがとう、助かったよ!』『テッド、妹の面倒を見てやれ。』有匡はそう言ってテッド少年の家から出ると、元来た道を戻り始めた。しかし暫く歩いていると、誰かが自分の後を尾行している事に気づいた。『誰だ?』『見つけたぜぇ・・まさか男だったとはなぁ。』男の声と共に、噎せ返るような匂いが、有匡の鼻先をくすぐった。月明かりの下、右目に眼帯をつけた金髪の男が、憎しみに滾った翠の目で有匡を睨みつけ、こう叫んだ。『死ねぇ!』男はそう叫び、有匡に向かってナイフで切りつけた。(クソ、丸腰だ!)あの時は近くに武器があったが、今回はそんな物は無い。男は殺意に漲らせた翠の目を光らせ、有匡に間髪入れずにナイフで切りつけた。(このままだと、やられる!)全身の血が熱く逆流し、目の前が白い霧に包まれそうになった時、“それ”は起きた。『ぎゃぁ~!』頬を熱風が撫で、有匡は炎を男に向けて放った。男は灰の塊と化し、向こうの壁際へと吹き飛んだ。有匡が男からナイフで切りつけられた肩の傷は、すぐに塞がった。(一体、何が起きた?)有匡が呆然とその場に立ち尽くしていると、遠くから警笛の音が聞こえたので、彼は足早にその場から立ち去った。屋敷の裏口から中へと入った有匡は、玄関ホールに備え付けられてあった鏡で己の姿を見て、愕然とした。黒く長い髪が、炎のような赤い髪へと変わっていた。(どうして・・)『お帰りなさいませ、アリマサ様。』『ジョージ・・』『そのご様子だと、何かおありになられたのですね。』にほんブログ村
Jan 4, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が女装しております、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 ジョンが亡くなってから数週間後、有匡は大学に通い始め、そこで政治・経済、法学、ラテン語、神学、国際法などを学んでいた。 着物と髷姿で流石に大学には通えないので、ハノーヴァー家専属の仕立屋に何着か服を仕立てて貰った。 黒く長い髪は、リボンで結んで纏めた。 大学の授業はとても面白く、有匡は毎日図書館で勉強に励んでいた。 そんなある日の事、有匡がいつものように大学の講義に出ていると、一人の学生から声を掛けられた。『ねぇ、君が日本から来た留学生?』『あぁ、そうだが、君は?』『はじめまして、僕はアルフレッド=クローリー。実は君に、頼みがあって声を掛けたんだ。』『頼み?』 その日の夜、有匡がクロウリー伯爵邸へと向かうと、アルフレッドと彼の二人の姉達に出迎えられた。『あなたがアリマサね?綺麗な肌をしているのね。これなら、薄化粧だけで済みそうね。』『髪に艶があって、羨ましいわ!』 左右から姦しくアルフレッドの姉達にそんな事を言われた有匡は、渋面を浮かべてコルセットの締め付けに耐えていた。(全く、何だってわたしがこんな恰好を・・) 有匡がそう思いながら鏡を見ると、そこには真紅のドレスを着た女が映っていた。 事の始まりは、アルフレッドの”頼み“だった。『は?一晩だけ婚約者の振りをして欲しい?何故わたしがそんな事を?』『実は・・』 アルフレッドは、姉達から結婚を催促され、思わず恋人が居ると嘘を吐いてしまったのだという。(一晩だけだったら、誰にも顔を知られていないから、大丈夫だろう。)『ねぇ、何か髪に挿すものはないかしら?』『これを。』 そう言って有匡がアフレッドの長姉・エミリーに手渡したのは、火月の簪だった。『まぁ、素敵な髪飾りね!どなたの物なの?』『妻にわたしが贈った物だ。日本へ旅立つ時、お守り代わりに渡してくれた。』『そうなの、大切に扱うわね。』 火月の金髪に映えるよう、椿を象った派手な細工の簪は自分には似合わないと思っていた有匡だったが、それは自分の黒髪にもよく映えた。『足元、滑るから気を付けてね。』『わかった。』 アルフレッドにエスコートされて馬車から降りた有匡だったが、慣れないハイヒールに悪戦苦闘し、ドレスの裾を踏まぬよう歩くので精いっぱいだった。 舞踏会には、王侯貴族や政財界の名士達などが出席していたが、有匡にとっては誰なのかわからなかった。『一曲、踊って頂けますか?』『はい。』 アルフレッドの踊りは、上手かった。『なかなかやるな。』『これでも、貴族の端くれだからね。』 アルフレッドとワルツを踊った後、有匡は痛む足を休める為に、長椅子の上に座った。 すると、周りに居た貴族達が、急にざわつき始めた。(何だ?)―美しい方ね・・―まるで、大輪の薔薇のような方ね。 時折聞こえて来る彼らの会話の端々に、有匡は自分の事を彼らが話している事に気づいた。 目立たぬようにしたいのに、周囲は有匡にそれを許さないらしい。(さて、どうするか・・) 人気のない場所へと有匡が移動しようとした時、一人の男が彼に声を掛けて来た。『失礼、麗しき方、一曲踊ってくださいませんか?』『はい・・』 有匡が男とワルツを踊っていると、アルバートが数人の男達と話している姿が目に入った。『あなたと踊れて光栄でしたわ、さようなら。』 男に礼を言って、有匡はアルバート達の後を追った。『おい、まだ金は返さねぇのか?』『もう少ししたら返すから・・』『この前もそう言っていたようなぁ?』 どうやら、アルバートと話していた男達は、借金取りのようだった。(わざわざ後を追うまでもなかったな・・) 有匡が屋敷の中へと戻ろうとした時、彼は背後から忍び寄って来た男に口を塞がれ、そのまま近くの茂みの中で押し倒された。『こんな上玉を抱けるなんて、今日はツイてやがる。』 身体をまさぐられ、ドレスを脱がされそうになった有匡は、近くに転がっていた枯れ枝を掴み、それで男の目を突いた。 痛みに転げまわっている男をそのままに、有匡はその場から立ち去った。『どうしたの、怪我でもしたの?』 アルフレッドからそう言われて、有匡は男の返り血を浴びている事に気づいた。『あぁ・・』 有匡はそっと髪に挿してある簪に触れ、心を落ち着かせた。『お帰りなさい。あらアリマサ、どうしたの?顔色が悪いわよ?』『姉さん、どうやら彼は風邪をひいてしまったみたいなんだ。』『あら、それは大変!すぐに温かいお湯を用意するわね。』 エミリーがそう言って部屋の奥へと消えると、アルフレッドは有匡を長椅子の上に座らせた。『その様子だと、何かあったんだね?』『実は・・』 有匡はアルフレッドに、バークレー子爵邸で起きた事を話した。『そんな事が・・』『わたしを襲った男は見えなかったが、香水の匂いはわかった。麝香のような、独特の匂いがした。』『そう。でも君が無事で良かった。ドレスは焼いて処分した方がいい。後でエミリー姉様には僕が事情を説明しておくから。』『ありがとう。』 有匡が熱い湯の中に浸って疲れを取っている頃、あるフランス人の軍人が、白いパレットの上にクロッキー用の鉛筆を走らせ、何かを描いていた。“一体、何を描いているんだ?”“今日舞踏会で一度だけ踊った、麗しの美女さ。” 彼はそう言うと、有匡の姿を描いた。”真紅のドレスを着た、黒髪の女か・・もうこの絵のタイトルは決めたのか、ブリュネ?““ああ。椿の君さ。” そう言った後、フランス陸軍将校・ジュール=ブリュネは愛おしそうにその絵を撫でた。(また、会えるだろうか・・)にほんブログ村
Jan 2, 2024
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。『わぁ、スーザンが言っていた通りだ!頭にピストル載せてる!』少年は興奮した様子でそう言った後、有匡の髷を指した。『これは、ピストルではない、ただの髪だ。』有匡はそう言って腰に差していた脇差で髷の元結を切った。黒い絹糸のような、美しく艶やかな有匡の髪に少年が暫し見惚れていると、そこへメイドが慌てた様子で部屋に入って来た。『スティーブ坊ちゃん、こちらにいらっしゃったのですね!さぁ、お部屋に戻りますよ!』『え~!』『申し訳ありません、アリマサ様!』メイドはそう言うと、少年と共に部屋から出て行った。夕食の席にダイニングルームへと向かった有匡は、そこであの少年が居る事に気づいた。『あ~、さっきのサムライだ!』『こら、大人しくしなさい!ごめんなさいね、この子ったらメイド達の噂を聞いて、あなたに会いたがっていたのよ。』少年―スティーブの母でスウリヤの妹・レイチェルは、そう言って有匡に詫びた。『そうでしたか。初めまして、アリマサです。』『レイチェルよ。姉様から話は聞いているわ。スウリヤ姉様と良く似ているわ。姉様は元気にしていて?』『はい。』『そう。姉様は英国に居るより幸せなのね、良かったわ。』レイチェルはそう言うと、ハンカチで涙を拭った。『ごめんなさいね・・』『いえ、母とは仲が良かったのですね。』『子供の頃、よくアルフレッド兄様とアルバート兄様、スウリヤ姉様とは良く冒険したわ。』レイチェルが子供の頃の思い出話を有匡にしていると、ダイニングルームの中にアルバートが入って来た。『父さん、どういう事だよ!?』『お前とは、親子の縁を切る。』『・・やっぱり、父さんは僕が“あの時”死んでいれば良かったと思っているんだ!?』『やめなさい、お客様の前よ!』アルバートは、怒りに滾った瞳でジョンとレイチェル、そして有匡を睨んだ。『もう、ここには帰らない!』『好きにしろ。』ジョンは、そう言ってアルバートに背を向けた。『お父様、追い掛けないの?』『済まない、見苦しいものを見せてしまったな。』『いいえ・・』夕食の後、有匡はジョンに連れて行かれた所は、アルフレッドの部屋だった。『もしあの子が生きていたら、わたしはあの子にこの家を継がせる気だろう。だが、あの子は死に、役立たずな弟だけが生き残った。』『ジョージさんから話を聞きました。アルフレッド様が不慮の事故で亡くなられたと・・』『あれは、事故ではなかった。』ジョンは有匡に、“あの日”の事を話し始めた。その日、ジョン達はパリへ旅行しに来ていた。旅行最終日、パリ市内のホテルで行われた慈善バザーの最中に、火災が発生した。アルフレッドは宿泊客達を避難させる途中、窓から転落死した。『最初、事故だと思ったが、ホテルの従業員が、アルバートが喫煙した後の、煙草の吸い殻が火事の原因だった。その事に気づいたアルフレッドは、アルバートと口論して、そのまま・・』ジョンはそう言葉を切ると、胸を押さえて苦しそうに呻いた。『誰か、人を・・』『いつもの事だ、大した事は無い。』ジョンは薬を上着のポケットから取り出そうとしたが、その前に床に倒れてしまった。『‥心臓に限界が来ています。長くても半年、短くても三ヶ月ですね。』『そんな・・』医師からジョンの余命宣告を受け、レイチェル達は嘆き悲しんだ。『悲しむな。いつか来る時が、駆け足でやって来ただけだ。』ジョンは、日に日に弱っていったが、それでも彼は明るく振る舞った。『アリマサ、これを。』クリスマスが近づき、厳しい寒さに連日見舞われていた頃、有匡はジョンにある物を手渡された。『妻の・・お前の祖母の形見だ。彼女は、いつかお前がここへ来る時に、渡して欲しいと言われた。』それは、美しい装飾が施された、紅玉(ルビー)の指輪だった。『きっとこの指輪が、お前達に、幸せを運んでくれる・・』ジョンはそう言った後、激しく咳込んだ。その日の夜に、彼は危篤状態に陥った。『お父様、エレノアよ、わかる!?』『しっかりして、お父様!』レイチェルとその妹・エレノアが呼び掛けると、ジョンは一時的に意識を取り戻した。『スウリヤ・・何処だ、スウリヤ。』意識が混濁する中、母の名を呼ぶジョンの姿を見た有匡は、咄嗟に彼の手を握り、彼にこう言った。『お父様。』『スウリヤ、今までお前には済まない事をした・・今更謝っても仕方無いが、許してくれ。』『お父様、わたしは何も恨んでおりません。わたしをこの世に産み出してくださった事に、感謝致します。』ジョンを安心させる為に、スウリヤのふりをして有匡は彼に語りかけた。『エリーゼ、アルフレッド、迎えに来てくれてありがとう。』それが、ジョンの最期の言葉だった。(あれで、良かったのだろうか?)ジョンの棺が地中に埋められるのを見ながら、有匡がそんな事を思っていると、ハノーヴァー家の一族の者が時折自分の方を見つめている事に気づいた。―あれが・・―スウリヤの息子・・居た堪れなくなった有匡は、墓地から去った。「スウリヤ、お前に有匡から文が来ているぞ。」「有匡から?」スウリヤは、ジョンの死を有匡の文で知った。「どうした?」「父上が、亡くなった。わたしは、最期まで親不孝な娘だった。」「スウリヤ、有匡からの文の続きを読んでみろ。」スウリヤは有仁に促され、有匡の文の続きを読んだ。―お祖父様は、母上の事を、”自慢の娘“だと最期におっしゃっていました。それを読んだ後、スウリヤは嗚咽した。(父上、安らかに眠って下さい。)にほんブログ村
Jan 1, 2024
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素材は、湯弐様からお借りしました。「火宵の月」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が闇堕ちする描写が含まれます、また一部暴力・残酷描写有りですので苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は読まないでください。それは突然、始まった。いつものように自宅で土御門有匡が、妻・火月と二人の子供達と過ごしていると、結界内に侵入者が入って来た気配がした。「先生・・」「火月、子供達を連れて安全な場所へ・・」「きゃぁっ!」自分の背後から火月と子供達の悲鳴が聞こえ、有匡が振り向くと、そこには奇妙な服装をした数人の男達が火月達を拘束していた。「妻と子供達に何をする!」「こいつらを連れて行け!」「やめろ、彼女達に手を出すな!」有匡がそう叫んだ時、彼は背後から後頭部を何者かに殴られ、気絶した。微かな意識の中で有匡が覚えていたのは、狭い箱の中に閉じ込められた事だった。ガタガタ、と激しく揺れる音と共に、有匡が箱の蓋を乱暴に開けると、そこには見知らぬ場所で、自分達を襲った謎の男達とは少し違った服装の少年達の姿があった。「何だ、こいつ!?」「変な格好・・」(一体、ここは何処だ?火月達は・・)有匡が周囲の現状がわからず混乱していると、そこへ変な仮面をつけた男がやって来た。「おやおや、あなたが新入生の方ですか?それにしても、ちょっと老けて・・」有匡は耳元で煩く喚く仮面の男に向かって炎を放った。「ちょっと、何をするんですか!」「それはこちらの台詞だ!妻と子供達は何処に居る!?」「ひぃっ、落ち着いて下さい!」「学園長、こちらの方はどなたです?」軽やかな靴音と共に一人の少年が現れた。銀髪に碧い瞳をしたその少年は、じっと有匡を見つめた。「こちらの方を、どちらの寮に入れるおつもりで?」「はっ、そうでした!ささ、こちらへどうぞ!」仮面の男は有匡の腕を掴むと、彼を大きな鏡の前へと連れていった。「何だ、この鏡は!?」『汝の魂には、僅かながら慈悲の心がある。しかし・・汝に相応しいのは、ハーツラビュル!』「おやおや、残念ですねぇ。」銀髪の少年は、そう言うとわざとらしく大きな溜息を吐いてみせた。(何なんだ、ここは?)意味がわからぬまま、有匡は赤毛の少年―リドル=ローズハート寮長が治めるハーツラビュル寮に世話になる事になったのだが―「僕が、いつだって正しいんだ~!」「リドル~!」にほんブログ村
Jan 1, 2024
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新年、明けましておめでとうございます。今年でブログ開設17年を迎えますが、開設した頃は「紙の日記は三日で飽きるのに、続くのかなぁ・・」と思っていましたが、あっという間に17年も経っている事に驚きです。17年まで続けてきたのは、ひとえに読者の皆様のおかげです、ありがとうございます。今年も、何卒宜しくお願い申し上げます。2024年元日 千菊丸
Jan 1, 2024
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